四季のうた †
鮎川つくる
(春)
目覚めたとき、かなり寝ぼけていた
初日だったからそれでいいと受け流す
二日目は、たぶん残り香
傀儡になるのは楽しい
三日目になると焦燥は静かに浸食を始める
からだの内部に溜まった熱が
ああしたい! という願いを持つ
そのままにしてごらんよ
血まみれの鳥くらいの悲壮感と
太陽ほどのまけおしみ
いのちが拡大している
ぼくらの皮膚はビニールのようにたわんで
割れて拡散していく
踏まれたたんぽぽ
つるむ小鳥ども
生暖かい沼と泥
それもぼくでこれもぼくだ
みんなぼくで
ぜんぶいたい
ぜんぶぜんぶ、
ほんものになった期待爆弾のせいだ!
「なんでもするから」って
言ってしまったせいだ
(夏)
ぼくは地で囲まれた群島をおもい浮かべて
真ん中をゆく積雲をおもい浮かべる
俄に降り注ぐ雨はぼくの歩調をととのえる
海風にのったなら雲と陸地に漂って
水色の大気は
波のようにたしかな濤声を生み出す
着ている涼しげなシャツは
どうしてかボタンを上まで留めている
最大密度に凝固した青色を背に
魚は広漠とした海に溺れてしまい
あらゆるものの基底である植物に
陸地のけものは喰われてしまう
スーーーーと声を出してみる
三回はためくシャツの布地の
隙間に入った洗剤を追い出そう
弛緩したちいさな肉体に
さらに心象を埋め込もう
ルーーーーと午睡をやってみる
雲や山の何もかもが厚くなり、
全天候で最も涼しい風の吹く、
唯一人間でいられる、
ちっぽけな二ヶ月間
(な・の・に
ほかのやつらからの羨望を
バチバチに受け止めて、
後戻り出来ないほどに
熱されている……)
(秋)
ぼくがなにをしたっていうんだ
真っ暗ななかの灯りほど、
憎らしいものはない
なぜかって?
暗室の扉のそとの、
明るくてあたたかくてきもちのよい
ところを
昔から教えられてきたからだ
せめてきもいよくならせてよ
べつにいいだろ
と、小さな手のなかに握りしめたSOSは
虫眼鏡サイズだった
降る雨は単調だから
下水道管・感情線のフラッシュバック
失敗ですら中途半端で
浮かぶこともはいつくばることもなく
陰気に座ってしまっている
(冬)
神経・水道管・電線・血管
空洞の管はピンとはり
張り詰めたなかですごすことができるのは
なんにしろ幸福なことである
常に緊張感を欲していて
緊縛の嗜好性はここにある
死というものの本体は
まったく見当が付かないが
少なくとも、
なんだか楽しそうなものではある
(と言いつつ、人一倍死ぬのが怖い)
こうなったらお終いで、
知らないうちに雪はばかばか降って
ぼくは埋もれる
ツーと温かい血を流しつつ