開始行: [[活動/霧雨]] **この国の片隅で プロトタイプ [#sc880814] そう 木々の隙間から僅かに光が差す。昼間でも薄暗いがまだ明か... 足が痛くなってきたので、地面に座り込んでみる。ひんやり... 「ふぅ」 一息つき、木々の空気を大きく吸い込む、緑の香りが体内に... どこまで歩いたらいいのだろうか? 特に行きたい場所があるわけではない、たまたまこの森は都... 「そこのお前……」 いた。 目の前には私より十歳ぐらい年上の二十代後半と思われる男... 「女一人で何をしている?」 男は冷たい声で訊ねてきた。 「なんでそんなこと聞くの?」 答える際、思わず視線を逸らしてしまった。 「女一人で来る場所じゃないだろ」 男のもっともな指摘。確かにここは女一人で来るような場所... 「そ、そういうあなたはどうなのよ? なんでこんなところに... 「俺はユーチューバーだ」 「嘘」 「どうしてそう思う?」 男は表情一つ変えずにしらばっくれる。 「あなた、カメラ回してないじゃない」 「見知らぬ女性を勝手にカメラに収めるのは盗撮ではないのか」 「それもそうね」 男の言葉を信じたわけではない、いや、ユーチューバーとい... 「じゃ、休憩も済んだし私はそろそろ行くわ」 重たい体を起こし、ジーパンに付いた土を払う。 「どこに行くんだ?」 「どっか。じゃあね」 軽く手を振り、背中を向け歩き始めたのだが……。 「なんでついてくるの?」 男はなぜか私の数歩後ろからついてくる。 「お前が動画映えしそうなところに行くのかと思っているから... コイツ……。 「私はそんなところ行かないわよ。だからあなたは勝手に一人... 男の単調な返答、多分嘘だ。何か別の目的があるに違いない... 「あ!」 私は男の後方に指を差す。男は一瞬後ろを向いた。今だ。 私は脱兎の如く駆け出した。男はすぐに気づき弾丸のように... やっぱりそうなのね……コイツはユーチューバーなんかじゃな... 喉がカラカラと渇く、汗で服がにじんでくる、お腹痛い、苦し... 枝や土を踏む音が確実に近づいている。やっぱり体格と運動... 「危ない!」 男の叫びが耳に響く。 「え?」 足が地面に沈む、否、私が走ってたどり着いた場所は底が見... あっけない最期だったな……でもいいや……これで目的は果たせ... * なんかいい匂いする。なんだっけ久しく嗅いでないヤツ……お... 「う、うーん」 開きかけた瞼から光がうっすら差し込んでくる。 「目が覚めたか?」 聞き覚えのある声……って! ハっと我に返り勢いよく上体を起こす。体の上に被さってい... 「元気そうだな」 先ほど樹海で私を追いかけてきた男が立ち上がり、私が飛ば... 「ここはどこ?」 周りを見渡すと、ボロい畳の床、所々にある茶色い木の柱、... 「詳しいことは知らんが、過去の世界だそうだ」 「……?」 男の口から出てきた意味不明のワードにどう対応していいの... 「おやぁ、目を覚ましたのですね」 廊下から六十代ぐらいのお爺さんがゆっくりと現れ軽くお辞... 「あ、どうも」 お爺さんにつられてお辞儀した。 「どうぞこちらへ」 お爺さんに隣の部屋へ案内してもらうと、そこは先ほどまで... 「よかったら一緒にどうぞ」 「いただきます!」 お爺さんからお鍋の汁物をお椀によそってもらい、口に運ぶ。 何これおいしい! 具材の山菜のシャキシャキ具合といい、お出汁の塩加減とい... 「おかわりください!」 「はいはいどうぞ。たくさん召し上がってください」 お爺さんは微笑みながらおかわりをくれた。 私が五杯目をいただいたところで男が口を開いた。 「すみませんが、この村のことを彼女に話してもらってよろし... 「あぁ、そうですね。話しておいた方がいいですね」 お爺さんがふぅと一息つく。 「そういえばこの男から異世界と聞いたんですけど、どういう... 私は五杯目のお汁を飲み込んで一番気になっていた質問を投... 「はい。ここはあなた方の住んでいる世界よりも過去の世界で... どういうこと? 過去の世界だとしてもどうしてここがそう... 「携帯を見てみろ」 男が静かにつぶやくので私は薄地の上着のポケットからスマ... 「圏外」 でも、圏外ってだけでここが過去の世界だと決めつけるなん... 「あなた方のいた世界の年号は何年ですか?」 「えっと、二〇二〇年です」 「ここでは一九四七年です」 「え?」 嘘でしょ? 意味が分からない。 「一九四七年です。一昨年戦争が終わったところです」 一昨年……一九四七年の二年前の一九四五年は世界を巻き込ん... うーん。さっきまで二〇二〇年にいたのに気が付いたら一九... つまりここは過去の世界、あるいは年号が違うだけの村、も... 「で、よろしければなんですけど……」 「うぅー」 汗が滝のように流れ落ちる。そんなに気温は高くないと思う... 暖かい日差しの下、学校の運動場ほどの畑の中、私は足がお... 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃないかも……」 お爺さんからよかったら農作業を手伝ってもらえないかと言... 畑のすぐ隣の物置の影に腰を下ろす。 私はグロッキーになっているのにあの男は汗一つ浮かべない... 「あのー」 すぐ近くのかわいらしい声がした方を振り向くと座った私の... 「これ飲んで元気出してね」 少女が手に持っていた茶碗をおそるおそる差し出してくれた。 「ありがとー!」 茶碗の中の液体に口をつける。 何これ甘い! 自然の甘みが口の中で広がる。とても甘いの... 「えへへ。お姉ちゃん元気出た?」 え? かわいい。 「元気出た!」 なんでだろ? 体から力が湧き上がってくる! 何これ凄い... 「わーい!」 少女が両手を挙げて喜んでくれた。 「あ、ところでその髪型かわいいね」 自分でも驚くほど急な話題転換。髪型だけでなく、笑顔、声... 「ありがとー! これね、ついんてーるっていうらしいの。知... 少女はウサギのように跳ねながらこちらにまぶしい笑顔を向... 「ありがとね! 私、作業に戻ってくるよ!」 「いってらっしゃーい!」 少女が手を振って見送ってくれた。私も手を振って、畑にス... 五分後。 「お姉ちゃん大丈夫?」 「ら、らいしょーふ……」 あぁ、情けない……。私は男におぶわれ再び物置の日陰に戻る... 「しっかり休んどけよ」 男はそれだけ言い残し、畑へ戻っていった。 「いやぁ、今日はありがとうございました」 日が暮れたあと、お爺さんの家の囲炉裏でご飯をいただいて... あぁ、結局あの後、私は作業できなかったし、ひょっとして... 「別にいいだろ。向き不向きがあっても」 隣に座っていた男がぶっきらぼうに声を投げる。 「……声漏れてました?」 「いや、なんとなく『どうせ自分は役立たずで生きてる価値の... 「さすがにそこまでは思ってないです」 「畑の作業以外で手伝うべきことはありますか? 例えば子供... 男がお爺さんに問いかける。 「そうですねぇ……それもありがたいですね……」 気のせいだろうか? お爺さんの返答が少し歯切れが悪かっ... 「そういえば、私たち以外にもこの村に来た人っているんです... ふと気になったことを訊いてみる。 「えっと、それはあなた方みたいな異世界から来た人が他にも... 「はい」 「いたかもしれませんが、私は会ったことがありません……お力... 「そうですか……」 談笑を終え、昼間私が眠っていた部屋、客室に通された。着... 明かり代わりの皿の上にあるろうそくの火を消し、布団の中... 何もない黒い空間、見渡す限り漆黒の闇しかない何も見えな... 「梅花(うめか)」 私を呼ぶ男の人の声、この声は……! 振り返るとそこにいたのは…… 「お父さん……」 「久しぶりだな」 頬に熱いものが流れ落ち、衝動に駆られるままに私はお父さ... 「おいおい泣くなよ」 「だって! だってぇ……!」 「もうそんなに泣かないの」 今度は聞き覚えのある女性の声。 「お母さん……」 「あ、あ……」 うまく声が出ない。もう頬をつたうものが止まらない。 「やっほー!」 「久しぶりだね」 高校の友人の紗綾(さや)と里奈(りな)だ。二人ともこち... 「うぅ……」 「梅花、少し痩せたな」 お父さんは優しく声をかけた。 「あっホントだ。大丈夫?」 「ムリなダイエットは禁物だぞ!」 「しっかりご飯食べてるの?」 みんな私の心配をしてくれる。 「う゛ぃ、う゛ぃんう゛ぁあ」 声が変な感じになる。 父が優しく背中をさすってくれる。 「梅花、じゃあ行こうか」 父が優しく微笑みかけた。 「行こっ! 梅花」 紗綾もノリノリ。 「そうね。長居してもね。つのる話は向こうでしましょ」 お母さんも。 「行く……って、どごに」 少しだけ声が普通になってきた。 「決まってるじゃん……」 里奈が私の肩に手をおく。 「あなたのせいで私たちは……」 振り向いて里奈の顔を見ると 「死んだんだ」 血の涙を流し憤怒の表情で、私の肩を血が出るほど強く握っ... 「あ、ああ……!」 「お前のせいで……」 「ごめんなさい」 「あなたのせいで……」 「ごめんなさい」 「あんたのせいで……」 「ごめんなさい」 四人が私の体を強く掴む。捕まれた部位に指が食い込み血が... 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 声が止まらない。ひたすら誤り続ける意味はないのに許され... 「「「「一緒に死ね」」」」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 「おい! おい!」 目を開けると、男が座っていた。 「どうした? うなされていたぞ」 「あ、はい……大丈夫です……」 ゆっくりと上体をあげる。 「せっかくだ星でも見に行かないか?」 「……星ですか?」 男に誘われるまま外にでると、頭上には都会では見れないほ... 「すごい……」 「なぁ、そういえば自己紹介してなかったな」 男が星空を眺める私に声をかける。そういえば自己紹介をし... 「俺の名前は夜野景瑠(やのえいる)、ユーチューバーだ」 「嘘ですね」 「なぜ嘘だと思う?」 男が臆面とせず言う。 「そもそもどうしてあなたは樹海に入ってきたんですか?」 「それは面白い動画を撮るため」 「面白い動画って具体的にはどんな動画を撮りに来たんですか... 「それは……」 男が口ごもる。 「これは個人的な意見なんですけど、単純に樹海を撮るよりも... 男には見知らぬ人を無許可で撮るのはよくない、という信条... 「そうだな。そういう工夫をしないから俺の動画の再生数は伸... 男は呼吸を整え礼を言ってきた。あくまでしらばっくれるつ... 「それで、君の名前は?」 「花沢実(はなざわみのり)です」 「嘘だな」 心臓がビクッとした。どうして? 「勘だ。君は俺のことを信用していない。簡単に本名を教える... 自覚あったのか……。 「といのは半分嘘だ。君の知り合いの知り合いってだけだ。星... 思わず息を呑む。どうして? っていうか知り合いの知り合... 「あの? その知り合いって誰ですか?」 「……そういえば、『異星人がこの星を護る話』って知ってるか... 男が露骨に話を逸らしてくるが、もういいや、どうせ答える... 「はい。知ってますよ。一九六六年から放送され、今もシリー... とりあえず返答しておこう。 「詳しいな」 「そうですか?」 「今も見てるのか?」 「はい。初代から全部見ました。もうすぐ放送の新シリーズも... 「そうか」 男は少し微笑みを浮かべた。 「変ですか?」 「変って何がだ?」 「いや……その……」 言葉が詰まる。女なのに高校生ともういい年なのに端から見... 「別にいいんじゃないか? あのシリーズは老若男女誰が見て... 男から意外な言葉がスラリと出てきた。 「そ、そうですよね! 分かってくれますか!」 「ああ。面白くないものが五十年も続くわけない」 「はい!」 「噂に聞くとそのシリーズから生まれた言葉もあるらしいな」 「えぇありますよ。確か……」 自身の表情が固まるのを感じた。あぁそういうことなのか。 「どうした?」 「え、あ、いや、なんでもないですよ」 前に突き出した両手を全力で振って誤魔化す。男は首を傾げ... 「じゃあお休みなさい」 乾いた笑顔を作って布団がある部屋に戻る。疲れた。 またあのおいしそうな匂いだ。昨日ごちそうになったあのお... あぁ、もう悪夢は見ずに朝を迎えることができたのか。 食事を終え、農作業手伝い……では役に立たないので子供の相... 「おねーちゃん」 一緒に遊んでいた女の子が顔を赤らめてもじもじし始めた。 「どうしたの?」 「お花摘みに行ってくるね」 あぁ、そういうことね。 「いってらっしゃい」 あの様子だとさっきから我慢してくれてたのかな。だとした... 「どうだいこの村は?」 ぼんやりと遠くを眺めていた私に家でお世話になっているお... 「いいところだと思いますよ……」 「どうしたのですか?」 思わず口ごもってしまった。多分聞かない方がいいんだろう... 「どうしてここが過去の世界だと言ったのですか?」 肩がビクッて動いた。空気が凍り、背筋に悪寒が走る。 お爺さんの表情も永久凍土に閉じ込められたかのように固ま... 「え、あ、や、じょ、冗談ですよ。はは、はははは」 思わず乾いた笑い声を出さずにはいられなかった。私のあが... 額から流れた汗が凍り付きそうだ。どうすればいい? 「お嬢さん……」 先ほどまでとは違う冷たい声。やっぱり触れちゃいけないこ... 「おねーちゃん!」 先ほどお花を摘みに行った少女が手を振りながら戻ってきた。 「あ、おじいちゃんもどうしたの?」 「あぁ、いや、なんでもないよ。お姉ちゃんと少しお話をして... 先ほどまでの柔らかいお爺さんに戻ったが、私は直前の氷の... 再び夜が来た。夜野景瑠と名乗った男もお爺さんも昨日と同... 食事後、貸していただいた部屋へ戻り一人考える。やはり聞... 布団の中で考える。聞いたところで何になったのだろうか?... 「――バレたんですか?」 「いや、だがおそらく――」 ヒソヒソ話が聞こえる。閉じかけた目をこすりながら上体を... 声がしたのは先ほど食事をいただいた部屋。そっと覗くと二 人の三十代ほどの男性とお爺さんが囲炉裏を囲んでいた。 「バラしましょうか?」 「それがいいかもしれないね」 バラすってえっと、ネタばらし? 何かのサプライズ? そ... 「そこで何してるんだ?」 背後からの声に背筋に電流が流れる。 恐る恐る振り返ると、氷よりもさらに冷たい目をした体の大... 「ひょっとして聞いていたのかい?」 お爺さんが淡々と聞いてくる。子鹿のように震えながら首を... 「そうか。聞かれてしまったかい」 「あ……い……聞い……て……は、は……」 声が出ない。呼吸が苦しい。自分の呼吸音が小刻みに震えて... 「下手に騒がれても面倒ですし、ここでヤってしまった方がい... 囲炉裏を囲んでいた男性のうちの一人が包丁を持って立ち上... 「そうなるともう一人の男の方も寝ている間に始末しましょう... もう一人の男も立ち上がり、私の横を通り過ぎて行く。 声を出して知らせないと……! 「あ……え……は……」 出ない。声が出ない。息が上がっていく。意識が朦朧として... 包丁を持った男性がゆっくり近づいてくる。 「じゃあな。子供の世話してくれたのはありがとな」 男が包丁を振りかぶる。思わず目をつぶり両手を前に突き出... ドン! 大きな物音が背後からした。 「面白いもてなしをしてくださるんですね」 振り返ると廊下の端で先ほど歩いて行った男が倒れており、... 「この野郎!」 私の背後に立っていた男が夜野景瑠に飛びかかろうとするが... 「お前らを制圧するのは石ころを弾くだけで十分だ」 夜野景瑠は小銭より小さな石ころを数個、掌で踊らせつぶや... 「くっそ!」 包丁を持った男が私に包丁を振り下ろそうとするが、それよ... 「で、何をしようとしていたんだ?」 私の背中のすぐ近くまで来た夜野景瑠がお爺さんに問い詰め... 「すまんが、秘密を知られてしまった以上、あなた方には死ん... お爺さんの氷よりも冷たい声。私は背筋が凍ったが、夜野景... 「秘密とは何でしょうか?」 「しらばっくれてもムダじゃ」 「こ、ここが過去の世界じゃないってことですよね」 私も震えているが、ようやく声がでるようになった。 「なんだそんなことか」 夜野景瑠は大したことなさそうにつぶやく。 「詳しい事情は知らないし興味もない。何か後ろめたい事情が... 落ち着いた様子で淡々と話している。 「ムダじゃよ。出口なんてない」 お爺さんは言い切る。 「いや、あるはずだ」 「どうしてあると?」 「朝にいただいたお汁、塩加減が絶妙で大変おいしかった」 「そりゃどうも。それで、それが何だというのかね?」 「あの塩の味は岩塩じゃなくて海からとれた塩の味だった。だ... お爺さんは沈黙する。 「それにな、俺には仲間がいる。三日経っても俺が出てこなか... 「……分かった」 お爺さんが重い口を開いた。 それから私と夜野景瑠は村の隅っこにある木々で隠されてい... 「ほらよ」 彼は村が存在した森を出て数分歩いたうっすらと街灯が光っ... 「あ、ありがとうございます」 私は缶を開け、口をつける。 「どうして、あの人たちはあそこを過去の世界と偽っていたん... 「さぁな。なんかあったんじゃねぇの? 戦争とか」 男も自動販売機で缶コーヒーを購入し、プルタブを勢いよく... 「戦争ですか……」 「お爺さんが言ってただろ。戦争が終わったのは一昨年だって」 言われてみれば、単純に年を言えばいいだけなのにわざわざ... 「だから、戦争で何かあって集まった集落なんじゃないか? ... 戦争……詳しいことは分からないが、何かはあるだろう。例え... 「そういえば、あの様子だとあそこが過去の世界じゃないって... 「ツインテールです」 「……なるほどな」 察し早い。そう、ツインテールの語源は一九六六年から始ま... 「あの、今日はありがとうございました。私はこれで」 私はゆらゆらと歩き出す。 「どこに行くんだ?」 男は鋭い声で私を引き留める。 「えっと……」 言葉が詰まる。 「そうだ。すまないが、夜野景瑠っていうのは偽名だ」 なんとなく分かっていました。 「こういう者でな」 男はジャケットから取り出した黒い財布を開き中に入ってい... 「神崎零(かんざきれい)、探偵?」 思わず名刺を読み上げる。 「よかったら依頼を聞くが」 「依頼ってそんな……」 「そういう依頼を受けてる最中だからな」 依頼……まさか、彼があの森にいた理由って……! 「ある人に頼まれてな。君を護って欲しいって。まさか樹海へ... 「ある人って誰ですか?」 「それは隠すように言われている」 なんですかそれ……でも、親友も家族もいない。私なんかを庇... 「あとな、こっちも今人手が足りなくてな。行く先がないなら... 「助手って随分虫のいいこと言うんですね」 「悪い話じゃないと思うぞ。お前の大切な人を奪ったのは相手... 黒幕? 私の目が見開くのを感じた。 「黒幕の正体は不明だが、存在していることだけは確かだ。探... 夜野景瑠、いや神崎零の話は半ば信じられないものであった... 「分かりました。やります。探偵の助手」 でも、もし一つでも私にできることがあるのであれば、私の... 「これからよろしくな」 「こちらこそよろしくお願いします」 街灯が照らす常闇の路地で二人は固い握手を交わした。 ... 終了行: [[活動/霧雨]] **この国の片隅で プロトタイプ [#sc880814] そう 木々の隙間から僅かに光が差す。昼間でも薄暗いがまだ明か... 足が痛くなってきたので、地面に座り込んでみる。ひんやり... 「ふぅ」 一息つき、木々の空気を大きく吸い込む、緑の香りが体内に... どこまで歩いたらいいのだろうか? 特に行きたい場所があるわけではない、たまたまこの森は都... 「そこのお前……」 いた。 目の前には私より十歳ぐらい年上の二十代後半と思われる男... 「女一人で何をしている?」 男は冷たい声で訊ねてきた。 「なんでそんなこと聞くの?」 答える際、思わず視線を逸らしてしまった。 「女一人で来る場所じゃないだろ」 男のもっともな指摘。確かにここは女一人で来るような場所... 「そ、そういうあなたはどうなのよ? なんでこんなところに... 「俺はユーチューバーだ」 「嘘」 「どうしてそう思う?」 男は表情一つ変えずにしらばっくれる。 「あなた、カメラ回してないじゃない」 「見知らぬ女性を勝手にカメラに収めるのは盗撮ではないのか」 「それもそうね」 男の言葉を信じたわけではない、いや、ユーチューバーとい... 「じゃ、休憩も済んだし私はそろそろ行くわ」 重たい体を起こし、ジーパンに付いた土を払う。 「どこに行くんだ?」 「どっか。じゃあね」 軽く手を振り、背中を向け歩き始めたのだが……。 「なんでついてくるの?」 男はなぜか私の数歩後ろからついてくる。 「お前が動画映えしそうなところに行くのかと思っているから... コイツ……。 「私はそんなところ行かないわよ。だからあなたは勝手に一人... 男の単調な返答、多分嘘だ。何か別の目的があるに違いない... 「あ!」 私は男の後方に指を差す。男は一瞬後ろを向いた。今だ。 私は脱兎の如く駆け出した。男はすぐに気づき弾丸のように... やっぱりそうなのね……コイツはユーチューバーなんかじゃな... 喉がカラカラと渇く、汗で服がにじんでくる、お腹痛い、苦し... 枝や土を踏む音が確実に近づいている。やっぱり体格と運動... 「危ない!」 男の叫びが耳に響く。 「え?」 足が地面に沈む、否、私が走ってたどり着いた場所は底が見... あっけない最期だったな……でもいいや……これで目的は果たせ... * なんかいい匂いする。なんだっけ久しく嗅いでないヤツ……お... 「う、うーん」 開きかけた瞼から光がうっすら差し込んでくる。 「目が覚めたか?」 聞き覚えのある声……って! ハっと我に返り勢いよく上体を起こす。体の上に被さってい... 「元気そうだな」 先ほど樹海で私を追いかけてきた男が立ち上がり、私が飛ば... 「ここはどこ?」 周りを見渡すと、ボロい畳の床、所々にある茶色い木の柱、... 「詳しいことは知らんが、過去の世界だそうだ」 「……?」 男の口から出てきた意味不明のワードにどう対応していいの... 「おやぁ、目を覚ましたのですね」 廊下から六十代ぐらいのお爺さんがゆっくりと現れ軽くお辞... 「あ、どうも」 お爺さんにつられてお辞儀した。 「どうぞこちらへ」 お爺さんに隣の部屋へ案内してもらうと、そこは先ほどまで... 「よかったら一緒にどうぞ」 「いただきます!」 お爺さんからお鍋の汁物をお椀によそってもらい、口に運ぶ。 何これおいしい! 具材の山菜のシャキシャキ具合といい、お出汁の塩加減とい... 「おかわりください!」 「はいはいどうぞ。たくさん召し上がってください」 お爺さんは微笑みながらおかわりをくれた。 私が五杯目をいただいたところで男が口を開いた。 「すみませんが、この村のことを彼女に話してもらってよろし... 「あぁ、そうですね。話しておいた方がいいですね」 お爺さんがふぅと一息つく。 「そういえばこの男から異世界と聞いたんですけど、どういう... 私は五杯目のお汁を飲み込んで一番気になっていた質問を投... 「はい。ここはあなた方の住んでいる世界よりも過去の世界で... どういうこと? 過去の世界だとしてもどうしてここがそう... 「携帯を見てみろ」 男が静かにつぶやくので私は薄地の上着のポケットからスマ... 「圏外」 でも、圏外ってだけでここが過去の世界だと決めつけるなん... 「あなた方のいた世界の年号は何年ですか?」 「えっと、二〇二〇年です」 「ここでは一九四七年です」 「え?」 嘘でしょ? 意味が分からない。 「一九四七年です。一昨年戦争が終わったところです」 一昨年……一九四七年の二年前の一九四五年は世界を巻き込ん... うーん。さっきまで二〇二〇年にいたのに気が付いたら一九... つまりここは過去の世界、あるいは年号が違うだけの村、も... 「で、よろしければなんですけど……」 「うぅー」 汗が滝のように流れ落ちる。そんなに気温は高くないと思う... 暖かい日差しの下、学校の運動場ほどの畑の中、私は足がお... 「大丈夫か?」 「大丈夫じゃないかも……」 お爺さんからよかったら農作業を手伝ってもらえないかと言... 畑のすぐ隣の物置の影に腰を下ろす。 私はグロッキーになっているのにあの男は汗一つ浮かべない... 「あのー」 すぐ近くのかわいらしい声がした方を振り向くと座った私の... 「これ飲んで元気出してね」 少女が手に持っていた茶碗をおそるおそる差し出してくれた。 「ありがとー!」 茶碗の中の液体に口をつける。 何これ甘い! 自然の甘みが口の中で広がる。とても甘いの... 「えへへ。お姉ちゃん元気出た?」 え? かわいい。 「元気出た!」 なんでだろ? 体から力が湧き上がってくる! 何これ凄い... 「わーい!」 少女が両手を挙げて喜んでくれた。 「あ、ところでその髪型かわいいね」 自分でも驚くほど急な話題転換。髪型だけでなく、笑顔、声... 「ありがとー! これね、ついんてーるっていうらしいの。知... 少女はウサギのように跳ねながらこちらにまぶしい笑顔を向... 「ありがとね! 私、作業に戻ってくるよ!」 「いってらっしゃーい!」 少女が手を振って見送ってくれた。私も手を振って、畑にス... 五分後。 「お姉ちゃん大丈夫?」 「ら、らいしょーふ……」 あぁ、情けない……。私は男におぶわれ再び物置の日陰に戻る... 「しっかり休んどけよ」 男はそれだけ言い残し、畑へ戻っていった。 「いやぁ、今日はありがとうございました」 日が暮れたあと、お爺さんの家の囲炉裏でご飯をいただいて... あぁ、結局あの後、私は作業できなかったし、ひょっとして... 「別にいいだろ。向き不向きがあっても」 隣に座っていた男がぶっきらぼうに声を投げる。 「……声漏れてました?」 「いや、なんとなく『どうせ自分は役立たずで生きてる価値の... 「さすがにそこまでは思ってないです」 「畑の作業以外で手伝うべきことはありますか? 例えば子供... 男がお爺さんに問いかける。 「そうですねぇ……それもありがたいですね……」 気のせいだろうか? お爺さんの返答が少し歯切れが悪かっ... 「そういえば、私たち以外にもこの村に来た人っているんです... ふと気になったことを訊いてみる。 「えっと、それはあなた方みたいな異世界から来た人が他にも... 「はい」 「いたかもしれませんが、私は会ったことがありません……お力... 「そうですか……」 談笑を終え、昼間私が眠っていた部屋、客室に通された。着... 明かり代わりの皿の上にあるろうそくの火を消し、布団の中... 何もない黒い空間、見渡す限り漆黒の闇しかない何も見えな... 「梅花(うめか)」 私を呼ぶ男の人の声、この声は……! 振り返るとそこにいたのは…… 「お父さん……」 「久しぶりだな」 頬に熱いものが流れ落ち、衝動に駆られるままに私はお父さ... 「おいおい泣くなよ」 「だって! だってぇ……!」 「もうそんなに泣かないの」 今度は聞き覚えのある女性の声。 「お母さん……」 「あ、あ……」 うまく声が出ない。もう頬をつたうものが止まらない。 「やっほー!」 「久しぶりだね」 高校の友人の紗綾(さや)と里奈(りな)だ。二人ともこち... 「うぅ……」 「梅花、少し痩せたな」 お父さんは優しく声をかけた。 「あっホントだ。大丈夫?」 「ムリなダイエットは禁物だぞ!」 「しっかりご飯食べてるの?」 みんな私の心配をしてくれる。 「う゛ぃ、う゛ぃんう゛ぁあ」 声が変な感じになる。 父が優しく背中をさすってくれる。 「梅花、じゃあ行こうか」 父が優しく微笑みかけた。 「行こっ! 梅花」 紗綾もノリノリ。 「そうね。長居してもね。つのる話は向こうでしましょ」 お母さんも。 「行く……って、どごに」 少しだけ声が普通になってきた。 「決まってるじゃん……」 里奈が私の肩に手をおく。 「あなたのせいで私たちは……」 振り向いて里奈の顔を見ると 「死んだんだ」 血の涙を流し憤怒の表情で、私の肩を血が出るほど強く握っ... 「あ、ああ……!」 「お前のせいで……」 「ごめんなさい」 「あなたのせいで……」 「ごめんなさい」 「あんたのせいで……」 「ごめんなさい」 四人が私の体を強く掴む。捕まれた部位に指が食い込み血が... 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 声が止まらない。ひたすら誤り続ける意味はないのに許され... 「「「「一緒に死ね」」」」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 「おい! おい!」 目を開けると、男が座っていた。 「どうした? うなされていたぞ」 「あ、はい……大丈夫です……」 ゆっくりと上体をあげる。 「せっかくだ星でも見に行かないか?」 「……星ですか?」 男に誘われるまま外にでると、頭上には都会では見れないほ... 「すごい……」 「なぁ、そういえば自己紹介してなかったな」 男が星空を眺める私に声をかける。そういえば自己紹介をし... 「俺の名前は夜野景瑠(やのえいる)、ユーチューバーだ」 「嘘ですね」 「なぜ嘘だと思う?」 男が臆面とせず言う。 「そもそもどうしてあなたは樹海に入ってきたんですか?」 「それは面白い動画を撮るため」 「面白い動画って具体的にはどんな動画を撮りに来たんですか... 「それは……」 男が口ごもる。 「これは個人的な意見なんですけど、単純に樹海を撮るよりも... 男には見知らぬ人を無許可で撮るのはよくない、という信条... 「そうだな。そういう工夫をしないから俺の動画の再生数は伸... 男は呼吸を整え礼を言ってきた。あくまでしらばっくれるつ... 「それで、君の名前は?」 「花沢実(はなざわみのり)です」 「嘘だな」 心臓がビクッとした。どうして? 「勘だ。君は俺のことを信用していない。簡単に本名を教える... 自覚あったのか……。 「といのは半分嘘だ。君の知り合いの知り合いってだけだ。星... 思わず息を呑む。どうして? っていうか知り合いの知り合... 「あの? その知り合いって誰ですか?」 「……そういえば、『異星人がこの星を護る話』って知ってるか... 男が露骨に話を逸らしてくるが、もういいや、どうせ答える... 「はい。知ってますよ。一九六六年から放送され、今もシリー... とりあえず返答しておこう。 「詳しいな」 「そうですか?」 「今も見てるのか?」 「はい。初代から全部見ました。もうすぐ放送の新シリーズも... 「そうか」 男は少し微笑みを浮かべた。 「変ですか?」 「変って何がだ?」 「いや……その……」 言葉が詰まる。女なのに高校生ともういい年なのに端から見... 「別にいいんじゃないか? あのシリーズは老若男女誰が見て... 男から意外な言葉がスラリと出てきた。 「そ、そうですよね! 分かってくれますか!」 「ああ。面白くないものが五十年も続くわけない」 「はい!」 「噂に聞くとそのシリーズから生まれた言葉もあるらしいな」 「えぇありますよ。確か……」 自身の表情が固まるのを感じた。あぁそういうことなのか。 「どうした?」 「え、あ、いや、なんでもないですよ」 前に突き出した両手を全力で振って誤魔化す。男は首を傾げ... 「じゃあお休みなさい」 乾いた笑顔を作って布団がある部屋に戻る。疲れた。 またあのおいしそうな匂いだ。昨日ごちそうになったあのお... あぁ、もう悪夢は見ずに朝を迎えることができたのか。 食事を終え、農作業手伝い……では役に立たないので子供の相... 「おねーちゃん」 一緒に遊んでいた女の子が顔を赤らめてもじもじし始めた。 「どうしたの?」 「お花摘みに行ってくるね」 あぁ、そういうことね。 「いってらっしゃい」 あの様子だとさっきから我慢してくれてたのかな。だとした... 「どうだいこの村は?」 ぼんやりと遠くを眺めていた私に家でお世話になっているお... 「いいところだと思いますよ……」 「どうしたのですか?」 思わず口ごもってしまった。多分聞かない方がいいんだろう... 「どうしてここが過去の世界だと言ったのですか?」 肩がビクッて動いた。空気が凍り、背筋に悪寒が走る。 お爺さんの表情も永久凍土に閉じ込められたかのように固ま... 「え、あ、や、じょ、冗談ですよ。はは、はははは」 思わず乾いた笑い声を出さずにはいられなかった。私のあが... 額から流れた汗が凍り付きそうだ。どうすればいい? 「お嬢さん……」 先ほどまでとは違う冷たい声。やっぱり触れちゃいけないこ... 「おねーちゃん!」 先ほどお花を摘みに行った少女が手を振りながら戻ってきた。 「あ、おじいちゃんもどうしたの?」 「あぁ、いや、なんでもないよ。お姉ちゃんと少しお話をして... 先ほどまでの柔らかいお爺さんに戻ったが、私は直前の氷の... 再び夜が来た。夜野景瑠と名乗った男もお爺さんも昨日と同... 食事後、貸していただいた部屋へ戻り一人考える。やはり聞... 布団の中で考える。聞いたところで何になったのだろうか?... 「――バレたんですか?」 「いや、だがおそらく――」 ヒソヒソ話が聞こえる。閉じかけた目をこすりながら上体を... 声がしたのは先ほど食事をいただいた部屋。そっと覗くと二 人の三十代ほどの男性とお爺さんが囲炉裏を囲んでいた。 「バラしましょうか?」 「それがいいかもしれないね」 バラすってえっと、ネタばらし? 何かのサプライズ? そ... 「そこで何してるんだ?」 背後からの声に背筋に電流が流れる。 恐る恐る振り返ると、氷よりもさらに冷たい目をした体の大... 「ひょっとして聞いていたのかい?」 お爺さんが淡々と聞いてくる。子鹿のように震えながら首を... 「そうか。聞かれてしまったかい」 「あ……い……聞い……て……は、は……」 声が出ない。呼吸が苦しい。自分の呼吸音が小刻みに震えて... 「下手に騒がれても面倒ですし、ここでヤってしまった方がい... 囲炉裏を囲んでいた男性のうちの一人が包丁を持って立ち上... 「そうなるともう一人の男の方も寝ている間に始末しましょう... もう一人の男も立ち上がり、私の横を通り過ぎて行く。 声を出して知らせないと……! 「あ……え……は……」 出ない。声が出ない。息が上がっていく。意識が朦朧として... 包丁を持った男性がゆっくり近づいてくる。 「じゃあな。子供の世話してくれたのはありがとな」 男が包丁を振りかぶる。思わず目をつぶり両手を前に突き出... ドン! 大きな物音が背後からした。 「面白いもてなしをしてくださるんですね」 振り返ると廊下の端で先ほど歩いて行った男が倒れており、... 「この野郎!」 私の背後に立っていた男が夜野景瑠に飛びかかろうとするが... 「お前らを制圧するのは石ころを弾くだけで十分だ」 夜野景瑠は小銭より小さな石ころを数個、掌で踊らせつぶや... 「くっそ!」 包丁を持った男が私に包丁を振り下ろそうとするが、それよ... 「で、何をしようとしていたんだ?」 私の背中のすぐ近くまで来た夜野景瑠がお爺さんに問い詰め... 「すまんが、秘密を知られてしまった以上、あなた方には死ん... お爺さんの氷よりも冷たい声。私は背筋が凍ったが、夜野景... 「秘密とは何でしょうか?」 「しらばっくれてもムダじゃ」 「こ、ここが過去の世界じゃないってことですよね」 私も震えているが、ようやく声がでるようになった。 「なんだそんなことか」 夜野景瑠は大したことなさそうにつぶやく。 「詳しい事情は知らないし興味もない。何か後ろめたい事情が... 落ち着いた様子で淡々と話している。 「ムダじゃよ。出口なんてない」 お爺さんは言い切る。 「いや、あるはずだ」 「どうしてあると?」 「朝にいただいたお汁、塩加減が絶妙で大変おいしかった」 「そりゃどうも。それで、それが何だというのかね?」 「あの塩の味は岩塩じゃなくて海からとれた塩の味だった。だ... お爺さんは沈黙する。 「それにな、俺には仲間がいる。三日経っても俺が出てこなか... 「……分かった」 お爺さんが重い口を開いた。 それから私と夜野景瑠は村の隅っこにある木々で隠されてい... 「ほらよ」 彼は村が存在した森を出て数分歩いたうっすらと街灯が光っ... 「あ、ありがとうございます」 私は缶を開け、口をつける。 「どうして、あの人たちはあそこを過去の世界と偽っていたん... 「さぁな。なんかあったんじゃねぇの? 戦争とか」 男も自動販売機で缶コーヒーを購入し、プルタブを勢いよく... 「戦争ですか……」 「お爺さんが言ってただろ。戦争が終わったのは一昨年だって」 言われてみれば、単純に年を言えばいいだけなのにわざわざ... 「だから、戦争で何かあって集まった集落なんじゃないか? ... 戦争……詳しいことは分からないが、何かはあるだろう。例え... 「そういえば、あの様子だとあそこが過去の世界じゃないって... 「ツインテールです」 「……なるほどな」 察し早い。そう、ツインテールの語源は一九六六年から始ま... 「あの、今日はありがとうございました。私はこれで」 私はゆらゆらと歩き出す。 「どこに行くんだ?」 男は鋭い声で私を引き留める。 「えっと……」 言葉が詰まる。 「そうだ。すまないが、夜野景瑠っていうのは偽名だ」 なんとなく分かっていました。 「こういう者でな」 男はジャケットから取り出した黒い財布を開き中に入ってい... 「神崎零(かんざきれい)、探偵?」 思わず名刺を読み上げる。 「よかったら依頼を聞くが」 「依頼ってそんな……」 「そういう依頼を受けてる最中だからな」 依頼……まさか、彼があの森にいた理由って……! 「ある人に頼まれてな。君を護って欲しいって。まさか樹海へ... 「ある人って誰ですか?」 「それは隠すように言われている」 なんですかそれ……でも、親友も家族もいない。私なんかを庇... 「あとな、こっちも今人手が足りなくてな。行く先がないなら... 「助手って随分虫のいいこと言うんですね」 「悪い話じゃないと思うぞ。お前の大切な人を奪ったのは相手... 黒幕? 私の目が見開くのを感じた。 「黒幕の正体は不明だが、存在していることだけは確かだ。探... 夜野景瑠、いや神崎零の話は半ば信じられないものであった... 「分かりました。やります。探偵の助手」 でも、もし一つでも私にできることがあるのであれば、私の... 「これからよろしくな」 「こちらこそよろしくお願いします」 街灯が照らす常闇の路地で二人は固い握手を交わした。 ... ページ名: