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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-04-10 (火) 22:45:23 (6465d)
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かみちゅ!

  • 出演: MAKO, 森永理科, 峯香織, 野中藍
  • 監督: 舛成孝二
  • 評者:
  • 日付: 2006-08-03

お薦め対象

あくの強い作品を観て、消化不良になっているかたへ。

あらすじ

 心地よい自然が残り、ゆるやかな時が流れる瀬戸内の町。主人公、一橋ゆりえは普通の中学生。彼女は、ある日突然ひょんなことから神様になってしまった!!
人は予想もできない大きな力を手に入れたらどうするのだろう。でも、大切なことは一生懸命がんばること。あったかくて、そして楽しくて。みんなが持ってた大切なものがきっと見つかる痛快アクションコメディ。

感想

「かみちゅ!」についてですが、とても良かったです。かなり手荒に狙ったものを感じましたが、まあ許容範囲ということで。

 どうもジブリを意識しているような印象を受けました。目指そうとしたのか、それともジブリに対してアンチテーゼ的な何かを訴えかけたかったのか、それとも偶然に、求めるものが同じでそこに辿りついてしまったのかは分かりませんが、もろに影響を受けているように見えました。(赤いリボンとか喋る猫とか八百万の神とか)

 それにしても、人間味がかけるといういいますか、キャラがなんとなく薄いです。外見ではなく中身という点に関しまして。

 昔を懐かしんだ製作者が、自分のきれいな過去ばかりをトレースしたようなイメージです。ただ、最近の「血とか流しとけばリアルにうつるでしょ」というものよりも好印象ではありますが、それにしても理想だけで積み上げられすぎていると感じました。その点でも、とてもジブリに似ています。

 向こうは、対象としている年齢層がそれぞれの年代の女の子に対して、「かみちゅ!」はどの年齢に受けるように設定されているかを考えると、このアニメが見えてくるでしょう。

 あきらかに目の肥えた大人向けです。

 そのために、青春の生き急ぐようなスピード感よりも、その時代にしか存在しない哀愁をメインにしています。しかも良い面だけを。当方としては、残酷性が欲しいというわけではないのですが、あまりにも幸せすぎると、つい斜めから世の中を見ようとしている人間なので、物足りなく感じてしまいました。

 個人としましては、失うことで美しさが表現されると考えています。手を伸ばせば届くものや、永遠に留まり続けるものは、そこに儚さがなく、それはあまり感動を呼ばないのではないでしょうか。「かみちゅ!」は、あまりにも過去を美化しすぎているという点で、失うということに欠けており、結果として物語に内包されるはずだったノスタルジックさが削られてしまい、過去への憧憬までもかすれてしまって、キャラの愛らしさと毒のないストーリーだけが残ったように感じました。

 いまの中学生が見たらどう思うんだろう。やっぱり懐かしいなんて空でも仰ぐんでしょうか。昔は良かったとか、生まれてもいない世界のノスタルジックに浸るのでしょうか。なんか、へんな感じです。

 まあそれはさておき、それでもかなりの良作です。

 良くいえばきれいなもの、悪くいえばあざといものが苦手な方には、とても恥ずかしくうつるでしょうけれど、このクオリティの高さは素晴らしいです。特に三話ぐらいからのオープニングがとても観るものを楽しませます。このセンス、好きです。

 総評:毒抜き草(あくの強い作品に毒されたあとに観たら、かなり気持ちが楽になるのではないでしょうか)

 肩の力をいれずに、とりあえず漂いながら観ると癒されるかも。まあ女性の方にはどううつるのかは検討つきませんが、男性目線からだと、これはいわゆる願望と切り捨てられても言い返せないような……。
 それにしても、主人公が指をくわえながら喋るのは反則です。(このへんが狙いすぎなんですな)

評価:B+



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