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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 三題噺 / ゴミ溜めの街
Last-modified: 2007-06-24 (日) 19:59:34 (6151d)
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ゴミ溜めの街 ―― 土星から来た猫


ここは『街』だ。
名前なんて無い。ただ『街』とだけ呼ばれている。世界のどこかにあり、開発途中とある問題で国に放棄された新興都市にギャングやならず者が集まって出来た掃き溜めの様な『街』。
世界のどこかなんて言うのは別に言いたくないわけでも伝説になっている訳でもない。この『街』で産まれた僕はここが何処にあるのか知らないからだ。
ここには僕と同じような境遇の子供はたくさん居る。親が死んだもの、親に捨てられたもの様々に。
そしてこの権力と暴力がイコールの無法の『街』で自分たちの様な子供が生きていくすべは数少ない。支配階級のマフィアにこびへつらうか暴力に巻き込まれないように息を潜めて居なければならない。そしてどっちの子供達も大抵独自のコミュニティを作っている。
僕は一応後者に属している。そして一応仲間内ではリーダーというか雑用係みたいなことをしている。そしてこの物語は僕たちが偶然一枚の地図を見つけたことから始まった。


「ねぇリーダー。この地図どうするの?」
「売って金になればいいけど…、どうせこんな古い地図二束三文にもならないよ。こんなの。」
そのとき僕達はそう思っていた。この『街』の、増設をくり返し迷路になる前のここの地図。僕はそのときは知らなかったがそれは地図ではなく設計図と呼ばれるものだった。それが悲劇を呼ぶのは数日後のことだった。


「みんな。ゼッタイここを動くなよ。僕がいいというまで。ゼッタイだからね。」
仲間の中でも年の低い子供にそう言うと僕はじりじりと近づいてくる『敵』の様子を見に行った。
それは突然だった。こんな所にまで支配階級のマフィアが来ることなんてあり得ない。しかし絶対という訳でもない。たとえば奴らから何かを奪ってここに潜伏するヤツも少なからず居る。そしてそれがこのあたりを根城にしている子供だったなら。奴らは容赦なく僕たちを狩り出すだろう。僕は近づいてくる集団を伺いながらも恐怖で震え続けていた。
奴らの足下には仲間達が横たわっていた。いや正確には仲間だったものだ。腕力も武装も違いすぎる僕らはなすすべ無く殺されていく。そして、
「いやぁぁぁぁっ! 離して、離してよ!」
「…ッ!」
奴らに捕まっているのも僕らの仲間だった。奴らの何人かが下卑た笑いを浮かべながら持っていた拳銃を彼女の口へと押し込み

  ぱんっ

そうして身体の中を小さな鉛玉が引き裂いて彼女はあっけなく絶命した。彼女の顔はつぶれたカエルのように無惨にひしゃげていた。
僕は何もしなかった。出来なかった。死にたくなかった。だから見殺しにした。もう逃げ出したかった。そんな中僕は気づいた。焦げ臭い。まさか…


不安は的中した。奴らは目的のものがないと判断したのかこの近辺に火を放った。僕は隠れているちび達を助けるために走っていた。無我夢中で駆けだしていた。それがダメだった。銃声がしたかと思うと急に倒れ、同時に胸の辺りが熱くなった。次の瞬間に自分が撃たれたことに気づいた。後ろからあいつらが近づくのが気配で分かった。死にたくなかった。僕は這い蹲ってでも逃げようとするが、意識がもうろうとしていくのが分かった。

そして目の前に人影が現れた辺りで僕の意識は途絶えた。


気が付くと見知らぬ場所に居た。胸がかすかに痛むが身を起こしてみる。胸には包帯が巻かれていた。どうやら誰かが僕を助けた様だ。そして

「あ、気づいた~?君ね、火事の中死にかけてたんだよ~。ちょっと話聞きたくてあたしが助けてたんだけどね~。」

妙齢の女性が僕に語りかけてきた。僕は簡単に礼を述べると「ん~、お構いなく~。」と素っ気ない返事をされた。そして気になることを僕は聞いた。
「あの、あの辺りにいた子供達ってどうなりましたか?」
「全滅したんじゃないの?詳しく知んないけど。」
あっけなく答えた。僕は一言「そうですか」と返事を返す。
「ところで君。この辺で設計図を拾ったとか言う話聞いたこと無い? ちょっとそれを探していてさ。設計図がわかんない? そうねぇ、宝の地図みたいなもんかな。」
僕はハッとした。そしてもう一度女性に問いかけた。
「もしかしてあいつ等はその地図を探してたんですか?」
僕のその問いを聞くと彼女は年相応でない子供のような笑みを浮かべ、
「なるほど、心当たりがあると。ちなみに実際あれのおかげで君は死にかけたんだけどね。」
それを聞いて僕は何も思わなかった。そりゃそうだ。紙切れ一枚で人が死ぬのはこの『街』では珍しいことでもない。ここで生まれ育った僕はそれを知っていた。ただ運が悪かった。それだけなんだ。
僕は持っていたその地図を彼女に見せた。

「お、それそれ~。それお姉さんにくれないかなぁ?」
「条件があります。」
彼女は不思議そうな顔をしながらも「ん~、内容によるかな?」と言うだけだった。

「僕を連れて行ってください。」

彼女はキョトンとして「なんで?」と聞き返す。そんなの僕もよく分からない。ただ彼女について行けば自分が強くなれると思った。この『街』で生きていき、守りたいものを護れるぐらいに強くなれると思った。おそらく意識をなくす直前に見た人影は彼女だ。自分1人ぐらい簡単に助けて見せたその力がなんなのか知りたくなったって言うこともある。
そして彼女はしばらく(といってもほんの二、三秒だったが)考えて「いいわよ~。」とその条件をのんだ。

この混沌としたゴミ溜めのような『街』で僕はこの得体の知れない女性と歩き出した。

(了)



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