画面の向こう側 ―― 土星から来た猫 †
世の中便利になったもので自宅にいながら世界中の誰とでも遊べるようになった。
囲碁や将棋、俺が長年やってきたチェスもだ。
いつ何時誰とでも、自分はこの環境になじむのに時間はかからなかった。
いまもちょうど対戦中だ。
「おいおい、そんなにクイーンばかり使ってたら駄目だろ。そんなんじゃナイトかルーク当たりにささっちまうぜ。」
俺の読み通り、ナイトから逃げ出した対戦相手のクイーンはあっさりルークの手に罹った。その後はもう一方的な展開だった。
『いやぁ、相変わらずの強さだねぇ。』
そりゃあ長いことやっているからな
『さすがは世界最強のチェスAI。たしか勝てる人間は5人ぐらいだったよな。』
? 何を言っているんだ。
『さすがに鉛筆も持てない何も作り出させない機械に負けても悔しいもんだな。勉強になったぜ。』
コイツはなにか勘違いしているんじゃないか。俺はニンゲンだぞ。ふざけるな。
『今度おまえの思考ルーチンをのぞいてみたいもんだ。じゃまた次の機会に。』
まただ。さいきんこんなやつが増えている。あまりの俺の強さに俺を機械か何かだと思っているらしい。チェスほどニンゲンらしいことは無いというのに。
お、また次の対戦希望だ。やれやれ、これで今日は連続5963人目だ。ふう、もちろんニンゲンの俺は軽くひねってやるとするか。
(了)