蟷螂 ―― 土星から来た猫 †
「おい、何やってんだよ。」
「ん~?」
片手に工具箱を持った少年が校舎裏の隅でなにやら呆けている少女に声をかける。
「ですから文化祭の準備さぼって何をしてらっしゃるのか聞いたのでございます。」
少年が変に改まった言葉で言い直す。
「うに。これ見てたんだ。」
そういって小枝を指さすと
「何だよ、この黄色いの?」
「蟷螂の卵」
「へぇ~、蟷螂ってこんなでかい卵生むのか。」少年がそう感心していると
「違うよ。」と、少女が答える。
「はぁ?」
よく分かっていない少年に少女が説明を始める。
「蟷螂のお母さんはね、卵を産む前に卵を保護する泡を出してからその中に卵を産むの。それでその泡はしばらくするとこんな風に固まっちゃうの。そして次の季節がくると一斉に二百匹の蟷螂の赤ちゃんが生まれるの。」
「二百匹…。わらわらと…。想像したくねぇな。」
「うふふ。感動ものだよ~。」
少女はさも満足したように笑っている。
「それでね。秋頃、そう今の季節に産まれた卵はこのまま寒い冬を越えて暖かい春に産まれるの。」
「結構長いんだな。死なないのか?」
少女は振り返り少年の顔をじっとみていた。
しばらくして少女は説明を続ける。
「お母さん蟷螂はね、交尾した後その相手の雄蟷螂をたべて栄養をつけるんだ。だから冬も越せるの。」そう言う少女は少年の顔を見ながらほほえんでいる。
しばらくの沈黙の後少年がおそるおそる口を開く。
「ま、まあいいさ。俺男だけど蟷螂じゃなくてよかったなってことで。ほらさっさと準備に戻ろうぜ、な。」
そう少女に勧めると
「赤ちゃんできちゃった・・・。」
再び沈黙。
「もうそろそろ三ヶ月。産まれるのは冬超えて春ぐらいかな。両親にはまだ話してない。」
「お、おい。何言ってんだよ。それってもしかして…。」いきなりのことであわてる少年。それに続いて
「君の子供じゃないよ。」
三度沈黙。
しばらくのち、少女は
「嘘だよ。」
そう言ってほほえみ、少年の持っていた工具箱を奪って
「ほら、準備に戻ろうよ~。」
そのまま校舎へとかけていく。
一人残された少年はただただ呆然としたままだった。