開始行: [[活動/霧雨]] **キョエー舞踏曲 [#q7f181ef] 鮎川つくる 円を切ってご覧 反らして繋いでご覧 ご覧、内と外が入れ替わった 1 elegante ぼくは子供の頃見た劇団の、作り込まれた都市で黒い喉奥を... キョエーの色から、ぼくはそのとき人は土に還るといった類... なにもかも不確かかもしれないという気持ちが支配的な心情... 机、ぼくの狭い部屋の多くを占め、傍らに人がいないが若く... おっと窓を忘れていた、黒い縁取りで縦長の窓、北向きだか... 椅子を机の下に押しやって窓辺に向かうと、空以外のあれこ... このぼくの住む香辛料で隠された塩漬けされゆっくりと有用... 結局、容器をまとってしまわないと外も歩くことができない... 時計に目をやると、体内時計が今日も正確で、脳のしわ一つ... ぼくの暗い部屋の出入り口に立ち塞がる扉を開けると、使用... 暗い部屋、薄暗い廊下、少し開けて外の光が輪郭を投げかけ... 突然の怒りに靴の先を玄関階段に埋め込もうとした。大きく... 素晴らしい晴れた朝だというのに擦れ違う人々は雨だか晴れ... ぼくは歩いていた、しかし全く思っていなかった、自然に足は... 擦れ違うときに使い慣れた足の動かし方を間違えてしまって... 「失礼。ぼくには二本の足は多すぎるらしい」ぼくはできるだ... 「君、キョエーは……、」 男の温かな胸の中でこちらに向かって全人類に向けられた歓... 朝は素晴らしいんだ、本当はこんな港街で過ごすのではなく... 煉瓦でできた近代ビルの殻に陥没した陰気な喫茶店――オッコ... コーヒーの香り、コーヒーは豆だ、豆の何がいい、紅茶だろ... 主人が起きてくるまでに、たとえ起きても滅多に出てこない... 2 comodo 「ねえ、先生、どうやって人形を動かしていたんでしょう」幕... ぼくはどうして生き物以外がああも細かく動くのかが理解で... 先生は、劇団の人に聞いてごらんなさい、と答えたが、ぼく... 「あの……」 部屋の中なのにサングラスをかけている、ぼくからいちばん... 見にくい額縁は近づいて行くたびに、ぼくでも作ることので... 劇団の人が示した人形は、頭のずっと上に「井」の形に組ま... 3 con malinconia 鈴のつぶやきがした、陰鬱なオッコンと、モーツァルトの高... 男は窓際の席に座った。少々射し込む光が窓枠を机に焼き付... 男は、滑らかな動作で煙草を取り出し火をつけた。吸って吐... 「注文は。お決まりで……」 「私たちの国では、色を鉱物で言い表すんです」 どうやら小さないきちがいがあったようだ、念押しにもう一... 「注文は。」 「実に合理的ですよ、色の誤解というのがない、美妙で微妙な... 閉口して「ですから……」いきちがい。 「空は、君たちの言葉で言うと、灰色と青色を三と一の割合で... 肝心の未知の言語は、母国語を紹介する際の邪魔な流暢さで... すると、男はぼくの表情を読んだのだろう、言葉なしの相互... 「三方向を山に囲まれ、海から陸に吹く恒常的な風のせいで雲... 私たちの国はね、そのときぼくは「私たちの国<「国」に傍... 「これは、いい曲ですね」 ピアノ協奏曲は、ピアノの独奏部分に差し掛かっていた。音... 時として、因果のうち原因が何かをとんと推測できないだな... 「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、神童モーツァ... 男は黙っていた……「誰かを黙らせたからと言って、納得させ... 音楽は止まった、そりゃ音楽は無限ではない。雨とおんなじ... 「次はピアソラをかけようと思うんです、アストル・ピアソラ... 石油の重さを感じるレコードを取り替えてかけた。「ル・グ... 静けさが川となって流れて行く、ぼくたちを埋めて行く、川... 男はぼくの方を向かずに口をぱくぱくとさせていた、酸素は... 「バイオリンやらチェロやら弦楽器というのは、緊張なんです... 流石にぼくも不安になってしまって、「ぼくたちの言葉とあ... 男はこの香辛料の港町の色と祖国のそれぞれの辞典を見せて... 「細かい註には、各国の言語の成長過程や神話にも注意を払っ... ぼくの読むものではない。男の胸では、見るともちろん、培... 「この曲、音の配置が『グランド・ジャット島の日曜日の午後... 男は立ち上がってぼくに一瞥もくれず何も言わずオッコンを... 「またの御来店を、お客様」 男が完全に店を出ていってから、ぼくは恭しく頭を下げた、... 4 con allegrezza 「さあ、劇の第二幕ですよ、席にお戻りなさい」 ぼくはびっくりしてぱっ、と振り返ると、先生が立っていた。 言いつけ通り、一人分空いたてらてら光る木の板の上に座る... 5 lamentabile オッコンに客は来ない、が、時折、意味のわからない客が招... ある日宝石商が来た、だから「宝石なんてそこらの石なんだ... 潮風は香辛料と魚の腐った臭いを運び、ぼくらは糸と針で縫... 感情の高層建築は、自然の怒りを買いやすく、また高い重心... 暗い部屋に戻ってからの沈鬱な空気は、どぐろを巻いて流れ... 「グランド・ジャット島の日曜日の午後」? 「神童ヴォル... ピアノがどうかしたって? 青臭さ全面の熟れる前のバナナ... 6 con bravura 第二幕でも同じようにキョエーが登場した。土色、砂場で転... サングラスの劇団員の人が額の裏から出てきてお辞儀をした。... ぼくはまた舞台の方に近づいていった。 「キョエーをよく見せてくれませんか」 吐く息吸う息ぎっとんぎっとん上下する。緊張しているんだ... 「いっ」 劇団員の人は、キョエーは、いきなりぼくの腕を掴んだ。掴... 「どうして、離してくださいよ」 「痛いのかい」 素敵に言えばソーダ水の声、悪く言えば冷蔵庫の氷の声だっ... まとわりつく茶色とぼくの薄橙の境界が混じり合ってしまい... そりゃそうじゃないですか、誰だって掴まれたら痛いですよ... 7 con melancolia ぼくは、ぼく自身が「この程度のこと」で処理能力を一杯に... オッコンは相も変わらず辛気臭い気ぶっせいな体内で存在し... うるさい鈴の音がしたためそちらを向くと、あまりの勢いの... 「ご注文は、お決まりで」 「ピアノはありますか」 ぼくは壁に立て掛けられ、黒色が禿げ上がって原料を露出し... 「調律なんてめちゃくちゃですよ、騒音の母親にしかなれない... 男は少し笑う、口が自然と上下に開き、けもののような位置... 「調律なんてどうでもいいんです、たいがいは個性の範囲です... こちらを覗き込んでくるような目を向けてきたので、すっと... 男はゆっくり立ち上がりピアノの前に座ると、こちらも向か... 「彼女を追ってこの街にやって来たんですけれど、もう三年に... それはなんとも能動的で、と言いたくなった。が、そう言っ... 「あなたは何も分かっていない。あなたの好きなレコードは誰... 独り言のようであったので、喫茶店がここまで静寂でないと... 「……いや知りませんね」「恥ずかしながら」 は・ず・か・し・な・が・ら、気付かぬうちに息を込めて発... 「いじわるな試験でした」「別に知らなくて良い。しかしあな... 男は目を見開き満月にして、口元に手を当てた。 「だったらどうだって言うんです」 「(市販の種には発芽率というのが書いてある……)」「街中で... 「……」 「対等だということです、ありのままということです、座席と... そして男は続けて「あなたのキョエーは何センチで?」 早く終わってくれないだろうか、あちこちの壁面(冷たい鉄... 「ぼくには、キョエーはいないんですよ」 「あなた……」 今まで見下す目玉の色を何重にも重ねられている、知ってい... 「そこまで生活に無様な敬意を払っているというのに、キョエ... 「じゃあどうすればいいか知っているんですか、提示によって... 「ありのままと言っているじゃないですか。あなたは豪華な会... 「いいや、あなたの方が豪華な会話をしているんだな」ぼくは... 「正直に言うと、ぼくも完全にぼくのキョエーを撲滅できてい... 「あなたの目的は」 「懐中時計の中から……ガムを取り除いでいる……」「もっと早く... 男は立ち上がり、ふらふらと出口に向かって行く。ぼくは背... 8 pietoso 劇団員の人に連れられて、見えなくされていた額の上を裏か... 「ご覧、人形たちは全部機械で動かされていた。キョエーはぼ... 指さされた方を見ると、なるほど「井」の形の木枠がはまる... 「人形たちは動かされていることを知らない。この劇をみる君... 「キョエーに食べられるんですね」 劇団員の人は満足そうに笑っていた、尖った歯が二本ちらっ... 9 lamentoso 朝は大抵気分が良い。夜寝る前がいちばん悪い。だから、ぼ... だからぼくが扉を開け暗い部屋を飛び出すときは相当いかれ... 10 pietoso 「小学校ひと学年合わせても、興味を持ってくれるのは一人い... ぼくはへえ、と返事した。「なんでなんでしょう」 「燃えつきた地図を持って、知っている住宅街の燃えつきた地... よくわからなかったのでぼくは静かに考えを巡らせる。 「焚き火にくべたのはこいつさ」 劇団員の人はだらりとしたキョエーの手袋をぶらぶら目の前... 「しかも、こいつらが歩かせているんだ、ところで君、『ゾン... 11 agitato ぼくは病院の前に立っていた。病院なんて嫌いだ、病院内と... 待合に座って待って、文庫本でも取り出そうとするとぼくの名... 向かい合う黒い帽子の椅子と、白衣を着た医者、机に広がっ... どうされました、と聞いてくる。自動音声にでもすれば良い... 「ぼくにキョエーがいるかを検査してほしいのです」 医者は、ぼくの胸のあたりを何度か摩る。聴診器を当てる、... 「うん、キョエーはいますよ、立派なやつです」 ぼくにキョエーがいる? 「長さは、体長は」 「……二七.五センチメートル」 「どうして見逃していたんでしょう」 「なに、よくあることですよ、何かのストレスから逃れるため... 目の前にいる、少し物知りだからとせこせこ金をむしる老人... 「なんだ、ぼくにはそんな立派なキョエーがいるのか、あっ、... 12 campriccioso 「散歩は好きかい」 「……ええ、好きですよ」 「なら上等だ」 ぼくは劇団員の人の真意はよくわからなかったけれど、とに... 13 appassionato ぼくは石畳を踏みつけ大股で堂々闊歩する。定食屋の扉を掴... 「なんでもいいんだ、とにかく食わせてくれ」適当に席に着き... それでも従業員は不安そうだ。ぼくは財布を取り出して、銅... 「腹が減っているときはどんな生き物でも短気になるもんです... 次々に湯気がふらふら揺れる皿に乗った料理が運ばれてくる... 歯を大切に、顎の調子はどうだ、まだ食べなくてはならない... 消化に気を使ってやらないと脾臓が文句を言う、だからゆっ... 「おお……!」 思わず声を出してしまう閾値を超えさせてしまうような魅力... 「ははは、どうかな、ぼくはこのアパートメントに住んでいる... 「ぼくもう疲れているのかなあ、こんなに荘厳、荘厳な、アパ... 「あはは、頭を地面に打ち付けてご覧よ、地球というのは柔ら... たくさんの曲線が踊っている重い扉を開ける。おお、電球の... 廊下の電話をとって「すみませんが、部屋の内装を請け負う... 迅速に改築は進む、ぜんまい仕掛けの機構も一旦始まれば止... ぼくは新品の豪勢なベッドで眠る。見た夢は宝石、不幸なこ... 14 tempetoso 目覚めは良好、睡眠の調子にうまく合わせることができたよ... 胸あたりの皮膚が熱くなりひび割れて行く。ぼくの中からぼ... はやる気持ちはぼくたちの二枚の翅を動かす生化学的なエネ... ぼくの一部が注入された人々はぼくと同じように内側からの... ぼくはキョエーと手と手を取り合って、ぼくたちの舞踏曲で... キョエー、これでいいんですね、全てを、全てを。ぼくの身... 15 pietoso 小さな構成成分の命を持つ雲に、街中が包まれた。 ある男の元に一匹の蝶が留まる、香水やシャンデリア、一等... 「泣いてしまいそうだ」 男は消え入る声でつぶやいたが、人だった皮が散乱する中で... 蝶が飛んでいる、蝶が、飛んでいる。 終了行: [[活動/霧雨]] **キョエー舞踏曲 [#q7f181ef] 鮎川つくる 円を切ってご覧 反らして繋いでご覧 ご覧、内と外が入れ替わった 1 elegante ぼくは子供の頃見た劇団の、作り込まれた都市で黒い喉奥を... キョエーの色から、ぼくはそのとき人は土に還るといった類... なにもかも不確かかもしれないという気持ちが支配的な心情... 机、ぼくの狭い部屋の多くを占め、傍らに人がいないが若く... おっと窓を忘れていた、黒い縁取りで縦長の窓、北向きだか... 椅子を机の下に押しやって窓辺に向かうと、空以外のあれこ... このぼくの住む香辛料で隠された塩漬けされゆっくりと有用... 結局、容器をまとってしまわないと外も歩くことができない... 時計に目をやると、体内時計が今日も正確で、脳のしわ一つ... ぼくの暗い部屋の出入り口に立ち塞がる扉を開けると、使用... 暗い部屋、薄暗い廊下、少し開けて外の光が輪郭を投げかけ... 突然の怒りに靴の先を玄関階段に埋め込もうとした。大きく... 素晴らしい晴れた朝だというのに擦れ違う人々は雨だか晴れ... ぼくは歩いていた、しかし全く思っていなかった、自然に足は... 擦れ違うときに使い慣れた足の動かし方を間違えてしまって... 「失礼。ぼくには二本の足は多すぎるらしい」ぼくはできるだ... 「君、キョエーは……、」 男の温かな胸の中でこちらに向かって全人類に向けられた歓... 朝は素晴らしいんだ、本当はこんな港街で過ごすのではなく... 煉瓦でできた近代ビルの殻に陥没した陰気な喫茶店――オッコ... コーヒーの香り、コーヒーは豆だ、豆の何がいい、紅茶だろ... 主人が起きてくるまでに、たとえ起きても滅多に出てこない... 2 comodo 「ねえ、先生、どうやって人形を動かしていたんでしょう」幕... ぼくはどうして生き物以外がああも細かく動くのかが理解で... 先生は、劇団の人に聞いてごらんなさい、と答えたが、ぼく... 「あの……」 部屋の中なのにサングラスをかけている、ぼくからいちばん... 見にくい額縁は近づいて行くたびに、ぼくでも作ることので... 劇団の人が示した人形は、頭のずっと上に「井」の形に組ま... 3 con malinconia 鈴のつぶやきがした、陰鬱なオッコンと、モーツァルトの高... 男は窓際の席に座った。少々射し込む光が窓枠を机に焼き付... 男は、滑らかな動作で煙草を取り出し火をつけた。吸って吐... 「注文は。お決まりで……」 「私たちの国では、色を鉱物で言い表すんです」 どうやら小さないきちがいがあったようだ、念押しにもう一... 「注文は。」 「実に合理的ですよ、色の誤解というのがない、美妙で微妙な... 閉口して「ですから……」いきちがい。 「空は、君たちの言葉で言うと、灰色と青色を三と一の割合で... 肝心の未知の言語は、母国語を紹介する際の邪魔な流暢さで... すると、男はぼくの表情を読んだのだろう、言葉なしの相互... 「三方向を山に囲まれ、海から陸に吹く恒常的な風のせいで雲... 私たちの国はね、そのときぼくは「私たちの国<「国」に傍... 「これは、いい曲ですね」 ピアノ協奏曲は、ピアノの独奏部分に差し掛かっていた。音... 時として、因果のうち原因が何かをとんと推測できないだな... 「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、神童モーツァ... 男は黙っていた……「誰かを黙らせたからと言って、納得させ... 音楽は止まった、そりゃ音楽は無限ではない。雨とおんなじ... 「次はピアソラをかけようと思うんです、アストル・ピアソラ... 石油の重さを感じるレコードを取り替えてかけた。「ル・グ... 静けさが川となって流れて行く、ぼくたちを埋めて行く、川... 男はぼくの方を向かずに口をぱくぱくとさせていた、酸素は... 「バイオリンやらチェロやら弦楽器というのは、緊張なんです... 流石にぼくも不安になってしまって、「ぼくたちの言葉とあ... 男はこの香辛料の港町の色と祖国のそれぞれの辞典を見せて... 「細かい註には、各国の言語の成長過程や神話にも注意を払っ... ぼくの読むものではない。男の胸では、見るともちろん、培... 「この曲、音の配置が『グランド・ジャット島の日曜日の午後... 男は立ち上がってぼくに一瞥もくれず何も言わずオッコンを... 「またの御来店を、お客様」 男が完全に店を出ていってから、ぼくは恭しく頭を下げた、... 4 con allegrezza 「さあ、劇の第二幕ですよ、席にお戻りなさい」 ぼくはびっくりしてぱっ、と振り返ると、先生が立っていた。 言いつけ通り、一人分空いたてらてら光る木の板の上に座る... 5 lamentabile オッコンに客は来ない、が、時折、意味のわからない客が招... ある日宝石商が来た、だから「宝石なんてそこらの石なんだ... 潮風は香辛料と魚の腐った臭いを運び、ぼくらは糸と針で縫... 感情の高層建築は、自然の怒りを買いやすく、また高い重心... 暗い部屋に戻ってからの沈鬱な空気は、どぐろを巻いて流れ... 「グランド・ジャット島の日曜日の午後」? 「神童ヴォル... ピアノがどうかしたって? 青臭さ全面の熟れる前のバナナ... 6 con bravura 第二幕でも同じようにキョエーが登場した。土色、砂場で転... サングラスの劇団員の人が額の裏から出てきてお辞儀をした。... ぼくはまた舞台の方に近づいていった。 「キョエーをよく見せてくれませんか」 吐く息吸う息ぎっとんぎっとん上下する。緊張しているんだ... 「いっ」 劇団員の人は、キョエーは、いきなりぼくの腕を掴んだ。掴... 「どうして、離してくださいよ」 「痛いのかい」 素敵に言えばソーダ水の声、悪く言えば冷蔵庫の氷の声だっ... まとわりつく茶色とぼくの薄橙の境界が混じり合ってしまい... そりゃそうじゃないですか、誰だって掴まれたら痛いですよ... 7 con melancolia ぼくは、ぼく自身が「この程度のこと」で処理能力を一杯に... オッコンは相も変わらず辛気臭い気ぶっせいな体内で存在し... うるさい鈴の音がしたためそちらを向くと、あまりの勢いの... 「ご注文は、お決まりで」 「ピアノはありますか」 ぼくは壁に立て掛けられ、黒色が禿げ上がって原料を露出し... 「調律なんてめちゃくちゃですよ、騒音の母親にしかなれない... 男は少し笑う、口が自然と上下に開き、けもののような位置... 「調律なんてどうでもいいんです、たいがいは個性の範囲です... こちらを覗き込んでくるような目を向けてきたので、すっと... 男はゆっくり立ち上がりピアノの前に座ると、こちらも向か... 「彼女を追ってこの街にやって来たんですけれど、もう三年に... それはなんとも能動的で、と言いたくなった。が、そう言っ... 「あなたは何も分かっていない。あなたの好きなレコードは誰... 独り言のようであったので、喫茶店がここまで静寂でないと... 「……いや知りませんね」「恥ずかしながら」 は・ず・か・し・な・が・ら、気付かぬうちに息を込めて発... 「いじわるな試験でした」「別に知らなくて良い。しかしあな... 男は目を見開き満月にして、口元に手を当てた。 「だったらどうだって言うんです」 「(市販の種には発芽率というのが書いてある……)」「街中で... 「……」 「対等だということです、ありのままということです、座席と... そして男は続けて「あなたのキョエーは何センチで?」 早く終わってくれないだろうか、あちこちの壁面(冷たい鉄... 「ぼくには、キョエーはいないんですよ」 「あなた……」 今まで見下す目玉の色を何重にも重ねられている、知ってい... 「そこまで生活に無様な敬意を払っているというのに、キョエ... 「じゃあどうすればいいか知っているんですか、提示によって... 「ありのままと言っているじゃないですか。あなたは豪華な会... 「いいや、あなたの方が豪華な会話をしているんだな」ぼくは... 「正直に言うと、ぼくも完全にぼくのキョエーを撲滅できてい... 「あなたの目的は」 「懐中時計の中から……ガムを取り除いでいる……」「もっと早く... 男は立ち上がり、ふらふらと出口に向かって行く。ぼくは背... 8 pietoso 劇団員の人に連れられて、見えなくされていた額の上を裏か... 「ご覧、人形たちは全部機械で動かされていた。キョエーはぼ... 指さされた方を見ると、なるほど「井」の形の木枠がはまる... 「人形たちは動かされていることを知らない。この劇をみる君... 「キョエーに食べられるんですね」 劇団員の人は満足そうに笑っていた、尖った歯が二本ちらっ... 9 lamentoso 朝は大抵気分が良い。夜寝る前がいちばん悪い。だから、ぼ... だからぼくが扉を開け暗い部屋を飛び出すときは相当いかれ... 10 pietoso 「小学校ひと学年合わせても、興味を持ってくれるのは一人い... ぼくはへえ、と返事した。「なんでなんでしょう」 「燃えつきた地図を持って、知っている住宅街の燃えつきた地... よくわからなかったのでぼくは静かに考えを巡らせる。 「焚き火にくべたのはこいつさ」 劇団員の人はだらりとしたキョエーの手袋をぶらぶら目の前... 「しかも、こいつらが歩かせているんだ、ところで君、『ゾン... 11 agitato ぼくは病院の前に立っていた。病院なんて嫌いだ、病院内と... 待合に座って待って、文庫本でも取り出そうとするとぼくの名... 向かい合う黒い帽子の椅子と、白衣を着た医者、机に広がっ... どうされました、と聞いてくる。自動音声にでもすれば良い... 「ぼくにキョエーがいるかを検査してほしいのです」 医者は、ぼくの胸のあたりを何度か摩る。聴診器を当てる、... 「うん、キョエーはいますよ、立派なやつです」 ぼくにキョエーがいる? 「長さは、体長は」 「……二七.五センチメートル」 「どうして見逃していたんでしょう」 「なに、よくあることですよ、何かのストレスから逃れるため... 目の前にいる、少し物知りだからとせこせこ金をむしる老人... 「なんだ、ぼくにはそんな立派なキョエーがいるのか、あっ、... 12 campriccioso 「散歩は好きかい」 「……ええ、好きですよ」 「なら上等だ」 ぼくは劇団員の人の真意はよくわからなかったけれど、とに... 13 appassionato ぼくは石畳を踏みつけ大股で堂々闊歩する。定食屋の扉を掴... 「なんでもいいんだ、とにかく食わせてくれ」適当に席に着き... それでも従業員は不安そうだ。ぼくは財布を取り出して、銅... 「腹が減っているときはどんな生き物でも短気になるもんです... 次々に湯気がふらふら揺れる皿に乗った料理が運ばれてくる... 歯を大切に、顎の調子はどうだ、まだ食べなくてはならない... 消化に気を使ってやらないと脾臓が文句を言う、だからゆっ... 「おお……!」 思わず声を出してしまう閾値を超えさせてしまうような魅力... 「ははは、どうかな、ぼくはこのアパートメントに住んでいる... 「ぼくもう疲れているのかなあ、こんなに荘厳、荘厳な、アパ... 「あはは、頭を地面に打ち付けてご覧よ、地球というのは柔ら... たくさんの曲線が踊っている重い扉を開ける。おお、電球の... 廊下の電話をとって「すみませんが、部屋の内装を請け負う... 迅速に改築は進む、ぜんまい仕掛けの機構も一旦始まれば止... ぼくは新品の豪勢なベッドで眠る。見た夢は宝石、不幸なこ... 14 tempetoso 目覚めは良好、睡眠の調子にうまく合わせることができたよ... 胸あたりの皮膚が熱くなりひび割れて行く。ぼくの中からぼ... はやる気持ちはぼくたちの二枚の翅を動かす生化学的なエネ... ぼくの一部が注入された人々はぼくと同じように内側からの... ぼくはキョエーと手と手を取り合って、ぼくたちの舞踏曲で... キョエー、これでいいんですね、全てを、全てを。ぼくの身... 15 pietoso 小さな構成成分の命を持つ雲に、街中が包まれた。 ある男の元に一匹の蝶が留まる、香水やシャンデリア、一等... 「泣いてしまいそうだ」 男は消え入る声でつぶやいたが、人だった皮が散乱する中で... 蝶が飛んでいる、蝶が、飛んでいる。 ページ名: