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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-04-11 (水) 19:07:38 (6223d)
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ミリオンダラー・ベイビー

  • 出演: クリント・イーストウッド, ヒラリー・スワンク, モーガン・フリーマン
  • 監督: クリント・イーストウッド
  • 評者:
  • 日付: 2006-08-09

お薦め対象

みんなに。

あらすじ

 トレーラー暮らしで育ったマギーのたったひとつの取り柄はボクシングの才能。彼女は名トレーナーのフランキーに弟子入りを志願し、断られても何度もジムに足を運ぶ。根負けしたフランキーは引き受け、彼の指導でマギーはめきめき上達する。試合で連破を重ね、ついに世界チャンピオンの座を狙えるほど成長していく。

感想

 表面だけでも観応えがあり、そして非常に奥深いドラマであります。

 余韻、というものがあります。音が消えたあとも、その響きが残っていることです。この映画の余韻は、大変に素晴らしかったです。静かに胸に迫ってくるような、そんな作品でした。

 下調べをしなくては理解できない作品というのは、あまり好きではないのですが、本作に限っては別です。彼らの行動原理を知ることは、非常に重要なことであり、物語の厚みや感動の深みに影響しますので、これからの観賞を考えているかたのために、少しばかり前知識を書いておきたいと思います。

 あらすじにあるように、貧乏からの脱出を図るためにボクシングを始めるマギーと、彼女を指導するフランキーとが、だんだんと心を通い合わせることを主軸に、愛する父を失った女と、実の娘と縁を切られた男が織り成すラブストーリーに仕上がっています。でも、それは表層でしかありません。その裏には、二人がアイルランド系移民であり、カトリックという宗教への帰属が隠れています。フランキーは、アイルランドの古い言語であるゲール語を独学し、休日には協会に出かける敬虔なカトリック教徒です。マギーが着る試合用のガウンは、アイルランドのシンボルカラーであるグリーンであり、ゲール語で「モ・クシュラ」という刺繍がなされています。

 しかし、二人の住むアメリカという国は、プロテスタントの作った国であり、カトリック教徒であるアイルランド人は最初、ひどい差別を受けていました。それらが、この映画を観るこで、なんとなく感じることができるでしょう。

 宗教意識が希薄な日本では、あまり想像しにくいことかもしれませんが、例えば、イスラム教徒などに置き換えると捉えやすいのではないでしょうか。女性はできるだけ肌を隠し、日に五度、メッカの方向にお辞儀をする。何気なく日本で暮らしている日本人は、彼らの文化を否定はしないけれど、理解もしていないと思います。

 これらの知識をもたなくても感動できるでしょう。ただ、彼らの背景を考えることで、作品の味が豊かになることは確かです。

 とても美しくて、すごく切ない映画でした。

評価:A



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