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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-04-10 (火) 22:57:13 (6225d)
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キッド

  • 出演: チャールズ・チャップリン, ジャッキー・クーガン, エドナ・パーヴィアンス
  • 監督: チャールズ・チャップリン
  • 評者:
  • 日付: 2006-07-28

お薦め対象

新たな表現を模索しようとする人へ。歴史ってやっぱり大事ですよ、という思いを込めて。

あらすじ

 捨て子を育てる放浪者と少年の心の交流を描いている。本当の親子以上の愛情に結ばれた2人の生活とわが子を探す母、そして母子対面は放浪者にとって別れのとき。哀しいペーソスいっぱいのコメディ。

感想

 まず、監督・出演・脚本の三足の革靴を見事に履きこなしているチャップリンに圧倒されます。

 これは無声映画といいまして、ときおり字幕は挿入されますが、全体の流れとしては、音楽と出演者の動きだけでストーリーが進んでいきます。

 コミカルな動きで、こちらの心をくすぐるチャップリン。とても素敵です。そして彼がセリフ嫌い、つまりトーキー映画を撮らなかった理由が、本作を観ることでも理解できるでしょう。それほどまでに、演出が素晴らしい。そして演技も。無駄のある動きのようでいて、計算されつくしていることがわかります。

 情報過多の時代を生きているなかで、わたしたちは、日々送られてくる画面からの大量の情報を削除することに長けてしまっています。必要な部分だけを切り取り、あとの莫大なVFXや音は右から左へと垂れ流し。そうしないと、思考回路が追いつかないからです。ほんと、最近の映画はすごく情報が多いです。それはでも、悪いことではありません。例えば、音楽を聞いているときに、いちいち一つ一つの楽器について集中して聞く必要があるでしょうか。意識できない範囲での情報は、同一のキャンバスに表すことができますし、それはそれでいいのです。

 それに比べると、無声映画は極端に情報が少ないです。つまり、こちらの想像するところの力が試されているわけです。視線だけで観客の目には映らないものを動かしたり、微妙な感情を小道具を用いて伝えてきたりと、作り手の創意工夫がうかがえて、映画を楽しみながら勉強にもなります。

 特に、鳥肌が立ったシークエンスがあります。
 大女優になった母が、貧民街への慈善をしているとき、通りがかった女性に子供を抱かせてもらいます。そして、自分が昔捨てた我が子のことを思いに耽る背後、大きくなった彼女の子供が同じ画面に自然と入ってきます。二人は視線を合わせることなく、ただ座って違うものを見ている。

 うまく伝えられませんが、この場面は綺麗の一言につきます。何も語っていません。でも、言葉以上のものを観客に伝えてきます。

 最近では、イマジネーションの部分を補完することができるまで技術が進歩してきましたが、わたしとしましては、ただ真正面から雨は雨だと言われるよりも、空を見上げて、手のひらで雫を受け止める仕草にぐっと来ます。

 喜劇王の映画です。とても面白くて、声に出して笑ってしまいました。そしてほんのちょっぴりほろ苦いです。とても良い映画なので、見て損なしですともさ。

評価:A+



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