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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-06-24 (日) 20:10:45 (6144d)
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Which is the real world? ―― お亀納豆


『つーかそれは馬鹿だろ』
『はあ?そんなのもわかんねーの?』
『お前の話詰まんねーよ』
 全く……。こいつにはネチケット……否、最低限のマナーすら解からないのだろうか。いつものコミュニティ内のチャットに新参者の彼――ゼクスが参加して、十五分程が経過していた。どうやら彼――恐らく――は大学生らしいのだが、さっきから中学生ながら古株のわんこ丸の発言にとことん失礼極まりない言葉を返している。
 僕が、このコミュニティ<ルーク>を管理するようになってから、三年。ゲームの攻略の話題をメインとして、僕はこのコミュニティを作った。<ルーク>というのは「城」を意味する。様々な人が情報収集の場として、このコミュニティを利用出来れば良いと思い、この名前を付けた。
 確かに色んな人と交流を持ちたいとは思った。しかし、ゼクスの様な奴とは別だ。わんこ丸はさっきから無視と、大人の対応を決め込んでいるが、そろそろ管理人の僕が注意した方が良いだろう。
 どん。
『ゼクスさん、いくら相手が年下だと判っていても、このコミュニティではわんこ丸君の方が先輩です。それに話が面白くないなら、抜ければ良いでしょう?』
 どん、どんどん。
『お、管理人様がお説教かよ?じゃあ、訊くけど、コイツの話、面白いかよ?』
「正志、起きてるんでしょう?斉藤先生が来て下さったわよ!」
『今は彼の話が面白いかどうかを話しているのではありません。貴方の態度の悪さについてです。こういう場では敬語が基本です』
「坂(さか)藤(ふじ)、クラスのみんなも御前の事を心配しているぞ!」
『中学生に何で敬語なんて使わなきゃなんねーんだよ』
「さっきから、ドンドンドンドンうるせーんだよ!!」
 僕は苛立ちの余り、母親に買いに行かせた漫画雑誌をドアに投げつけた。ドアの向こうで母親が怯んだ気配がするが、それも一瞬の事だ。
『社会に出れば、自分よりも年上の人が上司なんて事も珍しくありません。将来、困るのは貴方なんですよ?』
「坂藤、お母さんは御前の事を、一番心配しているんだぞ!?」
「糞が!登校拒否を放っとくと体裁が悪いから、わざわざ来てるだけの奴が知った風な口きいてんじゃねぇぞ!!」
 何なんだよ、あいつ等……。僕はキーボードの横に転がっていた鉛筆に目をやる。その尻は苛々している時に、何度も噛んでしまった所為で、ぐちゃぐちゃになっている。
『……俺が悪かったです。管理人さん、わんこ丸さん、すみませんでした』
 これをあいつ等の目に押し込んでやったらどうだろうか。きっと楽しい事になるに違いない。
『理解ってもらえて嬉しいです。相談に乗りますので、良かったら連絡下さい』
 僕は、鉛筆を握り締めると立ち上がり、ドアの方に向かった。

(了)



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