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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-06-24 (日) 19:56:50 (6122d)
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剣と星座と巨大パフェ ―― 土星から来た猫


男は驚愕していた。正確には驚愕し続けていた。
この日、彼はあまりにも人外の世界をかいま見すぎてしまった。

まず一つ目
深夜のバイトを終え帰宅途中、いきなり強い衝撃と共に昏倒してしまったこと。

そして二つ目
気を失いそうになりながらもその衝撃の正体を確認すれば、それは大きな熊だったこと。

続いて三つ目
そう確認した刹那、熊のシルエットが二つに割かれその向こうに人影が見えたこと。

だめ押しの四つ目
その人影が女、それもとびっきりの美少女だったこと。

最後の五つ目
その後、気が付けば日が高く昇っており、自分がその少女の膝を枕にしていたこと。

*                    *                    *

「失礼お嬢さん。疑問なんですがなぜ俺はお嬢さんの膝枕にしているのかな?」
「かくがくしかじかこれこれこういう訳です。」
ちょっとマテ。かくがくしかじかでは分からん。そんなのはないだろうおい。
「では私はこれで。」
「ちょっとまてその説明では分からん。せめてあの化け物じみた熊が何だったのか(夢かも知れんが)ぐらい言ってもいいだろう。」と、だめもとで聞いてみる。こういうのはホントだろうがユメだろうがこの態度でははぐらかされて終わりだろう。それにいつも当てにならない俺の直感が警告音を出している。ヤバイ。
「…っ!」
ってオイ! そんなあからさまな反応されたら困るぞ。こんなのにはいくら好みの女の子があいてでも関わり合いにはなりたくないぞ。
「すまん。俺は何も覚えてない。ホントだ。かくがくしかじかで俺と君はここにいた。そして何のロマンスもなしに別れて未来永劫会うことはもうないだろう。OK?」
さあ、これで去るのだ、俺。そしてぐっすり寝てしまえば忘れる。忘れてしまうに限る。
「あの…」

ぎゅるるるる~

「?」何の音だ? とよく見たらこの少女の顔が凄くあかくなっているのはなぜだ。よく分からん。てことは帰ってよしってことだ。なぜかは知らんが。さあ、回れ右して我が家へ帰ろう。
「ち、ちょっと待ってください~。」

と、言うわけで俺は喫茶店で思う存分サンドイッチを貪っている目の前の少女の身の上話を聞くハメになっているわけで。
「というわけなんで、記憶消えちゃってください。」
「『消えちゃってください』じゃねーだろ。思いっきり引き返せないぐらい話やがって。しかもおまえの飯代は俺持ちだ。だいたいそのコンなんとかちゃーってのを倒したのを俺に見られて困ってるんだよな。」
「はい。」
なぁにが「はい。」だ。だいたい俺はもっと困ってるんだよ。ここの代金とかな。
「もう一度説明しますとコンスタレーションクリーチャーは八十八体いましてそれぞれが星座を模した姿をしているんです。で私は人知れずそれらを倒しているんです。えっへん。」
コイツやけに流暢に話すようになったな。さっきのはたぶん俺が全く覚えてないと思ってたんだろう。マニュアル通りじゃ無かったからボロを出したのか…。俺って全く付いてねぇ。
「で、なんでそんなことしてんだ?」
「ええ、やつらは人の生体エネルギーを糧にしているんです。さっきのもたぶん手負いだったからあなたの生体エネルギーで回復しようとしてたんじゃないでしょうか。だから私は倒しているって訳です。いわいる『悪・即・斬』ってヤツですね。あ、これごちそうさまでした。」
ほうほうなるほどってオイ!
「つまりおまえがとどめを刺し損なったから俺はおそわれたってことか。理解した。」
「…(にっこり)…」
おいおい。それはないな。まあこれ以上関わり合いにならないうちに帰るか。
「マスター。勘定。」
「○千円になります。」
席をたって固まった。たぶん手持ちじゃ足りない。そんな俺を見ながらこの女は口を開こうとしている。今更になって金を払うと言うのだろうか。
「あの…。デザートも食べたいです…。」
俺はなんだか死にたくなってきた。いやまてよ。確かここの喫茶店は…
「マスター!いまのなしだ。追加で『ハイパーデリシャスウルトラデラックストリプルCスペシャルパフェ~衝撃を再び~』をこの子に頼む。」
「それとてもおいしそうですね~。」
ふふふ、ここの喫茶店はデカ盛りでちょいと有名なんだぜ。しかもトリプルC級は賞金まででる。そして俺はどさくさに紛れて逃げる。よし、このプランだ。イケる!

*                    *                    *

「ふう、なんとか助かった。」なんとか自宅についた。はっきり言ってあの女の子について行くのは無理だ。もう疲れた。ベットでねよ…
「なんで俺のベットの上にインディアン風の男が居るんだ?」
「いんでぃあん嘘ツカナイ。」
数瞬の硬直の後、インディアン(?)は持っていたトマホークを俺に向かって投げてきた。
しかしながらそれは俺には当たらなかった。なぜかというといつの間にかに現れたあの女の子が剣ではじき返したからだ。
「もう、おいていくなんてひどいですよ。私まだあなたの記憶消してないんですから。」
にっこりと微笑んだ彼女はインディアンに向かって狭い部屋の中を駆けだした。
自らの剣を構え、微笑みながら彼女は言う。
「では、ここは私とこの『サザンクロス』に任せてください。」

俺はいろいろあきらめた。

(了)



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