KIT Literature Club Official Website

京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 霧雨 / vol.43 / ゆるゆる万年筆ライフ
Last-modified: 2020-03-18 (水) 14:15:12 (262d)
| | | |

活動/霧雨

ゆるゆる万年筆ライフ

 新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。私たちは京都工芸繊維大学文藝部です。この学校にも文藝部、あるんです。どうぞお見知りおきを。
 新生活といえば、筆記具ですよね。筆記具です。鉛筆、シャープペンシル、ボールペン。どれも学生にとっては非常に馴染み深いアイテムでしょう。大学生になるとパソコン・スマホを活用することも増えますが、やはりアナログな筆記具も学校生活を共に過ごす相棒であり続けます。
 新生活といえば筆記具と言われてぴんと来ない人は、春のうちに文房具店に行って、高級筆記具コーナーを少し覗いてみると良いです。恐らくおじいちゃん・おばあちゃん層をターゲットに、進学祝い用高級筆記具(名入れつき)の案内がそこかしこで見られると思います。
 一説によると、筆記具を贈るという行為には「もっと勉学に励め」というメッセージが込められているとか。厳しい受験戦争を生き抜いて、ようやく手に入れた自由を謳歌しかけている大学生に釘を刺すにはぴったりの贈り物というわけです。
 ところで、文藝部にとっても筆記具は特別な存在です。実際に手書きで原稿を書いている人はまずいないにも関わらず、文芸・文学のアイコンといえば本か筆記具が容易に思い浮かびます。この筆記具は、多くの場合、万年筆でしょう。たとえば小説投稿サイトの「小説家になろう」のロゴには万年筆があしらわれています。他の投稿サイトにも万年筆やそのペン先をアイコンにしているところがいくつかありますし、文豪たちの愛用の品といえば万年筆が定番で紹介されてきます。
 ここでこの文章の本題を告白すると、万年筆を使いませんか、という勧誘です。小説でもエッセイでもなく、最初から最後まで勧誘です。文藝部の部誌でなにをやっているんでしょうね。とにかく前述の理屈により、新入生歓迎号において、文藝部の部誌で万年筆をプッシュしていきたいと思います。よろしくお願いします。

〇万年筆をなぜ使うのか
 さて、万年筆は簡単に言うと、インクを軸内に充填して使うタイプの筆記具です。存在自体は知っていても、古臭い、難しそう、面倒くさそうといった印象を持っている人が多いのではないのでしょうか。十九世紀後半から二十世紀にかけて広く利用された万年筆ですが、いまや実用という意味では主流からはほぼ消え、ボールペンにすっかり取って代わられています。
 正直、ボールペンのほうが便利なので、この現状は当然といえば当然です。いちいち洗わなくていいし、インクも漏れにくいし、なにより安価。実用筆記具として人々に受け入れられたのがボールペンなのも納得です。
 それではなぜ、あえて万年筆を使うのか。簡単です。
 万年筆は格好いい!
 万年筆それ自体のデザインも格好いいですし、万年筆を使うという行為自体にも格好良さがあります。自己満足です。だけどそれでいいんです。
 そしてもう一つ。
 万年筆は気持ちいい!
 万年筆の書き味には他の文房具で出せない気持ちよさがあるんです。擬音で表現すれば、ぬるぬる・さりさり。読んでいても伝わらないかもしれませんが、書けばわかります。紙の上を滑らせるだけで書けていくので、筆圧がほとんど必要なく、手が疲れにくいのも魅力です。
 人生において万年筆が絶対に必要かと言われれば、まあ必要ありません。ボールペンとシャーペンさえあれば、少なくとも大学で講義ノートを取るのには不自由しないでしょう。それでも私は万年筆を使います。万年筆を通じて、私にとって書くことはただの手段ではなく、それ自体を楽しめるような活動になりました。九十分もの長い大学の講義の間、書くことが楽しいかどうかは、生活の満足度にかなり影響を及ぼします。ノートを取るときだけではありません。面倒な書類を記入するとき、原稿のアイデアを出していくとき、お気に入りのペンが手元にあるだけで次の文字を書く原動力になってくれます。
 あなたも新生活に、新しい筆記具を取り入れてみませんか。万年筆は、思ったよりも難しくないのです。生活がもう少しだけ豊かになるかもしれません。

〇独断と偏見でおくる国内メーカー注
・パイロット
 国内最大手(多分)。車メーカーで例えるとトヨタっぽい。大ヒットしたフリクションはパイロットの製品です。
・セーラー万年筆
 呉で創業。名前がまさに水兵さんで呉っぽい。三社のなかではツイッターが一番楽しい。
・プラチナ萬年筆
 職人的なイメージがあるメーカー。工芸品のような美しいセルロイドペン、扱いが難しい古典的製法のインクなど、刺さる人には刺さりまくるラインナップが魅力的です。

〇万年筆のゆるいはじめかた
 最低限ペン本体とカートリッジ式インクさえあれば大丈夫。基本的にはボールペンのペン軸とレフィルを買うのと同じような感覚です。値段は最安で百円(税抜)より。大抵、ペン本体を買えばカートリッジインクが一つついてきます。お値段の上のほうは青天井なので、興味があればおいおい見ていけばよいと思います。 
 ペンは好きなものを選べばいいのですが、気軽に始めるなら国内メーカーであるパイロット、セーラー、プラチナのものが安心です。海外製に比べて、国内メーカーのものはカートリッジインクが手に入りやすいです。
 もしも、ボトル入りインクを使いたくて万年筆をはじめようかと考えているなら、必要なものは三つに増えます。ペン本体、インク、コンバーターです。インクのことを語り始めると長くなるので、こちらの場合は自力で調べてください。ブルーブラックという色一つをとっても本当に奥が深いです。初めての場合は、四季彩(セーラー)か色彩雫(パイロット)で検索すると幸せになれるでしょう。ただしボトルインクに手を出し始めると完全に沼です。もう出られません。インクにハマれば、もれなく万年筆の本数も増えます。
 いらっしゃいませ。

〇ゆるく使える万年筆の選び方
 初めの一本には千円くらいのカジュアル万年筆がおすすめ。このクラスだとパイロットのカクノが代表格。軸こそちゃちなプラスチック製にはなりますが、肝心の書き味を決めるペン先自体は十分な性能を持っているので、万年筆の気持ちよさをしっかり体感できると思います。とりあえずぬるま湯に突っ込んでおけば問題なく洗浄できるので、万年筆との基本的な付き合い方を学べるのもおすすめポイント。とにかく文房具店でカクノを一つ買っておけばまず間違いなしです。カートリッジタイプのインクと、ボトルインク両方を使用することができるので、本格的に万年筆にハマりはじめたとしても長く遊び続けられます。
 ちなみに、とりあえず万年筆の使用感を体験してみたい、という場合はプラチナのプレピーがおすすめ。一本三百円と、有名メーカーの製品のなかではぶっちぎりで安い。キャップにもプラチナが誇る「スリップシール機構」という、インクが乾きにくい構造を採用しているので、メンテナンスせずにほったらかしてもまあ平気です。
 全力でおすすめしている千円以下の格安万年筆ですが、やはり安さによるデメリットもあります。その最たるものが、軸が安っぽく壊れやすいということ。数年使えばすっかりヒビだらけ、キャップが割れたという話も珍しくありません。もしも「初めての一本」に特別な意味を見出すようであれば、もう少しお金を出してしっかりしたつくりものを選ぶと、一生付き合える相棒になってくれるかもしれません。
 ちなみに一部熱狂的な万年筆ユーザーの間では、カクノまではノーカン、という恐ろしい文化があるそうです。詭弁っぽいですが、プレ一本目のカクノで使い方・メンテナンス方法を覚えてから、一本目の万年筆をお迎えするという考え方もありかもしれませんね。

〇万年筆とゆるく暮らして
 総じていえば、万年筆は「使えば使える」もの。ただ、ほったらかさないことだけを心掛け、シャーペンやボールペンの代わりに使っていれば、いつの間にか万年筆はあなたの生活のなかにいます。
 もちろん万年筆を実際に運用していくにあたって、インク漏れや詰まり、ペン先の消耗など、トラブルに出会うことも少なくないでしょう。日々の取り扱いにしても、定期的に行うメンテナンスにしても、細かいことを言い始めるとキリがないです。
 それでも結構なんとかなります。慣れて、知識も増えてくれば、高価で繊細なペンでも自信を持って扱えるようになってきます。当たり前にモノを大切にできれば大丈夫。だからまずは、心配しすぎず、興味のままに一本のペンを手に取ってみるといいと思います。

 あなたの新生活と万年筆ライフが良いものになりますように!

〇おまけ 高級万年筆を入手する裏技
 カクノやプレピーはともかく、万年筆というもの基本的にはどうしても値が張ります。ハマるかどうかわからない段階で、大金をはたいてペンを買うのはなかなか難しい。そこで試してみたいのが、昭和育ちの人に使わない万年筆がないか聞いてみる、という方法。ある年代以上の人は、高確率で万年筆を持っており、しかも現在はそれを使っていません。身近に万年筆を持っていそうな人がいれば、いらない万年筆がないか尋ねてみましょう。「変な頼みだ」と妙な顔をされても、掘り出し物が出てくるかもしれません。

〇おまけ② インクと相性のいい紙は?
 コクヨのさらさら書けるルーズリーフが、万年筆との相性最強。こちらはコスパも最高です。手帳ならロルバーンというブランドのものが万年筆と好相性。
 紙質によって、インクがひどく裏移りすることがあるので気を付けて。逆に、同じペンとインクでも、紙によって風合いが全く変わってくるのが楽しみでもあります。