KIT Literature Club Official Website

京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.46 / 戒め
Last-modified: 2020-12-21 (月) 21:17:11 (1221d)
| | | |

活動/霧雨

戒め

そう

 これは戒め。僕ではない僕が辿ったかもしれない過去の物語。

 僕は憎かった。
 今思えば幼稚園からだろうか。僕は走るのが遅かった、力が弱かった、泣き虫だった、心が弱かった。
 だからだろうか。周りはよってかかって僕を馬鹿にしてくる。いじめてくる。
 小一の頃には「ノロマ●●」と言われからかわれた。それくらいだ。
 僕が自分がいじめられていると知った、いや、本格的にいじめが始まったのは小四からだろうか。消しゴムを取られる。蹴られる。ことあるごとにバカにされる。殴られる。ゲーム機を取られる。数の暴力でこちらを悪者にされる。一つ一つは周りから見たら大したことないのかもしれない。それでも僕にとっては。
 小五の頃、友達にも似たようなことをしてしまった。小六の頃には自分の間違いに気づき彼とは仲良くなった。
 彼が言ってたことは今でも覚えている。
「砂場にある砂を学校にかぶせたい」
 要するに学校なんてなくなればいいということだ。
 僕は彼にそんなこと言うもんじゃないと言って諫めたが、今思えばそれは僕自身の言葉だ。まだ小四の頃よりはマシになったとはいえ周りから馬鹿にされ続けていた僕も学校が嫌いだったのだから。

 中学に入った。
 受験した。頑張って勉強して、周りからは絶対に合格できないだろって言われていた中学にギリギリ合格した。嬉しかった。でも、僕は後に知ることになる。努力しても変わらないものは存在するということに。

 いじめは中学に入っても起きた。
 
 勉強が分からなかった。最初はそれだったと思う。そこから周りからバカにされた。それに僕は周りから見たら変わっていたのだろう。それもバカにされた。
努力して勉強も周りと比べても下位ではあるが、食らいついているレベルにはなったそれでもバカにされ続けた。人間とは一度身についた自身の見方、偏見、先入観を変えることは不可能なのだと悟った。
 バカにされるだけならばよかったかもしれない。
 ことあるごとに僕を蹴ってくるヤツが現れた。ことあるごとに僕にちょっかいを書けてくるヤツが現れた。ことあるごとに僕を否定してくるヤツが現れた。
 僕に希望なんてなかった。世の中は理不尽だ。
 高校に上がっても何かが変わったわけではない。
 それどころか完全な敵として見なしてくる人間も現れた。
 彼は僕の一つ上の学年だった人間だった。隣のクラスだったのがせめてもの救いだったが、クラス移動等で一緒の教室になってしまうことが多かった。
 彼はことあるごとに僕に危害を加えてきた。先生にも相談した。
 原因はなんだっただろう? 彼のカンニングを注意したからだろうか? 教室のエアコンの温度を上げたからだろうか? 
 よく分からない。ただ一つ分かるのは何があったとしても彼は僕の敵になっていただろう。僕に非がなかったとしても。KITIGAIとはそういうものだ。

 僕は犯罪を犯すことになった。無理矢理やらされたと言ったほうがいいのだろうか? 分からない。
 ある日の授業のことだ。どういう会話の流れだったのだろうか。
 まぁ、要約すると「ウザいヤツAよりはKITIGAIの方がまだ勝ち目がある」と僕が言ったのを、周りのDQNが勝手に「僕がKITIGAIに勝てる」って言ってたーとKITIGAIに漏らしたのだ。意味が分からない。そこからKITIGAIが僕と戦おうとしてきた。何から何まで意味が分からない。とりあえず僕は部活があったので引退するまで待ってくれと言った。KITIGAIもDQNも珍しく待ってくれた。時々戦いを早めようとしてきたり、はやし立てたり、やらせようとしてきたくせに興味ないという無責任発言をしたり、要約すると周りのGOMIどもウザい。
 まぁ、なんだかんだで戦ったけど、というか僕は遊ぶことにした。KITIGAI相手に真面目に本気を出すのはアホらしかったから。「なかなかやるじゃんっ!」とか笑顔(だったと思う)とか言い、攻撃も防御もほとんど捨て、相手を不快にさせることに能力値を全振りした。
 もちろん先生に怒られた。
「自分を大切にしなさい」とか「暴力なんて……」とありきたりな説教から、「なんであんな見境の無いヤツに挑むのかなぁ」というあきれ声にたいしては、「じゃあ見境のあるヤツならこんなことになったんですか?」と反論したくなった。
 親にも怒られた。
事情も大して知らないくせに周りの肩をもつ発言をされた。その後もことあるごとにこの件をだしにされ怒られた。単に怒ることに都合がいいから使ってるだけ感が半端なかった。
 校長や進路指導の先生は僕らよりも、僕らに戦わせた周りの人間に対して怒ったようだが、大した効果はなかった。周りもことあるごとに面白おかしくこのことを蒸し返した。ただのGOMIだ。
 後々知ったことだが、僕が犯した罪状は『決闘罪』というらしい。
 ウィキペディアによると、
 
決闘罪は全6条からなり、決闘を申し込んだ人、申し込まれた人、決闘立会人、証人、付添人、決闘場所提供者など決闘に関わった者に適用される。もっとも、構成要件及び法定刑は主体ごとに定める。
決闘を挑んだ者・応じた者(1条) - 6ヶ月以上2年以下の有期懲役
決闘を行った者(2条) - 2年以上5年以下の有期懲役
決闘立会人・決闘の立会いを約束した者(4条1項) - 1ヶ月以上1年以下の有期懲役
事情を知って決闘場所を貸与・提供した者(4条2項) - 1ヶ月以上1年以下の有期懲役
決闘の結果、人を殺傷した場合は決闘の罪と刑法の殺人罪・傷害罪とを比較し、重い方で処罰される(3条)。
また、決闘に応じないという理由で人の名誉を傷つけた場合は、刑法の名誉毀損罪で処罰される(5条)。
この法律は現行の刑法が施行される前の法律であるため、本法の内容の把握には本法だけでなく刑法施行法(明治41年3月28日法律第29号)の内容も参照する必要がある。刑法施行法によれば本法で「重禁錮」とされているものは「有期懲役」に変更され、また罰金附加は廃止されている。
 
なるほど。ひょっとしたら進路指導だけで済んだ僕は幸運だったのかもしれない。
周りの人間は『教唆』にあたるのではないかと思い、ウィキペディアで調べた。

人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。

 とのことらしい。
 僕は出席停止を食らい、周りからも色々言われ続けているのに、周りは説教を受けただけ。
 理不尽だ。
 この世はいじめたモン勝ちだ。いじめられた人間は耐えるしかない。我慢するしかない。最低な世の中だ。日本は平和だ治安がいい犯罪が少ないとよく言われるが、あるだろここにこんな身近に。
 意味もなく僕のやったことをネタにして笑うDQN、GOMI、あはあはっはっはははっははっっははっははっははっははははっはっはははあはははっははっはははっははははっははははっははははははっはははっははっはは。
 腐ってる。

 一浪して大学に入った。親は相変わらずウザかった。
 大学ではいじめに遭わなかった。馬鹿にしてくるヤツ、高校の知り合いで当時のことをネタにして笑いながら広めようとしてくるヤツもいた。だが、優しい人の方が多かった。嫌なヤツと話す機会はほとんどなかった。
 今まで恵まれなかった分、大学では周りの人間に恵まれた。
 
 成人式、母校の高校へ行くことにした。ひょっとしたら今の僕ならば周りがなんであろうと大丈夫だろうと油断したのだ。現実は非情だった。
 僕は笑われた今までのことを。僕にやらせたくせに。お前らは教唆罪のくせに。なんで僕だけが苦しまなければならない。なんでお前らはヘラヘラ笑ってられる。なんでお前らは何も傷ついていないんだ。なんでお前らは自分が何も悪くないと思えるんだ。なんでお前らは人を平気で傷つけれるんだ。
 気が付けば僕はDQNの一人を絞め殺していた。そこから先は早かった。
 二人目は殴り殺した。
 三人目は刺し殺した。
 四人目は斬り殺した。
 五人目は突き落とて殺した。
 六人目は突き飛ばした際、当たり所が悪くて死んだ。
 
 何人殺しただろうか?
 気が付いたら誰も動かなくなっていた。
 全員殺したのか。
 殺しても何かが突っかかる。
 殺した程度では晴れないのだろうか? 関係ない人間も一緒に殺してしまったからだろうか? 嫌いではなかった人間も殺してしまっただろうか? これから先のことを思ったからだろうか?
 鏡に紅色の自分が映る。
 気持ち悪い。
 鏡に映る自分の目がなんとも言えない気持ち悪さを放っていた。
 そうか。僕が今まで一番憎かったのは、DQNでもKITIGAIでもGOMIでもない。
 
 自分が憎かった。
 弱い自分が憎い。遅い自分が憎い。不器用な自分が憎い。非力な自分が憎い。優しくない自分が憎い。全てを周りのせいにしている自分が憎い。成長しない自分が憎い。頭が悪い自分が憎い。学習しない自分が憎い。誰かを殺した自分が憎い。周りを困らせる自分が憎い。周りに嫌われている自分が憎い。何もできない自分が憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎。

 近くにあった椅子で鏡をたたき割る。鋭利な破片を握りしめる。鮮血が手の平から静かに流れ落ち、床に小さな斑点を創る。僕はそのまま喉を切った。

 ジリジリジリジリ。
 目覚ましの音が騒がしく鳴り響く。
 うるさい……。
 僕はけだるげに目覚ましを止め、そのまま起き上がる。
 随分嫌な夢を見たものだ。自分が人を殺す夢は殺される夢より気持ち悪い。殺される感触など殺す感触に比べれば生ぬるい。実際に経験したらどうなるかは分からないが、少なくとも夢の中ではそうだ。
 変な夢を見たついでだ。せっかくなので今までの自分の人生を振り返ってみるか。
 幼稚園、小学校、中学校、高校、で今は大学か……まぁ、失敗だらけだったけど悪くない人生だったんじゃないか。今まで僕が下した判断は色々間違いだらけだったけど、確実に一つは正しい判断を下したな。

 成人式の日、母校に行かなかったことは大正解だった。