KIT Literature Club Official Website

京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.46 / 水中都市
Last-modified: 2020-12-21 (月) 21:22:58 (1218d)
| | | |

活動/霧雨

水中都市

鮎川つくる

 深海ラジオは終わりに近づいていた。なだらかな流行歌は、単純なリズムが窓枠に適合しない。市場で買い込んだ中層の魚の目玉は、くりぬきまで終わっていてあとは焼くだけ。面倒に本の隙間に手を入れては、集中できない訳を雑多な室内のせいにする。隣の家は、ゆがんだ月光のなかに、海面まで伸ばした煙突から陽気にぷかぷか煙を吐いている。あっ、船が通った、灯りの隊列と、くゆる煤煙が、複雑に沈んでいく。カレンダーを一枚めくると、静かさに耳がツーンとした。