夢の島キングダム! ―― 土星から来た猫 †
「諸君!機は熟した!今こそ我々は立ち上がる時だ!」
僕のよく見知った女性がそう言うと、周りにいた学徒達は皆同じように叫んでいた。
僕は頭が痛くなった。
僕の先輩(分類上女性)は一言で言えば破天荒な人だ。
女性の身ながら高専の機械工学科に進学し、(ちなみに同学科に全学年をあわしても女性は先輩だけらしい)常に学年トップの成績を誇る才女である。
問題はその性格と行動力。男よりも男らしく、且つ突拍子もない為、一部の生徒を除き先輩と関わろうと言う人間はいない。ちなみに同じ中学出身という理由で先輩が代表のサークルに勧誘(拉致)された。
その先輩はこの長期休暇を利用してまたとんでもないことをやらかすつもりらしい。
終業式に先輩が言ったことは「最低限の自治が出来れば国はできるらしいぞ」だった。
結果、先輩とその関係者、総計36人は市の政策により作られ諸事情により手つかずになっている埋め立て地の空き地にいた。どこから持ってきたのか分からない大量の資材と共に。
ここで冒頭のシーンに戻り、先輩の話を聞く。
「いいか!この夢島はこの街がオリンピックの開催地に表明したと同時に我々市民から出た不燃ゴミを埋め立て作られた。残念なことにオリンピックの開催地にはならなかったが。しかしながらこの広大な土地を遊ばせておくのも忍びない!ならば我々が有効に活用しようではないか!!私は宣言する!ここに我々の国を建国する!!」
先輩の言葉に諸手をあげ喚起する30人を超える屈強な男達。ちなみに女性は先輩だけだ。先輩の話は続く、
「原始、女性は太陽だった。と、いうわけで私は王様。みんなは支配されてね(はぁと)」
さも当然とした顔でとんでもないことを言い放った先輩。なにも疑わず何か叫び続けているその他の男達。駄目だこいつら。
「ちょっと先輩さらっと重要っていうかひどいこと言ってるんですか!だいたい僕は何も聞かされてませんよ!」僕は耐えきれず先輩に向かって抗議した。
「大丈夫だ、大切な労働力だからな。無駄に消費はせん。それに君は私のお気に入りだから悪いようにはしないぞ」そう言った先輩はあやしい笑顔で僕に迫ってきた。なにやらしめったハンカチを持って。
「ちょ、な、なにを…」周りの男に拘束された僕はハンカチを口に当てられた。先輩のことだからきっとクロ…ロ……ほ………
二週間が経った。
どうやって作ったのか僕は要塞の中にいた。
外には機動隊がいた。
僕の隣で先輩が叫んでいる。
「ここは我々の自治によって統治されている土地だ。日本国の公僕に従う理由はない!」
この二週間は僕の理解を超えていた。先輩はあふれんばかりの才能とカリスマを無駄遣いし何度も警察を追い払った。このままじゃそのうち自衛隊でも来るのではなかろうか。
誰かが持ち込んだTVで僕たちがニュースになっているのを知った。どうやったのかこれも分からないが電気と水は確保しているらしい。
騒ぎを聞きつけた野次馬も日に日に増えている。どうやら国民も増えているとのことだ。こんなことに好きこのんで関わるバカはまだいるのだろうか?
僕は心配しているであろう家族にどういいわけしようかと考えていたがやめた。精神的な疲労が溜まっているのだろう何かするのも億劫だ。
僕はこの休みに起きた事象を全て忘れることにした。