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京都工芸繊維大学 文藝部

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Last-modified: 2007-04-07 (土) 01:12:54 (6201d)
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神様のパズル

  • 作者:機本 伸司
  • 日付: 2006-10-16

お薦め対象

卒研と縁の無い人。<真剣

粗筋

留年寸前の僕が担当教授から命じられたのは、不登校の女子学生・穂瑞沙羅華をゼミに参加させるようにとの無理難題だった。天才さゆえに大学側も持て余し気味という穂瑞。だが、究極の疑問「宇宙を作ることはできるのか?」をぶつけてみたところ、なんと彼女は、ゼミに現れたのだ。僕は穂瑞と同じチームで、宇宙が作れることを立証しなければならないことになるのだが…。

感想 (お亀納豆)

僕が読んだのはハードカバーなので、そちらの感想を書きます。

初めに言っておく。これは卒業がどうの、研究がどうの、就職がどうのといった話が頻繁に出て来るので、リアルタイム直球ド真ん中の時に読むと激しく鬱になると思われます。気を付けるように。

さて、読み始めは物理+ミステリーなジャンルかと思ったら、全然ミステリーじゃなかった。
んで、当然と言うか何と言うか、物理の話に関してはちんぷんかんぷん。しかし理系の学生として、それで良いのか自分(´・ω・`)という気はする。気がするだけで、何の実行にも移らんが。

そしてヒロインの穂瑞沙羅華が『GOSICK』のヴィクトリカとキャラが被ってる気がする件について。
まあ、それはともかくラストが結構気持ち良いので、安心して読むと良いでしょう。

評価 燃:C 萌:B 笑:C 総:B+

感想 (U)

物理の先生がいっていた

自分で考えて行動しないと、きっとそのうち後悔するよ。

なんか似たような文章がありましたね、最初のほうに。

んで綿さんはあまり自分で考えて生きてない人間と見て取れる。人生の目標というかやりたいことが無い人。そういう人はあまり社会から求められていないようですね。

私ですか?綿さんの劣化バージョンですが、、、

物理って言うのは、分かったからといって人生において役に立つの?という疑問が沸きます。そんな物理を学ぶ人は皆持ってる疑問も神様のパズルの題材の一つではないでしょうか?

感想 (季柚下)

タイトルと粗筋だけを見て、厭世な隠遁生活者のヒロインが主人公をひっつかまえて懇々と作者の持論を語る、のような内容かと思って嫌厭していたのですが、その予想は大きくはずれていました。



宇宙の開闢を対象としながら、主人公たちは行き当たりに現れた依頼者ではなく自分たち自身について思い悩み、試行錯誤を重ねていきます。

主人公たちの心も大きく揺れ動きます。
そして、変化という形のラストとその落ち着き方(飛躍で終わっていない)は極めて現実的で、作中の時の流れを確かに感じさせる内容でした。



ハードSFとしての説明責任も、ここまで広げて良いのかと不安になるぐらい果たされていました。作者が実力派である云々を知ったのは読み終わった後だったのですが。



saiさんのおっしゃるように登場人物が少なく、さらに役割分担がはっきりしすぎて濃いキャラになっているなと感じるところは少々ありました。

ただ、その辺りも一種の戦略だったのかなとも思います。



皆さんおっしゃるとおり気持ちの良いラストが待っています。

安心して読めます。

感想 (哉)



まず、わたしの考えを二つ述べます。



一つめは、SFは、常に相反する存在であるファンタジーに向かって、そのベクトルを伸ばすべきであり、また、そのファンタジーについて説明する必要があるということ。二つめは、絶対に人間を描かなければいけないということです。ありえないことを、さも実現できるように、ときに実現したときにどのような心構えでもって事に望まなければならないか。いかに読者を納得させ、物語を展開していくか。そして、登場人物の心情といったものが、普通でない状況に追いやられたとき、どのように変化しうるか。



そういったことが描けていなければ、それはSFの名を騙った出来損ないの幻想でしかないと思うのです。なぜなら、SFにおいて提示される事柄は、常にサイエンスという分野がもたらす人類への影響が、どのように作用するかを推測したものだからです。



「神様のパズル」は、そういった意味で、しっかりとしたSF青春小説となっていました。



宇宙は無からできたという。なら、人間にも宇宙が作れるのではないか。だって、材料の無ならいくらでもあるのだから。



物語の筋として展開していく宇宙創造論は、とにかく物理や数学が苦手な人には苦痛に映るかもしれません。でも、そんなことは話が進むにつれて気にならなくなります。理系を選んだくせに、ろくすっぽできない主人公は、垂れ流されてくる情報に翻弄され魅せられていっても、人間というものの存在へと回帰していきます。科学のもつ不確かさへの疑問を感じ、そんな科学しか信じていない穂瑞沙羅華を疎ましく思いながらも、彼女の隠している弱さに気づいていく。彼はとても愚かに描かれているけれど、どこか親近感を抱かせるようなものを持っているので、読んでいて共感できました。



ただ、人間関係の設定が甘いように感じました。あまりにもうまく型にはまりすぎるのは、好きだけど認めたくないといったような、矛盾する感想を持ってしまうので、
そのあたりに、もう少しこだわりが欲しかったです。



それでも、このラストの清々しさは、なかなか得られるものではないと思います。かなりの青春です。



最後に、お亀納豆氏の言うとおり、卒研で苦しんでいる方は、す・ご・く!共感できると思います。




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