フランス恋愛小説論 (岩波新書) †
- 作者: 工藤 庸子
- 評者: 季柚下 沙葉
- 日付: 2008-02-03
感想 †
フランス恋愛小説の源流は『トリスタンとイゾルデ 』だとよく言われています。その後中世騎士物語が生まれ、ラファイエット婦人によって『クレーヴの奥方』が書かれ、その影響を受けてルソーの『新エローイーズ』が生まれます。『新エロイーズ』はかのナポレオンにも読まれ、そのナポレオンを敬愛するのがスタンダールの『赤と黒』の主人公ジュリアンです。
とここまでは私の勝手なこじつけですが、本書『フランス恋愛小説論』はそのようなフランス恋愛小説、特に古典と言われる作品の技巧や時代考証などを解説する筆者曰く文芸評論です。筆者は大学教授ですので固い書名がつけられていますがフランス恋愛小説入門書です。『クレーヴの奥方』を始め『危険な関係』、『カルメン』、『感情教育』、『シェリ』と一度は聞いたことのあるでしょう作品が取り上げられています。実際私が読んだことがあるのは『クレーヴの奥方』だけなのですが。
『クレーヴの奥方』については以下のような感じです。高貴な生まれで母から教養と清純な心とを学び若くしてクレーヴ殿と結婚した奥方が宮廷にのぼりヌムール公と恋に落ちます。彼女は母からの教え通り無機質たろうとしますが、夫には感じたことのない愛の感情に悩み、ついに夫のクレーヴ殿にそのことを打ち明けてしまいます。クレーヴ殿はそのショックで病死。未亡人となった奥方にヌムール公が求婚しますが奥方は断って修道院で生涯を過ごします。ここで注目すべきは奥方の夫への告白の場面です。私はあなた以外の人を愛しましたと夫に告げてしまうのです。彼女は夫に対して崇高な愛を貫こうとしましたがそれによって夫が死んでしまうと言う結末を迎えました。この内容は彼女は身の潔白を護りたいがために告白をし、夫を死に追いやったと批判を受けることになりますが、本書はその崇高な愛には言及せず主に奥方とヌムール公との駆け引きにおける技巧や繊細さを解説していきます。