ブックレビュー/4101171394

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  • 作者: 筒井康隆
  • 評者: garand
  • 日付: 2007-03-26

お薦め対象 bookmark

筒井先生の作品の中でもあまり人を選ばなさそうな作品。

筒井先生の作品を読んだ事の無い方もどうぞ。

あらすじ bookmark

渡辺儀助、75歳。大学教授の職を辞し10年。愛妻にも先立たれ、余生を勘定しつつ、ひとり悠々自適の生活を営んでいる。料理にこだわり、晩酌を楽しみ、ときには酒場にも足を運ぶ。ある日、パソコン通信の画面にメッセージが流れる。「敵です。皆が逃げはじめています―」。「敵」とは何者か。いつ、どのようにしてやってくるのか…。意識の深層を残酷なまでに描写する傑作長編小説。

感想 bookmark

あらすじとタイトルから”敵”の正体を探るサスペンスの様な作品だと思われる方も居られるかもしれないが、この作品は老人”渡辺儀助”の日常を描き出していく事で進行していく物語である。

その描写の方法は、儀助の視点により、儀助の日常を不必要なほど克明に描くことで、岩から彫像を刻むように、少しずつ読者の脳裏に老人”渡辺儀助”という人間を描き出していくというものである。描かれている儀助の日常には、ごく日常的な妄想を時折挿みつつ事細かに進む日常描写と、あえて重苦しい漢字を当てた独特の擬音の表現とによって、どこか猥雑な雰囲気が漂っている。

話が進むにつれて妄想による虚構がその存在を増していき、パソコン通信のコミュニティ内の不可解な混乱と儀助の日常とを絡ませた妄想に至っては読む者を現実なのか虚構なのかの別が付けられない不安定な状態に放り込んでしまう。ただ、妻に先立たれ親しい友人も少ない老いた男の生活の日常としてはまっとうな事なのかもしれない。いや、もしかすると普段何気なく下らない考えが自分の頭を巡っている様を内側から描くとこんな風になるのかもしれないとも思う。

また、儀助は日常の中で自分のこだわりや社会の風潮に対し、学のある高い見識によって考えていると普段は意識している。しかしそれはそう意識する事により自分の下らない考え、こだわり、汚さを隠して自分で繕っているだけである。しかし、儀助は自分自身でその事にも気付いてもいるので意識の上であえてそれを自覚し自嘲的になりさえする。死を待つばかりの老人であるからこそ自身に惨めな思いを抱かせるような考えをしようともそれを一歩上から眺め、自分の善しと思う考えを続けていけるのだろうか。

一人の老いた男の内面を筒井先生らしい方法で深くえぐり描き出している作品です。

日常生活の描写が続いていきますが、独特の表現、文体があるのでページを読み進めることが出来ると思います。

余談ですが、”最後の喫煙者”といい”敵”といい煙草の事主張しておられるけど、盲目的でヒステリックな主張とは違い、やっぱり筒井先生は色々分かった上で言ってるんだろうな。

 
評価:A-



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