開始行: [[活動/霧雨]] **Q & Q [#gf694064] あゆかわつくる 列車は山からかわぞいのところに抜けてきて、風のかたちが... 終点までの列車はすいていて、鉄のふれあう音をさせながら... ぼくは、夏休みあけの九月のはじめに転校することになった... 駅にはあんがいすぐついた。というのも、ぼくがすっかりね... 「ごめんなさい。すっかりねむっちゃってて」 「きみはあの学校の生徒? みない顔だけれど」 「転校生なんです、」 車掌さんは、四角いかばんに納得して、ねむっちゃうほどゆ... 改札をでると先生が待っていると聞いていて、見ると、ひと... 「きみが転校生のつくるくんですね」 「はい、まちがいありません」「あの、学校はここからちかい... 先生はここからすぐそこの丘の上を指さして「あの塔の先が... 説明によると、駅も学校も街のはずれに建てられているよう... 道はざらざらしていて、砂ぼこりがたった。先生はすたすた... あたりはすっかり日曜日のひざし、香り、そして気分だった。 「はじめに校長先生にあいさつしなくちゃあ」 先生は少しおどろいたようだった。そして笑ってから、「わ... えっ、とこぼして、 「ごめんなさい、まさか校長先生がじぶんでお迎えにきてくれ... 「日曜でみんな暇ですから。それにそんなにたくさん先生がい... 建物はれんが造りで、あちこちにつたが生いしげっている。... 蔭が深くなって、ぼくのからだをななめに切りさく。 あたりは森になっていて、学校の中からも外側からも、お互... とたんに寒くなってきてぶるっと震えた。たぶん、初めての... 図書室は、三階のはしっこにあって、学校の入り口からいち... 図書室のガラス戸はくもりガラスで、なかの様子がすこしう... ノックしようかと思った、けれどみんながつかうところだし... 「あ、あの……ちふゆくんいますか、ぼく、先生に君にあいさつ... お昼まで灯りがついているはずなのに、図書室はとっても薄... ぱん、と奥の方で本を閉じる気配がしたので、そちらに向か... 両手をにぎってむねの前に置く。両側にせまってくる本の壁... 「ね、」 「ひゃい!」後ろからとつぜん声をかけられて、うらがえった... 「だれ?」ぶっきらぼうな言い方になる。持っていた帽子でく... 「ぼくがきみのお探しのちふゆだよ、君はがつくるくん?」 「先生から聞いてたの、」 「ぼくたち同室だからね、いっしょに暮らすんだから」 ちふゆくんは、はい、と手を突き出す。あ、握手かと手を差... 「……あったかいね」 「ずっと部屋のなかにいたし、ミネストローネ飲んでたから」... 水筒のふたをあけて、逆さまにしてコップがわりにした。と... ちふゆくんは紺の制服を着ていて、シャツのボタンはきっち... 「あんまり熱くないからずずっといって大丈夫だよ。ぼく猫舌... スープを飲みながらうなづく。確かにちょっとぬるい。 「だからあんまり熱いのがくると溶けちゃうんだ、きっと」 きみはまだお客さんみたいなもんだから、とぼくは梯子に座... ちふゆくんは、あったかな手でぼくのほっぺたに触る。 「どうしたの」 「やわらかそうだな、っておもって。見た目どおりだね」 「ぼく、ずっとこうだから、そんな風に思ったことはあんまり... ぼくの視界のはじからのびる二本のうで、皮膚のすこし外側... 「あっ……」 ちふゆくんはぽそっとつぶやいて両手をぼくにちかづけてく... 「どうしたの」 「かわいい顔が涙でよごれてる……」 指の圧がつよくて、ほっぺたの奥の血のながれが変わるのを... 「どうしてなんだろ、そこぬけみたいな気持ちなんだ……」 「理由なんてないさ、そんなもんだよ」「嫌になったら、死ん... ぼくたちは初めて目があった。ぼやけた目玉の色は、ようや... 「ちふゆくんの目、好きだな、」 「ほんと? じゃあ、いつかあげる」 ぼく、こんなにまっ白にはわらえないだろうな。 だれかを、かわいいとおもったことも、そう言われたのもは... お部屋に案内するよ、とちふゆくんはぼくを引っ張ってずん... 「たぶん先に荷物は運ばれてると思うんだ、かばんひとつだけ... 「やけに少ないね」 「服は制服があるから、たくさん要らないし、べつに、持って... あたりはだんだん暗くなっていって、森の木々は何倍も高く... 「いでっ」ぶつかった鼻をやさしくさする。 「大丈夫? ちゃんとまえ見て歩かないとだめだよ」 ろう下はちょっぴり寒い。いつの間にか、扉がいっぱい並ん... 「いい? あっちが給湯室で、あっちが電話のあるところね。... 「そんで、」渡り廊下にいちばん近い扉を指して「ここがぼく... 風が透きとおっていて、木々のてっぺんがくすぐったそうに... 棚をみると、もうぼくの荷物が運びこまれてあった。 「なに持ってきたの」 「本とか、クッションとか、そんなだよ」 「へぇ! 案外子どもっぽいところもあるんだね」 ちふゆくんは、ここ座りなよ、といすを引いてくれる。 「お湯はさ、給湯室があるから。お菓子とかはぬすんでくれば... 「ばれないの?」 「ばれてもちょっと叱られるだけさ、棒とかでぶたれるの。で... ちふゆくんは、机の引き出しの奥の方から、缶と紙を拾って... 宿題プリントのうらに、缶入りのクッキーが広げられる。パ... 「はやく食べないと湿気ちゃうし、ほら、遠慮せずに」 いい匂いがした。あまい匂いというのは、どうして甘いのか... 「おいしい?」 「うん、とっても……」 ぼくは、ちふゆくんのきれいな手とか、鼻すじとか、耳の中... 眠るときになって、ぼんやりしていたあたまが急にさえてき... かばんにいれていたせいか、お魚クッションには変な匂いが... お部屋のなかは、昼間とは全然ちがっていて、かすかな月の... 「つくるくん……?」 「あっ、ごめん、起こしちゃった?……」「眠れなくて……」 ちふゆくんは上で寝ていた。ぼくが二段ベッドの下の方が良... 「寝られないなら一緒にねよ、ぼくもずっと下を使ってたから... もぞもぞ入ってくる、ぼくも横にずれてスペースをつくった... 「あっち向いたままでいいよ」 ちふゆくんはそう言ってぼくの背中にぴったり張り付いた。... 「あったかくていいでしょ」 「ちょ、ちょっと、どこ触ってんのさあ!」 何かをさがすみたいに胸のあたりにあった手は、どんどん下... 「不安なときは、こうやってするのがいちばん良いんだ」 つめたい手が、ぼくの深いところをつかんで離さない。やさ... 二段ベッドの柱と、天井と、柵は、ずずっとのびていって、... くちの中はよだれだらけになって、どうしようもなくなった... そのままぐっすり寝ていたらしかった。起きると、ちふゆく... 結局お互いに言葉をかわすことはなくて、じっとだまってい... ゆったりしていた教室にぼくが一歩をいれたら、心地良い緊... 同室のひと同士は同じクラスには振り分けられない。 「な、君ってさ、あいつと同室なんだろ」 「あいつって?」 朝礼がおわってざわめきが戻った。みんなが少しずつ、この... 「ほら、ちふゆだよ……あの」 「なにか問題でもあるの、」 問題もだーい問題さ、彼は続ける。 「彼、同室の子を殺しちゃったらしいんだ……」 朝のひざしはやわらかくて、一日の期待にみちていた。ぼく... 「びっくりしないの」 「だってうわさだろ、ただの。ぼくをからかおうって……。おあ... 「ぼくは忠告のために言ってやってるんだぜ、もう胸くそ悪い... 手をにぎられた。あんまりやわらかくなくて、乾燥していた。 「嘘だとおもうなら、あいつの机からすずらんの花が入った瓶... 話しかけてくれた子は彼だけで、あとはみんなだんまりを決... 「どうだった、初日は」 ちふゆくんがくすねて来たお菓子をふたりで食べる。前歯で... 「さんざんだったよ、ちふゆくん。なんか警戒されてて」 「はじめはそんなもんさ、あいつら、外からくる子に慣れてな... 「あと、きみのうわさも聞いたよ、まえの同室の子がどうこう... 「ああ、すずらんがどうとか言われなかった?」 「あれってどういう意味なんだろ、」 「それこそうわさだよ、でもほんの最近、呪いに変わった」 ちふゆくんはふーっと息を吐いた。くるくるらせんを描く。 「この学校のなかの、誰かをすきになると、すずらんの花を吐... ちふゆくんは本棚のすきまから紙切れを出してきて、ぼくの... ぼくのからだを、きみにあげます きみがすきなようにできるように なるべくきれいな、死体にします 「ほんとうは警察とかが持ってたほうが良いんだろうけど……ぼ... そこからうわさが広がって、いま、君がそう忠告されたんだ」 いっしょに外を見た。強い風が吹いていて、木が左右に揺れ... ねむるとき、ぼくらはすすんで一緒に寝た。そっちのほうが... 「これがまえ言ってたお魚クッション。やわらかくていいでし... 「うへえ、においはちょっとくさいね、よだれの匂いがする」 「それがいいのにな……」 ぼくらはあたままで毛布をかぶって、ずっと話しをしていた... それでもいつかにはぼくは耐えきれなくなって眠ってしまう... ぼくたちの部屋から教室までは、ちふゆくんと歩く。他の子... この、ちふゆくんの不思議な雰囲気が、他のみんなにはとっ... さすがに、ぼくが教室に入っても、きのうのような緊張は生... 「どうしたの」 「良かった、みんな心配してたんだ。ごめんね、きのうはみん... ぼくはちょっといらいらして、「そんなひどいこと言う君た... そしたら小さく縮こまってしまって、ぽそっとごめんね……と... 窮屈な教室を抜けて、ちふゆくんと過ごす、とくに寝るまえ... じゃりじゃりして、ぎこちない動きは、どんどんなめらかに... ごろんと寝返りをうったときに、いたはずのちふゆくんがい... まだ部屋は深海でいっぱいになっていて、おもいあたまがぐ... 「ありゃ、起こしちゃった?」 「ええ?……なにしてるの」おおきくあくびをする。 「古い日記を読んでたのさ、なんだか目が冴えちゃって」 黄ばんでいて、はじっこの方はすり切れた日記帳を閉じると... 「ならぼくを毛布代わりにしたらいいよ……、」 「じゃあ、おことばに甘えて」 かげが動いて。毛布がめくられて冷たい空気が入る。布どう... そのままぼくたちは同じことを考えた。風が吹きぬける、小... けっきょく、一月たっても、あの抜きさしならない空気はそ... その日の朝も、いつもと同じように、ぼくたちは服を着るの... すると、廊下がさわがしくなって、ぼくが、ちょっと見てくる... 「どうしたの、」となりの部屋の子に聞く。 「上級生がひとりいなくなったんだって。うわさじゃ、殺され... その日の授業はなくなって、全員部屋にいるように、廊下を... 「まえもそうだったんだよ、みんな脱走したんじゃないかと思... 「うん……つまんないし、あと、最近すっごく眠いんだ。けっき... 「ぼくと一緒にすごすのは?……」 ちふゆくんは笑って、ぼくを引きよせる。ほこりが立って、... 「……ばかだなあ、きみは」 そのまま寝てしまったから、心臓に耳をあてて、心音を聞き... ぼくたちは海のなかでくらす、なにかどろどろとした生き物... 夜中に目を覚ましたとき、ちふゆくんがいなかったり、ぼく... 廊下は先生たちが目を光らせているはずで、けれど扉は少し... 「ああ……はい、そうですね」「えへへ」「はあ……」 くもった声がすりガラスの奥から聞こえる、扉を開けると、... 「……ちふゆくん、震えてる」 顔のほうを見ると、ちふゆくんはさらさら泣いていた。「え... 「かわいい顔が……涙で汚れちゃってるよ」 「おねがい、つくるくん、このままにして」 こんな弱々しいちふゆくんをみるのは初めてで、ぼくのこと... 腕をのばして、かなり限界に近かったから、血が薄くなって... 「どうしたの……」 「見回りの先生に見つかったらいけないから」 「ぼく、暗いのこわい」 「月明かりが入ってきてるよ、それにぼくもいるし」 けれど震えはおさまらず、どちらかというとひどくなってい... ちふゆくんのほっぺたをしっかりつかんで、ぼんやり開けら... 「不安なときは、こうやってするのがいちばん良いんだ、って... 「うん……」 「とりあえず、お部屋にもどろうよ。話しなら聞くし」 ちいさくうなずくのを確認してから、またこそこそと、周り... 「あれはね、母さんと話してたんだ」 ちふゆくんが話しはじめたのは、突然だった。いつもみたい... 「おかあさん」 「きみはさ、じぶんの母親と寝たことはある……? ぼくんちはさ、小さいときから父さんがいなかった。母さん... ぼくは黙っていた。時間は伸び縮みして、底が青くなった。 「ぼくさ、ぼくの父さんが十四歳のときの子供なんだって…… 母さんは、ぼくのおじいさんを見かけたときに、保存してお... ぼくの父さんは、あなたの子供よって見せられて、ぼくを抱... それで、母さんはもう一度おなじ十四のときに……。けれど二回... ひとりで寝ていたら、母さんが入ってきて、いま思いだしても... 最後にすべてがぬけていって、それ以来母さんと直接は会って... でも、いつまでもぼくを縛りつけるために、毎週、どんなひと... ちふゆくんはまたぽろぽろやっていて、ハンケチを取り出して... ひと晩中、ちふゆくんの背中をなでてあげる。 翌朝はきもちいいお天気だったけれど、ちふゆくんはいなく... おはよう、ねぼすけくん ぼくは用があって温室にいます。 場所は分かるよね?図書室のある建物の北側だよ。 来たかったら来ても良いけど、 くれぐれも先生たちに見つからないように! ちふゆ きのうあんなだったくせに、いつもの調子に戻ったみたいで... じっさいたくさん寝過ごしていたようで、机にのっていた朝... ちょっと急いで階段をおりただけで、すっかり息があがって... 温室は、とても暗いところにあった。土地がすいていて、だ... おそるおそる、なかに入る。 ぼくの背丈のなんばいもある植物がおいしげっていた、怖く... むわっとした湿気のなかを進む。みどりの中で、黄色とか赤... いちばん奥まで来たけれど、けっきょくちふゆくんは見つか... てれ屋のおぼこさんへ 用はぜんぶ済んだから、お部屋にかえります。 けっきょくきみは来なかったね、 入れ違いになっちゃったのかな? はやく帰っておいで…… ちふゆ なあんだ、無駄足だったみたい、と手紙をポッケにしまって... 先生たちは、いなくなった上級生のからだを探すように、目... 廊下をちらっとうかがったけれど、だれもいなくてひっそり... 部屋にからだをさっと入れる…… 「おかえり」 「ちふゆくん、ずいぶん探したん……」 ちふゆくんは、いっぱいに開いた窓のふちに座っていた、目隠... 「……どうしたの、それ」 ちょっと顔を傾けてから「もうなにもみたくないんだ」かた... 「温室にはさ、これ、取りにいってたの」 指さす先に、すずらんの鉢植えがある。大きくてぶ厚い葉っ... 「いなくなった上級生のやつ、犯人はぼくだよ」 「えっ」 ぼくは気がつくと吐いていた、だらだらだら、さらさらでぶ... 「ちふ……ゆ……くん」収まると、気持ちのわるさがずずっと目立... 「……すずらん」 「ぼくのこと……そんなに、えへへ、恥ずかしいね」 ずるい、ずるいよちふゆくん……。ぼくはぽろぽろ溢れようと... 「いいから落ち着いて聞いてね……」ちふゆくんは、潜水するま... まえに言ったよね、ぼくのおじいさんの話し。お医者さんをし... それはね、たましいを、他のひとのからだの中に植えつけるっ... おじいさんは、この儀式のやり方をノートにまとめて、母さん... 封筒には、紙切れがもう一枚、入ってた。「ちふゆが大きくな... 生活は、悪いことはなかった。ただ、同室の子、きみの前だよ... ある日、隠していたノートをすべて読まれてしまって、そした... ま、こんなどうでもいい話しで時間を使うのはよくないね。あ... ……さみしかったんだ。だれも話しかけてくれないし、毎晩、あ... あ、そうだ、上級生のやつだけど、あれは、このひみつの儀式... つくるくん……。 あまりに自然だった、りんごは食べるとあまい、風がふくと... ちふゆくんはそのまま後ろに消えていった。ぼくは投げ出さ... 「あ――」 こら、叫んじゃだめ。ぼくに従って、おばかさん。 ぼくのからだはぼくのものでなかった、口が手で押さえられ... いい子だね、つくるくん。さあ一階におりて外にでよう。 「で、でも」 しゃべらない、こころで思うように。はやく行かないと死ん... ふるえていた、ぼくのちいさなからだ。中身がふくれあがっ... 階段をくだりおわった。外に出る。ぼくは何を見ているんだ... さあ、ぼくとごたいめんだ。 「あ、あ、ち、ちふゆくん!」 いろいろなものがこぼれていく、走って向かっていった、ま... ちふゆくんは痛いとかなんとかいってる。ごめんね、先生を... 「えっ」ちふゆくんがつかんだ力はずっとつよくて、ぼくの服... だめだよ、しあげをしないと。 心はかんたんに砕け散ってころころどこまでも転がっていっ... ちふゆくんはうでを差し出してくる。 「なに……どうしたらいい、ぼく」 とどめを刺すんだ、さっきの話しを聞いていたでしょ、ぼく... 「あ、ああ……」 ちふゆくんのくびはすばらしい。やわらかくて、すいついて... ちふゆくんの腕のちからがとけていって、しずかに、ぜんぶ... …… 気を失ってしまっていたみたい……、目を覚ますと、円形の、... ここは医務室だね、つくるくん。 ちふゆくん…… ぼくがきみを置いてどっかにいくとか、ありえないだろ。 そうだね。 ほんとうにあの方法はうまくいったようで、ぼくは、ちふゆ... あのあと、ぼくはからだをきれいに洗われてここに寝かされ... ね、つくるくん、時計見てくれない、いま何時か知りたくて。 ん、お昼の一時だね。 ちょうどいいや、ほら、立って、部屋にいくよ。 え、え、でもだれか先生に言わないと 大丈夫、いまはみんなそれどころじゃないから ちふゆくんにそそのかされて、ぼくたちは部屋にむかう。て... ほら、棚のなかからかばん出して、お金とか、とうめん要り... 行くってどこに。 駅だよ。そこから海沿いの街までいく。こんなとこおさらば... どういうこと? たぶん、ぼくにぴったりはまるように、きみを導いて、この... ちふゆくんは、きょうのことをほんとうに楽しみにしていた... おひるまの時間だったので、列車はすいていた。個室に座る。 見つからなくて良かった。 そりゃそうだよ、みんなのお昼のスープに、ぼくがすずらん... あと、きみの朝食にも入れておいたんだぜ、急いでるからっ... ぼくは声をあげてわらった、ちふゆくんもいっしょになって... 「思いだし笑いですか、」 車掌さんがきっぷを見に入ってきた。 「あ、ごめんなさい、おおきな声をだして」 きっぷを渡す。 「こんなに遠いところまで……親戚のかたにでも会いに行かれる... 「はい、そんなところです」 「ひとりで話し相手がいなくては、退屈でしょう」 「おきづかいありがとうございます、でも大丈夫、間にあって... 車掌さんはそのまま出て行ったが、ちふゆくんが笑っている... あ、そうだ。かばんのなかからびんをだしてごらん……ささや... 確かににもつのなかにかたいものが入っていて、取り出すと…… びっくりした? ぼくの目だよ。きみがほめてくれたから、... ごめん、なんかちふゆくんのこと考えてたら…… ぼくはてのひらで足のあいだをつんつん叩いた。 ええぇ、仕方ないね、どこかトイレを探さないと、 ここでしちゃう……? きみがそんなこと言うとはね、 するするしのばせていった手のさきに、あたたかく充血した... 終了行: [[活動/霧雨]] **Q & Q [#gf694064] あゆかわつくる 列車は山からかわぞいのところに抜けてきて、風のかたちが... 終点までの列車はすいていて、鉄のふれあう音をさせながら... ぼくは、夏休みあけの九月のはじめに転校することになった... 駅にはあんがいすぐついた。というのも、ぼくがすっかりね... 「ごめんなさい。すっかりねむっちゃってて」 「きみはあの学校の生徒? みない顔だけれど」 「転校生なんです、」 車掌さんは、四角いかばんに納得して、ねむっちゃうほどゆ... 改札をでると先生が待っていると聞いていて、見ると、ひと... 「きみが転校生のつくるくんですね」 「はい、まちがいありません」「あの、学校はここからちかい... 先生はここからすぐそこの丘の上を指さして「あの塔の先が... 説明によると、駅も学校も街のはずれに建てられているよう... 道はざらざらしていて、砂ぼこりがたった。先生はすたすた... あたりはすっかり日曜日のひざし、香り、そして気分だった。 「はじめに校長先生にあいさつしなくちゃあ」 先生は少しおどろいたようだった。そして笑ってから、「わ... えっ、とこぼして、 「ごめんなさい、まさか校長先生がじぶんでお迎えにきてくれ... 「日曜でみんな暇ですから。それにそんなにたくさん先生がい... 建物はれんが造りで、あちこちにつたが生いしげっている。... 蔭が深くなって、ぼくのからだをななめに切りさく。 あたりは森になっていて、学校の中からも外側からも、お互... とたんに寒くなってきてぶるっと震えた。たぶん、初めての... 図書室は、三階のはしっこにあって、学校の入り口からいち... 図書室のガラス戸はくもりガラスで、なかの様子がすこしう... ノックしようかと思った、けれどみんながつかうところだし... 「あ、あの……ちふゆくんいますか、ぼく、先生に君にあいさつ... お昼まで灯りがついているはずなのに、図書室はとっても薄... ぱん、と奥の方で本を閉じる気配がしたので、そちらに向か... 両手をにぎってむねの前に置く。両側にせまってくる本の壁... 「ね、」 「ひゃい!」後ろからとつぜん声をかけられて、うらがえった... 「だれ?」ぶっきらぼうな言い方になる。持っていた帽子でく... 「ぼくがきみのお探しのちふゆだよ、君はがつくるくん?」 「先生から聞いてたの、」 「ぼくたち同室だからね、いっしょに暮らすんだから」 ちふゆくんは、はい、と手を突き出す。あ、握手かと手を差... 「……あったかいね」 「ずっと部屋のなかにいたし、ミネストローネ飲んでたから」... 水筒のふたをあけて、逆さまにしてコップがわりにした。と... ちふゆくんは紺の制服を着ていて、シャツのボタンはきっち... 「あんまり熱くないからずずっといって大丈夫だよ。ぼく猫舌... スープを飲みながらうなづく。確かにちょっとぬるい。 「だからあんまり熱いのがくると溶けちゃうんだ、きっと」 きみはまだお客さんみたいなもんだから、とぼくは梯子に座... ちふゆくんは、あったかな手でぼくのほっぺたに触る。 「どうしたの」 「やわらかそうだな、っておもって。見た目どおりだね」 「ぼく、ずっとこうだから、そんな風に思ったことはあんまり... ぼくの視界のはじからのびる二本のうで、皮膚のすこし外側... 「あっ……」 ちふゆくんはぽそっとつぶやいて両手をぼくにちかづけてく... 「どうしたの」 「かわいい顔が涙でよごれてる……」 指の圧がつよくて、ほっぺたの奥の血のながれが変わるのを... 「どうしてなんだろ、そこぬけみたいな気持ちなんだ……」 「理由なんてないさ、そんなもんだよ」「嫌になったら、死ん... ぼくたちは初めて目があった。ぼやけた目玉の色は、ようや... 「ちふゆくんの目、好きだな、」 「ほんと? じゃあ、いつかあげる」 ぼく、こんなにまっ白にはわらえないだろうな。 だれかを、かわいいとおもったことも、そう言われたのもは... お部屋に案内するよ、とちふゆくんはぼくを引っ張ってずん... 「たぶん先に荷物は運ばれてると思うんだ、かばんひとつだけ... 「やけに少ないね」 「服は制服があるから、たくさん要らないし、べつに、持って... あたりはだんだん暗くなっていって、森の木々は何倍も高く... 「いでっ」ぶつかった鼻をやさしくさする。 「大丈夫? ちゃんとまえ見て歩かないとだめだよ」 ろう下はちょっぴり寒い。いつの間にか、扉がいっぱい並ん... 「いい? あっちが給湯室で、あっちが電話のあるところね。... 「そんで、」渡り廊下にいちばん近い扉を指して「ここがぼく... 風が透きとおっていて、木々のてっぺんがくすぐったそうに... 棚をみると、もうぼくの荷物が運びこまれてあった。 「なに持ってきたの」 「本とか、クッションとか、そんなだよ」 「へぇ! 案外子どもっぽいところもあるんだね」 ちふゆくんは、ここ座りなよ、といすを引いてくれる。 「お湯はさ、給湯室があるから。お菓子とかはぬすんでくれば... 「ばれないの?」 「ばれてもちょっと叱られるだけさ、棒とかでぶたれるの。で... ちふゆくんは、机の引き出しの奥の方から、缶と紙を拾って... 宿題プリントのうらに、缶入りのクッキーが広げられる。パ... 「はやく食べないと湿気ちゃうし、ほら、遠慮せずに」 いい匂いがした。あまい匂いというのは、どうして甘いのか... 「おいしい?」 「うん、とっても……」 ぼくは、ちふゆくんのきれいな手とか、鼻すじとか、耳の中... 眠るときになって、ぼんやりしていたあたまが急にさえてき... かばんにいれていたせいか、お魚クッションには変な匂いが... お部屋のなかは、昼間とは全然ちがっていて、かすかな月の... 「つくるくん……?」 「あっ、ごめん、起こしちゃった?……」「眠れなくて……」 ちふゆくんは上で寝ていた。ぼくが二段ベッドの下の方が良... 「寝られないなら一緒にねよ、ぼくもずっと下を使ってたから... もぞもぞ入ってくる、ぼくも横にずれてスペースをつくった... 「あっち向いたままでいいよ」 ちふゆくんはそう言ってぼくの背中にぴったり張り付いた。... 「あったかくていいでしょ」 「ちょ、ちょっと、どこ触ってんのさあ!」 何かをさがすみたいに胸のあたりにあった手は、どんどん下... 「不安なときは、こうやってするのがいちばん良いんだ」 つめたい手が、ぼくの深いところをつかんで離さない。やさ... 二段ベッドの柱と、天井と、柵は、ずずっとのびていって、... くちの中はよだれだらけになって、どうしようもなくなった... そのままぐっすり寝ていたらしかった。起きると、ちふゆく... 結局お互いに言葉をかわすことはなくて、じっとだまってい... ゆったりしていた教室にぼくが一歩をいれたら、心地良い緊... 同室のひと同士は同じクラスには振り分けられない。 「な、君ってさ、あいつと同室なんだろ」 「あいつって?」 朝礼がおわってざわめきが戻った。みんなが少しずつ、この... 「ほら、ちふゆだよ……あの」 「なにか問題でもあるの、」 問題もだーい問題さ、彼は続ける。 「彼、同室の子を殺しちゃったらしいんだ……」 朝のひざしはやわらかくて、一日の期待にみちていた。ぼく... 「びっくりしないの」 「だってうわさだろ、ただの。ぼくをからかおうって……。おあ... 「ぼくは忠告のために言ってやってるんだぜ、もう胸くそ悪い... 手をにぎられた。あんまりやわらかくなくて、乾燥していた。 「嘘だとおもうなら、あいつの机からすずらんの花が入った瓶... 話しかけてくれた子は彼だけで、あとはみんなだんまりを決... 「どうだった、初日は」 ちふゆくんがくすねて来たお菓子をふたりで食べる。前歯で... 「さんざんだったよ、ちふゆくん。なんか警戒されてて」 「はじめはそんなもんさ、あいつら、外からくる子に慣れてな... 「あと、きみのうわさも聞いたよ、まえの同室の子がどうこう... 「ああ、すずらんがどうとか言われなかった?」 「あれってどういう意味なんだろ、」 「それこそうわさだよ、でもほんの最近、呪いに変わった」 ちふゆくんはふーっと息を吐いた。くるくるらせんを描く。 「この学校のなかの、誰かをすきになると、すずらんの花を吐... ちふゆくんは本棚のすきまから紙切れを出してきて、ぼくの... ぼくのからだを、きみにあげます きみがすきなようにできるように なるべくきれいな、死体にします 「ほんとうは警察とかが持ってたほうが良いんだろうけど……ぼ... そこからうわさが広がって、いま、君がそう忠告されたんだ」 いっしょに外を見た。強い風が吹いていて、木が左右に揺れ... ねむるとき、ぼくらはすすんで一緒に寝た。そっちのほうが... 「これがまえ言ってたお魚クッション。やわらかくていいでし... 「うへえ、においはちょっとくさいね、よだれの匂いがする」 「それがいいのにな……」 ぼくらはあたままで毛布をかぶって、ずっと話しをしていた... それでもいつかにはぼくは耐えきれなくなって眠ってしまう... ぼくたちの部屋から教室までは、ちふゆくんと歩く。他の子... この、ちふゆくんの不思議な雰囲気が、他のみんなにはとっ... さすがに、ぼくが教室に入っても、きのうのような緊張は生... 「どうしたの」 「良かった、みんな心配してたんだ。ごめんね、きのうはみん... ぼくはちょっといらいらして、「そんなひどいこと言う君た... そしたら小さく縮こまってしまって、ぽそっとごめんね……と... 窮屈な教室を抜けて、ちふゆくんと過ごす、とくに寝るまえ... じゃりじゃりして、ぎこちない動きは、どんどんなめらかに... ごろんと寝返りをうったときに、いたはずのちふゆくんがい... まだ部屋は深海でいっぱいになっていて、おもいあたまがぐ... 「ありゃ、起こしちゃった?」 「ええ?……なにしてるの」おおきくあくびをする。 「古い日記を読んでたのさ、なんだか目が冴えちゃって」 黄ばんでいて、はじっこの方はすり切れた日記帳を閉じると... 「ならぼくを毛布代わりにしたらいいよ……、」 「じゃあ、おことばに甘えて」 かげが動いて。毛布がめくられて冷たい空気が入る。布どう... そのままぼくたちは同じことを考えた。風が吹きぬける、小... けっきょく、一月たっても、あの抜きさしならない空気はそ... その日の朝も、いつもと同じように、ぼくたちは服を着るの... すると、廊下がさわがしくなって、ぼくが、ちょっと見てくる... 「どうしたの、」となりの部屋の子に聞く。 「上級生がひとりいなくなったんだって。うわさじゃ、殺され... その日の授業はなくなって、全員部屋にいるように、廊下を... 「まえもそうだったんだよ、みんな脱走したんじゃないかと思... 「うん……つまんないし、あと、最近すっごく眠いんだ。けっき... 「ぼくと一緒にすごすのは?……」 ちふゆくんは笑って、ぼくを引きよせる。ほこりが立って、... 「……ばかだなあ、きみは」 そのまま寝てしまったから、心臓に耳をあてて、心音を聞き... ぼくたちは海のなかでくらす、なにかどろどろとした生き物... 夜中に目を覚ましたとき、ちふゆくんがいなかったり、ぼく... 廊下は先生たちが目を光らせているはずで、けれど扉は少し... 「ああ……はい、そうですね」「えへへ」「はあ……」 くもった声がすりガラスの奥から聞こえる、扉を開けると、... 「……ちふゆくん、震えてる」 顔のほうを見ると、ちふゆくんはさらさら泣いていた。「え... 「かわいい顔が……涙で汚れちゃってるよ」 「おねがい、つくるくん、このままにして」 こんな弱々しいちふゆくんをみるのは初めてで、ぼくのこと... 腕をのばして、かなり限界に近かったから、血が薄くなって... 「どうしたの……」 「見回りの先生に見つかったらいけないから」 「ぼく、暗いのこわい」 「月明かりが入ってきてるよ、それにぼくもいるし」 けれど震えはおさまらず、どちらかというとひどくなってい... ちふゆくんのほっぺたをしっかりつかんで、ぼんやり開けら... 「不安なときは、こうやってするのがいちばん良いんだ、って... 「うん……」 「とりあえず、お部屋にもどろうよ。話しなら聞くし」 ちいさくうなずくのを確認してから、またこそこそと、周り... 「あれはね、母さんと話してたんだ」 ちふゆくんが話しはじめたのは、突然だった。いつもみたい... 「おかあさん」 「きみはさ、じぶんの母親と寝たことはある……? ぼくんちはさ、小さいときから父さんがいなかった。母さん... ぼくは黙っていた。時間は伸び縮みして、底が青くなった。 「ぼくさ、ぼくの父さんが十四歳のときの子供なんだって…… 母さんは、ぼくのおじいさんを見かけたときに、保存してお... ぼくの父さんは、あなたの子供よって見せられて、ぼくを抱... それで、母さんはもう一度おなじ十四のときに……。けれど二回... ひとりで寝ていたら、母さんが入ってきて、いま思いだしても... 最後にすべてがぬけていって、それ以来母さんと直接は会って... でも、いつまでもぼくを縛りつけるために、毎週、どんなひと... ちふゆくんはまたぽろぽろやっていて、ハンケチを取り出して... ひと晩中、ちふゆくんの背中をなでてあげる。 翌朝はきもちいいお天気だったけれど、ちふゆくんはいなく... おはよう、ねぼすけくん ぼくは用があって温室にいます。 場所は分かるよね?図書室のある建物の北側だよ。 来たかったら来ても良いけど、 くれぐれも先生たちに見つからないように! ちふゆ きのうあんなだったくせに、いつもの調子に戻ったみたいで... じっさいたくさん寝過ごしていたようで、机にのっていた朝... ちょっと急いで階段をおりただけで、すっかり息があがって... 温室は、とても暗いところにあった。土地がすいていて、だ... おそるおそる、なかに入る。 ぼくの背丈のなんばいもある植物がおいしげっていた、怖く... むわっとした湿気のなかを進む。みどりの中で、黄色とか赤... いちばん奥まで来たけれど、けっきょくちふゆくんは見つか... てれ屋のおぼこさんへ 用はぜんぶ済んだから、お部屋にかえります。 けっきょくきみは来なかったね、 入れ違いになっちゃったのかな? はやく帰っておいで…… ちふゆ なあんだ、無駄足だったみたい、と手紙をポッケにしまって... 先生たちは、いなくなった上級生のからだを探すように、目... 廊下をちらっとうかがったけれど、だれもいなくてひっそり... 部屋にからだをさっと入れる…… 「おかえり」 「ちふゆくん、ずいぶん探したん……」 ちふゆくんは、いっぱいに開いた窓のふちに座っていた、目隠... 「……どうしたの、それ」 ちょっと顔を傾けてから「もうなにもみたくないんだ」かた... 「温室にはさ、これ、取りにいってたの」 指さす先に、すずらんの鉢植えがある。大きくてぶ厚い葉っ... 「いなくなった上級生のやつ、犯人はぼくだよ」 「えっ」 ぼくは気がつくと吐いていた、だらだらだら、さらさらでぶ... 「ちふ……ゆ……くん」収まると、気持ちのわるさがずずっと目立... 「……すずらん」 「ぼくのこと……そんなに、えへへ、恥ずかしいね」 ずるい、ずるいよちふゆくん……。ぼくはぽろぽろ溢れようと... 「いいから落ち着いて聞いてね……」ちふゆくんは、潜水するま... まえに言ったよね、ぼくのおじいさんの話し。お医者さんをし... それはね、たましいを、他のひとのからだの中に植えつけるっ... おじいさんは、この儀式のやり方をノートにまとめて、母さん... 封筒には、紙切れがもう一枚、入ってた。「ちふゆが大きくな... 生活は、悪いことはなかった。ただ、同室の子、きみの前だよ... ある日、隠していたノートをすべて読まれてしまって、そした... ま、こんなどうでもいい話しで時間を使うのはよくないね。あ... ……さみしかったんだ。だれも話しかけてくれないし、毎晩、あ... あ、そうだ、上級生のやつだけど、あれは、このひみつの儀式... つくるくん……。 あまりに自然だった、りんごは食べるとあまい、風がふくと... ちふゆくんはそのまま後ろに消えていった。ぼくは投げ出さ... 「あ――」 こら、叫んじゃだめ。ぼくに従って、おばかさん。 ぼくのからだはぼくのものでなかった、口が手で押さえられ... いい子だね、つくるくん。さあ一階におりて外にでよう。 「で、でも」 しゃべらない、こころで思うように。はやく行かないと死ん... ふるえていた、ぼくのちいさなからだ。中身がふくれあがっ... 階段をくだりおわった。外に出る。ぼくは何を見ているんだ... さあ、ぼくとごたいめんだ。 「あ、あ、ち、ちふゆくん!」 いろいろなものがこぼれていく、走って向かっていった、ま... ちふゆくんは痛いとかなんとかいってる。ごめんね、先生を... 「えっ」ちふゆくんがつかんだ力はずっとつよくて、ぼくの服... だめだよ、しあげをしないと。 心はかんたんに砕け散ってころころどこまでも転がっていっ... ちふゆくんはうでを差し出してくる。 「なに……どうしたらいい、ぼく」 とどめを刺すんだ、さっきの話しを聞いていたでしょ、ぼく... 「あ、ああ……」 ちふゆくんのくびはすばらしい。やわらかくて、すいついて... ちふゆくんの腕のちからがとけていって、しずかに、ぜんぶ... …… 気を失ってしまっていたみたい……、目を覚ますと、円形の、... ここは医務室だね、つくるくん。 ちふゆくん…… ぼくがきみを置いてどっかにいくとか、ありえないだろ。 そうだね。 ほんとうにあの方法はうまくいったようで、ぼくは、ちふゆ... あのあと、ぼくはからだをきれいに洗われてここに寝かされ... ね、つくるくん、時計見てくれない、いま何時か知りたくて。 ん、お昼の一時だね。 ちょうどいいや、ほら、立って、部屋にいくよ。 え、え、でもだれか先生に言わないと 大丈夫、いまはみんなそれどころじゃないから ちふゆくんにそそのかされて、ぼくたちは部屋にむかう。て... ほら、棚のなかからかばん出して、お金とか、とうめん要り... 行くってどこに。 駅だよ。そこから海沿いの街までいく。こんなとこおさらば... どういうこと? たぶん、ぼくにぴったりはまるように、きみを導いて、この... ちふゆくんは、きょうのことをほんとうに楽しみにしていた... おひるまの時間だったので、列車はすいていた。個室に座る。 見つからなくて良かった。 そりゃそうだよ、みんなのお昼のスープに、ぼくがすずらん... あと、きみの朝食にも入れておいたんだぜ、急いでるからっ... ぼくは声をあげてわらった、ちふゆくんもいっしょになって... 「思いだし笑いですか、」 車掌さんがきっぷを見に入ってきた。 「あ、ごめんなさい、おおきな声をだして」 きっぷを渡す。 「こんなに遠いところまで……親戚のかたにでも会いに行かれる... 「はい、そんなところです」 「ひとりで話し相手がいなくては、退屈でしょう」 「おきづかいありがとうございます、でも大丈夫、間にあって... 車掌さんはそのまま出て行ったが、ちふゆくんが笑っている... あ、そうだ。かばんのなかからびんをだしてごらん……ささや... 確かににもつのなかにかたいものが入っていて、取り出すと…… びっくりした? ぼくの目だよ。きみがほめてくれたから、... ごめん、なんかちふゆくんのこと考えてたら…… ぼくはてのひらで足のあいだをつんつん叩いた。 ええぇ、仕方ないね、どこかトイレを探さないと、 ここでしちゃう……? きみがそんなこと言うとはね、 するするしのばせていった手のさきに、あたたかく充血した... ページ名: