キッチン †
- 作者: 吉本ばなな
- 評者: 哉
- 日付: 2006-07-26
お薦め対象 †
さて、夏休みだ。読書でもするか、と思っているかたへ
あらすじ †
唯一の肉親であった祖母を亡くし、祖母と仲の良かった雄一とその母(実は父親)の家に同居することになったみかげ。日々の暮らしの中、何気ない二人の優しさに彼女は孤独な心を和ませていくのだが…。
感想 †
すごい透明度です。
これには、『キッチン』と『ムーンライトシャドウ』という二つの短編が収められています。読みやすいテンポと、こちらを飽きさせることのない展開がとても魅力的でした。特に、登場人物の会話が心地よく、綺麗の一言ですともさ。
それにしても、なんて行き当たりばったりなんだろう、と『キッチン』を読んで感じました。とりあえずアクションを起こしてみました、そして、こういう状況に陥りました、さて、これからどうしよう。という印象を受けるものの、それでもうまくまとめることができるのは作者の力量なのでしょう。あっぱれです。
『ムーンライトシャドウ』は、枯れてしまいそうなほど切ないのに、瑞々しい文章がこちらを包み込んできます。恋愛小説というものに居心地の悪さを感じてしまうのに、それでもページをめくる手を止めることができませんでした。
全体として、和音のように洗練されていました。ただの軽い文字ではなく、見ているのに聞いているように体に馴染んでくるような、そんな文章でした。
理系の語り方のほうが性に合うけれど、こういうのもたまには悪くないかも。ただ、読んでいるときは、照れ隠しが必要でしたけど。
評価:A