どっちでもいいでしょ ―― U †
「ピッピピピッピピ・・」
目覚ましの鳴る音を聞いて俺は目を覚ました。一階に下りると、焼きたてのパンと珈琲の匂いがした、誰かが先に朝食を食べているようだ。
「やぁ、おはよう」
にっこりと声をかけてきたのは俺の父親の祐介だった。
「おはよう、めずらしいねぇ父さんが家のいるなんて」
父は大体研究所で寝泊りしているので滅多に帰ってこない。
「なんだい?僕が帰ってきてはいけなかったのかい?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
嘘である、この男は何かと面倒を持って帰ってくるので実際のところあまり会いたくない人物だった。
「朝ごはんは食パンにしようかなー」
そういいながらオーブントースターに食パンを入れようとする、とその時、二階から誰も降りてくるはずがないのに足音がした。
「やぁ、おはよう」
祐介が俺にした朝のあいさつを同じように上から降りてきた人にした。
「おはよう、めずらしいねぇ父さんが家にいるなんて」
降りてきた奴はそう言った、歳は18ぐらいであろうか、一体誰だろう?
「あれ、気付かないのかい?すぐに誰だか分かると思ったんだけどなぁ。」
などといって首を傾げる父。そういえば上から来たあの首を傾げている奴毎日はどこかで見たような・・・・
「まだ気づかないのかい?君だよ君、正樹だよ」
「あぁ、俺か、って何で俺がいるんだよ!?」
その言葉を発したのは俺ではなく後から降りてきた方の正樹だった。
「ふふ、すごいでしょ、クローン人間を作ってみたのさ」
自慢げに父親は言ってみせた。
「「何でそんなもん創るのさ」」
今度はあいつと言葉が被ってしまった様だ。
「そんなもんとは失礼だなぁ、結構苦労して創ったのに。」
不満げに父が答えた。
「「質問に答えろって」」
「ん?あぁ何で創ったかって、そんなの決まっているじゃないか好奇心だよ」
「「何でクローンなんて勝手に創るんだよ!せめて本人の承諾とか得てからにするだろ、普通」」
「でも、聞いても答えNOでしょ?」
「「当然」」
「じゃぁ聞く意味ないじゃん」
「「だから勝手に創るなって言っているんだよ、今すぐクローンを消してくれ」」
「いいのかい本当に?」
「「ああ、クローンなんて見たくもない、同じ人間がこの世に二人もいても何の役にも立たないよ」」
「分かったよ、そんなに言うなら・・・」
などといってふてくされる祐介、そういってポケットから銃を取り出し俺の方に向けたまま言った。
「じゃぁ君を殺しちゃおう、君が死んでも彼が死んでも同じ事なんだからどっちでもいいでしょ、それじゃさよならだね。」
「ちょ、チョト待ってよ、さっきのなし俺が殺されるなんて聞いてないよ。」
「うるさいなぁ自分が消せって言ったんだろ?目を瞑って体の力を抜きなさい、その方が楽に死ねるらしいよ。」
本気だ・・・嗚呼、こんな理不尽な死があっていいのだろうか?いきなり現れたクローンのために死ねだと?暴れても無駄だろうなぁ、俺の人生って一体なんだったんだろうか・・・でも俺の18年間の記憶、経験は奴に引き継がれているだろうから無駄にはならないか、そう考えると少しだけ気が楽になった、俺は諦めて目を瞑った。
「ふふふ、どうやら観念したようだね。」
パーン
俺は死んだようだ、真っ暗だ、銃声は聞こえた、でも痛みはない、父さんの言った通りだった、結構死ぬって簡単なものなんだ、死んでも意識は残るんだ、人間には魂なるものがあるんだ・・・
『クスクス』
ん?なにやら笑い声が、天使かな?どっかで聞いたことのあるような・・・
『早く眼を開けなよ』
えっ眼をあけるって?死んでいても開けられるのだろうか?恐る恐る眼を開けてみる。
「・・・・」
『・・・・』
そこには満面の笑みの天使―もとい奴の姿
「だまされたぁ」
あの銃はただのおもちゃだったようだ。緊張が解け机にうつ伏せになって倒れる。
「何でこんなことするんだよー」
そのままの体勢で言った。
「もうクローンを消せなんていわないでしょ?軽いジョークを混ぜた説得だよ。」
にんまりと笑ってみせる。
「軽いジョークって、ふざけ過ぎだろ、マジ殺されるかと・・まぁもうクローンを消せなんていえないね、これじゃ脅迫」
「よかった、説得成功で、ところで時間は大丈夫?初めから遅刻はだめだよ。」
「え、初めって、こいつ学校へ行くのか?」
「当然、さ、早く支度を済ませなさい」
こうして俺とクローン―そういやまだ名前も決まってない―との不思議な生活が始まったのだった。