開始行: [[活動/霧雨]] **歓待 [#f19cc8a4] 鮎川つくる 教会の窓から見える縦横無尽に這い回る雷は、雨水に濡れた... ごうごうという風の音と雷鳴の中でも、やけに時計の秒針が... 蝶番のギイとなる音が響き、油指しを怠っていたことを後悔... 身廊への長い階段を下る。夜更けのアーケードは静けさが堆... 細い階段のステップを上手に寝かしつけられた三、四歳の小... マリアに幸あれああ、マリアさま。この哀れなわたしの息子... そのあとは判別不能の文字が続き、ところどころインクが滲... ひとまずわたしは、この捨て子の身体を洗って綺麗な服を着... 井戸で水を組み火にかける。その間に普段は野菜などを洗う... わたしは男の子の手を取って小さくキスをした。敏感な唇で... 真っ白なテーブルクロスに沁みたソース、ワイン、汚れ。汚... いつまでそうしていただろう。でも誰があの子を救うんだろ... 炊事場に戻ると、流しや蛇口が影を作って沈んでいるなかで... ――ねえ、ママ、どこにいるの?ぼくさむいんだ。 わたしは駆け出してぼんやり座って天井を見ている怯えた子... ――ママのからだはあたたかいな、おっぱいのにおいがする。 ソックスで隠れていた足、下半身、シャツで隠れていた上半... 「あなた、名前はなんていうの」 わたしは言ってから後悔してしまったが、純粋な子どもは少... わたしの息子グラーナと出会ってから数日は、わたしの狭い... ――ねえ、ママ、ぼく、なんだかよごれているんだけど、と傷を... グラーナにさようなら、お利口にね、と言ってから、いつも... 「あら、どうして鍵をおかけになりましたの」 「このくらい普通のことなんじゃないの」 かの女はあんぐりと口を開けて手をくねくねと動かし、「わ... 教会という閉鎖空間で、いつもかの女たちは「事件」に飢え... 「この中にわたくしたちを信用なさらない方がいるのよ、マザ... かの女は、もっとも年配のシスターの方を向いた。場は一旦... 「早くあなたの部屋を見つけないとね」 ――どうしてママ、このへやじゃだめなの? 「日が差し込んでしまうもの、それに、もう鍵をかけることは... グラーナに囁き声の子守唄を歌う。星屑が落ちてきて小麦に... グラーナが寝静まると、毎晩同じように十字架の前に跪き懺... 「マリアに幸あれ……始めてグラーナを見たときに戸惑ったわた... グラーナと暮らし始めて服の工面にも困った。何しろ始めて... 翌日から食糧庫での仕事が始まった。食糧庫は薄暗く、細長... 棚の奥にまで、壁際は特に、埃がたまっていた。缶詰や小麦... 部屋の奥まった隅の、木箱に入った魚の缶詰を引き出すと、... 底に着くと、人一人が住むには充分な広さの倉庫に、穴の空... それからわたしは食糧庫の掃除と共に倉庫の片付けも始めた... カンテラを提げていると目立ってしまうので、半月の晩だっ... 重たそうな頭を抱えて、グラーナはカエデの手で目を擦る。... 隠し部屋のベッドに身体を乗せると、また眠っていた。小さ... 隠し部屋で色々なことを教えた、文字の読み方、書き方、簡... ――ねえ、ママ、今日はこの話を読んで欲しいな。 グラーナはあまりに小さかったせいか、両腕の傷は初めから... これは全くに偶然かもしれないが、何も教えていないのにグ... もうこの頃になると、シスターたちのうち何人かは入れ替わ... グラーナは十四歳になっていた。 ――あ、ママ。今週の本も面白かったよ。次は星座について知り... 夜中に隠し部屋に降りていくと、グラーナは椅子に座って本... 「そろそろ切らなくちゃいけないかしら」 ――もうもみあげの辺りが鬱陶しいんだよ。 グラーナの皮膚の上での傷の進行はずっと止まったままのよ... ――もう、くすぐったいよ、ママ。 グラーナは一呼吸置いて――最近ママにキスされると、ちんち... もうわたしの身体の中は大しけだった。強大な波の力を止め... ――ママ、泣いている…… 天井を見ていたが、頰を伝う塩辛い川の流れはどうしようも... まだグラーナは起きている時間だけれど、わたしの手を取っ... 「本当に大きくなったわね、グラーナ……」 十年もわたし以外誰にも触れられていない身体は、水よりも... 翌朝、目を覚ますとグラーナは静かにわたしの髪を撫でてい... 髪を通じてグラーナのぎこちない手の動きが伝わってくる。... 服のしわを出来るだけ伸ばして、ベッドのシーツを綺麗に敷... 「おやすみなさい、グラーナ」 わたしは振り返らないよう決心し、足首を強く地面に押し当... ――ママ、行かないでよ。寂しすぎる。 わたしの身体を巻き込んで両手を組むことができるほどに成... 両手を顔に押し当てると、頭の上の方からだらだら流れる色... 部屋に戻って、朝食の席に出なかったためにシスターがやっ... 夢遊病患者の心地で、多分いつもの体に染み付いた癖で、隠... 部屋は別に荒れておらず、いつもと同じ位置に同じものがあ... ――ママ…… まだ子どもの身体は震えていた。強烈な感情が肉体に及ぼす... わたしはグラーナの服を一枚一枚丁寧に剥がしていった。シ... 露わになった傷の浮島を一つ一つ順に確かめていく。こんな... ――ここに入れればいいの? どこまでも無邪気でまっすぐな声は、鳥の声を出すおもちゃ... グラーナは苦しそうに笑っていた。すごいや、と言っている... アヴェ・マリア、憐れみを、アヴェ・マリア、お救い下さい…… 罪はわたしが背負いましょう、グラーナは常に、生まれてか... グラーナの極小の艶やかな声ですべてが滞りなく終了した。 ――たぶん、泥の沼のなかに素足で入っていくのはこんな心地な... ――そういう文があってね、とても気持ちが良いらしいよ。 グラーナとの同衾の三日目に、わたしのちっぽけな目玉は紅... 昼食の時間のあと、炊事場に入ってナイフを取り出した。井... 鋭い剣先をわたしの方に向ける。先を見ないように上の方の... グラーナ、わたしを踏み台にして上に昇って、迷わずに、そ... グラーナは明日で、十五歳になる。降りることも、上ること... 終了行: [[活動/霧雨]] **歓待 [#f19cc8a4] 鮎川つくる 教会の窓から見える縦横無尽に這い回る雷は、雨水に濡れた... ごうごうという風の音と雷鳴の中でも、やけに時計の秒針が... 蝶番のギイとなる音が響き、油指しを怠っていたことを後悔... 身廊への長い階段を下る。夜更けのアーケードは静けさが堆... 細い階段のステップを上手に寝かしつけられた三、四歳の小... マリアに幸あれああ、マリアさま。この哀れなわたしの息子... そのあとは判別不能の文字が続き、ところどころインクが滲... ひとまずわたしは、この捨て子の身体を洗って綺麗な服を着... 井戸で水を組み火にかける。その間に普段は野菜などを洗う... わたしは男の子の手を取って小さくキスをした。敏感な唇で... 真っ白なテーブルクロスに沁みたソース、ワイン、汚れ。汚... いつまでそうしていただろう。でも誰があの子を救うんだろ... 炊事場に戻ると、流しや蛇口が影を作って沈んでいるなかで... ――ねえ、ママ、どこにいるの?ぼくさむいんだ。 わたしは駆け出してぼんやり座って天井を見ている怯えた子... ――ママのからだはあたたかいな、おっぱいのにおいがする。 ソックスで隠れていた足、下半身、シャツで隠れていた上半... 「あなた、名前はなんていうの」 わたしは言ってから後悔してしまったが、純粋な子どもは少... わたしの息子グラーナと出会ってから数日は、わたしの狭い... ――ねえ、ママ、ぼく、なんだかよごれているんだけど、と傷を... グラーナにさようなら、お利口にね、と言ってから、いつも... 「あら、どうして鍵をおかけになりましたの」 「このくらい普通のことなんじゃないの」 かの女はあんぐりと口を開けて手をくねくねと動かし、「わ... 教会という閉鎖空間で、いつもかの女たちは「事件」に飢え... 「この中にわたくしたちを信用なさらない方がいるのよ、マザ... かの女は、もっとも年配のシスターの方を向いた。場は一旦... 「早くあなたの部屋を見つけないとね」 ――どうしてママ、このへやじゃだめなの? 「日が差し込んでしまうもの、それに、もう鍵をかけることは... グラーナに囁き声の子守唄を歌う。星屑が落ちてきて小麦に... グラーナが寝静まると、毎晩同じように十字架の前に跪き懺... 「マリアに幸あれ……始めてグラーナを見たときに戸惑ったわた... グラーナと暮らし始めて服の工面にも困った。何しろ始めて... 翌日から食糧庫での仕事が始まった。食糧庫は薄暗く、細長... 棚の奥にまで、壁際は特に、埃がたまっていた。缶詰や小麦... 部屋の奥まった隅の、木箱に入った魚の缶詰を引き出すと、... 底に着くと、人一人が住むには充分な広さの倉庫に、穴の空... それからわたしは食糧庫の掃除と共に倉庫の片付けも始めた... カンテラを提げていると目立ってしまうので、半月の晩だっ... 重たそうな頭を抱えて、グラーナはカエデの手で目を擦る。... 隠し部屋のベッドに身体を乗せると、また眠っていた。小さ... 隠し部屋で色々なことを教えた、文字の読み方、書き方、簡... ――ねえ、ママ、今日はこの話を読んで欲しいな。 グラーナはあまりに小さかったせいか、両腕の傷は初めから... これは全くに偶然かもしれないが、何も教えていないのにグ... もうこの頃になると、シスターたちのうち何人かは入れ替わ... グラーナは十四歳になっていた。 ――あ、ママ。今週の本も面白かったよ。次は星座について知り... 夜中に隠し部屋に降りていくと、グラーナは椅子に座って本... 「そろそろ切らなくちゃいけないかしら」 ――もうもみあげの辺りが鬱陶しいんだよ。 グラーナの皮膚の上での傷の進行はずっと止まったままのよ... ――もう、くすぐったいよ、ママ。 グラーナは一呼吸置いて――最近ママにキスされると、ちんち... もうわたしの身体の中は大しけだった。強大な波の力を止め... ――ママ、泣いている…… 天井を見ていたが、頰を伝う塩辛い川の流れはどうしようも... まだグラーナは起きている時間だけれど、わたしの手を取っ... 「本当に大きくなったわね、グラーナ……」 十年もわたし以外誰にも触れられていない身体は、水よりも... 翌朝、目を覚ますとグラーナは静かにわたしの髪を撫でてい... 髪を通じてグラーナのぎこちない手の動きが伝わってくる。... 服のしわを出来るだけ伸ばして、ベッドのシーツを綺麗に敷... 「おやすみなさい、グラーナ」 わたしは振り返らないよう決心し、足首を強く地面に押し当... ――ママ、行かないでよ。寂しすぎる。 わたしの身体を巻き込んで両手を組むことができるほどに成... 両手を顔に押し当てると、頭の上の方からだらだら流れる色... 部屋に戻って、朝食の席に出なかったためにシスターがやっ... 夢遊病患者の心地で、多分いつもの体に染み付いた癖で、隠... 部屋は別に荒れておらず、いつもと同じ位置に同じものがあ... ――ママ…… まだ子どもの身体は震えていた。強烈な感情が肉体に及ぼす... わたしはグラーナの服を一枚一枚丁寧に剥がしていった。シ... 露わになった傷の浮島を一つ一つ順に確かめていく。こんな... ――ここに入れればいいの? どこまでも無邪気でまっすぐな声は、鳥の声を出すおもちゃ... グラーナは苦しそうに笑っていた。すごいや、と言っている... アヴェ・マリア、憐れみを、アヴェ・マリア、お救い下さい…… 罪はわたしが背負いましょう、グラーナは常に、生まれてか... グラーナの極小の艶やかな声ですべてが滞りなく終了した。 ――たぶん、泥の沼のなかに素足で入っていくのはこんな心地な... ――そういう文があってね、とても気持ちが良いらしいよ。 グラーナとの同衾の三日目に、わたしのちっぽけな目玉は紅... 昼食の時間のあと、炊事場に入ってナイフを取り出した。井... 鋭い剣先をわたしの方に向ける。先を見ないように上の方の... グラーナ、わたしを踏み台にして上に昇って、迷わずに、そ... グラーナは明日で、十五歳になる。降りることも、上ること... ページ名: