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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2020-03-19 (木) 09:06:02 (1727d)
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活動/霧雨

天使装置

福祉社

 むかし、お母さんが、言ってたんだ。天使を、砂時計に入れると、ゆっくりと、流れ落ちるのだ。

 天使をつかまえるのなんて、簡単なんだ。りょうほうの羽の付け根を、いっぺんにつかむと、もう、飛べなくなってしまうから、もち運ぶのだって楽だ。
 町のはずれの、森のなかにある建物は、むかしは教会だったから、天使もたくさんいる。真っ白いままで、生きている天使だ。しんとした時間のなか、白い生き物が、ふわふわ降り注ぐのは、すごく綺麗にみえる。
 前に試したときには、なにせ急いでいて、握る力が強すぎて、家に帰り着くころには、天使は死んでしまっていたから、それをふまえて今日は、砂時計をここに持ってきたのだ。ちゃんと、僕でも、もち運べるサイズのやつだ。
 今日は、たっぷり時間があるから、少しばかり、こだわってみてもいい。畸形でない、うつくしい天使がいい。そうして僕は、選び抜いた一匹を、砂時計にほうりこんで、蓋を閉める。
 連続的な、ときに不連続的な雫だ。お母さんの言っていた通りだ。とろとろとした、白い液体になって、ゆっくり、ゆっくりと、天使が流れ落ちる。それを見ながら、僕は、知りうるかぎりの賛美歌をうたう。

 行ったこともないような、どこかの国で、セントマリア、きみの葬式をしよう。終わりのないうたがうたわれるのを聞こう。やりすぎなくらいに眩しい、満天の星空のなかに、すこしの余白を見つけて、そこで永遠に暮らそう。
 波の打ち付ける砂浜の、透明な石英のひとつひとつが、僕らの理想を祝福してくれていると、疑わずにいよう。合図とともに、万雷の拍手を聞こう。あふれだしたその奔流が、きみの亡骸を包み込んで、やがて、息をのむような、うつくしい死装束になった。きみが笑っている。
 人生を、きれいに終えるための方法は、実は三つしかなくて、ほんとうの愛を得ること、大きな役割をもつこと、すべての苦しみから逃げきることだ。僕は、ほんとうは、最初のやつがよかったけど、結局、どれも手に入らなかった。きみに全部あげてしまったから。

 あっけなく、最後の雫が落ちて、天使はいなくなった。形態をうしなった、白い液体が、砂時計の底に満ちていて、僕は、それが神話の死骸であることに、もう気がついている。