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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.1.2 / 自立型アンドロイドTC08-0087の暴走並び殺人に関する考察
Last-modified: 2007-06-21 (木) 18:08:24 (6147d)
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自立型アンドロイドTC08-0087の暴走並び殺人に関する考察 ―― 土星から来た猫


作成者 (無記名)

これは21XX年12月○日発生した殺人事件の凶器となったS社製アンドロイドTC08-0087 (以下『彼女』とする)の廃棄前に回収された『彼女』の記憶メモリーを元に作成されたレポートである。
なおこのレポートは私の個人的な考察であり、公式の場に発表するものではないことを明記する。

この事件の概要は愛玩用アンドロイド『彼女』が自身の所有している風俗店の経営者と顧客のB氏を殺害。
しかし『彼女』の人格プログラムその他に何の異常も見られなかったとされこの事件は事故として書類送検されている。以下に事件までの『彼女』に保存されていたメモリー、または関係する資料を交え考察する。

4月△日 製造番号TC08-0087『彼女』の記憶メモリーより抜粋 B氏が始めて件の風俗店を訪れる

『今日のお客様は若い男 性(ひと)だと聞いた。どうやらこのような店にはあまり慣れてないらしい。そろそろ部屋に来る頃合だと思いいつもどおり私はマニュアルを確認する。足音が聞こえてきた。まだお客を迎えいれていないのはこの部屋だけだから間違いなく件の彼だろう。ノックの後に入ってきた。またもやいつものようにマニュアルに沿った言葉を私はつむぎだす。「いらっしゃいませ。本日は…」

沈黙

「あ、あのぅ…」
彼が声をかけてくる。私は一瞬、いや声をかけられても何も考えられない。そうだ、マニュアル、マニュアルマニュアル…あれ、分からない。フリーズ。どうすればいいのか。とまるとまるとまる?・・・・・・・・・

そんな私に彼は戸惑いながらも微笑んでいる。その日は仕事にならなかった。』

このとき以来『彼女』に異変が起こる本来の仕様には見られない思考パターンが日々増えていった。おそらくそれは『人間』でいうところのひと目惚れだったのかも知れない。この後、彼ことB氏はしばしば『彼女』をこの風俗店で指名している。

6月×日 製造番号TC08-0087『彼女』のメンテナンス記録より抜粋

『私は狂ってしまっているの?
 とすればこの場合「しかるべきメンテナンスを受けることを推奨」と、私のマニュアルには記録されている。
どうやらまだ私にはマニュアルに沿った異常時の行動パターンを実行できないほど壊れてはいないらしい。
しかし、私になぜこのようなバグが生まれたのか?彼にあう以前のメモリーを検索してもバグが発生しうる状況は見つからないというのに。それとも私のメモリー自体に問題が生じたのか?
それもメンテナンスを受ければ解消するだろうし、そもそも私のような機械がそんなことを心配する必要はないのに。
こんなことを考えること自体もしかしたらバグの影響かもしれない。』

後日、メンテナンスを受けた『彼女』には何の異常も発見されず、このためバグについての『彼女』の記憶は消去されたと記録されている。
しかし私は、『彼女』の記憶メモリーの消去がなければあるいは違った結末を迎えられたのではないか?そう思えてならない。

12月○日 製造番号TC08-0087『彼女』の記憶メモリーより抜粋 事件当日

『オーナーに呼び出しを受けた。どうやら私は最近お客様の評判がよくないらしい。そのため私の処分が決まったそうだ。別のそれもあまり評判のよくない店に売られるそうだ。こういうときは自身の所有者の意思に従うとマニュアルにはある。もちろん私はオーナーに従った。

従った?そう従うはずだ。そう言葉にする。するはずなのに。するはずなのに?でない。オーナーが何か言っている。遠い。近くにいたはずのオーナーが遠くにいる。あ、殴られた。誰に?遠くでオーナーが倒れた。私には殴る腕しか見えない。赤い。赤くなっている。その腕はまだ殴っている。殴られているな に か(・ ・ ・)はだんだんひしゃげていく。真っ赤になったそ れ(・ ・)はもう蠢(うごめ)きもしない。もう動かない・・・・・。

あれ?オーナーがいない。ああ、オーナーはもういない。こういうときは…。』

その後『彼女』は『人間』でいう錯乱状態になっていた。そして偶然(必然)に店にやってきたB氏と遭遇している。全身が返り血に赤くなっていた『彼女』にB氏は至極一般的な感情、恐怖を感じていたと予想される。
『彼女』はそんなB氏に助けを求め、B氏は当然のようにそれを拒絶している。
そこからの彼女の記憶メモリーにはノイズだけが記録されている。
やはりこれは人型アンドロイドの儚い恋だったのではないか。たとえそうでなくとも私はそう思うことにする。これはこの考察をしている間に私が『彼女』に対する情が生まれたからかもしれないが。
それにいまさらどっちなのかは関係ない。『彼女』のデータも同型のアンドロイドも手に入れた。もう少しで『彼女』は今一度私の手で生まれる。そしたら『彼女』は私に恋をするのだろうか?
私は、私ならきっと『彼女』を

(このレポートはここで途切れている。また、このレポートの製作者はいまだに誰なのかは分かっていない・・・・。)

(了)

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