開始行: [[活動/霧雨]] **毛糸猫 [#b1ee055e] f 速報で入った天気予報が二十年ぶりに毛糸猫の来訪を伝えて... 実のところ、最近恋人と別れたばかりでなんだかむしゃくし... 毛糸猫が災害の前触れだということは、まだ本物のそれを見... この世界にはときどき、どこからともなく毛糸を咥えた猫が... 毛糸猫はおかしな生き物だ。そもそも生き物と呼ぶのが適切... 毛糸猫が猫であるというのは、当たり前のようでいて、実は... 毛糸猫は滅多に姿を見せない。見られるのは十年に一度とい... それくらいの間隔で、毛糸猫は、ある日突然現れるものだっ... 急ごしらえの天気図から、スタジオの様子に画面が切り替わ... 「動揺してますね」 別のコメンテーターに揶揄うように指摘され、彼は苦笑いし... 「二十年経っても慣れないみたいですね」 ボトルをコメンテーターに手渡しながら、彼より随分と若い... 次はスポーツのニュースです、と気を取り直したアナウンサ... 災害をどう理解すべきかという問題に、決定的な解があるわ... 世界の理には第Ⅰ相と第Ⅱ相があって、不変である第Ⅰ相の理の... 今の世界の理はこういう風に表現されている。 『何かを手に入れたいと思ったら、手に入ってから掴み取らな... いまいち要領を得ない表現だとは思うけど、記述のルールや... 要するに、何かを手に取ろうとするときに自分から手を伸ば... 理が適用されるようなものに触れたいときに、じゃあどうす... さっきのコメンテーターは、水を飲もうとボトルに手を伸ば... 災害ごとに時代が切り替わり、これまでに災害を何回経験し... 災害を経験したことがあるかどうか、特に前の時代の記憶が... そういえば、別れたばかりの元恋人は私より三つ年上だった... 窓の外から、みゃあと猫が鳴く音がした。どきりとしながら... 正直に言うと自覚があった。私は今の時代に向いている。逆... 毛糸猫は、咥えている毛糸を切られるときれいさっぱり消え... 不要なものは手に入らないというならば、なんで恋人なんて... 大学に入学して、友達に勧誘されて入った、ボランティアサ... 馬鹿みたいだ。今になって言えるのは、とにかく全部、最初... 付き合い始めて一年ほど経ったころ、何かの拍子で喧嘩をし... 不意に面倒になって、私が全部悪かったからもういいでしょ... 別れようかと私から言おうかとも思ったけれど、なんと部屋... その日から、私はずっとむしゃくしゃしている。むしゃくし... 必要なものしか手に入らないはずだって、世界はそういうも... * インターネット越しだったり、友達の友達の話だったり、日... 恋人と別れた、とそもそも私をサークルに誘った張本人であ... 私も友人も物心つくころには、この世界は今の世界になって... 私たちの時代のカリキュラムは、取りたいものに手を伸ばす... そんなカリキュラムの一環でも、一度だけやけに印象的だっ... 「これから先生はあなたたちにそのキャップを取るように言い... キャップを配り終えて教壇に落ち着いた先生は、私たちにそ... ふいに先生の視線が少しだけ動いた。先生はわざとらしく口... 「それ、とって」 その瞬間の記憶は私もあまりはっきりしていない。ただ、先... 「キャップを取れなくたって大丈夫ですよ、落ち着いて」 遠くのほうから先生の声がしていた。 「びっくりさせてごめんなさい。さっきの音は、先生がスピー... まだ浮足立った様子の私たちを安心させるように、先生は落... 「いいですか。人間はもともと、何かを手に取りたいと思った... 先生がぐるりと私たちの顔を見回す。教室はやっとのことで... 「いつか必ず、今のようではない世界になる日が来ます。当た... そのときの私は話の意味を完全に理解したわけではなかった... 「何年先になるかは先生にもわかりません。ですがその日にな... 恋人と別れた話の続きで、その授業の話を友人にした。お互... いい先生だったんだね、と友人に言われて、私ははて、と首... 今のあんたは大丈夫じゃなさそうだけど。聞こえても聞こえ... * それから幾日も経たないうちに、私はようやく毛糸猫と出会... 猫が増え、毛糸が辺りを覆うにつれて、理にも異常が出始め... 猫は一日ごとにすごい速度で増えた。大学もしばらく臨時の... このころ、私は安全確保のために部屋の整理をした。重たい... 途中、小さい手鏡を見つけた。確か貰い物だったはずだ。い... 交際を開始してから初めてデートに出かけた日、彼はささや... 結局、その手鏡は自立しないから不便だという理由で普段使... 薄情な、と私は自分に対して思った。きらきらした手鏡を眺... 処分してしまおうと思ったが、しばらく待っても手鏡は私の... 私はそこで諦めた。考えるのをやめて手鏡をその場に捨て置... ところで、彼と出会ったボランティアサークルに私はまだ出... 大学が閉鎖されてサークル棟も使えなくなったけれど、誰か... やることは単純。要請があった人の家まで行って、出入り口... 毛糸を切ると、笑ってしまうほどあっさり猫は消えた。何故... いざやってみると私は毛糸を切るのが下手だった。先端を猫... それでも私は招集があるたびにこのプロジェクトに参加した... 毎回しつこくカッターを構え続ける私に、友人があるときハ... 私の隣にしゃがみこんで、友人は鮮やかな手捌きで毛糸をぷ... きょとんとした私の前で、眉間にぐぐっと皺をよせて友人は... 「そうやって、賢いふりして、諦めるのが一番みたいな顔をし... 咄嗟に私は、わかったようなよくわからないような顔を作っ... 一旦手放したカッターをもう一度拾い上げるために四苦八苦... 素直に作業に戻る気にもなれなくて私は手の中にあるハサミ... * 翌朝、目が覚めると毛糸猫はもうどこにもいなかった。慌て... 時代は変わったらしい。一夜にして、すっかり変わってしま... スマートフォンに着信があって、みればサークルからだった... 『ハンプティは元に戻った。王様の馬も家来もいなくとも』 やっぱり意味ははっきりしない。割れた卵が元に戻るとでも... まあ、いいや。強がっているのが我ながら良くわかったけれ... 諦めついでに私は部屋をもう一度整理しなおすことにした。... 引き摺られるようにして、私は貰った手鏡のことを忘れよう... 焦燥感にも飽きてきたころ、私はようやく手鏡を見つけた。... 私の手には手鏡があった。女の子への贈り物として相応しい... 私は手を離した。掴むときと違って、躊躇いもしなかった。... 硝子の破片を踏まないように、玄関まで箒を探しに行った。... 箒を掴んで部屋の奥に引き返す。ドアを閉める前の一瞬、玄... 「どうしよう」 困惑は声に出た。誰もいないのに、誰に聞かせるわけでもな... 私は片手に手鏡を握りしめたまま、スマートフォンを手に取... 「猫、いなくなったね」 「そうだね」 「ニュース、見た?」 「見たよ」 「何が起きるか知ってる?」 「少しはね」 「ねえ」 「なに」 「どうしよう」 「なにが?」 「私、どうしたらいい」 脈絡がなくて要領を得ない私の質問を、彼女は笑わなかった。 「私もまだどうしていいかわからないんだよね」 突き放すようでいて、同調するようでいて、それにしては優... 人心地ついた私に向かって友人は、ちょっと安心したよ、な... 失恋の話とか聞き足りないかも、なんて揶揄われたから、趣... 終了行: [[活動/霧雨]] **毛糸猫 [#b1ee055e] f 速報で入った天気予報が二十年ぶりに毛糸猫の来訪を伝えて... 実のところ、最近恋人と別れたばかりでなんだかむしゃくし... 毛糸猫が災害の前触れだということは、まだ本物のそれを見... この世界にはときどき、どこからともなく毛糸を咥えた猫が... 毛糸猫はおかしな生き物だ。そもそも生き物と呼ぶのが適切... 毛糸猫が猫であるというのは、当たり前のようでいて、実は... 毛糸猫は滅多に姿を見せない。見られるのは十年に一度とい... それくらいの間隔で、毛糸猫は、ある日突然現れるものだっ... 急ごしらえの天気図から、スタジオの様子に画面が切り替わ... 「動揺してますね」 別のコメンテーターに揶揄うように指摘され、彼は苦笑いし... 「二十年経っても慣れないみたいですね」 ボトルをコメンテーターに手渡しながら、彼より随分と若い... 次はスポーツのニュースです、と気を取り直したアナウンサ... 災害をどう理解すべきかという問題に、決定的な解があるわ... 世界の理には第Ⅰ相と第Ⅱ相があって、不変である第Ⅰ相の理の... 今の世界の理はこういう風に表現されている。 『何かを手に入れたいと思ったら、手に入ってから掴み取らな... いまいち要領を得ない表現だとは思うけど、記述のルールや... 要するに、何かを手に取ろうとするときに自分から手を伸ば... 理が適用されるようなものに触れたいときに、じゃあどうす... さっきのコメンテーターは、水を飲もうとボトルに手を伸ば... 災害ごとに時代が切り替わり、これまでに災害を何回経験し... 災害を経験したことがあるかどうか、特に前の時代の記憶が... そういえば、別れたばかりの元恋人は私より三つ年上だった... 窓の外から、みゃあと猫が鳴く音がした。どきりとしながら... 正直に言うと自覚があった。私は今の時代に向いている。逆... 毛糸猫は、咥えている毛糸を切られるときれいさっぱり消え... 不要なものは手に入らないというならば、なんで恋人なんて... 大学に入学して、友達に勧誘されて入った、ボランティアサ... 馬鹿みたいだ。今になって言えるのは、とにかく全部、最初... 付き合い始めて一年ほど経ったころ、何かの拍子で喧嘩をし... 不意に面倒になって、私が全部悪かったからもういいでしょ... 別れようかと私から言おうかとも思ったけれど、なんと部屋... その日から、私はずっとむしゃくしゃしている。むしゃくし... 必要なものしか手に入らないはずだって、世界はそういうも... * インターネット越しだったり、友達の友達の話だったり、日... 恋人と別れた、とそもそも私をサークルに誘った張本人であ... 私も友人も物心つくころには、この世界は今の世界になって... 私たちの時代のカリキュラムは、取りたいものに手を伸ばす... そんなカリキュラムの一環でも、一度だけやけに印象的だっ... 「これから先生はあなたたちにそのキャップを取るように言い... キャップを配り終えて教壇に落ち着いた先生は、私たちにそ... ふいに先生の視線が少しだけ動いた。先生はわざとらしく口... 「それ、とって」 その瞬間の記憶は私もあまりはっきりしていない。ただ、先... 「キャップを取れなくたって大丈夫ですよ、落ち着いて」 遠くのほうから先生の声がしていた。 「びっくりさせてごめんなさい。さっきの音は、先生がスピー... まだ浮足立った様子の私たちを安心させるように、先生は落... 「いいですか。人間はもともと、何かを手に取りたいと思った... 先生がぐるりと私たちの顔を見回す。教室はやっとのことで... 「いつか必ず、今のようではない世界になる日が来ます。当た... そのときの私は話の意味を完全に理解したわけではなかった... 「何年先になるかは先生にもわかりません。ですがその日にな... 恋人と別れた話の続きで、その授業の話を友人にした。お互... いい先生だったんだね、と友人に言われて、私ははて、と首... 今のあんたは大丈夫じゃなさそうだけど。聞こえても聞こえ... * それから幾日も経たないうちに、私はようやく毛糸猫と出会... 猫が増え、毛糸が辺りを覆うにつれて、理にも異常が出始め... 猫は一日ごとにすごい速度で増えた。大学もしばらく臨時の... このころ、私は安全確保のために部屋の整理をした。重たい... 途中、小さい手鏡を見つけた。確か貰い物だったはずだ。い... 交際を開始してから初めてデートに出かけた日、彼はささや... 結局、その手鏡は自立しないから不便だという理由で普段使... 薄情な、と私は自分に対して思った。きらきらした手鏡を眺... 処分してしまおうと思ったが、しばらく待っても手鏡は私の... 私はそこで諦めた。考えるのをやめて手鏡をその場に捨て置... ところで、彼と出会ったボランティアサークルに私はまだ出... 大学が閉鎖されてサークル棟も使えなくなったけれど、誰か... やることは単純。要請があった人の家まで行って、出入り口... 毛糸を切ると、笑ってしまうほどあっさり猫は消えた。何故... いざやってみると私は毛糸を切るのが下手だった。先端を猫... それでも私は招集があるたびにこのプロジェクトに参加した... 毎回しつこくカッターを構え続ける私に、友人があるときハ... 私の隣にしゃがみこんで、友人は鮮やかな手捌きで毛糸をぷ... きょとんとした私の前で、眉間にぐぐっと皺をよせて友人は... 「そうやって、賢いふりして、諦めるのが一番みたいな顔をし... 咄嗟に私は、わかったようなよくわからないような顔を作っ... 一旦手放したカッターをもう一度拾い上げるために四苦八苦... 素直に作業に戻る気にもなれなくて私は手の中にあるハサミ... * 翌朝、目が覚めると毛糸猫はもうどこにもいなかった。慌て... 時代は変わったらしい。一夜にして、すっかり変わってしま... スマートフォンに着信があって、みればサークルからだった... 『ハンプティは元に戻った。王様の馬も家来もいなくとも』 やっぱり意味ははっきりしない。割れた卵が元に戻るとでも... まあ、いいや。強がっているのが我ながら良くわかったけれ... 諦めついでに私は部屋をもう一度整理しなおすことにした。... 引き摺られるようにして、私は貰った手鏡のことを忘れよう... 焦燥感にも飽きてきたころ、私はようやく手鏡を見つけた。... 私の手には手鏡があった。女の子への贈り物として相応しい... 私は手を離した。掴むときと違って、躊躇いもしなかった。... 硝子の破片を踏まないように、玄関まで箒を探しに行った。... 箒を掴んで部屋の奥に引き返す。ドアを閉める前の一瞬、玄... 「どうしよう」 困惑は声に出た。誰もいないのに、誰に聞かせるわけでもな... 私は片手に手鏡を握りしめたまま、スマートフォンを手に取... 「猫、いなくなったね」 「そうだね」 「ニュース、見た?」 「見たよ」 「何が起きるか知ってる?」 「少しはね」 「ねえ」 「なに」 「どうしよう」 「なにが?」 「私、どうしたらいい」 脈絡がなくて要領を得ない私の質問を、彼女は笑わなかった。 「私もまだどうしていいかわからないんだよね」 突き放すようでいて、同調するようでいて、それにしては優... 人心地ついた私に向かって友人は、ちょっと安心したよ、な... 失恋の話とか聞き足りないかも、なんて揶揄われたから、趣... ページ名: