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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 三題噺 / 喪失
Last-modified: 2007-06-24 (日) 19:58:40 (6150d)
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喪失 ―― お亀納豆


蓋を開けよう。七年前に閉じたあの蓋を。全てが輝いて見えたあの頃に、希望を託して閉じたあの蓋を。
そこから出て来るのは果たして何だろうか。埋めた当時はあんなにも開ける日を楽しみにしていたのに。もう僕の記憶は曖昧になって、殆ど思い出せない。
意を決して蓋を持ち上げる。目に飛び込んできたのは混沌の一語だ。雨水が入り込んだらしく、タイムカプセルの中は手を入れるのを少し躊躇ってしまうような状態になっていた。まるで、今の僕のココロのように。
それでも僕はカプセル――と言っても実際には少し大きめのお菓子の空き箱だが――の中に手を差し込み、中身を探る。それは今の自分に向き合う作業の様に思えた。
色んなモノを詰め込んだ。ビー玉、流行っていたカードゲーム、本物そっくりな蛙の玩具、リボン、超合金のロボット、夜店で買って結婚式ごっこで使った指輪。そして、僕が彼女と巡り合うきっかけとなった、在る筈の無い宝の在り処を示した宝の地図。
今思えば、あの地図は僕が誰かに宝の在り処を教える為に描いたんじゃなくて、誰かが、僕を彼女に会わせる為に描かせたんじゃないだろうか。
でも――

彼女はもう僕の側には居ない。

 僕は全てを清算する為に一人でタイムカプセルを開けに来た。否、本当はこれで彼女への想いが断ち切れるんじゃないかと期待していたのだ。
 空は僕の内面を映したかの様に、雲に覆われ、雨が降り始める。
 雨に同調したのだろうか、涙が零れ落ちた。
 僕はタイムカプセルをその場に残したまま、立ち去った。もう振り返る事は無い。そう信じながら。

(了)



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