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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.2 / 恋色花火
Last-modified: 2007-06-22 (金) 20:49:15 (6392d)
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恋色花火 ―― 登美丘 隆志


ある夏の夕方に。
蝉の音と夕焼けに包まれた駅のベンチで、あなたは待っていました。
私が汽車から降りると、あなたは私に気付いたようです。
こちらを振り向いて近づいて来ました。
待ちくたびれたようですね。
待ち合わせの時刻に、別に遅れていないのに。

私たちを乗せた列車が海の見える街に近づく頃には、辺りは少し暗くなっていました。
改札を出ると、夜店と多くの人々で駅前通りはとてもにぎやかです。
たこ焼きのにおいやお酒のにおいで、私たちはおなかが空いているのに気が付きました。
私はたこ焼き、あなたはりんご飴を買いました。
・・・冷めないうちに花火の見える場所に行きましょう。・・・
港に近づくと、辺りはすっかり暗くなっていました。
微かな潮風が涼しさを運んでいます。
まもなく私は海沿いに架かる橋の近くが小高い土手になっているのを見つけました。
その場所に腰掛けて、花火が始まるのを待つことにしました。
たこ焼きはまだ温かく、二人でおいしく食べました。

花火が始まる時刻になると騒がしかったこの街は、すこし静かになりました。
そして花火が始まりました。
まず大きめの花火がひとつ上がり、夜空に光の花が咲きました。
そのあと続いて小さめの花火が何度か上がり、私たちは幸せな気分になりました。
きっと周りの人々もそのように思ったことでしょう。
・・・とてもきれいですね・・・
あなたがそっとつぶやいて、そして私は頷きました。
花火の光の花ひとつひとつは一瞬ですが、あまりに美しいのでずっと心に残るでしょう。
私の心にも、あなたの心にもずっと残ると思います。

花火が終盤に近づくと、大きめの花火が連続で上がりだしました。
白い一瞬の閃光が辺りを照らし、そして夜空は色とりどりの光で華やかになります。
あなたの横顔もはっきり見えるほど、夜空は明るくなりました。
・・・あの花火の色、あの色は何色なのでしょうか?・・・
あなたが振り向いて、私に尋ねてきました。

私は返答に少し迷いましたが、すぐにこう答えました。
・・・恋色、恋色の花火だと思います。・・・
私たち二人は恋をしています。その理由や意味もわかりませんが。
それは一つに決められないから、でも美しいのはきっと間違いありません。
だから私はその時そう答えたのです。その意味があなたには伝わったでしょうか?

その花火を二人で見た日の少し後に、彼女は当時流行っていた病に倒れてしまいました。
私は一生懸命彼女の看病を、彼女の家族と共に手伝いました。
でも彼女は静かに息をひきとりました。結婚することが決まっていたのに、
その日を迎えることのないままに、彼女は亡くなりました。

花火を見る度に思います。
花火の美しさは一瞬です。あの恋した日々も私にとっては一瞬の出来事でした。
でも、あなたへの愛は永遠だと思います。
あなたと過ごした恋色の日々をずっと忘れません。

(了)



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