開始行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第6章 幕引き [#pa3ffe62] 雨の降るアスファルトの道路で、僕らは戦闘を続行する。 「うぉお!」 ジャベリンの投擲。彼の隣に立つツインブレイドも、己の得... 目標は一人だ。飛来した槍を半身で躱すが、回転刃は空中で... 「かかった!」 その右腕が絡め取られる。伸びた鎖のもう反対側を握り、ツ... 「応!」 そして敵の両サイドから現れる二人――ロックとアイアンロッ... 身を沈めてそれを避けようとする敵だが、腕にかけられた鎖が... 「かはっ」 口から息を吐きだし、敵は前方へつんのめった。だが、やは... なんらかの能力を使ったのだろう。敵の右腕は拘束を脱し、... そして、始まる一対一のやり取り。手数、速さ、力強さ。す... その体が揺らいだかと思うと、何か大きな力に引っ張られて... 「ちょっと、これは一体――」 余計なことを喋らせる暇は与えない。火炎放射。アスファル... 「やったか?」 炎がおさまり、陽炎の中から人型が姿を現す。全身真っ黒。... 「クソッ 俺たち全員の能力を使えるんだったな」 アスファルトの鎧をまとったレジスターがそこに立っていた。 「説明してもらえるかしら。何故こんなことをしたのか」 怒り、驚き。そうした感情の下に押し固められた深い悲しみ... そう、これは数時間前にさかのぼる。 ナイトメアキャストとの戦闘から三日後。この日、僕はエリ... 「今度のターゲットはネオシフターズ――最近この辺りで幅を利... 「それも、あなたの言う『領分』からの行動ですか?」 問いかけそれ自体に意味はない。次の言葉を導くためだ。 「まあ、はっきり言っちまうと、今回はあまり関係ないかもな... 「では、その仕事は一人でお願いします。受けるわけにはいき... もとよりエリック一人に任された仕事だ。僕がいなければな... 「……わかった」 特に粘ることもなく、エリックは引き下がった。仕事を行う... 「あの、話があります」 隙間が寂しさを呼び起こす、無駄に広いアジト。スペースを... 「話だぁ?」 文句をつけようとするジャベリンをロックが手で制止した。 「何の話だ?」 「エリックがいない今だからこそ言える話です」 「だからなんだって聞いてるんだよ!」 吠えるジャベリンとロックが抑える。よし、いいぞ。他のメ... 「レジスターの裏切りについてです」 「裏切りぃ!」 まっさきに食いついたのはアイアンロッドだった。胸倉をつ... 「お前それどういうことだ? あの女何しやがった?」 微塵も疑っているようには見えない。いや、むしろこれが彼... 「ええと。話します。話しますから」 「ああ。悪い」 そうだ。この話は全員に聞かせないとダメだ。 「レジスターは僕らを裏切りました。自身が助かるため、僕を... 「はあ? どういうことだよ。なんでエースが関係してくるん... 口を挟むジャベリン。今度はロックも、制止しようとはしな... 「僕は、エースに狙われています。正確には、僕の戦闘プログ... 「自身の戦闘プログラムが敵の手に渡る前になんとか回収する... ロックが呟く。 「はい。僕はまだ戦闘プログラムを渡していません。しかし、... 「あの女、俺たちをエースに売って、自分だけ逃げるつもりで... 「許せねえ」 口々にののしり始めるストレイドッグのメンバーたち。やは... 「待てよ。証拠はあるのか?」 さっきまでとは打って変わって、アイアンロッドが慎重に切... 「証拠?」 「そうだ。レジスターが俺たちを裏切ったという証拠だ。俺は... なるほど。用心深い。ここが正念場だ。彼やロックに気取ら... 「ええ。これはレジスターの会話を盗み聞きしたものです」 戦闘プログラムから先日の会話の記録を抽出し、手を加えて... 「他の犯罪者にプログラムが渡れば、最悪能力をコピーされて... 僕がつなぎ合わせたレジスターの声に、ストレイドッグの面... 「これは……疑いの余地が無いな」 アイアンロッドの顔がいよいよ蒼白になる。いい傾向だ。 「取引まであまり時間がありません」 「ああ。それに、前々からあの女、気に入らねえと思ってたん... 手の平に拳を打ち付け、アイアンロッドが淡々と話す。 「お前ら、準備しろ。あの女が取引先から返ってきたら、速攻... ――そして今、僕はここにいる。レジスターを打倒し、ストレイ... * 「そろそろだな」 敵のアジトは街のど真ん中にあった。大規模なショッピング... 喫茶店で時間を潰すこと数時間。向かいにあるショッピング... 「行くか」 勘定を払い、何気ない風を装って、道路を渡った先の、搬入... 「ふう」 なんとかなったな。警報は鳴っていない。積み上げられた荷... 「落ち着け」 何をナイーブになっているんだ? たかだか人間を数人殺す... チャーリーのことで少し思い悩んでいるせいだ。 階段を降り、扉に手をかける。 大丈夫、何も問題は―― 「ようこそわがサーカスへ!」 突然の大音響。赤白黄色の原色で飾り付けられた、ド派手な... 「なっ……!」 そこは人の出払った閑静な事務所ではない。そこは…… 「なんだと?」 サーカスのテントのように、にぎやかな様相を呈していた。 「こいつは一体どういうことだ?」 大玉に乗っている奴。ジャグリングをしている奴。即席で作... 「依頼を受けたのですよ。ここに一人能力者が来るので、始末... ジャグラーから発せられる明るく、芝居がかった声。トーン... 「依頼だと……?」 「ええ。そして、見る限り、あなたがその能力者の様ですね」 ジャグラーの手から手へと渡りゆくのは、十本あまりの小型... 「襲撃がばれていたのか?」 ここにいるクラウンのメイクをしたガキどもは、明らかに能... 壇上の依頼者、ネオシフターズのボスは黙して語らない。ク... 「それでは、ショーの開幕ですね」 狼狽する俺を余所に、ジャグリングされていたナイフが三本... * 「終わりだ!」 ラストステップがレジスターへと踏み込む。彼が立つのは彼... 「くっ!」 ラストステップのサーベルを避けるため、たたらを踏んだレ... 「おらっ!」 続くラストステップの追撃。レジスターは身を屈め、地面を... 「ぐへっ!」 そして、手痛い反撃。一対一ならレジスターの方が実力は上... 「もらった!」 結界の外から飛んでくるツインブレードの鎖鎌。斬撃は巧み... しかし、これは予想されていたようだ。拘束された彼女の腕... だが、このやり取りは致命的な隙だ。体勢を取り戻す間もな... 「はっ!」 倒立の姿勢。体に槍が突き刺さるよりも先に、レジスターは... 支えや勢いを殺してくれる者はない。勝った―― ――しかし、勝利を確信した僕らの前で彼女は予想外の動きを見... 「あれは!」 エリックの能力。手から流れ出た蝋が、手の平と地面をがっ... 「ぐあっ」 この予想外の反撃に、ラストステップは対応できない。結界... 「まずい!」 即座にカバーに向かうペトロメイル。ダメだ。間に合わない... 「あぐっ」 ペトロメイルが射線上に入った時には、既に攻撃は終わって... 沈黙。その場にいた全員の顔から、血の気が引いた。 「こ、これでもう、後戻りはできなくなった」 何より動揺しているのは、投槍を放った本人だ。一瞬その... 「まだ終わってない! 行くぞ!」 作り出した火球を投擲。ラストステップはもういない。爆風... 「うぉおおお!」 爆風の晴れた中に向かい、三人が駆け寄る。ロック。ペトロ... 「ぐはっ」 「くそっ」 はじき出される人影二人。鎧の強度を生かして、レジスター... そして、打ち合いが始まる。残ったのはロックだ。ストレイ... 徐々に鎧にヒビが入り始める。ロックが打ち勝っているのだ... 鎧で三人が弾き飛ばされれば、同士討ちの心配もない。三人... 「今だ……えっ!」 確かに、彼女は鎧を弾き飛ばした。だが、他三人が、それに... 「エリックの……」 液状化した蝋を流し込み、足元に広がった状態で能力を解除... 「クソッ……」 グロッキー状態からいち早く回復したアイアンロッドが、振... 「これは、あなたの仕業ね。フレイムスロアー」 目に涙をためて問いかけるレジスター。答える義理はない。... 「あの取引――」 これ以上口をきかれるとまずい。十分な距離とは言えなかっ... 「くっ」 しかし、相手の動きは素早い。攻撃範囲からたやすく逃れ、... る。 「クソッ!」 次いで、逆の手で攻撃。ダメだ。今度は逆に、近すぎて狙い... 「ぐあっ!」 首元を掴まれ、背後の壁に押し付けられる。残った火球はあ... 「放しやがれ!」 僕の身を案じてか、ツインブレードとジャベリンが同時に攻... 「話してもらうわ。フレイムスロアー。あなたが何をやったの... 顔を近づけ小声で話す。そのトーンに滲むのは、深い悲しみ... 「何の話ですか?」 「ふざけないで、あなたがこの裏切りを扇動した。そうでしょ... 鋭い。 「どうしてそう思うんですか?」 まずいな。アイアンロッドたちが蝋の拘束を砕いた。この会... 「反旗を翻すとなった時に、アイアンロッドが余所者のあなた... なるほど。ストレイドッグの評判だと、組織のことを何もわ... 「今ここであなたが正直に白状すれば、まだなんとかなる。け... 「あなたが壊滅する、の間違いでは?」 「ふざけないで」 首を掴む手に力がこもる。背後からジャベリン達の攻撃が飛... 「早く言って。でなければ、あなたを殺す」 迫る三人。これ以上、時間の猶予はない。多少のダメージは覚... 「わかりました。終わりにしましょう」 僕は、足元に転がった火球の能力を解除した。 「か、はっ!」 爆風で、体が壁に押しつけられる。背後にあったレンガ造り... 「おい! 大丈夫か?」 駆け寄るアイアンロッド。ずいぶんと親しげだ。はじめにあ... 「え、ええ。レジスターはどうなりました?」 「くたばったよ」 アイアンロッドの指した先には、全身を焼かれて黒焦げにな... 「意外にきれいなもんだったぜ。とっさに顔を庇ったんだろう... 含み笑いを漏らしながら、アイアンロッドが話す。 「爆風に巻き上げられて、全身を火傷、その後地面に叩きつけ... そして、一つ大きな笑い声をあげる。 「やったぞ! これで俺たちは自由だ!」 先日の虐待されていた女性を思い出して、僕は少し胸が悪く... 「にしても、一体どうやった?」 「どうやった、とは?」 「あの女だよ。俺たち三人でもかなわなかったのに、どうやっ... ああそうか。当たり前だけど彼らはあの時かわされた会話を... 「彼女は僕の戦闘プログラムを持っていない。だから知らなか... 「なるほどな」 彼女が説得を試みていたというのが、実際は一番の要因だろ... 「それより、まだ安心はできません」 「そうだな。この女、ヘリング・エースに俺たちを売りやがっ... アイアンロッドの笑みが消えた。結局勝利の余韻なんてそん... 「ええ。ですから、こっちから逆に迎え撃ちましょう」 本当の所、エースはまだ僕らの位置を把握できてはいないは... 「どうするんだ?」 「郊外に、ちょうどいいホテルがあります。そこを占拠して、... 当然、襲えば誰かが通報を入れる。警備システムに僕の顔が... 「わかった。やろうぜ。毒を食らわば皿までだ」 ストレイドッグのメンバーを招集し、アイアンロッドは作戦... * 「クソッ!」 飛来したナイフをサーベルで叩き落とし、次に向かってくる... 十を超えるナイフの投擲を完全にはさばききれず、脛や太も... 「なんだぁ、こいつは……?」 ナイフの右側から迫るのは、経線方向にラインの走った巨大... そして、同時に放たれるジャグラーのナイフ。攻撃を捌くこ... 「させるかよ」 地面に刃を叩きつけ、蝋のサーベルを傘へと変える。ナイフ... 「今だ!」 当然、それで終わるつもりはない。もう片方のサーベルを引... 「クソ、硬い……」 ならば作戦を変えるまでだ。斬りつけていたサーベルに能力... 「うおっ!」 そしてボールは回転している。弾ころがしの勢いに持ち上げ... 「なっ!」 俺の見ている前で、弾ころがしのピエロが飛んだ。その小さ... 回転しているボールを思い切り踏みつけた。 その瞬間、俺は布一枚隔てた先、ボールの内部に何か硬いも... 「まずい!」 中に仕込まれていた無数の刃が一斉に飛び出した。 「げほっ」 幸いにして致命傷は避けることができた。一瞬早く対応でき... とはいえ、ダメージは少なくない。肋骨の間に刃が差し込ま... ダメージを確認し、追撃が来る前に体を起こしにかかる。だ... 「ん……?」 どうした、何故即座に攻撃してこない? まるで俺が気づく... 「まさか……」 パントマイム。不可視の得物はいよいよ質量を手に入れた。... 「くっ!」 振り下ろされる瞬間、俺は何とか横に転がることができた。... 「野郎……」 立ち上がり、サーベルを構え、白黒のピエロへと振り下ろす... 「クソッ!」 やはりダメだ。思い込みの力。この壁を作り出しているのは... そして、敵は三人だけではない。自転車に乗ったピエロが、... 「うわっ」 前輪が振り下ろされ、かすめた二の腕から血があふれ出す。... 「マジかよ。そのためにわざわざ戦闘プログラムを組んだのか... いかれてるぜ。こいつらを作った奴は、殺しを遊びか何かだ... 前輪が床に着くと同時に、車体が回転。今度は持ちあがった... 「うっ!」 なんとかサーベルで受け止めるが、これはまずい。客観的に... 「ちっ」 笑ってばかりもいられない。サーベルが折れるその直前に、... 「くっ!」 四足の獣、鬣をたなびかせたライオンが、その牙と爪で背中... 唸る喉、風切る爪。打ち鳴らされる鞭の音に合わせ、機械的... 「まずいな」 気が付くと、壁際まで追い込まれていた。背中に乗っている... 俺が地面に撒いていた『石鹸化された』蝋に。 これで止めとばかりに、ピエロの鞭が振るわれる。例のごと... 「あっ!」 声を漏らす背中のピエロの視線は、固形化された蝋に縫いと... 「くたばれ!」 蝋のサーベルがライオンの心臓を貫く。その主たる背中のピ... 「またか」 すんでのところで攻撃を躱す。不可視のハンマーが真後ろの... このままじゃまずい。前転から相手の追い打ちを躱し、再び... 「逃がしませんよ」 しかし、出口に向かうことは叶わない。全てのナイフを回収... 「数が増えてねえか?」 空中を回るナイフは、計二十本。そして、俺のカウントを待... 「くっ!」 同時に三本。両腕の他に足まで使って、縦にナイフが放たれ... 蝋の傘に傷跡を刻み込み、内蔵されたスプリングで、ナイフ... 「それる?」 なんだ? 嫌な予感がする。前にもこんな状況があった。デ... 「はぐっ!」 死角からの攻撃。真後ろから飛んできたナイフが、背中に深... 「が……はっ……」 どこだ? どこをやられた? 腰より少し上の辺りか? ス... 「野郎」 そのすべては、背後に目をやることで氷解した。パントマイ... 「クソ……」 どうする? さすがに両側の攻撃を捌ききる自信はない。そ... となると、進むしかないのか? しかし奴の投擲量は絶望的... 「だったら……」 俺は、蝋の盾を後ろへ――パントマイムの方へ向けた。これし... * 「いい感じじゃねえか」 ホテルの襲撃はあっけなく片が付いた。所詮は旧世代の遺産... 中にいた宿泊客を叩き出し、従業員を何人か捕まえて、施設... エースが僕を狙うのは、情報の漏えいが怖いから。間違って... ストレイドッグの面々は気づいてないけど、エースは僕のい... だからこそ、僕はこのホテルを選んだ。国道を監視する近くの... 「これならやっこんさんがどっから来てもすぐにわかるぜ」 見張りは全方位に渡っている。そして、このホテルがあるの... 「……そうかな。僕はそう思わないけど」 聞きなれた、しかしストレイドッグの誰のものでもない声。... 「エース!」 それでもやるしかない。なんとかアイアンロッドと二人、恐... 「久しぶり、チャーリー。いや、フレイムスロアーか」 まばゆい金髪。光り出しそうなほど整った歯並びに、まっす... 「元気にしていたかい?」 ヘリング・エースがそこにいた。 「手前! どこから入った! なんで、監視に気づかれてねえ... 前者は無理だけど、後者の答えは推測できる。ブリンクの能... 「うるさい犯罪者だ」 ロビーの明かりの下、見事に芝居がかったしぐさでわざとら... 「野郎!」 腰から鉄の棒を抜き、エースに向かって跳びかかる。対する... 「ちょっと黙っててくれ」 サイクロンの能力。風に吹き飛ばされたアイアンロッドは、... 「さて、フレイムスロアー。ようやく話ができるね」 「話すことなんかなにもない」 「そう構えないでくれよ。僕は敵じゃない」 その満面の笑みを前にすれば、恐らくほとんどの人が微笑み... 「奴らに何を吹き込まれた? ヒーローは敵? 搾取する者?... あくまで自然な風を装いながら、しかしエースは着実にこち... 「どっちだ? どっちを信じる? 市民を虐げ略奪する彼らか... 「あなたは、あの時来なかった」 「仕方がなかった。残念に思うよ。でも僕の体は一つしかない... 別件で行けなかった。あくまでそう言い張るわけか。 「本当に残念だ。もし僕があの場にいたら、君たちが死ぬこと... 一瞬。本当に一瞬だけ、僕はエースを信じてみたくなった。... 「本当に、信じても?」 「もちろんだ。だって、ずっとそうしてきただろう?」 「……わかりました」 近づいてくるエースを後ろ手を組んで待ち受ける。 「そうだよチャーリー。大体、僕を信じない理由があるかい?... 「あなたは――」 手の平の火球がロビーにまばゆく 「レインメーカーを殺した」 腕を振り抜き、エースの胸へと押し当てるゼロ距離の爆発。... 「したたかになったね」 まるで堪えた様子はない。ガンメタルの硬質化、そして――僕... エースに熱の攻撃は効かない。予想はしていたけれど、冷や... 「あれを見られていたのかぁ」 レインメーカーの能力。エースの手の平に水の球が形作られ... 「はっ!」 ウォーターカッター。横っ飛びに躱すことはできたけれど、... 「ぐあぁっ!」 爆発。エースは僕の能力も使える。爆弾に変えた水をまっす... そして、再び集まる水球。エースに弾切れはない。そこが僕... 「いくら火傷しない、っていっても爆風のダメージは避けよう... 既に第二弾の準備が始まっている。水球が手の中で大きさを... 「残念。苦しむ時間が増えただけのようだ」 次なる攻撃が放たれる! 「あれ?」 おかしい。水は狙いをそれ、明後日の方向へと飛んで行った。 「みんな……」 エースに組みつき狙いを逸らしたのは、近接戦闘最強のロッ... そして、エースの背後に現れる。ジャベリン、ツインブレー... 「面倒だ」 硬質化能力。アスファルトと金属化した表皮がぶつかり、ロ... 「本当に、めんどくさい」 硬質化解除。そして、放たれる二つの攻撃。ジャベリンによ... 「あれは……」 ロビーの明かりを反射して、エースの手元で何かが光る。水... もはや着弾までに一刻の猶予もなくなったその瞬間。ペトロ... 「なっ!」 崩れ落ちるアスファルト、突き刺さる投槍。鎖鎌はエースを... 「上だ!」 テレポート。ペトロメイルの拘束を逃れたためだろう。既に... 「そういうことか……」 あらかじめ水球に僕の能力で熱を閉じ込めておき、アスファ... 着地と同時に格闘戦が始まる。ロックとエースの一騎打ち。... 「クソッ!」 同士討ちの可能性を考えると、うかつに手を出すわけにはい... 長いようで短い膠着状態がいよいよ終わりを告げる。空を切... 「ぐおっ!」 吹き飛ばされたのはロックの方だ。サイクロンの能力。接近... 「させるかよ!」 割って入るのは、グロッキー状態から回復したアイアンロッ... 「やれやれ」 ため息とともに、かざした手をおろし、作り出していた火球... 爆風の後に現れるのは、無傷のエースと横たわるアイアンロ... 「ちく、しょう……」 わずかばかり息が残っていた彼の首をエースは踏みつけへし... 「さて、残り四人だね」 芝居がかったしぐさで指さし確認をするその姿を見て、僕は... * 「クソッ、こうなったら」 普段はまるでやろうともしないが、こんな状況なら話は別だ... 発動と解除を小刻みに繰り返し、指向性を持った火種が、剣... 「喰らえ!」 背後から迫るナイフを躱し、炎の刃を不可視の壁へ叩きつけ... 「だめか……」 まるでダメだ。不可視の壁は、熱の放射さえも完全に遮って... 不可視の壁には、溶けて飛び散った蝋が、べったりと張り付... 「……そういうことか」 避けきれず、ナイフが二の腕に切り傷を作る。だが、構って... パントマイムはパフォーマンスが見えていない以上発動する... なら、可能性はある。ただ蝋を貼り付けるだけでは壁を無効... 「くっ……!」 俺は迷わず左手を差し出した。手首の付け根に深々とナイフ... 「はぐっ!」 背後で上がるダメージの声。今まで一言も発さなかったモノ... 「なっ、なにぃ!」 パントマイマーの手は、煙で覆われていた。視界を塞ぐほど... 燃える物が無くなり、燃焼がおさまったその時、仲間のナイ... 「よ、よくも……!」 さすがに仲間の死は遊びだのうちに入らないらしい。ジャグ... 満身創痍。ナイフを差し込まれた関節部は、まともに動きそ... となると、この方法しかない。なんとか動く脚で、迫りくる... 四人がかり。そして俺を追うのは能力者だ。猟犬とは違う。... 「まずいな」 身を沈め、それが発動するのを静かに待つ。とりあえず、床... 「もう逃げられないぞ」 歌うような口調は鳴りを潜めている。残っているのは、静か... まだか……? 霞む視界の中、迫る四体の人影が揺れる。まだ... 「ん?」 敵の一人、猛獣使いのピエロが、異変に気づいて上を向いた... 「スプリンクラーか」 火災に備え。ネオシフターズのアジトはスプリンクラーを備... 「残念だったな。何を考えていたかは知らんが、お前のやった... 視線を上に向けると、ネオシフターズのボスが傘をさしてい... 「火は消えた。最後のあがきは、結局何も生まなかったな」 水面に足音を反響させて、ピエロ四体が歩み寄る。既に水深... 「何も生まなかった……? いいや。俺は、この瞬間を待ってた... 傍らの壁から露出するのは、施設内に電力を送る送電線。そ... 「まさか……やめろ!」 狼狽するピエロ達を余所に、俺はその先端を水面に押し当て... 鶏が絞められる時のような情けない声を上げ、いかれたサー... 「な、なんだ⁉」 怯えた声を余所に、水浸しの床を歩いて渡る。出口への道は... 「何故だ⁉ 何故お前は感電しない⁉」 とうとうここまで来た。腰を抜かしてへたり込むその男に、... 「何だ? この白い塊は?」 そうだ。予想していた以上に歩きにくい。蝋で覆われた足っ... 「蝋はな。通電しないんだよ」 種明かしと同時に、俺は男の首を刎ねた。 * 「さて、後は君一人だ。チャーリー」 ロックは死んだ。ジャベリンも、ツインブレードさえも死ん... 「くっ……」 逃げるしかない。対峙することを諦め、僕はエースに背を向... いよいよガントレットの残量が底を突きそうになった時、よ... あった。蛇口。震える手で何とかひねり、そこから流れる水... 「補充か。なるほど」 しかし、水は不意に方向を変えた。凄まじい勢いで気化して... 「エース……」 「逃げたわけじゃなかったのか。よかったよかった。追いかけ... 水の球はその手の平の上で、どんどん大きさを増していく。... 「何故ですか?」 「ん?」 今はただ話をつないで時間を稼ぐんだ。そして、注意を逸ら... 「何故、僕たちを騙していたんですか?養成所と偽り、ヒーロ... 「ふうん。よく喋るね。僕に答えてあげる義理なんかないんだ... そういいつつも、エースは乗り気だ。右手に作った最後の火... 「まあいいや。おしゃべりは嫌いじゃないし。話を聞けば、君... つながった。後は、致命的な隙をさらすのを待つだけだ。僕... 「僕がヒーローをやっているのは、ひとえに僕が恵まれた存在... 「死んだ?」 続きを促しながら、それとなくエースの位置を確認する。ち... 「十五の時、僕が始末した。利益を上げ、資産を増やすために... 正義の為と言う大義名分を掲げ、弱者を踏みつけ利用する。... 彼に父親を非難する権利は全くない。 「正義? 正義ってなんですか? 罪のない子供を攫ってきて... 「必要な犠牲だ。正義は守る力じゃない。罪人や悪を壊す力だ... 声音が変わる。いつもの柔らかく親しげな口調から、堅い一... 「考えてもみなよ。僕は市民の最後の砦だ。万が一僕が死んじ... 端役だから、死んでもいい。彼の言う高貴な振る舞いなんて... 「ああ、それで、理由だっけ。なんで、記憶を弄ったのかって... また、いつもの――仮面をかぶった口調が戻ってきた。 「高貴な者は、高貴な振る舞いを。ヒーローに品性が無ければ... 「だから、記憶を弄ったんですか? 偽りの記憶を、偽りの使... 結局は全て、自分本位。アカデミーズとしてふさわしい振る... 「それ以外に、深い理由はないさ。しいて言うなら、こうして... レインメーカーは、最後までエースを信頼していた。そして... 「さて、話は以上。おしゃべりは終わりだ。満足して逝きなよ... やっぱり、こいつは殺さないとダメだ。勝利の余韻を楽しみ... 「喰らえ!」 エースの攻撃よりも先に、僕は最後の火球を投げつけた。狙... 「うわっ! なんだこれ、小麦粉かい?」 爆破の衝撃をやり過ごしたエースが、こともなげにつぶやく... 僕は再び能力を解除した。 「えっ?」 二度目の爆発。エースの手元にあった水の球が、はじけ飛ぶ... ――粉塵爆発を引き起こす。 「ぐぁっ! がっ! はあ!」 爆風に体を吹き飛ばされて、ステンレスのテーブルや機材に... 「ははっ、なるほど」 直立する人影。煙を割いて現れるエースは、傷一つ追ってい... 「粉塵爆発か。面白いね。熱を無効化する君なら、近くで喰ら... 「レインメーカーの能力だ。お前のじゃない」 我慢できなくなって、止める間もなく言ってしまっていた。 「ふうん。まあ、与えたのは僕だ。奪ったのも僕。君たちは、... そう言いながら歩くエースの服は、ところどころ焦げた小麦... 「でも、まあ。予想外だったよ。ここまで成長するとはね。君... その口調は至って平坦な物だけど、そこに静かな怒りが混じ... 「素晴らしい戦闘プログラムだ。評価するよ『フレイムスロア... とうとう目の前に来た。腰を落として座り込んでいる僕の目... 「僕の服にシミを作ったことは許し難い」 顔面に衝撃が走り、首が九十度真横を向く。一瞬、何をされ... 「こんな恰好でヒーローをやれって? まったく。手間を取ら... 淡々と語る言葉と共に、踵やつま先が体に叩き込まれていく。 「大体、ここまで来るのだって手間だったんだ。貴重な僕の時... 腹部への衝撃。やられたのはどこだ? 何か袋が破れたよう... 「カメラ調べたり、情報屋を使ったり、ただじゃないんだよ!... 語気と共に勢いが増していく。最後の蹴りを放った時になる... 「はあ。少し休もうか。あと十発は蹴りを入れてやらないと気... きっと、我慢や忍耐とは縁がない人間なんだろう。もうろう... 「さて、覚悟は……な⁉」 エースの体が揺らぐ。ようやく。ようやく効いてきたのか。... 「な、なんだ?」 困惑した表情で、エースは膝をついた。あれだけ激しい運動... 震える腕で体を持ち上げ、腹這いの姿勢からゆっくり身を起... 「動けない」 あの時、まるで見えていなかったけど、ライブジャックの子... 「や、やめろ!」 脳にも血が回ってないのか、能力で妨害されることもなかっ... 「なんだ? これは? 何故動けない⁉」 「一酸化炭素中毒。成長性がないとあなたが切り捨てた能力の... 拳を握る。ガントレットに水はない。止めを刺すことができ... 「さようなら」 僕はその頭蓋に向かって、拳を縦に振り下ろした。 * 「なんだ……これは……」 満身創痍の体に鞭打ってアジトに戻ってきた俺を待ち受けて... 「襲撃か?」 レジスターのオフィスは、ガラスが割れ、書類が散り、本棚... もっともレジスターもこれを使えるので、実際に戦闘に参加... 「あるいは、両方という可能性もある」 そして、壁に穿たれた大きな穴。戦闘は外まで続いているよ... 「襲ってきたのはどこのどいつだ?」 金庫やPC周りが意図的に荒らされた形跡はない。物取り目的... 「まあいい」 壁に空けられた穴から外に出て、戦闘の跡を追跡する。ほど... 「これが、今回の襲撃者か……」 人影は一つだけ。恐らく敵の物だろう。仮にレジスターがやら... ――だが、近づくにつれて、嫌な予感がどんどん増していった。... 「ラストステップ……!」 胸に穴をうがたれたその有様を見た瞬間、背筋に悪寒が走っ... 「あれは?」 すこし離れた地点思い切り穴の空いたレンガの壁の傍らに、... 「嘘だ……」 遠目では、その姿をはっきりと捉えることはできない。炎に... 「そんなはずはない」 それでも、いよいよ足は言うことを聞かなくなってきた。嫌... 「クソッ」 このまま足を止めることができれば、どれだけよかったか――... アドレナリンが引いていき、痛みと共に、明確な意志が戻っ... 「……畜生」 その時発せられた理性ある言葉は、これが限界だった。レジ... 「誰だ……?」 絶叫はいつまでも続かなかった。体は正直だ。のどの痛みが... 「誰だ? 誰がやった? 見つけ出して殺してやる。この手で... そのためには? そのためにはどうすればいい? 監視カメ... のろのろと来た道を引き返し、アジトに戻ってPCを立ち上げ... 「クソッ! パスワードだと?」 それを知る術は残されていない。教えてくれるであろうレジ... 「アイツがいた」 俺は連絡を取り、奴の到着を待つ間、応急手当と蝋の補充を... 「起きてください」 どうやら眠り込んでいてしまっていたようだ。肩を揺さぶり... 「バイナリィ……やっと来たか」 プレディクトの子飼い能力者、バイナリィ。基地からIMAGNAS... 「ひどい、有様ですね。信じがたい。いや信じたくないと言っ... 「ああ。だから、こいつをやった犯人を見つけるんだ。パソコ... 「もう、終わっていますよ」 そう語るバイナリィは蒼白な顔をしていた。 「どうした? 顔色が悪いぞ? 敵はそんなにヤバイ奴なのか... 「ご自分で確認されるのが一番かと」 バイナリィがモニターをこちらに向ける。襲撃直前の時点に... 「なっ……!」 この時俺は、自分が何をしてしまったのかを、如何に愚かな... オフィスの壁が割れ、戦闘が外へ流れ行く。 「もういい。もう十分だ」 動悸が止まらない。ああ。クソ。アイアンロッドが正しかっ... 「助けるんじゃなかった……」 「襲撃者はあなたの仲間、そういうことですね。以前見受けら... 「もういい。黙っててくれ」 フレイムスロアーがレジスターを裏切った。それは変えよう... 「決着をつけてやる。奴がどこに行ったか分かるか?」 バイナリィは無言で割れたテレビをつけた。ノイズまみれの... 「あなたの仲間はライブ中継されていました。ヘリング・エー... アイアンロッドがホテルを占拠している姿が映っていた。現... 「場所は分かった。俺一人で行く」 「その傷で、ですか?」 確かに。時間経過と睡眠で多少マシになったとはいえ。やは... 「それでも、行かなきゃならないんだよ」 「では、私が送りましょう。車くらい運転できます」 いやに親身な言い方だ。何か裏があるのか? 「なあ、お前は部外者だ。何もここまで関わる必要はない」 「勝手な人ですね。そちらから一方的に頼み込んできておいて」 こいつ。こんなに感情的に話す奴だったか? 「あなたには以前大変助けられた。そのお返しがしたい。そう... 「わかったよ」 断るのは、時間と労力の無駄だ。俺はバイナリィに従った。 「ただし、奴とやりあう時に手は出すなよ。決着は、俺一人で... 「心得ています」 バイナリィが頷く。準備はできている 「行くぞ」 * どれくらいの間そうしていたのだろう。不意に誰かに襲われ... しかし、危惧していた敵対存在は、なかなか現れなかった。... 「よお」 正面限界の回転扉が開き、夜の闇を背負って、そこから誰か... 「エリック……」 ネオシフターズめ。せっかく忠告してやったのに。 「エースはどうした? 死んだのか?」 しかし、エリックも無事ではない。彼らが雇った能力者集団... 「生きているってことは、勝ったのはお前だな。そしてお前が... 首を大きく回し、戦場となったホテルを観察。欲しい情報は... 「他の仲間はどうした? みんな死んだのか? これもお前の... ああ。その通り。レジスターを殺し、エースを殺し、その過... もう少しで全部うまくいく。最後の最後で邪魔されてたまる... 「エリック。誤解です」 「誤解?」 相変らず感情が読めない声。説得は無意味か? いや、やっ... 「ストレイドッグは普段からレジスターに不満を抱いていた。... 腕を組んだまま、エースは黙って聞いている。 「僕はよそ者だ。彼らを止められるはずもない。結局、レジス... 「面白い。続けろ」 また一歩、エリックが近づいてきた。その影が触れそうにな... 「トップがいなくなり、彼らは暴走した。結果、ご覧の通りホ... 無言だ。エリックは何も答えない。その両手が、腰に下げら... 「結局生き残ったのは僕だけです」 「俺もいる」 「そうですね。まだ救いはある」 ゆっくりと、うつぶせの姿勢から身を起こす。なんとなく、... 「ストレイドッグは、所詮犯罪者集団です。どれだけ取り繕っ... よし、ちゃんと体は動く。致命的な後遺症はない。 「あなたには葛藤があった。正義の心があるんです。僕と一緒... 「なるほど」 僕の言葉はエリックに遮られた。 「それがお前の言い分か」 「ええ。だから――」 「そうやって、あいつらを丸め込んだわけだな」 「えっ?」 なんだ? エリックはどこまで知っている? 「何の話だか……」 「レジスターは焼かれて死んでいた。それができる奴が、お前... やっぱりダメか。即興で作った演説にしては、悪くないと思... 「あ、あれは何かの手違いで……」 「正義? 自分の都合で人をそそのかして殺し合わせるのが、... 「彼らは犯罪者だった! 滅びるべき存在だったんだ! あな... 「だから、それを壊した自分は、正義だと?」 相変らず。その声は淡々としている。嘲るような口調。でも... 「誰も救わない正義に、何の価値があるんだ」 「僕は救った! ストレイドッグに搾取されてきた人たちを!... 「そうやって、俺たちはみ出し者の居場所と食い扶持を奪った... うつむいていたその視線が、初めてこちらを射抜いた。まさ... 「お前は、ヘリング・エースと何も変わらないよ」 「……望むところだ」 ヒーローを名乗れるなら、外道に身を落とすこともいとわな... 「そのために作られたんだから」 振り抜かれるサーベル。形作られる刃。接近戦ではこちらが... 「喰らえ!」 投擲。もう片方の手に合った火球を投げつけ、エリックのい... 「クソッ!」 解除のタイミングがつかめない。液化してリーチを伸ばす蝋... 「くっ!」 炎の軌跡を完璧に見切り、エリックがさらに一歩踏み込んで... 「⁉」 突如空を裂き飛来する何か。とっさに顔を庇ったガントレッ... 「蝋の刃」 刀を振るう瞬間に、刀身の真ん中だけ能力を発動させ、先端... そして、エリックのサーベルは二本。次いで二発、新たな刃... 「まずい!」 手数では相手が上だ。火球を作って投げつけるが、乱れた姿... そして、この間もエリックは距離を詰めてくることを忘れな... 「こうなったら!」 一か八か。ロケットで真上に飛び、方向を調節してエリック... 「えい!」 落下と爆破の勢いを乗せた拳は、しかしバックステップで躱... 「あっ!」 足が動かない。クソッ。気づくべきだった。床にまかれた石... まっすぐな殺意で襲いくるサーベル。首筋を狙ったその一撃... 次なる刃を身を屈めて躱し、思い切り殴りつけることで、拘... 確実に切り殺される。火球を放れば弾かれる。火炎放射は躱... 「もう逃げられない。だったら!」 逆に、突っ込む。火球を握った腕を開き。指の隙間から爆風... 「何だと⁉」 成功だ。熱と速度で刃は折れた。エリックに残されたのは柄... 未だ熱を保った掌をエリックの胴体に叩き込む。ガントレッ... 「あれ?」 水が、出てこない。そんな馬鹿な。ガントレットは確かに傷... 「あっ!」 蝋を液化した石鹸に変える能力。ガントレットにはさっきの... 「嘘だ」 水の流れを断ち切ることができる。 「お前を治療した時に、構造は既に調べてある」 残った刃が引き抜かれる。止めろ。僕はヒーローになるんだ... 「あばよ。フレイムスロアー」 はじめに感じたのは、痛みじゃなくて冷たさだった。さなが... 「が、は」 いやだ。ここで終わりなんて。死にたくない。僕は―― なんだったんだろう。僕は * 「終わりましたか」 「ああ」 バイナリィはずっと外で待っていてくれた。と言っても、さ... 「終わったよ。何もかもな」 「そうですか……」 しばらく、無言の時間が続いた。新しかったコートは。もう... 「これは」 それがあまりに久しぶりすぎて、涙だということを忘れてい... 「どうしました?」 「わからねえ。ただ、悲しくなっちまったのかもな。終わった... 空が白み始めた。夜明けだ。この狂った悲劇の幕引きにちょ... 「全てが終わったわけではありません」 バイナリィはそっと肩に手を置いてきた。 「まだ、あなたは生きています」 「ボスがいない。組織もない。そんな状況で、どうやって生き... 「私の仲間が、新たに主を失った能力者を束ねる組織を作って... そうだった。主を失ったのはこいつも同じだ。獄中にいるか... 「行き場がないというのなら。我々に加わるというのはどうで... どうだっていい。このままのたれ死ぬか、また寄せ集めとし... 「わかった。ありがとよ」 今はただ、眠りたい。寝床があるならそれで十分だ。疲れ切... 「日の出か。まぶしいな」 薄汚い街に不釣り合いな、きれいな朝日だった。 RIGHT:''(了)''~ #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) 終了行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第6章 幕引き [#pa3ffe62] 雨の降るアスファルトの道路で、僕らは戦闘を続行する。 「うぉお!」 ジャベリンの投擲。彼の隣に立つツインブレイドも、己の得... 目標は一人だ。飛来した槍を半身で躱すが、回転刃は空中で... 「かかった!」 その右腕が絡め取られる。伸びた鎖のもう反対側を握り、ツ... 「応!」 そして敵の両サイドから現れる二人――ロックとアイアンロッ... 身を沈めてそれを避けようとする敵だが、腕にかけられた鎖が... 「かはっ」 口から息を吐きだし、敵は前方へつんのめった。だが、やは... なんらかの能力を使ったのだろう。敵の右腕は拘束を脱し、... そして、始まる一対一のやり取り。手数、速さ、力強さ。す... その体が揺らいだかと思うと、何か大きな力に引っ張られて... 「ちょっと、これは一体――」 余計なことを喋らせる暇は与えない。火炎放射。アスファル... 「やったか?」 炎がおさまり、陽炎の中から人型が姿を現す。全身真っ黒。... 「クソッ 俺たち全員の能力を使えるんだったな」 アスファルトの鎧をまとったレジスターがそこに立っていた。 「説明してもらえるかしら。何故こんなことをしたのか」 怒り、驚き。そうした感情の下に押し固められた深い悲しみ... そう、これは数時間前にさかのぼる。 ナイトメアキャストとの戦闘から三日後。この日、僕はエリ... 「今度のターゲットはネオシフターズ――最近この辺りで幅を利... 「それも、あなたの言う『領分』からの行動ですか?」 問いかけそれ自体に意味はない。次の言葉を導くためだ。 「まあ、はっきり言っちまうと、今回はあまり関係ないかもな... 「では、その仕事は一人でお願いします。受けるわけにはいき... もとよりエリック一人に任された仕事だ。僕がいなければな... 「……わかった」 特に粘ることもなく、エリックは引き下がった。仕事を行う... 「あの、話があります」 隙間が寂しさを呼び起こす、無駄に広いアジト。スペースを... 「話だぁ?」 文句をつけようとするジャベリンをロックが手で制止した。 「何の話だ?」 「エリックがいない今だからこそ言える話です」 「だからなんだって聞いてるんだよ!」 吠えるジャベリンとロックが抑える。よし、いいぞ。他のメ... 「レジスターの裏切りについてです」 「裏切りぃ!」 まっさきに食いついたのはアイアンロッドだった。胸倉をつ... 「お前それどういうことだ? あの女何しやがった?」 微塵も疑っているようには見えない。いや、むしろこれが彼... 「ええと。話します。話しますから」 「ああ。悪い」 そうだ。この話は全員に聞かせないとダメだ。 「レジスターは僕らを裏切りました。自身が助かるため、僕を... 「はあ? どういうことだよ。なんでエースが関係してくるん... 口を挟むジャベリン。今度はロックも、制止しようとはしな... 「僕は、エースに狙われています。正確には、僕の戦闘プログ... 「自身の戦闘プログラムが敵の手に渡る前になんとか回収する... ロックが呟く。 「はい。僕はまだ戦闘プログラムを渡していません。しかし、... 「あの女、俺たちをエースに売って、自分だけ逃げるつもりで... 「許せねえ」 口々にののしり始めるストレイドッグのメンバーたち。やは... 「待てよ。証拠はあるのか?」 さっきまでとは打って変わって、アイアンロッドが慎重に切... 「証拠?」 「そうだ。レジスターが俺たちを裏切ったという証拠だ。俺は... なるほど。用心深い。ここが正念場だ。彼やロックに気取ら... 「ええ。これはレジスターの会話を盗み聞きしたものです」 戦闘プログラムから先日の会話の記録を抽出し、手を加えて... 「他の犯罪者にプログラムが渡れば、最悪能力をコピーされて... 僕がつなぎ合わせたレジスターの声に、ストレイドッグの面... 「これは……疑いの余地が無いな」 アイアンロッドの顔がいよいよ蒼白になる。いい傾向だ。 「取引まであまり時間がありません」 「ああ。それに、前々からあの女、気に入らねえと思ってたん... 手の平に拳を打ち付け、アイアンロッドが淡々と話す。 「お前ら、準備しろ。あの女が取引先から返ってきたら、速攻... ――そして今、僕はここにいる。レジスターを打倒し、ストレイ... * 「そろそろだな」 敵のアジトは街のど真ん中にあった。大規模なショッピング... 喫茶店で時間を潰すこと数時間。向かいにあるショッピング... 「行くか」 勘定を払い、何気ない風を装って、道路を渡った先の、搬入... 「ふう」 なんとかなったな。警報は鳴っていない。積み上げられた荷... 「落ち着け」 何をナイーブになっているんだ? たかだか人間を数人殺す... チャーリーのことで少し思い悩んでいるせいだ。 階段を降り、扉に手をかける。 大丈夫、何も問題は―― 「ようこそわがサーカスへ!」 突然の大音響。赤白黄色の原色で飾り付けられた、ド派手な... 「なっ……!」 そこは人の出払った閑静な事務所ではない。そこは…… 「なんだと?」 サーカスのテントのように、にぎやかな様相を呈していた。 「こいつは一体どういうことだ?」 大玉に乗っている奴。ジャグリングをしている奴。即席で作... 「依頼を受けたのですよ。ここに一人能力者が来るので、始末... ジャグラーから発せられる明るく、芝居がかった声。トーン... 「依頼だと……?」 「ええ。そして、見る限り、あなたがその能力者の様ですね」 ジャグラーの手から手へと渡りゆくのは、十本あまりの小型... 「襲撃がばれていたのか?」 ここにいるクラウンのメイクをしたガキどもは、明らかに能... 壇上の依頼者、ネオシフターズのボスは黙して語らない。ク... 「それでは、ショーの開幕ですね」 狼狽する俺を余所に、ジャグリングされていたナイフが三本... * 「終わりだ!」 ラストステップがレジスターへと踏み込む。彼が立つのは彼... 「くっ!」 ラストステップのサーベルを避けるため、たたらを踏んだレ... 「おらっ!」 続くラストステップの追撃。レジスターは身を屈め、地面を... 「ぐへっ!」 そして、手痛い反撃。一対一ならレジスターの方が実力は上... 「もらった!」 結界の外から飛んでくるツインブレードの鎖鎌。斬撃は巧み... しかし、これは予想されていたようだ。拘束された彼女の腕... だが、このやり取りは致命的な隙だ。体勢を取り戻す間もな... 「はっ!」 倒立の姿勢。体に槍が突き刺さるよりも先に、レジスターは... 支えや勢いを殺してくれる者はない。勝った―― ――しかし、勝利を確信した僕らの前で彼女は予想外の動きを見... 「あれは!」 エリックの能力。手から流れ出た蝋が、手の平と地面をがっ... 「ぐあっ」 この予想外の反撃に、ラストステップは対応できない。結界... 「まずい!」 即座にカバーに向かうペトロメイル。ダメだ。間に合わない... 「あぐっ」 ペトロメイルが射線上に入った時には、既に攻撃は終わって... 沈黙。その場にいた全員の顔から、血の気が引いた。 「こ、これでもう、後戻りはできなくなった」 何より動揺しているのは、投槍を放った本人だ。一瞬その... 「まだ終わってない! 行くぞ!」 作り出した火球を投擲。ラストステップはもういない。爆風... 「うぉおおお!」 爆風の晴れた中に向かい、三人が駆け寄る。ロック。ペトロ... 「ぐはっ」 「くそっ」 はじき出される人影二人。鎧の強度を生かして、レジスター... そして、打ち合いが始まる。残ったのはロックだ。ストレイ... 徐々に鎧にヒビが入り始める。ロックが打ち勝っているのだ... 鎧で三人が弾き飛ばされれば、同士討ちの心配もない。三人... 「今だ……えっ!」 確かに、彼女は鎧を弾き飛ばした。だが、他三人が、それに... 「エリックの……」 液状化した蝋を流し込み、足元に広がった状態で能力を解除... 「クソッ……」 グロッキー状態からいち早く回復したアイアンロッドが、振... 「これは、あなたの仕業ね。フレイムスロアー」 目に涙をためて問いかけるレジスター。答える義理はない。... 「あの取引――」 これ以上口をきかれるとまずい。十分な距離とは言えなかっ... 「くっ」 しかし、相手の動きは素早い。攻撃範囲からたやすく逃れ、... る。 「クソッ!」 次いで、逆の手で攻撃。ダメだ。今度は逆に、近すぎて狙い... 「ぐあっ!」 首元を掴まれ、背後の壁に押し付けられる。残った火球はあ... 「放しやがれ!」 僕の身を案じてか、ツインブレードとジャベリンが同時に攻... 「話してもらうわ。フレイムスロアー。あなたが何をやったの... 顔を近づけ小声で話す。そのトーンに滲むのは、深い悲しみ... 「何の話ですか?」 「ふざけないで、あなたがこの裏切りを扇動した。そうでしょ... 鋭い。 「どうしてそう思うんですか?」 まずいな。アイアンロッドたちが蝋の拘束を砕いた。この会... 「反旗を翻すとなった時に、アイアンロッドが余所者のあなた... なるほど。ストレイドッグの評判だと、組織のことを何もわ... 「今ここであなたが正直に白状すれば、まだなんとかなる。け... 「あなたが壊滅する、の間違いでは?」 「ふざけないで」 首を掴む手に力がこもる。背後からジャベリン達の攻撃が飛... 「早く言って。でなければ、あなたを殺す」 迫る三人。これ以上、時間の猶予はない。多少のダメージは覚... 「わかりました。終わりにしましょう」 僕は、足元に転がった火球の能力を解除した。 「か、はっ!」 爆風で、体が壁に押しつけられる。背後にあったレンガ造り... 「おい! 大丈夫か?」 駆け寄るアイアンロッド。ずいぶんと親しげだ。はじめにあ... 「え、ええ。レジスターはどうなりました?」 「くたばったよ」 アイアンロッドの指した先には、全身を焼かれて黒焦げにな... 「意外にきれいなもんだったぜ。とっさに顔を庇ったんだろう... 含み笑いを漏らしながら、アイアンロッドが話す。 「爆風に巻き上げられて、全身を火傷、その後地面に叩きつけ... そして、一つ大きな笑い声をあげる。 「やったぞ! これで俺たちは自由だ!」 先日の虐待されていた女性を思い出して、僕は少し胸が悪く... 「にしても、一体どうやった?」 「どうやった、とは?」 「あの女だよ。俺たち三人でもかなわなかったのに、どうやっ... ああそうか。当たり前だけど彼らはあの時かわされた会話を... 「彼女は僕の戦闘プログラムを持っていない。だから知らなか... 「なるほどな」 彼女が説得を試みていたというのが、実際は一番の要因だろ... 「それより、まだ安心はできません」 「そうだな。この女、ヘリング・エースに俺たちを売りやがっ... アイアンロッドの笑みが消えた。結局勝利の余韻なんてそん... 「ええ。ですから、こっちから逆に迎え撃ちましょう」 本当の所、エースはまだ僕らの位置を把握できてはいないは... 「どうするんだ?」 「郊外に、ちょうどいいホテルがあります。そこを占拠して、... 当然、襲えば誰かが通報を入れる。警備システムに僕の顔が... 「わかった。やろうぜ。毒を食らわば皿までだ」 ストレイドッグのメンバーを招集し、アイアンロッドは作戦... * 「クソッ!」 飛来したナイフをサーベルで叩き落とし、次に向かってくる... 十を超えるナイフの投擲を完全にはさばききれず、脛や太も... 「なんだぁ、こいつは……?」 ナイフの右側から迫るのは、経線方向にラインの走った巨大... そして、同時に放たれるジャグラーのナイフ。攻撃を捌くこ... 「させるかよ」 地面に刃を叩きつけ、蝋のサーベルを傘へと変える。ナイフ... 「今だ!」 当然、それで終わるつもりはない。もう片方のサーベルを引... 「クソ、硬い……」 ならば作戦を変えるまでだ。斬りつけていたサーベルに能力... 「うおっ!」 そしてボールは回転している。弾ころがしの勢いに持ち上げ... 「なっ!」 俺の見ている前で、弾ころがしのピエロが飛んだ。その小さ... 回転しているボールを思い切り踏みつけた。 その瞬間、俺は布一枚隔てた先、ボールの内部に何か硬いも... 「まずい!」 中に仕込まれていた無数の刃が一斉に飛び出した。 「げほっ」 幸いにして致命傷は避けることができた。一瞬早く対応でき... とはいえ、ダメージは少なくない。肋骨の間に刃が差し込ま... ダメージを確認し、追撃が来る前に体を起こしにかかる。だ... 「ん……?」 どうした、何故即座に攻撃してこない? まるで俺が気づく... 「まさか……」 パントマイム。不可視の得物はいよいよ質量を手に入れた。... 「くっ!」 振り下ろされる瞬間、俺は何とか横に転がることができた。... 「野郎……」 立ち上がり、サーベルを構え、白黒のピエロへと振り下ろす... 「クソッ!」 やはりダメだ。思い込みの力。この壁を作り出しているのは... そして、敵は三人だけではない。自転車に乗ったピエロが、... 「うわっ」 前輪が振り下ろされ、かすめた二の腕から血があふれ出す。... 「マジかよ。そのためにわざわざ戦闘プログラムを組んだのか... いかれてるぜ。こいつらを作った奴は、殺しを遊びか何かだ... 前輪が床に着くと同時に、車体が回転。今度は持ちあがった... 「うっ!」 なんとかサーベルで受け止めるが、これはまずい。客観的に... 「ちっ」 笑ってばかりもいられない。サーベルが折れるその直前に、... 「くっ!」 四足の獣、鬣をたなびかせたライオンが、その牙と爪で背中... 唸る喉、風切る爪。打ち鳴らされる鞭の音に合わせ、機械的... 「まずいな」 気が付くと、壁際まで追い込まれていた。背中に乗っている... 俺が地面に撒いていた『石鹸化された』蝋に。 これで止めとばかりに、ピエロの鞭が振るわれる。例のごと... 「あっ!」 声を漏らす背中のピエロの視線は、固形化された蝋に縫いと... 「くたばれ!」 蝋のサーベルがライオンの心臓を貫く。その主たる背中のピ... 「またか」 すんでのところで攻撃を躱す。不可視のハンマーが真後ろの... このままじゃまずい。前転から相手の追い打ちを躱し、再び... 「逃がしませんよ」 しかし、出口に向かうことは叶わない。全てのナイフを回収... 「数が増えてねえか?」 空中を回るナイフは、計二十本。そして、俺のカウントを待... 「くっ!」 同時に三本。両腕の他に足まで使って、縦にナイフが放たれ... 蝋の傘に傷跡を刻み込み、内蔵されたスプリングで、ナイフ... 「それる?」 なんだ? 嫌な予感がする。前にもこんな状況があった。デ... 「はぐっ!」 死角からの攻撃。真後ろから飛んできたナイフが、背中に深... 「が……はっ……」 どこだ? どこをやられた? 腰より少し上の辺りか? ス... 「野郎」 そのすべては、背後に目をやることで氷解した。パントマイ... 「クソ……」 どうする? さすがに両側の攻撃を捌ききる自信はない。そ... となると、進むしかないのか? しかし奴の投擲量は絶望的... 「だったら……」 俺は、蝋の盾を後ろへ――パントマイムの方へ向けた。これし... * 「いい感じじゃねえか」 ホテルの襲撃はあっけなく片が付いた。所詮は旧世代の遺産... 中にいた宿泊客を叩き出し、従業員を何人か捕まえて、施設... エースが僕を狙うのは、情報の漏えいが怖いから。間違って... ストレイドッグの面々は気づいてないけど、エースは僕のい... だからこそ、僕はこのホテルを選んだ。国道を監視する近くの... 「これならやっこんさんがどっから来てもすぐにわかるぜ」 見張りは全方位に渡っている。そして、このホテルがあるの... 「……そうかな。僕はそう思わないけど」 聞きなれた、しかしストレイドッグの誰のものでもない声。... 「エース!」 それでもやるしかない。なんとかアイアンロッドと二人、恐... 「久しぶり、チャーリー。いや、フレイムスロアーか」 まばゆい金髪。光り出しそうなほど整った歯並びに、まっす... 「元気にしていたかい?」 ヘリング・エースがそこにいた。 「手前! どこから入った! なんで、監視に気づかれてねえ... 前者は無理だけど、後者の答えは推測できる。ブリンクの能... 「うるさい犯罪者だ」 ロビーの明かりの下、見事に芝居がかったしぐさでわざとら... 「野郎!」 腰から鉄の棒を抜き、エースに向かって跳びかかる。対する... 「ちょっと黙っててくれ」 サイクロンの能力。風に吹き飛ばされたアイアンロッドは、... 「さて、フレイムスロアー。ようやく話ができるね」 「話すことなんかなにもない」 「そう構えないでくれよ。僕は敵じゃない」 その満面の笑みを前にすれば、恐らくほとんどの人が微笑み... 「奴らに何を吹き込まれた? ヒーローは敵? 搾取する者?... あくまで自然な風を装いながら、しかしエースは着実にこち... 「どっちだ? どっちを信じる? 市民を虐げ略奪する彼らか... 「あなたは、あの時来なかった」 「仕方がなかった。残念に思うよ。でも僕の体は一つしかない... 別件で行けなかった。あくまでそう言い張るわけか。 「本当に残念だ。もし僕があの場にいたら、君たちが死ぬこと... 一瞬。本当に一瞬だけ、僕はエースを信じてみたくなった。... 「本当に、信じても?」 「もちろんだ。だって、ずっとそうしてきただろう?」 「……わかりました」 近づいてくるエースを後ろ手を組んで待ち受ける。 「そうだよチャーリー。大体、僕を信じない理由があるかい?... 「あなたは――」 手の平の火球がロビーにまばゆく 「レインメーカーを殺した」 腕を振り抜き、エースの胸へと押し当てるゼロ距離の爆発。... 「したたかになったね」 まるで堪えた様子はない。ガンメタルの硬質化、そして――僕... エースに熱の攻撃は効かない。予想はしていたけれど、冷や... 「あれを見られていたのかぁ」 レインメーカーの能力。エースの手の平に水の球が形作られ... 「はっ!」 ウォーターカッター。横っ飛びに躱すことはできたけれど、... 「ぐあぁっ!」 爆発。エースは僕の能力も使える。爆弾に変えた水をまっす... そして、再び集まる水球。エースに弾切れはない。そこが僕... 「いくら火傷しない、っていっても爆風のダメージは避けよう... 既に第二弾の準備が始まっている。水球が手の中で大きさを... 「残念。苦しむ時間が増えただけのようだ」 次なる攻撃が放たれる! 「あれ?」 おかしい。水は狙いをそれ、明後日の方向へと飛んで行った。 「みんな……」 エースに組みつき狙いを逸らしたのは、近接戦闘最強のロッ... そして、エースの背後に現れる。ジャベリン、ツインブレー... 「面倒だ」 硬質化能力。アスファルトと金属化した表皮がぶつかり、ロ... 「本当に、めんどくさい」 硬質化解除。そして、放たれる二つの攻撃。ジャベリンによ... 「あれは……」 ロビーの明かりを反射して、エースの手元で何かが光る。水... もはや着弾までに一刻の猶予もなくなったその瞬間。ペトロ... 「なっ!」 崩れ落ちるアスファルト、突き刺さる投槍。鎖鎌はエースを... 「上だ!」 テレポート。ペトロメイルの拘束を逃れたためだろう。既に... 「そういうことか……」 あらかじめ水球に僕の能力で熱を閉じ込めておき、アスファ... 着地と同時に格闘戦が始まる。ロックとエースの一騎打ち。... 「クソッ!」 同士討ちの可能性を考えると、うかつに手を出すわけにはい... 長いようで短い膠着状態がいよいよ終わりを告げる。空を切... 「ぐおっ!」 吹き飛ばされたのはロックの方だ。サイクロンの能力。接近... 「させるかよ!」 割って入るのは、グロッキー状態から回復したアイアンロッ... 「やれやれ」 ため息とともに、かざした手をおろし、作り出していた火球... 爆風の後に現れるのは、無傷のエースと横たわるアイアンロ... 「ちく、しょう……」 わずかばかり息が残っていた彼の首をエースは踏みつけへし... 「さて、残り四人だね」 芝居がかったしぐさで指さし確認をするその姿を見て、僕は... * 「クソッ、こうなったら」 普段はまるでやろうともしないが、こんな状況なら話は別だ... 発動と解除を小刻みに繰り返し、指向性を持った火種が、剣... 「喰らえ!」 背後から迫るナイフを躱し、炎の刃を不可視の壁へ叩きつけ... 「だめか……」 まるでダメだ。不可視の壁は、熱の放射さえも完全に遮って... 不可視の壁には、溶けて飛び散った蝋が、べったりと張り付... 「……そういうことか」 避けきれず、ナイフが二の腕に切り傷を作る。だが、構って... パントマイムはパフォーマンスが見えていない以上発動する... なら、可能性はある。ただ蝋を貼り付けるだけでは壁を無効... 「くっ……!」 俺は迷わず左手を差し出した。手首の付け根に深々とナイフ... 「はぐっ!」 背後で上がるダメージの声。今まで一言も発さなかったモノ... 「なっ、なにぃ!」 パントマイマーの手は、煙で覆われていた。視界を塞ぐほど... 燃える物が無くなり、燃焼がおさまったその時、仲間のナイ... 「よ、よくも……!」 さすがに仲間の死は遊びだのうちに入らないらしい。ジャグ... 満身創痍。ナイフを差し込まれた関節部は、まともに動きそ... となると、この方法しかない。なんとか動く脚で、迫りくる... 四人がかり。そして俺を追うのは能力者だ。猟犬とは違う。... 「まずいな」 身を沈め、それが発動するのを静かに待つ。とりあえず、床... 「もう逃げられないぞ」 歌うような口調は鳴りを潜めている。残っているのは、静か... まだか……? 霞む視界の中、迫る四体の人影が揺れる。まだ... 「ん?」 敵の一人、猛獣使いのピエロが、異変に気づいて上を向いた... 「スプリンクラーか」 火災に備え。ネオシフターズのアジトはスプリンクラーを備... 「残念だったな。何を考えていたかは知らんが、お前のやった... 視線を上に向けると、ネオシフターズのボスが傘をさしてい... 「火は消えた。最後のあがきは、結局何も生まなかったな」 水面に足音を反響させて、ピエロ四体が歩み寄る。既に水深... 「何も生まなかった……? いいや。俺は、この瞬間を待ってた... 傍らの壁から露出するのは、施設内に電力を送る送電線。そ... 「まさか……やめろ!」 狼狽するピエロ達を余所に、俺はその先端を水面に押し当て... 鶏が絞められる時のような情けない声を上げ、いかれたサー... 「な、なんだ⁉」 怯えた声を余所に、水浸しの床を歩いて渡る。出口への道は... 「何故だ⁉ 何故お前は感電しない⁉」 とうとうここまで来た。腰を抜かしてへたり込むその男に、... 「何だ? この白い塊は?」 そうだ。予想していた以上に歩きにくい。蝋で覆われた足っ... 「蝋はな。通電しないんだよ」 種明かしと同時に、俺は男の首を刎ねた。 * 「さて、後は君一人だ。チャーリー」 ロックは死んだ。ジャベリンも、ツインブレードさえも死ん... 「くっ……」 逃げるしかない。対峙することを諦め、僕はエースに背を向... いよいよガントレットの残量が底を突きそうになった時、よ... あった。蛇口。震える手で何とかひねり、そこから流れる水... 「補充か。なるほど」 しかし、水は不意に方向を変えた。凄まじい勢いで気化して... 「エース……」 「逃げたわけじゃなかったのか。よかったよかった。追いかけ... 水の球はその手の平の上で、どんどん大きさを増していく。... 「何故ですか?」 「ん?」 今はただ話をつないで時間を稼ぐんだ。そして、注意を逸ら... 「何故、僕たちを騙していたんですか?養成所と偽り、ヒーロ... 「ふうん。よく喋るね。僕に答えてあげる義理なんかないんだ... そういいつつも、エースは乗り気だ。右手に作った最後の火... 「まあいいや。おしゃべりは嫌いじゃないし。話を聞けば、君... つながった。後は、致命的な隙をさらすのを待つだけだ。僕... 「僕がヒーローをやっているのは、ひとえに僕が恵まれた存在... 「死んだ?」 続きを促しながら、それとなくエースの位置を確認する。ち... 「十五の時、僕が始末した。利益を上げ、資産を増やすために... 正義の為と言う大義名分を掲げ、弱者を踏みつけ利用する。... 彼に父親を非難する権利は全くない。 「正義? 正義ってなんですか? 罪のない子供を攫ってきて... 「必要な犠牲だ。正義は守る力じゃない。罪人や悪を壊す力だ... 声音が変わる。いつもの柔らかく親しげな口調から、堅い一... 「考えてもみなよ。僕は市民の最後の砦だ。万が一僕が死んじ... 端役だから、死んでもいい。彼の言う高貴な振る舞いなんて... 「ああ、それで、理由だっけ。なんで、記憶を弄ったのかって... また、いつもの――仮面をかぶった口調が戻ってきた。 「高貴な者は、高貴な振る舞いを。ヒーローに品性が無ければ... 「だから、記憶を弄ったんですか? 偽りの記憶を、偽りの使... 結局は全て、自分本位。アカデミーズとしてふさわしい振る... 「それ以外に、深い理由はないさ。しいて言うなら、こうして... レインメーカーは、最後までエースを信頼していた。そして... 「さて、話は以上。おしゃべりは終わりだ。満足して逝きなよ... やっぱり、こいつは殺さないとダメだ。勝利の余韻を楽しみ... 「喰らえ!」 エースの攻撃よりも先に、僕は最後の火球を投げつけた。狙... 「うわっ! なんだこれ、小麦粉かい?」 爆破の衝撃をやり過ごしたエースが、こともなげにつぶやく... 僕は再び能力を解除した。 「えっ?」 二度目の爆発。エースの手元にあった水の球が、はじけ飛ぶ... ――粉塵爆発を引き起こす。 「ぐぁっ! がっ! はあ!」 爆風に体を吹き飛ばされて、ステンレスのテーブルや機材に... 「ははっ、なるほど」 直立する人影。煙を割いて現れるエースは、傷一つ追ってい... 「粉塵爆発か。面白いね。熱を無効化する君なら、近くで喰ら... 「レインメーカーの能力だ。お前のじゃない」 我慢できなくなって、止める間もなく言ってしまっていた。 「ふうん。まあ、与えたのは僕だ。奪ったのも僕。君たちは、... そう言いながら歩くエースの服は、ところどころ焦げた小麦... 「でも、まあ。予想外だったよ。ここまで成長するとはね。君... その口調は至って平坦な物だけど、そこに静かな怒りが混じ... 「素晴らしい戦闘プログラムだ。評価するよ『フレイムスロア... とうとう目の前に来た。腰を落として座り込んでいる僕の目... 「僕の服にシミを作ったことは許し難い」 顔面に衝撃が走り、首が九十度真横を向く。一瞬、何をされ... 「こんな恰好でヒーローをやれって? まったく。手間を取ら... 淡々と語る言葉と共に、踵やつま先が体に叩き込まれていく。 「大体、ここまで来るのだって手間だったんだ。貴重な僕の時... 腹部への衝撃。やられたのはどこだ? 何か袋が破れたよう... 「カメラ調べたり、情報屋を使ったり、ただじゃないんだよ!... 語気と共に勢いが増していく。最後の蹴りを放った時になる... 「はあ。少し休もうか。あと十発は蹴りを入れてやらないと気... きっと、我慢や忍耐とは縁がない人間なんだろう。もうろう... 「さて、覚悟は……な⁉」 エースの体が揺らぐ。ようやく。ようやく効いてきたのか。... 「な、なんだ?」 困惑した表情で、エースは膝をついた。あれだけ激しい運動... 震える腕で体を持ち上げ、腹這いの姿勢からゆっくり身を起... 「動けない」 あの時、まるで見えていなかったけど、ライブジャックの子... 「や、やめろ!」 脳にも血が回ってないのか、能力で妨害されることもなかっ... 「なんだ? これは? 何故動けない⁉」 「一酸化炭素中毒。成長性がないとあなたが切り捨てた能力の... 拳を握る。ガントレットに水はない。止めを刺すことができ... 「さようなら」 僕はその頭蓋に向かって、拳を縦に振り下ろした。 * 「なんだ……これは……」 満身創痍の体に鞭打ってアジトに戻ってきた俺を待ち受けて... 「襲撃か?」 レジスターのオフィスは、ガラスが割れ、書類が散り、本棚... もっともレジスターもこれを使えるので、実際に戦闘に参加... 「あるいは、両方という可能性もある」 そして、壁に穿たれた大きな穴。戦闘は外まで続いているよ... 「襲ってきたのはどこのどいつだ?」 金庫やPC周りが意図的に荒らされた形跡はない。物取り目的... 「まあいい」 壁に空けられた穴から外に出て、戦闘の跡を追跡する。ほど... 「これが、今回の襲撃者か……」 人影は一つだけ。恐らく敵の物だろう。仮にレジスターがやら... ――だが、近づくにつれて、嫌な予感がどんどん増していった。... 「ラストステップ……!」 胸に穴をうがたれたその有様を見た瞬間、背筋に悪寒が走っ... 「あれは?」 すこし離れた地点思い切り穴の空いたレンガの壁の傍らに、... 「嘘だ……」 遠目では、その姿をはっきりと捉えることはできない。炎に... 「そんなはずはない」 それでも、いよいよ足は言うことを聞かなくなってきた。嫌... 「クソッ」 このまま足を止めることができれば、どれだけよかったか――... アドレナリンが引いていき、痛みと共に、明確な意志が戻っ... 「……畜生」 その時発せられた理性ある言葉は、これが限界だった。レジ... 「誰だ……?」 絶叫はいつまでも続かなかった。体は正直だ。のどの痛みが... 「誰だ? 誰がやった? 見つけ出して殺してやる。この手で... そのためには? そのためにはどうすればいい? 監視カメ... のろのろと来た道を引き返し、アジトに戻ってPCを立ち上げ... 「クソッ! パスワードだと?」 それを知る術は残されていない。教えてくれるであろうレジ... 「アイツがいた」 俺は連絡を取り、奴の到着を待つ間、応急手当と蝋の補充を... 「起きてください」 どうやら眠り込んでいてしまっていたようだ。肩を揺さぶり... 「バイナリィ……やっと来たか」 プレディクトの子飼い能力者、バイナリィ。基地からIMAGNAS... 「ひどい、有様ですね。信じがたい。いや信じたくないと言っ... 「ああ。だから、こいつをやった犯人を見つけるんだ。パソコ... 「もう、終わっていますよ」 そう語るバイナリィは蒼白な顔をしていた。 「どうした? 顔色が悪いぞ? 敵はそんなにヤバイ奴なのか... 「ご自分で確認されるのが一番かと」 バイナリィがモニターをこちらに向ける。襲撃直前の時点に... 「なっ……!」 この時俺は、自分が何をしてしまったのかを、如何に愚かな... オフィスの壁が割れ、戦闘が外へ流れ行く。 「もういい。もう十分だ」 動悸が止まらない。ああ。クソ。アイアンロッドが正しかっ... 「助けるんじゃなかった……」 「襲撃者はあなたの仲間、そういうことですね。以前見受けら... 「もういい。黙っててくれ」 フレイムスロアーがレジスターを裏切った。それは変えよう... 「決着をつけてやる。奴がどこに行ったか分かるか?」 バイナリィは無言で割れたテレビをつけた。ノイズまみれの... 「あなたの仲間はライブ中継されていました。ヘリング・エー... アイアンロッドがホテルを占拠している姿が映っていた。現... 「場所は分かった。俺一人で行く」 「その傷で、ですか?」 確かに。時間経過と睡眠で多少マシになったとはいえ。やは... 「それでも、行かなきゃならないんだよ」 「では、私が送りましょう。車くらい運転できます」 いやに親身な言い方だ。何か裏があるのか? 「なあ、お前は部外者だ。何もここまで関わる必要はない」 「勝手な人ですね。そちらから一方的に頼み込んできておいて」 こいつ。こんなに感情的に話す奴だったか? 「あなたには以前大変助けられた。そのお返しがしたい。そう... 「わかったよ」 断るのは、時間と労力の無駄だ。俺はバイナリィに従った。 「ただし、奴とやりあう時に手は出すなよ。決着は、俺一人で... 「心得ています」 バイナリィが頷く。準備はできている 「行くぞ」 * どれくらいの間そうしていたのだろう。不意に誰かに襲われ... しかし、危惧していた敵対存在は、なかなか現れなかった。... 「よお」 正面限界の回転扉が開き、夜の闇を背負って、そこから誰か... 「エリック……」 ネオシフターズめ。せっかく忠告してやったのに。 「エースはどうした? 死んだのか?」 しかし、エリックも無事ではない。彼らが雇った能力者集団... 「生きているってことは、勝ったのはお前だな。そしてお前が... 首を大きく回し、戦場となったホテルを観察。欲しい情報は... 「他の仲間はどうした? みんな死んだのか? これもお前の... ああ。その通り。レジスターを殺し、エースを殺し、その過... もう少しで全部うまくいく。最後の最後で邪魔されてたまる... 「エリック。誤解です」 「誤解?」 相変らず感情が読めない声。説得は無意味か? いや、やっ... 「ストレイドッグは普段からレジスターに不満を抱いていた。... 腕を組んだまま、エースは黙って聞いている。 「僕はよそ者だ。彼らを止められるはずもない。結局、レジス... 「面白い。続けろ」 また一歩、エリックが近づいてきた。その影が触れそうにな... 「トップがいなくなり、彼らは暴走した。結果、ご覧の通りホ... 無言だ。エリックは何も答えない。その両手が、腰に下げら... 「結局生き残ったのは僕だけです」 「俺もいる」 「そうですね。まだ救いはある」 ゆっくりと、うつぶせの姿勢から身を起こす。なんとなく、... 「ストレイドッグは、所詮犯罪者集団です。どれだけ取り繕っ... よし、ちゃんと体は動く。致命的な後遺症はない。 「あなたには葛藤があった。正義の心があるんです。僕と一緒... 「なるほど」 僕の言葉はエリックに遮られた。 「それがお前の言い分か」 「ええ。だから――」 「そうやって、あいつらを丸め込んだわけだな」 「えっ?」 なんだ? エリックはどこまで知っている? 「何の話だか……」 「レジスターは焼かれて死んでいた。それができる奴が、お前... やっぱりダメか。即興で作った演説にしては、悪くないと思... 「あ、あれは何かの手違いで……」 「正義? 自分の都合で人をそそのかして殺し合わせるのが、... 「彼らは犯罪者だった! 滅びるべき存在だったんだ! あな... 「だから、それを壊した自分は、正義だと?」 相変らず。その声は淡々としている。嘲るような口調。でも... 「誰も救わない正義に、何の価値があるんだ」 「僕は救った! ストレイドッグに搾取されてきた人たちを!... 「そうやって、俺たちはみ出し者の居場所と食い扶持を奪った... うつむいていたその視線が、初めてこちらを射抜いた。まさ... 「お前は、ヘリング・エースと何も変わらないよ」 「……望むところだ」 ヒーローを名乗れるなら、外道に身を落とすこともいとわな... 「そのために作られたんだから」 振り抜かれるサーベル。形作られる刃。接近戦ではこちらが... 「喰らえ!」 投擲。もう片方の手に合った火球を投げつけ、エリックのい... 「クソッ!」 解除のタイミングがつかめない。液化してリーチを伸ばす蝋... 「くっ!」 炎の軌跡を完璧に見切り、エリックがさらに一歩踏み込んで... 「⁉」 突如空を裂き飛来する何か。とっさに顔を庇ったガントレッ... 「蝋の刃」 刀を振るう瞬間に、刀身の真ん中だけ能力を発動させ、先端... そして、エリックのサーベルは二本。次いで二発、新たな刃... 「まずい!」 手数では相手が上だ。火球を作って投げつけるが、乱れた姿... そして、この間もエリックは距離を詰めてくることを忘れな... 「こうなったら!」 一か八か。ロケットで真上に飛び、方向を調節してエリック... 「えい!」 落下と爆破の勢いを乗せた拳は、しかしバックステップで躱... 「あっ!」 足が動かない。クソッ。気づくべきだった。床にまかれた石... まっすぐな殺意で襲いくるサーベル。首筋を狙ったその一撃... 次なる刃を身を屈めて躱し、思い切り殴りつけることで、拘... 確実に切り殺される。火球を放れば弾かれる。火炎放射は躱... 「もう逃げられない。だったら!」 逆に、突っ込む。火球を握った腕を開き。指の隙間から爆風... 「何だと⁉」 成功だ。熱と速度で刃は折れた。エリックに残されたのは柄... 未だ熱を保った掌をエリックの胴体に叩き込む。ガントレッ... 「あれ?」 水が、出てこない。そんな馬鹿な。ガントレットは確かに傷... 「あっ!」 蝋を液化した石鹸に変える能力。ガントレットにはさっきの... 「嘘だ」 水の流れを断ち切ることができる。 「お前を治療した時に、構造は既に調べてある」 残った刃が引き抜かれる。止めろ。僕はヒーローになるんだ... 「あばよ。フレイムスロアー」 はじめに感じたのは、痛みじゃなくて冷たさだった。さなが... 「が、は」 いやだ。ここで終わりなんて。死にたくない。僕は―― なんだったんだろう。僕は * 「終わりましたか」 「ああ」 バイナリィはずっと外で待っていてくれた。と言っても、さ... 「終わったよ。何もかもな」 「そうですか……」 しばらく、無言の時間が続いた。新しかったコートは。もう... 「これは」 それがあまりに久しぶりすぎて、涙だということを忘れてい... 「どうしました?」 「わからねえ。ただ、悲しくなっちまったのかもな。終わった... 空が白み始めた。夜明けだ。この狂った悲劇の幕引きにちょ... 「全てが終わったわけではありません」 バイナリィはそっと肩に手を置いてきた。 「まだ、あなたは生きています」 「ボスがいない。組織もない。そんな状況で、どうやって生き... 「私の仲間が、新たに主を失った能力者を束ねる組織を作って... そうだった。主を失ったのはこいつも同じだ。獄中にいるか... 「行き場がないというのなら。我々に加わるというのはどうで... どうだっていい。このままのたれ死ぬか、また寄せ集めとし... 「わかった。ありがとよ」 今はただ、眠りたい。寝床があるならそれで十分だ。疲れ切... 「日の出か。まぶしいな」 薄汚い街に不釣り合いな、きれいな朝日だった。 RIGHT:''(了)''~ #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) ページ名: