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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-05-10 (木) 23:37:50 (6435d)
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食堂にて

Aka

 食堂にて。

「あー、だりー。から揚げ丼うまかった?」
「んーまあまあな。次授業ある?」
「あるよ。そっちは?」
「ある。でも結構時間開いてるよな」 
「だな。あー、退屈。」
「・・・・・」
「・・・。なんかサークル入った?」
「んー。まだ決めかねてる」
「そうか。運動系にするのか?」
「いや、運動はしたくない」
「ふーん・・・。そういえば前に一緒にミュージカルサークルの新歓行ったけど、あれはどうなんだ?」
「いや、微妙。というかあの新歓の事あんまり覚えてないんだよな」
「ん、なんでだ?」
「かなりハイスペースで飲んだからな・・・。というか飲まされたし」
「あー、俺もだった。うっすらしか記憶ないな」
「後から聞いた話だと、ミュージカルサークルってサークル自体が酒豪で有名なんだって」
「えー。先に調べとけよ」
「俺に言うな」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・どこから覚えてない?」
「あの日か?うーん。なんかあの日のこと自体、スッパリ記憶が無いんだよね。気付いたら家だったし」
「ふーん。・・・・・じゃああの事覚えてないのか?」
「あのことって?」
「お前がやんちゃした奴」
「なんだよ、それ」
「秘密」
「言えよ。気になるだろ」
「話すと長いからなぁ」
「いいよ、別に。どうせ俺もお前も暇だろ」
「仕方ないな。
 えぇと、あの日、新歓が始まって30分位だったのにお前はそのとき既にありえないペースで酒を飲んでいて、早くもへべれけだったんだ。それなのにお前はテンションが上がったのかさらに飲み続けた。それも周りが心配するほどに。そしてさらに30分が経過した。その時にはさすがに周りもすっかり出来上がっていたのか、何か特技の自慢大会みたいなことになっていた。そうすると、お前はこう言ったんだ。
『俺に盗めないものは無いですよ』
 もちろん皆冗談だと思って嘘だと笑った。でも皆が笑うとお前は怒った。
『嘘じゃないですよ。なんなら何か言ってみてください。盗って来ますから』
 皆はやはり笑って、一人が言った。
『じゃあ、向かいのコンビニでガムでも取ってきてくれよ』
 そう言われると、お前は出て行った。もちろん皆はお前が強がって出て行ったのだと思った。そして10分くらいして、皆は、お前が酔いに醒めて引っ込みがつかなくなって帰っただとか、適当な話をして笑っていた。そんな話をしていると、お前が帰ってきた。
『どうだったんだよ?』一人がニヤニヤしながら言った。
『はい』
『ぶふぉぁっ!!箱ごとかよ!!』
『え?当たり前でしょ?』
 お前は鞄から箱を差し出しながら、さも当然そうに言った。
 ゲラゲラ笑うものもいれば、少し不安そうな顔をしている奴もいた。が、皆はかなり酔っていたのか、お前に次の指示を出したんだ。
『じゃあさ、酒も無くなって来たし次は酒を盗ってこいよ。もちろん箱でな』と一人が笑いながら言った。
 お前は頷いて直ぐに出て行った。さすがにそれは無理だろう、とか、だいたいどこから盗ってくるんだよ、とかそんな話をしながらみんなは飲んでいた。すると、お前は戻ってきた。しかし今度は手ぶらだった。
『おー、今度はさすがに無理だったか。まあ、普通無理だけどな』と爆笑しながら一人が言った。
『外にありますよ』そう言ってお前は扉の前から避けて、皆に外が見えるようにした。
『ええ~~~~~~!盗って来すぎだろ!!』
 外には、板にタイヤが付いたような荷車にビールやら缶チューハイやらの箱4箱が2×2にして積んであった。ここまで来ると、皆おかしくなって笑い出す。どうやって盗ってきたのか?とか誰かが聞くとお前は、企業秘密です、と言って頑固に答えなかった。
 そうしてまたしばらく飲んでいて、また一人が言った。
『なあ・・・金とか盗って来れるのか?』
『当たり前です』
 やはり人間行き着く先はそこなのだろう。止めとけよ、とか、それはまずいだろ、とかの制止の声もいくつか上がったが、結局その場のノリというものは恐ろしく、結局お前は行くことになった。
『いくらとって来ればいいんですか?』靴を履いて、お前が尋ねた。
『ん、お前の力量に任せる』
『わかりました。1時間して帰って来なかったら、解散しておいてください』
 そういって、気をつけろよー、とか、捕まるんじゃねぇぞー、とかの声をかけられながらもお前は出て行った。しかし、お前はその日は帰ってこなかったんだ。」
「・・・・・うわ・・・・・、すごいな、俺。ていうか、マジなのか?」
「馬鹿。嘘だよ」
「アホ。俺も嘘だよ。新歓が終わってから起こされて、部室から家に帰ったのは覚えてるんだよ」
「・・・・・うざっ」
「お前の方がウザイだろうが。悪質な嘘付きやがって」
「お前も俺からしたら十分悪質だよ。さんざん無駄話喋らせやがって」
「途中で思い出したんだよ。しかもお前が勝手に話しただけだし。というかよく瞬時にそんな長編ホラ話が出てくるな」
「・・・・・一昨日、ミュージカルサークルの先輩にそっくりそのまま言われたんだよ」
「・・・・・騙されたのか?」
「・・・・・」
「ぶぁはははははははははははははははははははは!!何赤面してんだよ!アホだ!21世紀最強のアフォブファッ!!ってもう時間15分も過ぎてるじゃねぇか!た・・単位が!」
「後一回の遅刻で単位を落とす奴もアホだろうが!走れっ!!」


 アパートにて。

「ふぅ。っていうかボロいアパートだ。このドア腐りかけてるんじゃないのか?まあ安いから良い・・・ってあれ?俺の部屋にこんなゴミ箱あったっけ?・・・なんで中に鞄?
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何この金?」


(了)



三題噺 14第回
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