開始行: #navi(活動/霧雨/vol.1.2) *『メビウス』 ―― [[哉>部員紹介]] [#h4297699] ~ 今日はなんて災難な日なのだろうか。 電車では痴漢に間違われるし、通り雨にも降られてしまった... ぐったり、した体でなんとかタクシーを止めて乗り込む。 「行き先は?」「K駅に、お願いします」 いつもなら歩いて通勤している距離だが、もう倒れてしまい... しかし、それはシートにもたれて、目を閉じたときだった。 急に支えをなくし、コンクリートに頭を打った。瞬間、声を... 「まあ、魂だけだからな」 あれ、おかしいな。私は確かにタクシーに乗り込み、行き先... 「天使なんかじゃねえよ」 不良な話し方をしている。 「どっちかっていうと、死神っていうニュアンスのほうがあっ... どうなってるんだ、幻覚が見える。そして幻聴も、おかしく... 「だからさ、なんて頭の回らねえオッサンだよ、いいか、一回... そんなことまで、君は何者なんだ? 「天使みたいな死神だよ。さっき言ったろ?実際はちょっと違... そうなのか、私は、死んだのか。 「まあでも落ち込むこたぁねえぜ。さっきも言ったろ?神様っ... まあ、そうだが。しかし、それは、 「シンプルなルールだよ、シンプル、簡単、超がつくくらい、... そして、私は煩雑した道路を直走っている。天使のような死... 彼曰く「十分。十分だ、いいか、六百秒だぜ、オッサン。そ... しかし、私はこの国の健康保険証というものを持っていない... 「ああそれか。てか、オッサンはそこまで心配しなくてもいい... と、いうわけで、私は久しぶりに体を精一杯動かしている。... 体は疲れていない。浮いてしまいそうなほど軽い。これは、... 彼では味気ないので名前を訊くと、すぐに教えてくれた。 「ああ、俺の名前?ジェフだよ」 よく見ると金髪で、青い瞳をしている。オッサンと呼ばれる... こちらが見えていない人を避けながら走っていると、すぐに... 「何やってんだ、オッサンよ、なんでそんな面倒くせえ走りか... しかし、ぶつかってばかりでは、 「はあ?アホか、オッサン、死んでるんだぜ?ぶつかるわけね... そ、そうなのか? 「ほんとに、オレがいねえと何もできねえな」 ありがとう、ジェフ。恩に着るよ。 「こっち、見てる暇があるんなら、どうやったら追いつけるか... それにしても、気になっていたのだが、君の言葉遣いはとても... 「これはな、反乱だよ、反乱。オレは常日頃怒ってるんだよ、... ずいぶん過激な天使のような死神がいたものだ。しかし、そ... 走ってる。オフィスの中を、人の中を、縦横無尽に。エレベ... 「なあ、なんで日本に来ようと思ったんだ?」 ジェフが話しかけてきた。 日本なら楽に稼げると思ったからだよ。 「それで?どうなんだ、実際さ」 君のほうが、よく知ってるんじゃないのか?酷いもんだよ、... 「なあ、どっちがマシなんだ?オッサンならさ、中国でも努力... はは、そうかもしれないな。ただ、闇夜に飛ぶ虫が、自らの... 「家族の幸せねえ。で、あんたの幸せは?」 私? 「そうだよ」 私は、そうだな、しいて言えば、私の力で誰かが幸せになっ... 「オッサン、それマジで言ってんの?」 ああ、そうだよ。 「それならさ、いいこと教えてやろうか?」 どうしたんだ、いきなり。 「オッサンの家族はさ、幸せだぜ」 また、唐突だな。 こういうことはよくあるのかい? 「別に。それこそ神のみぞ知るってやつだよ。まあ、オレが担... それは、褒めていただいてるのかな? 「変態と比べられても、なんにもならねえよ。それよりも、オ... そのことなんだが、私が頑張ったら、その、物質に触れるの... 「はあ?何言ってんだよ、あんたは今地球の上に乗ってるんだ... そうか、良かった。 と、言い終わる前に、それは来た。凄まじいスピードとハン... 「おい、オッサン、マジかよ!」 ジェフが楽しそうな声で、落ち葉のようにひらひらと回りな... 「スゲーぜ、オッサン。スティーブン・セガールみてえだ!」 スティーブン?それは一体誰なんだ? 「はは、海の向こうのスーパースターさ!」 洗練されたボディに隙間はほとんど無かったが、風を感じな... 左折しようとする安全運転のタクシーに、ポルシェが近づく。 「あの曲がり角のところで、飛び降りろよ、さもないと見当違... わかったよ、ジェフ。 体勢を立て直し、曲がり角手前でアスファルトの上に降りて... 「おい、もうすぐ時間だぜ!」 振り向くと、ジェフが楽しそうに、私を見送っていた。 「良かったな、間に合ってよ。今度はもっと年取ってから会お... そうだな、その時は君に名前を聞いてもらおう。 「本当の名前だぜ?」 ……………。 谢谢、你的事一生不忘记。 「気にすんな、楽に行こうぜ」 ふと、閉じていた視界が開けると、遠くで救急車かパトカー... 「………だから、このイカレポンチが急に…………」 次に目を覚ましたときに見たのは、白い天井。肌触りのいい... しばらくして戻ってきた彼女の後ろに、優しそうな女性が、... 「覚えていらっしゃいませんか?」苦笑しながら「当然ですよ... 「あ、」思い出した。「あの時いた、無事だったんですね?」 「おかげさまで」 頭を下げる彼女に、体を起こそうとするがうまくいかない。 「まだ動かないでください。傷に響きます」 彼女が通り魔に襲われていたところを助けたのが、とても昔... 「ああ!私は、入院などしている場合ではないのですよ」 「?なにか急な用事でもあるのでしょうか」 「いや、そういうことでは。単に、その、資金面で」 「そんなことを」ときれいに笑った彼女が言った。「安心して... だからもう少し安静にしてください、私の手の上に彼女の手... 「遅れてしまいましたが、すみませんでした、あたしを助ける... 「何を言ってるんですか、あの通り魔が悪いんですよ、あなた... 「いえ、あたしの責任なんです」彼女は少し躊躇った後、意を... ストーカーストーカー……。特定の人物に付きまとう行為だっ... 「彼、この病院の元患者で、そのときあたしが彼の介抱を手伝... 痛恨の面持ちで語る彼女に「そうですか」ということしか言... 「その彼も、もう死んでしまったんですけど」 「え、」寝耳に水とはこのことだ。「何故?いつです?」 しばらく沈黙が続いて、悲しそうに彼女は続けた。 「あなたの乗っていたタクシーに、飛び込んで」 その事実に驚く間もなく、病室のドアが開いて、スーツ姿の... 「意識が戻ったと、うかがいまして」 老いているほうの男が、ありありと浮かぶ敵意を隠そうとも... 「私どもは、K署の、こういうものです」と懐から黒い手帳を出... 「待ってください」彼女が、私と老いた刑事との間に入る。「... 「いえ、今日は別件でして」と横目で私を睨みながら「この男... ついに来る時が来てしまったか。覚悟はしていた。警察があ... しかし、その事実を知らされても、彼女は怯まなかった。 「そんなこと関係ないじゃないですか。彼はあたしを助けてく... 彼女の剣幕に、老いた刑事は面食らって、若者のほうは、ほ... 「それじゃあ、後日、あらためて」 と老いた刑事だけがいそいそと病室を後にした。 「あなたは行かないんですか?」 怒ったままの彼女に、若者は笑みを浮かべながら答えた。 「いや、お伝えしようと思いまして」 疑問を浮かべている私たちに、彼は静かに言った。 「あの目撃者の少年も同じようなことを言っていた、と」 「目撃者というのは、その、どの目撃者なんでしょうか」 「あなたの乗っていたタクシーの無実を訴えた少年です」若者... サイレン、あの外車を追っていたパトカーのものだろうか。... 「事実、現場検証をしてはっきりしたんですが、轢かれた男は... 捕まると思ったのか、捕まろうと思ったのかは分かりません... カーテンがふわりと舞った。まるで、目に見えない何かが入... 「すごくしっかりした少年でしたよ、言葉遣いは荒かったです... と両手を上げてみせる彼に、彼女が優しく笑った。 もしかして、と私は身を乗り出していた。 「その目撃者の少年というのは、金髪に碧眼ではありませんで... なんで、そう思うのだろう? 「そうです、そうです」冗談だと受け取ったのか、彼は、私が... しばらく他愛もない話をした彼は、最後に、とその少年のセ... 『密入国とか業務上過失致死ってごちゃごちゃうるせえんだよ... まったく参っちゃいますよ、と実に楽しそうに苦笑して、彼... 「不思議ですね」その後姿を見送っていた彼女が呟いた。「入... 「そういうことになるのでしょうか」 あと少し発見が遅かったら死んでたかもしれないんですよ、... 「私も、そろそろ帰るとします」 「そんな、まだ動ける状態じゃ、それにお金のことなら」 「いえ、そういう意味ではないんです。警察に、密入国したこ... 寂しそうな顔をする彼女に、あの若い刑事のようにおどけて... 「そろそろ、家族と一緒に、祖国で暮らしていこうと、思って... そうだ、私にはやはりこの国の水はあっていないようだ。あ... ~ CENTER:''(了)'' ~ ~ *この作品を評価を評価する [#facc8b7b] #rating() #navi(活動/霧雨/vol.1.2) 終了行: #navi(活動/霧雨/vol.1.2) *『メビウス』 ―― [[哉>部員紹介]] [#h4297699] ~ 今日はなんて災難な日なのだろうか。 電車では痴漢に間違われるし、通り雨にも降られてしまった... ぐったり、した体でなんとかタクシーを止めて乗り込む。 「行き先は?」「K駅に、お願いします」 いつもなら歩いて通勤している距離だが、もう倒れてしまい... しかし、それはシートにもたれて、目を閉じたときだった。 急に支えをなくし、コンクリートに頭を打った。瞬間、声を... 「まあ、魂だけだからな」 あれ、おかしいな。私は確かにタクシーに乗り込み、行き先... 「天使なんかじゃねえよ」 不良な話し方をしている。 「どっちかっていうと、死神っていうニュアンスのほうがあっ... どうなってるんだ、幻覚が見える。そして幻聴も、おかしく... 「だからさ、なんて頭の回らねえオッサンだよ、いいか、一回... そんなことまで、君は何者なんだ? 「天使みたいな死神だよ。さっき言ったろ?実際はちょっと違... そうなのか、私は、死んだのか。 「まあでも落ち込むこたぁねえぜ。さっきも言ったろ?神様っ... まあ、そうだが。しかし、それは、 「シンプルなルールだよ、シンプル、簡単、超がつくくらい、... そして、私は煩雑した道路を直走っている。天使のような死... 彼曰く「十分。十分だ、いいか、六百秒だぜ、オッサン。そ... しかし、私はこの国の健康保険証というものを持っていない... 「ああそれか。てか、オッサンはそこまで心配しなくてもいい... と、いうわけで、私は久しぶりに体を精一杯動かしている。... 体は疲れていない。浮いてしまいそうなほど軽い。これは、... 彼では味気ないので名前を訊くと、すぐに教えてくれた。 「ああ、俺の名前?ジェフだよ」 よく見ると金髪で、青い瞳をしている。オッサンと呼ばれる... こちらが見えていない人を避けながら走っていると、すぐに... 「何やってんだ、オッサンよ、なんでそんな面倒くせえ走りか... しかし、ぶつかってばかりでは、 「はあ?アホか、オッサン、死んでるんだぜ?ぶつかるわけね... そ、そうなのか? 「ほんとに、オレがいねえと何もできねえな」 ありがとう、ジェフ。恩に着るよ。 「こっち、見てる暇があるんなら、どうやったら追いつけるか... それにしても、気になっていたのだが、君の言葉遣いはとても... 「これはな、反乱だよ、反乱。オレは常日頃怒ってるんだよ、... ずいぶん過激な天使のような死神がいたものだ。しかし、そ... 走ってる。オフィスの中を、人の中を、縦横無尽に。エレベ... 「なあ、なんで日本に来ようと思ったんだ?」 ジェフが話しかけてきた。 日本なら楽に稼げると思ったからだよ。 「それで?どうなんだ、実際さ」 君のほうが、よく知ってるんじゃないのか?酷いもんだよ、... 「なあ、どっちがマシなんだ?オッサンならさ、中国でも努力... はは、そうかもしれないな。ただ、闇夜に飛ぶ虫が、自らの... 「家族の幸せねえ。で、あんたの幸せは?」 私? 「そうだよ」 私は、そうだな、しいて言えば、私の力で誰かが幸せになっ... 「オッサン、それマジで言ってんの?」 ああ、そうだよ。 「それならさ、いいこと教えてやろうか?」 どうしたんだ、いきなり。 「オッサンの家族はさ、幸せだぜ」 また、唐突だな。 こういうことはよくあるのかい? 「別に。それこそ神のみぞ知るってやつだよ。まあ、オレが担... それは、褒めていただいてるのかな? 「変態と比べられても、なんにもならねえよ。それよりも、オ... そのことなんだが、私が頑張ったら、その、物質に触れるの... 「はあ?何言ってんだよ、あんたは今地球の上に乗ってるんだ... そうか、良かった。 と、言い終わる前に、それは来た。凄まじいスピードとハン... 「おい、オッサン、マジかよ!」 ジェフが楽しそうな声で、落ち葉のようにひらひらと回りな... 「スゲーぜ、オッサン。スティーブン・セガールみてえだ!」 スティーブン?それは一体誰なんだ? 「はは、海の向こうのスーパースターさ!」 洗練されたボディに隙間はほとんど無かったが、風を感じな... 左折しようとする安全運転のタクシーに、ポルシェが近づく。 「あの曲がり角のところで、飛び降りろよ、さもないと見当違... わかったよ、ジェフ。 体勢を立て直し、曲がり角手前でアスファルトの上に降りて... 「おい、もうすぐ時間だぜ!」 振り向くと、ジェフが楽しそうに、私を見送っていた。 「良かったな、間に合ってよ。今度はもっと年取ってから会お... そうだな、その時は君に名前を聞いてもらおう。 「本当の名前だぜ?」 ……………。 谢谢、你的事一生不忘记。 「気にすんな、楽に行こうぜ」 ふと、閉じていた視界が開けると、遠くで救急車かパトカー... 「………だから、このイカレポンチが急に…………」 次に目を覚ましたときに見たのは、白い天井。肌触りのいい... しばらくして戻ってきた彼女の後ろに、優しそうな女性が、... 「覚えていらっしゃいませんか?」苦笑しながら「当然ですよ... 「あ、」思い出した。「あの時いた、無事だったんですね?」 「おかげさまで」 頭を下げる彼女に、体を起こそうとするがうまくいかない。 「まだ動かないでください。傷に響きます」 彼女が通り魔に襲われていたところを助けたのが、とても昔... 「ああ!私は、入院などしている場合ではないのですよ」 「?なにか急な用事でもあるのでしょうか」 「いや、そういうことでは。単に、その、資金面で」 「そんなことを」ときれいに笑った彼女が言った。「安心して... だからもう少し安静にしてください、私の手の上に彼女の手... 「遅れてしまいましたが、すみませんでした、あたしを助ける... 「何を言ってるんですか、あの通り魔が悪いんですよ、あなた... 「いえ、あたしの責任なんです」彼女は少し躊躇った後、意を... ストーカーストーカー……。特定の人物に付きまとう行為だっ... 「彼、この病院の元患者で、そのときあたしが彼の介抱を手伝... 痛恨の面持ちで語る彼女に「そうですか」ということしか言... 「その彼も、もう死んでしまったんですけど」 「え、」寝耳に水とはこのことだ。「何故?いつです?」 しばらく沈黙が続いて、悲しそうに彼女は続けた。 「あなたの乗っていたタクシーに、飛び込んで」 その事実に驚く間もなく、病室のドアが開いて、スーツ姿の... 「意識が戻ったと、うかがいまして」 老いているほうの男が、ありありと浮かぶ敵意を隠そうとも... 「私どもは、K署の、こういうものです」と懐から黒い手帳を出... 「待ってください」彼女が、私と老いた刑事との間に入る。「... 「いえ、今日は別件でして」と横目で私を睨みながら「この男... ついに来る時が来てしまったか。覚悟はしていた。警察があ... しかし、その事実を知らされても、彼女は怯まなかった。 「そんなこと関係ないじゃないですか。彼はあたしを助けてく... 彼女の剣幕に、老いた刑事は面食らって、若者のほうは、ほ... 「それじゃあ、後日、あらためて」 と老いた刑事だけがいそいそと病室を後にした。 「あなたは行かないんですか?」 怒ったままの彼女に、若者は笑みを浮かべながら答えた。 「いや、お伝えしようと思いまして」 疑問を浮かべている私たちに、彼は静かに言った。 「あの目撃者の少年も同じようなことを言っていた、と」 「目撃者というのは、その、どの目撃者なんでしょうか」 「あなたの乗っていたタクシーの無実を訴えた少年です」若者... サイレン、あの外車を追っていたパトカーのものだろうか。... 「事実、現場検証をしてはっきりしたんですが、轢かれた男は... 捕まると思ったのか、捕まろうと思ったのかは分かりません... カーテンがふわりと舞った。まるで、目に見えない何かが入... 「すごくしっかりした少年でしたよ、言葉遣いは荒かったです... と両手を上げてみせる彼に、彼女が優しく笑った。 もしかして、と私は身を乗り出していた。 「その目撃者の少年というのは、金髪に碧眼ではありませんで... なんで、そう思うのだろう? 「そうです、そうです」冗談だと受け取ったのか、彼は、私が... しばらく他愛もない話をした彼は、最後に、とその少年のセ... 『密入国とか業務上過失致死ってごちゃごちゃうるせえんだよ... まったく参っちゃいますよ、と実に楽しそうに苦笑して、彼... 「不思議ですね」その後姿を見送っていた彼女が呟いた。「入... 「そういうことになるのでしょうか」 あと少し発見が遅かったら死んでたかもしれないんですよ、... 「私も、そろそろ帰るとします」 「そんな、まだ動ける状態じゃ、それにお金のことなら」 「いえ、そういう意味ではないんです。警察に、密入国したこ... 寂しそうな顔をする彼女に、あの若い刑事のようにおどけて... 「そろそろ、家族と一緒に、祖国で暮らしていこうと、思って... そうだ、私にはやはりこの国の水はあっていないようだ。あ... ~ CENTER:''(了)'' ~ ~ *この作品を評価を評価する [#facc8b7b] #rating() #navi(活動/霧雨/vol.1.2) ページ名: