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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.2 / プラスチック・キューピッド?
Last-modified: 2007-06-21 (木) 20:01:49 (6154d)
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プラスチック・キューピッド ―― お亀納豆


 季節は秋。10月である。10月と言えば何か?文化祭?体育祭?はたまた合唱コンクール?断じて否!!10月と言えば、番組改編の時期であるッ!!
 これはそんな季節に、とある少年に起こった、ちょっとしたハプニングの一部始終を綴ったものである。

 とある少年―――白木創(シラキ・ツクル)は感心していた。それも非常に、である。
「へぇ~~~~、最近のプラモは喋るのか・・・」
「何言うてんねん。ただのプラスチックの組み合わせが喋る訳あらへんやろ、このボケ!」
「しかも会話機能まで・・・」
「コイツ、アホや・・・」
そう零すと、がっくりとうなだれる身長約15センチのプラスチックモデルなのであった。

さて、何故創少年はプラスチックモデル――――以下プラモを作るに至ったのか?それは彼がこの10月から始まった、人々が巨大人型機械に乗り込んで戦争を繰り広げるアニメを視てしまった事に起因する。彼は三度もその番組を視ると、すっかりと嵌まってしまい、インターネットで裏設定を調べたり、ファンサイトのレビューや考察を見たりするようになった。
そして数多在るレビューサイトの一つに考察や感想だけでなく、番組に登場する巨大人型機械のプラモデルのレビューを行っているところが在った。それを見た創少年は無償にプラモを作りたくなり、早速模型屋に駆け込み、今に至る訳なのだが・・・。

「つまり何か?お前が自我を持って喋ってるのは仕様じゃないと。そういう事か?」
「せやから何回もそう言うてるがな。俺の値段思い出してみ?税込み1050円やで?これで喋ったら現代技術も真っ青やで」
早くもプラモの声は呆れを帯びている。
この事実を認めないという事は彼の存在を否定している事になるのかも知れない。だから何だか不機嫌そうなのだろうか。などと、思慮深い事を考える少年。と、ふと、ある疑問が浮かんだ。
「あれ?お前、何で自分の値段なんか知ってるんだ?こんな言い方するのは変かも知れないけど、お前って生まれたてのホヤホヤの状態なんだろ?」
「あ~~、それなぁ・・・。何や知らんけど俺、お前の記憶を一部持っとるみたいやわ」
「ふ~ん、記憶の共有ってやつか・・・」

間。

「って、ちょっと待て!!つまり何か?誰にも喋ったことない事とかも知ってる訳か!?」
間があいたのはあまりの事に事実を認識するのが遅れたからである。
「何個か挙げてみよか?」
創少年の慌てっぷりを見てプラモはとても言いアイデアを思い付いたと言わんばかりに話し出した。
「お前が最後におねしょをしたのは・・・」
彼が最後まで喋る事は出来なかった。何故なら彼めがけて、三省堂の国語辞典が勢い良く振り下ろされたからである。それは、ど、という音を伴い床に激しく打ち付けられた。
「おい、何さらすねん、このドアホ!!危うく死ぬとこやったやんけ!!俺、享年30分とか嫌やで!」
プラモはすんでのところでディクショナリーアタックを回避し、抗議の声を上げる。
「ちっ、はずしたか・・・」凶悪な表情を浮かべ、そう呟く少年。
「よーし、理解った・・・。そっちがその気なんやったら・・・」
そう言うとプラモは大きく息を吸い込んだ・・・ように少年には見えた。
「おかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーさーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!息子さんは『20世紀こども百科事典』のケースの中に特殊ないやらしい本を隠し・・・」
またしても彼が最後まで言葉を紡ぐ事は出来なかった。再び辞書の鉄槌が下されたのである。
「うわ、腕取れた!おい、どないしてくれんねん!!早よ直せ!自分では付けられへんのじゃ!」
目の前で取れた右腕を掴もうと悪戦苦闘しているプラモ(手の開閉機構が付いていないので掴めない)を見ていると何だが起こっている自分が馬鹿らしくなってきた。サイズが小さいので実はあまり大きな声にならなかったというのも少年が怒りを治めた理由の一つである。
「わかったわかった。そうわめくなって」
そう言うと少年はプラモの腕をはめてやり、少し思案して、
「よし、お前の名前決めた!ザクヲな!」
「はあ!?何でそんなアホ丸出しの名前やねん!?もってクールでスタイリッシュなんにせんかい!」
「嫌だ。俺の中でお前はもうザクヲに決定した。よろしくな、ザクヲ。・・・ん?」
ふと、少年が二階に在る彼の自室の窓から見える道に眼をやると、一人の少女が歩いている。
「俺はソルディティアーニがええ!」などとわめくザクヲを無視し、窓辺に近寄る少年。
「・・・・・・」
無言のまま窓辺に立ちつくす少年に気付いたザクヲが壁をよじのぼり、桟の上に立つ。意外と器用である。
「なんやなんや、窓の外に何かおもろいモンでも在るんか?・・・って、あれはお前が密かに想いを寄せているクラスメイトの赤谷(セキヤ)ゆずるちゃんやないか!!」
三度、ディクショナリーアタック。
「御免て!ついテンション上がって言うてもうてん!」
先程、腕が取れたのがよほど嫌だったのか、素直に謝るザクヲ。
「ほら、何しとんねん!早よ、下行かんかい!ゆずるちゃんが行ってまうがな!!」
「はあ!?何言ってんだお前?行ってどうしろって言うんだよ!?」
「知らんがなそんなもん!!んな事行ってから考えんかい!!」
ザクヲの勢いに流された少年は階段を駆け降り、サンダルを引っ掛けて、玄関から飛び出した。

「あ、あの、赤谷さん・・・!」
「え・・・?」
呼び止められた少女はゆっくりと振り返った。小柄な身体に、整った顔立ち、流れるような艶やかな黒髪を背中で切り揃えている。左右の一房ずつ結われた三編みが印象的な少女だ。その表情には九割の笑顔と一割の驚き。
「あ、白木君・・・。こんな処で会うなんてびっくりしちゃった。どうしたの?私に何か用?」
そう言われても困る。勢いだけで飛び出して来たので、用も何もあったものではない。当然、言葉に詰まる少年。
「あ・・・いや、その・・・」
と、その時、ゆずるの口から衝撃的な言葉が出た。
「あ、それって、この前始まったアニメに出てくるやつだよね?」
(しまった・・・!)
そうなのである。創少年はザクヲを手に掴んだまま家を飛び出して来たのである。その事実も驚きなら、ゆずるがザクヲを知っていた事も大変な驚きである。
「赤谷さん、あれ視てるんだ・・・」
あまりの衝撃に少年はザクヲを手にしている事に対する言い訳を考える事を忘れていた。そんな少年の心情を知る筈もなく少女は話を続ける。
「うん・・・やっぱり女の子が視てるなんて変かな・・・」
もの凄い勢いで首を横に振る少年。もはや事態は少年の対処容量の限界を超えていた。プラモが動き出す事の方がよほど異常事態なのではあるが、少年にとっては今のこの状況の方がはるかに異常事態なのだ。
「ホントに・・・?ホントに変じゃない?ホントにホント?」と、繰り返す少女の前で少年はひたすらに首を振り続ける。
 少女は「良かった・・・」と満面の笑みを浮かべた。
「そうだ!良かったら今度、私にプラモデルの作り方教えてくれない?一人で模型家さんに入るのも抵抗あるし・・・」
「ああ、まあ・・・俺でよければ・・・」
「嬉しい!じゃあ約束ね!絶対だからね!!」
そう言うと少女はとびっきりの笑顔を見せ、駆けていった。少年にはただ頷く事しか出来なかった。

 場所は戻って少年の自室。部屋に戻ってきてからというもの、ザクヲは如何に自分の存在が役に立ったかを延々と語り続けている。
「ほらみぃ、俺の言うた通り行って良かったやないか!感謝せえ!よっしゃ、次は模型屋でデートやな!!作戦練らな!」
「勝手に話を進めるな!つーかお前、感謝しろって言うけど、俺に握られてただけじゃねーか!!」
「はあ!?アホぬかせ!俺が言わへんかったらお前、部屋でイジイジしてただけやったやろが!!」
「う・・・」
確かにそうなのである。痛いところを突かれて少年は黙ってしまう。
「ほら、早よ作戦考えるで!!あ、もちろん俺もデートにはついてくからな!!」
これからもザクヲに振り回されるとのかと思うと先行きが激しく不安になる創少年であった・・・。
 そして今更ながらに思う。何故関西弁なのかと・・・。
 少年を無視し、ザクヲの暴走は続く。
「さしずめ俺は恋のキューピッドやな!!」

(了)



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