開始行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第4章 ターニングポイント [#te1d6439] 「こないだのミッション。よくやったじゃないか」 ふいに肩を叩かれて、思わずトレイを落としそうになった。... 「レインメーカーさん。驚かさないでください」 「ああ。悪い悪い」 食堂は、天窓から差し込む光で明るく照らされている。少し... 「でも聞いたぜ。俺がいなくなった後、一人でリサーチャーズ... 「アサルトの協力があってこそのものです。僕一人だと死んで... あの時手榴弾を投げてもらわなかったらどうなっていたこと... 「それでも、だ。どうやったかは知らないけど、能力者を倒し... 「あ、ありがとうございます」 そうだ。パンを口に運ぶ手を止めて、僕は気になっていたこ... 「そう言えば、あの捕まえた能力者はどうなるんでしょう。何... ラストワンに実験動物として使い捨てられるはずだった彼ら... 「エースさんが話を通したらしい。ジャックナイフが抑えたラ... よかった。ラストワンの確保は、全く僕が関わっていない出... 「しかし、いよいよヒーローらしくなってきたな」 「そうでしょうか」 「これだけ仕事をこなしてるんだ。エースみたいにテレビに出... ヒーロー、か。あまり実感はわかない。テレビに出ている自... 憧れがドアの向こうに待っている感覚は、ぼんやりとだが掴... 「あ、エースさんだ」 備え付けのテレビが、またもエースの活躍を映す。燃え盛る... 「なあに。子供たちに火遊びはまだ早い。そう思っただけです」 インタビュアーの質問を軽いジョークでかわして、エースは... 「インタビューの練習とかしといたほうがいいかな」 「さあ、それは君たち次第かな」 割って入る、新たな声。この声は―― 「エースさん!」 「やあ、驚かせてしまったかな」 まるで、画面から抜け出してきたかのようだ。シャワーを浴... 「でも、そろそろだと思うよ」 「ヒーローになれるんですか⁉」 「言葉を繰り返す様で悪いけど、それは君たち次第だ」 エースは、手首に装着された携帯端末を展開した。 「新しいミッション。君たちのチーム全員で挑んでもらう。こ... 「本当ですか⁉」 「ああ、事実だよ」 レインメーカーのガッツポーズ。 「やったな。フレイムスロアー」 「ええ。頑張ります」 端末に表示される情報は、いつものブリーフィングルームを... 「がんばってね」 「はい!」 急いで昼食をかきこむと、僕らは急いでブリーフィングに向... 間違いなく、人生最良の瞬間だった。 * 「納得いかねえ」 あの日以来、レジスターとはまともに口をきいていない。面... 「怒ってるね、エリック」 ヘッドセットの声が頭に響く。いつもなら口で返事をしてや... 「自分だけ特別扱いしてもらえなくてすねてるのか? いい加... 横から口を挟むのはアイアンロッド。口調は軽薄だが、こい... 「あの場で俺を指名するってことは、俺が一番死んでも困らな... 「確かにお前はよくやってるが、やった仕事は過去のものだ。... 「喧嘩売ってんのかてめえ」 「あくまで、個人的な意見だ」 「なんだと」 クソ。一発くらい殴ったって死にやしないだろ。このふざけ... 「待ってエリック」 ソファから立ち上がった瞬間、ヘッドセットの声が脳に流れ... 「何だよ。俺が今何を考えているか、とっくにわかってるんだ... 「間違った情報を元に判断を下すのは、私は良くないことだと... この声はアイアンロッドには聞こえていないようだ。立って... 「レジスターがあの時エリックを選んだのは、エリックのこと... 「そうか。現実に俺は選ばれたんだがな」 ヘッドセットならレジスターの胸の内を知ることもできる。 「レジスターがエリックを選んだのは、エリックのことが大事... あの女は、エリックに執着してたの」 言葉は強烈だが、それに付随するイメージ、彼女の真意は読... 「自分の中のエリックに依存している部分を断ち切ろうとして... 「つまり、自分から嫌われに行った、ってことか? 俺が彼女... それを聞いて、突き上げられた感情は急速にしぼんでいった... 「うん」 ヘッドセットの返答が引き金となって、俺は立ち上がった。... 「おい、どこ行くんだよ」 コートを羽織るとアイアンロッドの声を無視して、俺はアジ... 今はただ歩こう。頭が冷えるまで、他のことはできそうにな... そうしてアジトを出た先の、レンガ造りの建物を抜けてしば... 「ここは……」 なんだかひどく見覚えのある場所にたどり着いた。四方を薄... 「あっ、おい!」 そのうちの一人がこちらに気づき、肩を叩いて仲間に知らせ... 「なつかしい、のか?」 かつて、自分もあの中の一人だった。記憶はおぼろげだが、... 「おい、ちょっといいか」 ゴミ箱へ近づいて行くと、浮浪児たちは獣のように身をすく... 「何だよ」 一番体格のいい少年が、仲間を守るように前に出た。俺より... 「いや、昔のよしみだ。あるいは、単なる気まぐれか。まあ、... 「だから、何が言いたいんだって聞いてるんだよ!」 ずいぶんと威勢がいいな。だが、まだ子供だ。肩の震えは隠... 「ほらよ」 財布から金を数枚抜き取って差し出す。こいつらに憐れみを... 「なんだ……これは……」 しかし少年は受け取ろうともしない。その表情から読み取れ... 「取れよ。生ごみよりはマシなもんが食えるぞ」 「何だよ、手口を変えて来たのか? 汚い真似しやがって。た... まあ、それもそうだ。だが、こいつらの怯え方は尋常じゃな... 「手口、と言ったな。何かあったのか?」 「すっとぼけんじゃねえよ。お前らなんだろう。あいつらを――」 まじまじと俺の顔を見つめる。途切れた言葉は、疑問文に繋... 「何だよ、ほんとにあいつらじゃねえのか?」 「さあな。あいつらが何か、俺にはさっぱりわかないからな」 差し出した札束を引っ込める気にはなれない。気まぐれは思... 「じゃあ、なんで……俺たちに金なんか渡して……」 「こうしよう。この札束は情報料だ。あいつら、についての話... 詭弁だ。だが、こっちも妙な意地があった。取るに足らない... 「あんまり詳しい話はできないぜ。恨むなよ」 「ああ。分かってる」 もともと渡すつもりで出した金だ。 「ええとな……」 金を懐にしまうと、すこし落ち着いたようだ。地べたに腰を... 「最近、またいなくなったんだよ」 「いなくなった?」 「俺たちの仲間だ。前にもこんなことがあった。消えるんだ。... 消える、か。確かにそれは異常だ。浮浪児には浮浪児の縄張... 「攫われてるってことか?」 「たぶんな。俺も実際見たことは無いけど。前はそういうのに... 「そいつもいなくなった、か」 「ああ」 さっきの警戒心は、こういうことから来てたんだな。納得と... 「俺は、アイツらを守らなきゃならない。まだ小さいんだ」 ゴミ箱の陰に隠れた子供たちは、物言わずじっとこちらを見... 「ああ。分かるよ。昔を思い出す」 「馬鹿いうなよ。俺たちみたいな奴が、気前よく金を渡すわけ... 「いや、本当だ。俺も昔はここにいた。はっきりとは思いだせ... ここかどうかは分からない。正確な場所なんか不明だ。頭に... 「俺もここにいたんだよ。はっきりとは覚えてないけどな。そ... 「そうかよ」 もう少年は会話に興味を無くしてしまったらしい。背後にい... 「じゃーな」 「おう」 別れ際、振り返りすらしなかった。一抹の寂しさを覚えなが... * 動きやすいジーンズに、季節感あるパーカー。そして、極め... 車内で着替えている間に、先ほどのブリーフィングの内容を... 「今回のミッションは、少々条件が特殊だ」 教官はそう言っていた。 「最近犯罪が活発になっている地域がある。位置はマップにあ... 自分から何らかの目的のもとに犯罪を犯すのではなく、ビジ... 「この能力者集団をあぶりだすために、君たちには囮になって... アカデミーズが襲ってきた、となった場合、敵はエースの存... そのための、変装。鏡を見て服装をチェックするがなかなか... 「なかなか似合っているぞ」 レインメーカーとお互いの恰好を確認する。ゴーグルはとも... 「しかし、この格好。普通っぽいというか、統一感が無いよう... いつもの制服になれているせいだろうか、なんだか落ち着か... 「確かにな。だが、少なくともパッと見でアカデミーズとは見... それで十分だ。そう言って、レインメーカーは持ち場に着い... 残り十秒。移動用車両の座席が稼働し、車体後部のハッチへと... 「三……二……一」 後部ハッチ展開。眼下を流れるコンクリートに向かって、僕... 目の前には、沿岸部に立ち並ぶ倉庫の数々。荷物の搬入がと... 「目標ポイントは、第四ブロック 七番倉庫。先導するぞ。遅... リーダーであるガンメタルが、僕含めた四人に指示を出す。... 倉庫の屋根から屋根へと飛び移り、まっすぐに目的地を目指... ネイムレス。顧客情報や個人情報の売買、企業の暗証番号や... 「あれだ」 並走するサイクロンが指を指す。見えてきた倉庫は他と比べ... 「情報は正しかったみたいだな」 屋上から飛び降り、倉庫真正面へと着地。 「やれ」 ガンメタルの指示で、僕はあらかじめ作り出しておいた火球... 能力解除で爆発が始まる。轟音が響き、爆風が髪を吹き上げ... 「行くぞ!」 上半身を硬質化させたガンメタルが、銃弾を弾き飛ばしなが... 「俺たちも行くぞ」 二人の切り込み隊長に続き、レインメーカーが準備を始める... 「この距離なら」 完全に煙は晴れた。クリアになった視界で、敵の人数と位置... 「今だ!」 再びの投擲。距離の調整は慣れた物だ。この位置なら、相手... 「クソ、化け物どもめ!」 そして、爆発。吹き飛ぶ前に発せられた言葉は、耳に心地よい... 「増援だ。さっさと連絡しろ!」 部屋の奥からボスらしき人物の指示が飛ぶ。 「高いみかじめ料払ってるんだ。今こそ役に立ってもらおうじ... それの意味するところは明白だ。そのために、今日僕らはこ... 「来るなら来い」 爆発から逃れ、裏口から退避していく敵をあえて追うことは... * 「仕事よ」 アジトに入ってくるなり、開口一番にレジスターは告げた。... 「緊急の用件、か」 ソファに座っていたアイアンロッドが顔を上げる。 「六人。六人いれば十分。今すぐ仕事に向かってもらう」 そう言うと、こちらの意見も聞かずに名指しでメンバーを上... 「ランチャー、クロックダイル、それと、フェンサー……」 「おい、どういうことだよ」 傍若無人な態度に憤り、アイアンロッドが席を立つ。このま... 「襲われたの。ネイムレスがね」 「あ?」 アイアンロッドが足を止める。これで、少なくとも暴力沙... 「ネイムレスっていうと、うちと取引してるギャングじゃねえ... 「わからない。でも能力者なのは確か」 レジスターの心を読めば、相当の焦りがあるのが分かる。今... 「そう。敵の正体はわからない。だからヘッドセット」 え? この展開は、読めなかった。 「相手の素性を確かめるためにあなたにも現場へ向かってもら... そういうこと。ようやくレジスターの思考スピードに追い付... 「戦闘に参加する必要はないけれど、近くにはいてもらうこと... テレパスは距離に応じて感度が変わる。戦闘中で派手に動い... 「おい、俺は!」 指名されなかったアイアンロッドが詰め寄る。だけど、その... 「向かうのは指名した七名だけ。あなたは待機していなさい」 それだけ言い残すと、レジスターはオフィスへと戻って行っ... 「行くぞ」 呼び出された六人の仲間が、武器を整え、アジトから出る。... 「おい」 部屋を出る瞬間に、アイアンロッドに呼び止められた。口を... 「死ぬなよ」 数多渦巻く言葉の中から彼が選び取ったのは、そのシンプル... * 「来たぞ」 占拠したネイムレスのアジト。四方に待機していた僕らの中... 「数は……三人か? 思ったより少ない――」 「いや待て、こっちも確認できた。どうやら二方向から攻めて... 南を見張っていたサイクロンの声が通信機を通して聞こえる。 「数は二人だ。デカイ荷物をしょってるやつが見えるぞ」 ついで、レインメーカーから通信が入る。 「こっちも二人……いや、一人だな。見間違いだったらしい。デ... 北には何も見えない。海が広がっているばかりだ。敵は倉庫... 「全部で六人。こっちより数が多いな。気を付けろ」 ガンメタルの激励が飛ぶ。 「デカイ荷物を担いでた奴が止まった。これは――大砲だ!」 サイクロンの報告。振り返ると、ガンメタルが南の方角へ倉... 「来るぞ!」 重い爆発音が、空気を伝わり鼓膜に届く。そして、一拍遅れ... 「ぐぉおお!」 見張りは不要。加勢すべきだ。僕は持ち場を離れ、屋根を走... 「なんて威力だ」 コンクリートの地面を抉ったのは、ガンメタルの両足だろう... 「やりやがる」 僕の見ている前で、球体はボロボロと崩れていった。よく見... 「物体を一点に集約する能力らしいな。このタイミングで解除... 大きく息を吐きだしながら、ガンメタルが状況を分析する。... 「そして、解除する理由は一つしかない。次が来るぞ!」 いや、射線は待っすぐにアジトそのものを狙っていた。中に... 「おい待て!」 ガンメタルの制止を振り切り、南の方角へ向かって跳びだす... 再び、火薬の炸裂する音が響いた。砲弾の軌道が目で見える... 「えっ?」 散弾――まっすぐこちらに発射されていた弾丸は突然空中で崩... 「わっ、わわ」 足がすくむ。もうどこにも逃げ場は…… 「伏せろ!」 ふいに前に現れる影。ガンメタルの硬質化した体が、散弾を... 「理屈立てるのはいいが。早合点するんじゃない。能力解除で... サイクロンは、拳を突き出した姿勢を取っていた。自身の周... 「うかつな接近は危険だ。言っただろう。敵は二人。恐らく奴... サイクロンがガンメタルの隣に立つ。次の攻撃に備えるため... 「おい! 人手がいるぜ、こっちは三人相手にしてるんだ!」 ブリンクからの通信。 「ここは俺たちに任せて、ブリンクのカバーに行って来い」 「あ、あのごめんなさい」 「反省は後だ。まずは、片をつける」 昨日のあれで、浮かれすぎていたみたいだ。こんなんじゃ、... 「いってきます」 苦い思いを抱えながら、ブリンクのもとへと走る。 ネイムレスのアジトは、ひどい有様だった。 「うわっ……」 鉄球でも撃ち込まれたかのように壁には大きなクレーターが... 「やべっ!」 テレポート前の位置を通り抜ける残像。攻撃を避けられ減速... 「ぐっ」 移動した先で、五本の刃がブリンクを襲う。その能力の特性... 体をひねったためか、傷は浅い。攻撃の主は、積み上げられ... 「ちっ」 攻撃したのはしかしサーベルではない。金属製の細く伸びた... そして、落下するブリンクを待ち構える、三人目の敵、アジ... 「ぐっ」 これに対してブリンクはただガードすることしかできない。... 「やべえ」 ブリンクが起き上がるよりも、敵が轢殺するほうが早い。ス... 訓練でおおよそ飛行は身に着けた。地面を滑るように飛翔し... 「助かったぜ」 とはいえ、三対一なことには変わりない。見たところ何か能... 「まずは、誰を狙いますか」 飛び道具を持たないのか、海賊と素手の二人組は、機敏かつ... 「あいつら、やりやがるぜ」 「えっ?」 意図していた答えじゃない。だが、ブリンクは続けた。 「この短期間で、俺がテレポートできる距離に限りがあると……... このアジトはもともと倉庫だったこともあり、天井が高い。... 「もうすぐ、あの槍が戻ってきます。それまでに移動しておか... 既に火球は作ってある。後はどこを攻撃するか、だ。しかし... 「ブリンクさん。これを持ってください」 作り出した火球を、ブリンクに預ける。能力を解除しない以... 「おい。どういうこと……」 「これを持って、テレポートしてください。上へ、奴ら二人の... 伝えられるのはこれが限界だ。突撃槍の攻撃が通過。間一髪... 「なるほど。これで、あってるんだよな!」 ちょうど二人の接近がピークに達した瞬間。ブリンクは、火... 瞬間、能力を解除、爆風は移動に必要な足がかりを生み、自... 「敵は俺を攻撃するために、爆風の射程圏内に入っている!」 爆風によるダメージは零ではないが、ブリンクは無事だった。 「ちょっと威力が弱かったかな。テレポートで酸素がオゾンに... 「あまり影響はないはずですけど」 一人は、逆立ちの姿勢でけりを繰り出していた方は、吹き飛... 「まじかよ。あいつの方が近かっただろう?」 いつの間に手にしたのか。盾をかざして爆風を防いだようだ。 「どっから持ってきたんだ?」 歪に切り取られたスティールの板。敵が着地したデスクの上... そして、盾を落とした時に明らかになるその右腕。さっきま... 「能力を解除したってことか? 攻撃を防御するために?」 まるで正体が掴めない。そこに、減速し、姿勢を立て直した... 「……えっ?」 攻撃を躱すべく真横に跳んだその時、視界の隅に海賊の姿が... 「何だ?」 受け身を取るための前転で、視界から海賊の姿が消える。視... 「あれが、発動条件なのか? 何かで挟む?」 鉛色に輝くその武器は、さっきの鉄板を元に作られたような... 「くっ!」 しかし、冷静に考察する時間は与えられない。再びの突撃槍... 「わっ!」 ブリンク以上の脅威と判断したのか、海賊がこっちに斧を振... 距離を取る時間はない。とっさにかがんでやり過ごす。この... 「こ、こうなったら……」 多少無茶だがやるしかない。放つ機会がなく手に握っていた... 僕は能力を解除し、置いた火球を爆発させた。 「ぐっ、ぅううう!」 痛い。確かに僕の能力は熱を防げる。でも熱だけだ。爆風の... 「やった、かな?」 ひょっとしたら、致命傷になってしまったかもしれない。し... ショックでぼんやりしていた視界が、徐々にはっきり見えて... 味方のフォローに入るべく、いち早く体勢を立て直した海賊... つまり、躱されたら終わり。なんとかして当てないと。突撃... 「おらぁ!」 この膠着を破ったのは、ブリンクだった。助走をつけた後の... 「よし!」 最後の一発。さっきの攻撃で意識が奪われなかったことから、... 「せえ、のっ⁉」 腕にダメージ。一体何だ? 完全なる死角から、火球を構え... 「あっ!」 あの時吹き飛ばした足技使い。どういう原理でそうなってい... 「気絶したと思ってたのに!」 体をブレイクダンスのように回転させて、連続で蹴りが放た... 「ぶっ!」 ガードの合間を縫って、つま先が頬を捉える。視界が揺れ、... 逃れるか? いや、敵の攻撃は実に巧みだ。距離を取ろうと... 頼みの綱のブリンクは海賊の敵にかかりっきりだ。突撃槍が... 「こうなったら」 ゼロ距離で火球を爆破させる。この状況を打ち破るにはそれ... 一瞬のためらい。致命的な隙だ。壁の敵は味方の攻撃に合わ... 「えっ?」 突然、視界が塞がれた。二人の間に割って入る人影。いや、... 「レインメーカー!」 東側で戦っていたはずの彼が、何故ここに? いやな予感が... 「くっ!」 かざした手の先に水の壁を移動した途端、レインメーカーを... 銃弾は水の壁にせき止められ、ゆっくり沈んで零れ落ちた。... 「クソッ。あいつ、かなり強いぞ」 銃弾を水の壁で防げるレインメーカーが苦戦している? 一... 「あれは……?」 その形状から銃だとは分かる。しかし……ずいぶんと原始的だ... 新たな敵の登場で、場の流れが変わる。突撃槍と、足技使い... 「ぐぅあああ!」 壁を突き破って部屋に転がり込んでくるのは、全身を硬化さ... 「……これは、まずいな」 硬化を解いて起き上がるガンメタル。 「確保は不可能。一時撤退だ。本部に増援を要請する」 頭部通信機を起動し、ガンメタルはビーコンを送った。敵の... 「おかしい……通信が繋がらない!」 返答を待っていたガンメタルが叫ぶ。 「なんだと?」 通信機の故障か? 彼に倣い、僕らもデバイスを起動した。... 「マジかよ」 流れてくるのはノイズだけ。通信状態に問題はないはずだ。... 「どうする?」 敵は当然逃がしてくれそうもない。 「自力で脱出だ。確保は諦め、制圧に切り替える」 制圧……。それしか方法はないのか? 四方を囲む敵、数の上... 状況は、僕の決断を待ってはくれない。レインメーカーが対... 「ぐっはっ」 脇腹に銃撃を受けよろめくレインメーカー。能力者は、普通... 「くっ!」 考える時間は与えられない。ブーストして突っ込んでくる突... 「ぐぉ!」 爆風を絞り、爆破の反動で背後へ。不意打ちを受けた足技使... 「よし!」 ――レインメーカーの作った水の壁が待っている。 水のクッションで衝撃を吸収。全身びしょ濡れだが、レイン... そうして水の壁を通り抜けた後に、振り返り、投擲。狙いは... 「行けッ!」 火種をくれてやる。銃の暴発を狙い、僕は能力を解除した。 爆発。しかし敵は一瞬早く攻撃に対応していたようだ。長い... 「もう一発!」 隠れても無駄だ。既にもう片方の手に火球を作り出している... 「左だ!」 投擲の直前。レインメーカーの警告が飛ぶ。これが命を救っ... 「えっ⁉」 銃声。放たれる弾丸。さっきまで敵が立っていた位置。背中... 体中の神経を総動員し、体をよじって弾を躱す。完全には避... 通過。熱によるダメージはないけれど、摩擦によって皮膚が削... 脇の下から流れる血が、かりそめの意匠を赤くを染めた。 「今のは?」 まさか、爆発で着火することを見越して、あらかじめあそこ... 「あれが、奴の戦術だ。導火線が無くなると同時に、引き金が... どうやっているのかは知らないが、銃は狙いを保てるように固... 攻撃してこないとみるや、銃使いは物陰から飛び出し、再び... 「これだ!」 手の平に残っていた火球をロケットにして、挟み撃ちを真上... 「わっ」 目測を見誤り、突進の力をぶつけることはできなかった。だ... 「せいっ!」 シンプルな右ストレート。再び、足技使いの意識は刈り取ら... 「おい! 何加減してやがる! 止めを刺せ!」 余裕なくまくしたてるブリンク。テレポートに対して大きく... 「ブリンク!」 背後からの攻撃をテレポートで躱すブリンク。移動先はやは... 「あっ!」 もはやその瞬間、僕らは見ているだけしかできなかった。ガ... 「ぐああああああ⁉」 空中で自由が効かないブリンクに叩き込まれた。 「……え?」 しばらく、言葉が出なかった。だってそうだろう。あそこに... 死。生命活動の停止。ヒーローを目指していたはずの僕らの... 「う、嘘だ。こんなの……」 こんなのありえない。僕は、僕たちはヒーローになるんだ。... 「おい! 伏せろ!」 ふいに飛んでくる怒号。反応が間に合わず、誰かの手で頭を... 「え、えっと」 「おい! しっかりしろ!」 肩を掴んで持ち上げられる。声の主は、レインメーカーだ。... 「あ、あの」 「まだ戦闘の最中だ! 死にたくなきゃ気を抜くんじゃねえ!」 こんなレインメーカーは初めてだ。いつもの余裕は見られな... 「加減するな……制圧だ。生き残るにはそれしかない」 「制圧……」 制圧。つまりは相手の命を奪うこと。殺すことと同義だ。い... 生き残るために敵の命を奪う。それがヒーロー? 気持ちは依然整理されていなかったが、脳と、そこに刻み込... 意識を失い倒れ伏した足技使いに目を向ける。今なら殺せ... 迷い、攻撃できずにいる僕をよそに、再び、例の大砲が放た... 「くたばれ!」 敵の怒号で、意識がはっと戻ってくる。どうする? もう回... 「あ、ああ……」 このままじゃ、死ぬ。ブリンクの顔が、抉れた死に顔が脳裏... 「うわぁあああ!」 能力解除。キネシスの膜が部分的に開き、圧力から解放され... 「どうなった?」 わざわざ口に出さなくても、結果は分かりきっている。 晴れた視界の先にあったのは、火だるまになって転げる人型... 「まだ、だ」 まだ相手は動いている。息をしている。黒焦げになり、全身... 「僕がやったんだ」 こんな状態では長く生きられるはずがない。よしんば命をつ... 「それの何が悪いんだ?」 そうだ。僕は生きるためにやったんだ。こんなところで死ぬ... そうだ。何をためらう必要がある? 正義のために戦ったブ... なら殺さないとだめだ。銃使いの攻撃。左右と正面三方向から... 「広げることもできる!」 解除箇所を変更。爆風の広がる範囲を拡大し、迫りくる銃弾... 「隙だらけだ」 追撃の二発目。火球を投擲し、ゼロ距離で爆発する。 「ぐぁあああ!」 断末魔の悲鳴。上半身の消え去った突撃槍の姿を見て、僕は... 「ぐああ!」 悩む時間はない。銃使いの追撃が左腕を撃ちぬき、痛みが思考... 完全なる不意打ちだ。筋をやられたのだろうか。もう左手で... 「くそお!」 痛みをこらえて足を動かす。止まっているのはまずい。敵の... 「ここだ!」 ロッカーを蹴倒し、待ち構えているであろう敵に右手を構え... 「そんな……」 どうやら敵は、さらに先を行っているようだ。 「いつから? まさか、さっきの十字砲火の時点で、既に移動... この状況も、奴の計算通りなのか? 銃から伸びる導火線の... 「まずい」 炎を手で握りつぶす。まさかこれも、囮にするための布石か... 「ぐふっ」 しかし弾が当たったのは自分ではなかった。もっと悪い。真... 「レインメーカーさん!」 「悪い。やられちまった」 膝から地面に崩れ落ちるレインメーカー。敵の射線を割出し... 「そんな……しっかりしてください!」 「心配するな。致命傷じゃない。動くのは厳しいけどな」 僕のせいだ。また勝手な推測を立てて、仲間を危険に…… 「おい。また思い詰めてるだろ。そんなふざけたこと考えてた... 床に血を吐き捨て、レインメーカーが息をつなぐ。 「で、でも、どうしたら」 「実はな、俺の能力は防御だけじゃない。攻撃に応用できる。... 攻撃に? 水を補充しながらレインメーカーに尋ねる。 「何故、今までそれを使わなかったんですか?」 「水の壁が無くなるからだ。一回使うともう一度防御のために... 「なるほど……それで、僕は何をすれば?」 「俺はもう動けない。このロッカーの真後ろ。そこに敵をおび... 真後ろ? そこで大丈夫なのだろうか。恐らく攻撃は水の壁... 「わかりました」 疑問は尽きないけれど、いかんせん時間がない。僕は敵を殺... 「うぐっ!」 横っ飛びに吹き飛ばされてきたのは、サイクロンだ。竜巻で... 「くっ!」 バックフリップでレイピアを躱すサイクロン。その際に地面... 「ちっ!」 風の切れ目を狙って、銃弾が撃ち込まれる。既に攻撃を予測... 「そうか!」 あの時導火線を止めた銃。あれが本来、この攻撃に使われる... 使える銃の数が限られてきているのかもしれない。とすると... 「サイクロンさん。狙撃手は任せます」 「おい。良いのか? お前、接近戦は分が悪いだろ?」 「構いません」 サイクロンの能力であれば四方から弾が飛んできても対応で... 「わかった」 狙撃手の位置は割れている。いずれ片が付くだろう。ひとま... 「しまった!」 爆破のタイミングが狂う。レイピアの一振りで火球はその軌... 「うわっ!」 敵の踏込は早い。とっさに状態をそらすと、剣先が鼻をかす... 「いや、ダメだ」 敵のフットワークは相当のものだ。狙いをつけるよりも先に... 僕はレインメーカーが影にいるロッカーに目を向けた。 * ダメだ。遠すぎる。時折倉庫から轟音と爆炎が上がるが、中... 「もっと近づかないと」 戦場に近づくのは賢い選択肢とは言えない。心を読むことが... だが、そのリスク有ってなお、接近と言う選択肢は頭から消... 戦闘は未だ続いていた。一体何がどうなっているのか……。敵... 立ち並ぶ倉庫を抜け、北にある正面入口へと歩いていく。混... 「クソッ! 近寄られる前に、吹き飛ばしてやる」 これは……? 同時に伝わる金属の筒を掴むような感覚。ラン... 「ダメ! 待って!」 叫びたい。伝えたい。敵の意図を汲みとった瞬間、ランチャ... 「吹き飛べ!」 必死に送り込んだ思念波はしかし、ランチャーの分泌したア... テレビの電源を切った時のような感覚とともに、ランチャー... 「ランチャーが死んだ……」 ダメだ。警告では救えない。もっと近づかないと。意識をよ... そして何より、仲間を助けるだけのメッセージを送ることが... ランチャーを殺害した能力者は、休む間もなく反対側で展開... けど、これは警告する必要はない。クロックダイルはそこま... 完全に死角、それも背後からの攻撃だったにも関わらず、敵... 激痛と共に驚愕が脳に伝わる。前触れなく心臓周りの肉を三... よかった。少なくとも、クロックダイルが即座に死の危険に... だけど、その反対側。ちょうどこの真裏で行われている戦闘... 「レインメーカーが隠れているのは、あの裏だ」 レインメーカー? それが能力者の名前なのだろうか。確か... 「いいぞ。うまく敵を誘い込んでいるな。あと少しだ。後少し... 狙われているのはフェンサーだ。対峙するのは若い能力者。... 「いずれにせよ、時間の問題だ」 二人の力量の差ははっきりしている。明らかにフェンサーの... 「待って! あいつには隠れている仲間がいる!」 警告を飛ばす。今度は、間に合った。 「何?」 足を止めるフェンサー。でも、まだ不十分だ。ガントレット... 「火炎放射?」 これだ。これでフェンサーの位置をずらそうとしている。炎... させるものか。見つかるかもしれないという恐怖。さらには... 空いた穴から中を覗きこみ、護身用に渡された拳銃を構える... 「ぐあっ!」 銃声、そして、脳に反響する手の甲へのダメージ。 「くっ」 攻撃を止めることはできなかったけど、狙いを逸らすには十... 「やった……」 ウォーターカッター。思念を読み解く限り、能力効果範囲を... 空を切った一線の水が、反対側にあるデスクに命中。小さな... 「助かったぞヘッドセット。そして、隠れたもう一人の位置も... 攻撃が放たれたロッカーに向かって、レイピアを突き刺す。... 「もう一人いたのか……」 残った一人、ガントレットの思考はしかし、恐ろしいほどに... 「お前も、仲間と一緒にあの世に行きな」 もうその手に火球はない。左手は初めから使えないし、右手... 「なんで?」 わからない。彼はまだ戦うことを諦めていなかった。その思... 「ここまで来たら解除する。ここまで来たら解除する。ここま... 予備動作も、新しい準備もなしに、彼は殺そうとしているフ... 「が、は、……」 銃声。自分の物じゃない。シードの物だ。シードの使う火縄... 「あ、ああ……」 壊れたラジオのように繰り返された思考が止まり、その切れ... 「に、逃げなきゃ」 フェンサーは死んだ。自分を守ってくれる者はもういない。... 「殺す、殺す、殺す」 思考パルスが伝えるのはシンプルな一つの意思。純粋な殺意... 「助けてエリック!」 思念波が届くありったけの範囲で飛ばしたその信号は、自分... * 「助けてエリック!」 頭の中に響く声。海を眺めていると、突然頭に流れ込んでき... 「ヘッドセット⁉ 何があった?」 別の能力者集団が攻めて来たのか? ヒーローだったら最悪... 「おい、場所は?」 「ネイムレスのアジト。お願い早く着て! もう……!」 そこで、テレパスは途切れた。戦闘に集中するためか? あ... 「クソッ! なんであいつが前線に出てるんだ?」 ヘッドセット能力はテレパス。心を読み取り相手の真意を探... 「レジスター……何を考えてる?」 ネイムレスのアジト。ここからならそう時間はかからないは... ヘッドセットは無くてはならない存在のはずだ。テレパスは... 「何か取引があったのか? そして、そこを狙った別の組織が…... 考えても仕方ない。俺は、例の倉庫を目指して一目散に走っ... * 「終わった……」 敵はこれで全部。銃を使っていた能力者は、サイクロンが始... だが、そのサイクロンも…… 「すみません」 「気に、するな」 残った一人、海賊姿の能力者を生け捕りにしようとして、失... 「無茶ですよ」 激しく動きまわる敵を止めるために、サイクロンはわざと刃... 「予想通り、だっただろう」 「はい」 敵は、武器を作り出す際に、どういうわけかその場に自分の…... 「特定の目的に特化したキネシス。ある種自動操縦じみたとこ... 「喋らないでください。傷が開きます」 そう。サイクロンは読んでいた敵が能力を解除することも、... 「ただ刺されただけじゃない。直撃でないとはいえ、僕の爆発... あらかじめ、僕は断ち落とされていた手首に火球を握らせて... もくろみ通り、敵は爆発の直撃を受けて、手首の千切れた死... 「心配するな。ミッションは終わった。すぐに、エースが来て... そう、全て。影に隠れていた七人目の敵は、僕が始末した。... 「ええ、そうですね」 「ああ。ブリンクとガンメタルはダメかもしれないが、レイン... 視界を横切る影。そこで、サイクロンの言葉が途切れた。体... 「そうか……お前を殺すのを忘れていた」 ああ、なんてうかつだったんだ。この殺し合いを終えた今で... 「仕方ない」 だから、さっきと同じように。僕は火球を、ただ床に置いた... 「ぐぁああああ!」 最後の花火は派手に打ち上がった。爆風は敵を飲み込み焼き... 「ミッションは失敗。生け捕りにはできなかった」 生き残ったのは僕とレインメーカーだけ、か。 下を見ると、ロッカーにもたれかかり、血を流しながらも、息... 敵の増援? いや、タイミングとしては遅すぎる。影の主は... 「エースさん……」 ヘリング・エースが、やっと助けに来てくれた。 「呼ばなきゃ。僕はここにいるって」 待ち望んだ助けがやっと来たのに、胸の内の苦い感情は消え... 「エース、さん」 出たのはかすれた声にならない声だけだった。背中から金網... 待っていればいずれ助けてくれるだろう。僕はそこから見下... 「なんだ。敵いないじゃん」 耳を疑った。開口一番に放たれた言葉が、それ? エースの... 「敵いないよ。入ってきても大丈夫」 通信機で連絡を取ると、新たに二名、人影が現れる。二人と... 「バイタルサイン消失が三名……ガンメタル、サイクロン、ブリ... 研究者だろうか。アカデミーズのエンブレムを付けているけ... 「サイクロンとブリンクはどうでもいいけど、ガンメタルをや... まるで談笑でもしているかのように軽い調子で話しながら、... 「胸からばかっと抉られてるね」 「戦闘データを取り出してみましょう」 白衣の男達がガンメタルの頭部に手を当て、メモリを取り出... 「他の奴らも頼むよ」 研究員がメモリをしまったのを確認すると、エースは次に向... 「ブリンクか。相変らず、臭いは残るみたいだね」 顔をしかめてエースが呟く。 「これだけ血と脂が飛び散った中でも香るのか。これはまずい... 「自分と、移動先の空気の位置を揃って入れ替える能力ですか... 「ヒーローなんだから、どうせならもっとフローラルな香りに... 「善処します」 何を言ってるんだ? 超能力は持って生まれたもの。人為的... 何か、おかしい。あれは本当にエースか? みんなのヒーロ... 「さて、データは抜き取ったし……」 エースの目が、今度はレインメーカーに向けられる。やめろ... 「た、すけ、て……」 「生きているんだよね。よくやったと思うよ。君は実に優秀だ」 レインメーカーに語りかけるヘリングエース。その表情は物... 「でも、悪いけど。君はたぶんこれ以上伸びないだろうからさ」 本当に、声音は何一つ変わっていない。今日僕らにミッショ... 「バイバイ」 エースはレインメーカーの頸を折った。 「さて、彼の分も回収だ」 何事もなかったかのように、死体に変わったレインメーカー... 「さて、次に行こうか」 このままじゃ殺される。それを知っても僕にはどうすること... * 「ここだな」 ようやくたどり着いたネイムレスのアジトは、えらい有様だ... 「ダメージを受けて動けないのかもしれない」 いてもたってもいられず、俺は彼女を探そうと空いた穴から... 「ん?」 穴から一歩踏み込んだところで、足に何かが引っかかった。... 「ヘッドセット……!」 自分が見た物が信じられなかった。床に倒れ伏すヘッドセッ... 首が折れてさえいなければ。 「ああ。そんな……」 急いで首筋に手を当てるが、既に無駄だと分かっていた。案... 「間に合わなかった……」 やったのは誰だ? どこのどいつだ? 探し出して殺してや... 調べないと。更に踏み込んで奥に進もうとした時、視界にと... 「ヘリング・エース⁉」 まさか、あいつか? あいつがヘッドセットを? 幸いなこ... 窓のすぐ下には鉄の網でできた通路があった。ここなら、敵... 「あいつはランチャーだ。フェンサー、それにシード・アイズ... ストレイドッグと思しき能力者が六人。ヘッドセットも含め... 「エースじゃないことは確かだ。ヘリング・エースやアカデミ... しかし、アカデミーズでないとしたら、エースがこの場にい... 「まさか、変装か?」 倒れている敵はどれもラフな格好だ。そこいらのチンピラと... 「レジスターは別の犯罪者組織からの襲撃だと思う」 それで縄張りを維持するために急きょ派遣した。ストレイド... しかし、何故ヘッドセットまで? 謎は解けない。 「こうなると、彼女を殺した能力者も、既に死んでいる可能性... 怒りが行き場を無くし、急速にしぼんでいく。このありさま... 生き残りがいれば、助けるはず。その至極まっとうな思考が... 「なっ!」 思わず声が出た。なんてことだ。あの野郎。 「バカな……あれはストレイドッグのメンバーじゃねえ。アカデ... ゴーグルにマスクで顔を覆った能力者。ロッカーにもたれ、... 「いかれてるってのは聞いてたが、ここまでやるのかよ」 常識が通用しない相手。何故だ? 何故自分の子飼いを? ... 「はっ!」 近くで鳴った物音で、現実に引き戻された。まずい、考え込... しかし、エースの姿は依然変わらず下の階にあった。とする... 「あれか?」 通路の先に倒れている人物が一人。背丈は自分より一回り小... 味方にしろ、敵にしろ、このままじゃエースに殺される。今... 「おい、しっかりしろ……」 ひどい傷だ。両手は血だらけ、弾丸で穴を空けられているの... 「まさか、こいつか? こいつがヘッドセットを?」 暗がりで顔がよく見えない。俺はそいつを引っ張って、明か... 「テッド……」 なんだ? 誰の名前だ? 記憶の底から文字の羅列が音にな... 「弟、なのか?」 もはや名前も忘れてしまった、かつての兄弟。共にゴミ箱を... 「そんな馬鹿な」 完全には消えていなかった記憶。それは都合よく歪められた... 「いや、もうこれ以上死人は必要ない」 憐みか? 確かにそうだ。アカデミーズの連中の運命や境遇... その能力者に意識はなかった。ただ何かうなされているよう... 俺は黙ってそいつを担ぎ上げると、天井部に空いた穴から、... #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) 終了行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第4章 ターニングポイント [#te1d6439] 「こないだのミッション。よくやったじゃないか」 ふいに肩を叩かれて、思わずトレイを落としそうになった。... 「レインメーカーさん。驚かさないでください」 「ああ。悪い悪い」 食堂は、天窓から差し込む光で明るく照らされている。少し... 「でも聞いたぜ。俺がいなくなった後、一人でリサーチャーズ... 「アサルトの協力があってこそのものです。僕一人だと死んで... あの時手榴弾を投げてもらわなかったらどうなっていたこと... 「それでも、だ。どうやったかは知らないけど、能力者を倒し... 「あ、ありがとうございます」 そうだ。パンを口に運ぶ手を止めて、僕は気になっていたこ... 「そう言えば、あの捕まえた能力者はどうなるんでしょう。何... ラストワンに実験動物として使い捨てられるはずだった彼ら... 「エースさんが話を通したらしい。ジャックナイフが抑えたラ... よかった。ラストワンの確保は、全く僕が関わっていない出... 「しかし、いよいよヒーローらしくなってきたな」 「そうでしょうか」 「これだけ仕事をこなしてるんだ。エースみたいにテレビに出... ヒーロー、か。あまり実感はわかない。テレビに出ている自... 憧れがドアの向こうに待っている感覚は、ぼんやりとだが掴... 「あ、エースさんだ」 備え付けのテレビが、またもエースの活躍を映す。燃え盛る... 「なあに。子供たちに火遊びはまだ早い。そう思っただけです」 インタビュアーの質問を軽いジョークでかわして、エースは... 「インタビューの練習とかしといたほうがいいかな」 「さあ、それは君たち次第かな」 割って入る、新たな声。この声は―― 「エースさん!」 「やあ、驚かせてしまったかな」 まるで、画面から抜け出してきたかのようだ。シャワーを浴... 「でも、そろそろだと思うよ」 「ヒーローになれるんですか⁉」 「言葉を繰り返す様で悪いけど、それは君たち次第だ」 エースは、手首に装着された携帯端末を展開した。 「新しいミッション。君たちのチーム全員で挑んでもらう。こ... 「本当ですか⁉」 「ああ、事実だよ」 レインメーカーのガッツポーズ。 「やったな。フレイムスロアー」 「ええ。頑張ります」 端末に表示される情報は、いつものブリーフィングルームを... 「がんばってね」 「はい!」 急いで昼食をかきこむと、僕らは急いでブリーフィングに向... 間違いなく、人生最良の瞬間だった。 * 「納得いかねえ」 あの日以来、レジスターとはまともに口をきいていない。面... 「怒ってるね、エリック」 ヘッドセットの声が頭に響く。いつもなら口で返事をしてや... 「自分だけ特別扱いしてもらえなくてすねてるのか? いい加... 横から口を挟むのはアイアンロッド。口調は軽薄だが、こい... 「あの場で俺を指名するってことは、俺が一番死んでも困らな... 「確かにお前はよくやってるが、やった仕事は過去のものだ。... 「喧嘩売ってんのかてめえ」 「あくまで、個人的な意見だ」 「なんだと」 クソ。一発くらい殴ったって死にやしないだろ。このふざけ... 「待ってエリック」 ソファから立ち上がった瞬間、ヘッドセットの声が脳に流れ... 「何だよ。俺が今何を考えているか、とっくにわかってるんだ... 「間違った情報を元に判断を下すのは、私は良くないことだと... この声はアイアンロッドには聞こえていないようだ。立って... 「レジスターがあの時エリックを選んだのは、エリックのこと... 「そうか。現実に俺は選ばれたんだがな」 ヘッドセットならレジスターの胸の内を知ることもできる。 「レジスターがエリックを選んだのは、エリックのことが大事... あの女は、エリックに執着してたの」 言葉は強烈だが、それに付随するイメージ、彼女の真意は読... 「自分の中のエリックに依存している部分を断ち切ろうとして... 「つまり、自分から嫌われに行った、ってことか? 俺が彼女... それを聞いて、突き上げられた感情は急速にしぼんでいった... 「うん」 ヘッドセットの返答が引き金となって、俺は立ち上がった。... 「おい、どこ行くんだよ」 コートを羽織るとアイアンロッドの声を無視して、俺はアジ... 今はただ歩こう。頭が冷えるまで、他のことはできそうにな... そうしてアジトを出た先の、レンガ造りの建物を抜けてしば... 「ここは……」 なんだかひどく見覚えのある場所にたどり着いた。四方を薄... 「あっ、おい!」 そのうちの一人がこちらに気づき、肩を叩いて仲間に知らせ... 「なつかしい、のか?」 かつて、自分もあの中の一人だった。記憶はおぼろげだが、... 「おい、ちょっといいか」 ゴミ箱へ近づいて行くと、浮浪児たちは獣のように身をすく... 「何だよ」 一番体格のいい少年が、仲間を守るように前に出た。俺より... 「いや、昔のよしみだ。あるいは、単なる気まぐれか。まあ、... 「だから、何が言いたいんだって聞いてるんだよ!」 ずいぶんと威勢がいいな。だが、まだ子供だ。肩の震えは隠... 「ほらよ」 財布から金を数枚抜き取って差し出す。こいつらに憐れみを... 「なんだ……これは……」 しかし少年は受け取ろうともしない。その表情から読み取れ... 「取れよ。生ごみよりはマシなもんが食えるぞ」 「何だよ、手口を変えて来たのか? 汚い真似しやがって。た... まあ、それもそうだ。だが、こいつらの怯え方は尋常じゃな... 「手口、と言ったな。何かあったのか?」 「すっとぼけんじゃねえよ。お前らなんだろう。あいつらを――」 まじまじと俺の顔を見つめる。途切れた言葉は、疑問文に繋... 「何だよ、ほんとにあいつらじゃねえのか?」 「さあな。あいつらが何か、俺にはさっぱりわかないからな」 差し出した札束を引っ込める気にはなれない。気まぐれは思... 「じゃあ、なんで……俺たちに金なんか渡して……」 「こうしよう。この札束は情報料だ。あいつら、についての話... 詭弁だ。だが、こっちも妙な意地があった。取るに足らない... 「あんまり詳しい話はできないぜ。恨むなよ」 「ああ。分かってる」 もともと渡すつもりで出した金だ。 「ええとな……」 金を懐にしまうと、すこし落ち着いたようだ。地べたに腰を... 「最近、またいなくなったんだよ」 「いなくなった?」 「俺たちの仲間だ。前にもこんなことがあった。消えるんだ。... 消える、か。確かにそれは異常だ。浮浪児には浮浪児の縄張... 「攫われてるってことか?」 「たぶんな。俺も実際見たことは無いけど。前はそういうのに... 「そいつもいなくなった、か」 「ああ」 さっきの警戒心は、こういうことから来てたんだな。納得と... 「俺は、アイツらを守らなきゃならない。まだ小さいんだ」 ゴミ箱の陰に隠れた子供たちは、物言わずじっとこちらを見... 「ああ。分かるよ。昔を思い出す」 「馬鹿いうなよ。俺たちみたいな奴が、気前よく金を渡すわけ... 「いや、本当だ。俺も昔はここにいた。はっきりとは思いだせ... ここかどうかは分からない。正確な場所なんか不明だ。頭に... 「俺もここにいたんだよ。はっきりとは覚えてないけどな。そ... 「そうかよ」 もう少年は会話に興味を無くしてしまったらしい。背後にい... 「じゃーな」 「おう」 別れ際、振り返りすらしなかった。一抹の寂しさを覚えなが... * 動きやすいジーンズに、季節感あるパーカー。そして、極め... 車内で着替えている間に、先ほどのブリーフィングの内容を... 「今回のミッションは、少々条件が特殊だ」 教官はそう言っていた。 「最近犯罪が活発になっている地域がある。位置はマップにあ... 自分から何らかの目的のもとに犯罪を犯すのではなく、ビジ... 「この能力者集団をあぶりだすために、君たちには囮になって... アカデミーズが襲ってきた、となった場合、敵はエースの存... そのための、変装。鏡を見て服装をチェックするがなかなか... 「なかなか似合っているぞ」 レインメーカーとお互いの恰好を確認する。ゴーグルはとも... 「しかし、この格好。普通っぽいというか、統一感が無いよう... いつもの制服になれているせいだろうか、なんだか落ち着か... 「確かにな。だが、少なくともパッと見でアカデミーズとは見... それで十分だ。そう言って、レインメーカーは持ち場に着い... 残り十秒。移動用車両の座席が稼働し、車体後部のハッチへと... 「三……二……一」 後部ハッチ展開。眼下を流れるコンクリートに向かって、僕... 目の前には、沿岸部に立ち並ぶ倉庫の数々。荷物の搬入がと... 「目標ポイントは、第四ブロック 七番倉庫。先導するぞ。遅... リーダーであるガンメタルが、僕含めた四人に指示を出す。... 倉庫の屋根から屋根へと飛び移り、まっすぐに目的地を目指... ネイムレス。顧客情報や個人情報の売買、企業の暗証番号や... 「あれだ」 並走するサイクロンが指を指す。見えてきた倉庫は他と比べ... 「情報は正しかったみたいだな」 屋上から飛び降り、倉庫真正面へと着地。 「やれ」 ガンメタルの指示で、僕はあらかじめ作り出しておいた火球... 能力解除で爆発が始まる。轟音が響き、爆風が髪を吹き上げ... 「行くぞ!」 上半身を硬質化させたガンメタルが、銃弾を弾き飛ばしなが... 「俺たちも行くぞ」 二人の切り込み隊長に続き、レインメーカーが準備を始める... 「この距離なら」 完全に煙は晴れた。クリアになった視界で、敵の人数と位置... 「今だ!」 再びの投擲。距離の調整は慣れた物だ。この位置なら、相手... 「クソ、化け物どもめ!」 そして、爆発。吹き飛ぶ前に発せられた言葉は、耳に心地よい... 「増援だ。さっさと連絡しろ!」 部屋の奥からボスらしき人物の指示が飛ぶ。 「高いみかじめ料払ってるんだ。今こそ役に立ってもらおうじ... それの意味するところは明白だ。そのために、今日僕らはこ... 「来るなら来い」 爆発から逃れ、裏口から退避していく敵をあえて追うことは... * 「仕事よ」 アジトに入ってくるなり、開口一番にレジスターは告げた。... 「緊急の用件、か」 ソファに座っていたアイアンロッドが顔を上げる。 「六人。六人いれば十分。今すぐ仕事に向かってもらう」 そう言うと、こちらの意見も聞かずに名指しでメンバーを上... 「ランチャー、クロックダイル、それと、フェンサー……」 「おい、どういうことだよ」 傍若無人な態度に憤り、アイアンロッドが席を立つ。このま... 「襲われたの。ネイムレスがね」 「あ?」 アイアンロッドが足を止める。これで、少なくとも暴力沙... 「ネイムレスっていうと、うちと取引してるギャングじゃねえ... 「わからない。でも能力者なのは確か」 レジスターの心を読めば、相当の焦りがあるのが分かる。今... 「そう。敵の正体はわからない。だからヘッドセット」 え? この展開は、読めなかった。 「相手の素性を確かめるためにあなたにも現場へ向かってもら... そういうこと。ようやくレジスターの思考スピードに追い付... 「戦闘に参加する必要はないけれど、近くにはいてもらうこと... テレパスは距離に応じて感度が変わる。戦闘中で派手に動い... 「おい、俺は!」 指名されなかったアイアンロッドが詰め寄る。だけど、その... 「向かうのは指名した七名だけ。あなたは待機していなさい」 それだけ言い残すと、レジスターはオフィスへと戻って行っ... 「行くぞ」 呼び出された六人の仲間が、武器を整え、アジトから出る。... 「おい」 部屋を出る瞬間に、アイアンロッドに呼び止められた。口を... 「死ぬなよ」 数多渦巻く言葉の中から彼が選び取ったのは、そのシンプル... * 「来たぞ」 占拠したネイムレスのアジト。四方に待機していた僕らの中... 「数は……三人か? 思ったより少ない――」 「いや待て、こっちも確認できた。どうやら二方向から攻めて... 南を見張っていたサイクロンの声が通信機を通して聞こえる。 「数は二人だ。デカイ荷物をしょってるやつが見えるぞ」 ついで、レインメーカーから通信が入る。 「こっちも二人……いや、一人だな。見間違いだったらしい。デ... 北には何も見えない。海が広がっているばかりだ。敵は倉庫... 「全部で六人。こっちより数が多いな。気を付けろ」 ガンメタルの激励が飛ぶ。 「デカイ荷物を担いでた奴が止まった。これは――大砲だ!」 サイクロンの報告。振り返ると、ガンメタルが南の方角へ倉... 「来るぞ!」 重い爆発音が、空気を伝わり鼓膜に届く。そして、一拍遅れ... 「ぐぉおお!」 見張りは不要。加勢すべきだ。僕は持ち場を離れ、屋根を走... 「なんて威力だ」 コンクリートの地面を抉ったのは、ガンメタルの両足だろう... 「やりやがる」 僕の見ている前で、球体はボロボロと崩れていった。よく見... 「物体を一点に集約する能力らしいな。このタイミングで解除... 大きく息を吐きだしながら、ガンメタルが状況を分析する。... 「そして、解除する理由は一つしかない。次が来るぞ!」 いや、射線は待っすぐにアジトそのものを狙っていた。中に... 「おい待て!」 ガンメタルの制止を振り切り、南の方角へ向かって跳びだす... 再び、火薬の炸裂する音が響いた。砲弾の軌道が目で見える... 「えっ?」 散弾――まっすぐこちらに発射されていた弾丸は突然空中で崩... 「わっ、わわ」 足がすくむ。もうどこにも逃げ場は…… 「伏せろ!」 ふいに前に現れる影。ガンメタルの硬質化した体が、散弾を... 「理屈立てるのはいいが。早合点するんじゃない。能力解除で... サイクロンは、拳を突き出した姿勢を取っていた。自身の周... 「うかつな接近は危険だ。言っただろう。敵は二人。恐らく奴... サイクロンがガンメタルの隣に立つ。次の攻撃に備えるため... 「おい! 人手がいるぜ、こっちは三人相手にしてるんだ!」 ブリンクからの通信。 「ここは俺たちに任せて、ブリンクのカバーに行って来い」 「あ、あのごめんなさい」 「反省は後だ。まずは、片をつける」 昨日のあれで、浮かれすぎていたみたいだ。こんなんじゃ、... 「いってきます」 苦い思いを抱えながら、ブリンクのもとへと走る。 ネイムレスのアジトは、ひどい有様だった。 「うわっ……」 鉄球でも撃ち込まれたかのように壁には大きなクレーターが... 「やべっ!」 テレポート前の位置を通り抜ける残像。攻撃を避けられ減速... 「ぐっ」 移動した先で、五本の刃がブリンクを襲う。その能力の特性... 体をひねったためか、傷は浅い。攻撃の主は、積み上げられ... 「ちっ」 攻撃したのはしかしサーベルではない。金属製の細く伸びた... そして、落下するブリンクを待ち構える、三人目の敵、アジ... 「ぐっ」 これに対してブリンクはただガードすることしかできない。... 「やべえ」 ブリンクが起き上がるよりも、敵が轢殺するほうが早い。ス... 訓練でおおよそ飛行は身に着けた。地面を滑るように飛翔し... 「助かったぜ」 とはいえ、三対一なことには変わりない。見たところ何か能... 「まずは、誰を狙いますか」 飛び道具を持たないのか、海賊と素手の二人組は、機敏かつ... 「あいつら、やりやがるぜ」 「えっ?」 意図していた答えじゃない。だが、ブリンクは続けた。 「この短期間で、俺がテレポートできる距離に限りがあると……... このアジトはもともと倉庫だったこともあり、天井が高い。... 「もうすぐ、あの槍が戻ってきます。それまでに移動しておか... 既に火球は作ってある。後はどこを攻撃するか、だ。しかし... 「ブリンクさん。これを持ってください」 作り出した火球を、ブリンクに預ける。能力を解除しない以... 「おい。どういうこと……」 「これを持って、テレポートしてください。上へ、奴ら二人の... 伝えられるのはこれが限界だ。突撃槍の攻撃が通過。間一髪... 「なるほど。これで、あってるんだよな!」 ちょうど二人の接近がピークに達した瞬間。ブリンクは、火... 瞬間、能力を解除、爆風は移動に必要な足がかりを生み、自... 「敵は俺を攻撃するために、爆風の射程圏内に入っている!」 爆風によるダメージは零ではないが、ブリンクは無事だった。 「ちょっと威力が弱かったかな。テレポートで酸素がオゾンに... 「あまり影響はないはずですけど」 一人は、逆立ちの姿勢でけりを繰り出していた方は、吹き飛... 「まじかよ。あいつの方が近かっただろう?」 いつの間に手にしたのか。盾をかざして爆風を防いだようだ。 「どっから持ってきたんだ?」 歪に切り取られたスティールの板。敵が着地したデスクの上... そして、盾を落とした時に明らかになるその右腕。さっきま... 「能力を解除したってことか? 攻撃を防御するために?」 まるで正体が掴めない。そこに、減速し、姿勢を立て直した... 「……えっ?」 攻撃を躱すべく真横に跳んだその時、視界の隅に海賊の姿が... 「何だ?」 受け身を取るための前転で、視界から海賊の姿が消える。視... 「あれが、発動条件なのか? 何かで挟む?」 鉛色に輝くその武器は、さっきの鉄板を元に作られたような... 「くっ!」 しかし、冷静に考察する時間は与えられない。再びの突撃槍... 「わっ!」 ブリンク以上の脅威と判断したのか、海賊がこっちに斧を振... 距離を取る時間はない。とっさにかがんでやり過ごす。この... 「こ、こうなったら……」 多少無茶だがやるしかない。放つ機会がなく手に握っていた... 僕は能力を解除し、置いた火球を爆発させた。 「ぐっ、ぅううう!」 痛い。確かに僕の能力は熱を防げる。でも熱だけだ。爆風の... 「やった、かな?」 ひょっとしたら、致命傷になってしまったかもしれない。し... ショックでぼんやりしていた視界が、徐々にはっきり見えて... 味方のフォローに入るべく、いち早く体勢を立て直した海賊... つまり、躱されたら終わり。なんとかして当てないと。突撃... 「おらぁ!」 この膠着を破ったのは、ブリンクだった。助走をつけた後の... 「よし!」 最後の一発。さっきの攻撃で意識が奪われなかったことから、... 「せえ、のっ⁉」 腕にダメージ。一体何だ? 完全なる死角から、火球を構え... 「あっ!」 あの時吹き飛ばした足技使い。どういう原理でそうなってい... 「気絶したと思ってたのに!」 体をブレイクダンスのように回転させて、連続で蹴りが放た... 「ぶっ!」 ガードの合間を縫って、つま先が頬を捉える。視界が揺れ、... 逃れるか? いや、敵の攻撃は実に巧みだ。距離を取ろうと... 頼みの綱のブリンクは海賊の敵にかかりっきりだ。突撃槍が... 「こうなったら」 ゼロ距離で火球を爆破させる。この状況を打ち破るにはそれ... 一瞬のためらい。致命的な隙だ。壁の敵は味方の攻撃に合わ... 「えっ?」 突然、視界が塞がれた。二人の間に割って入る人影。いや、... 「レインメーカー!」 東側で戦っていたはずの彼が、何故ここに? いやな予感が... 「くっ!」 かざした手の先に水の壁を移動した途端、レインメーカーを... 銃弾は水の壁にせき止められ、ゆっくり沈んで零れ落ちた。... 「クソッ。あいつ、かなり強いぞ」 銃弾を水の壁で防げるレインメーカーが苦戦している? 一... 「あれは……?」 その形状から銃だとは分かる。しかし……ずいぶんと原始的だ... 新たな敵の登場で、場の流れが変わる。突撃槍と、足技使い... 「ぐぅあああ!」 壁を突き破って部屋に転がり込んでくるのは、全身を硬化さ... 「……これは、まずいな」 硬化を解いて起き上がるガンメタル。 「確保は不可能。一時撤退だ。本部に増援を要請する」 頭部通信機を起動し、ガンメタルはビーコンを送った。敵の... 「おかしい……通信が繋がらない!」 返答を待っていたガンメタルが叫ぶ。 「なんだと?」 通信機の故障か? 彼に倣い、僕らもデバイスを起動した。... 「マジかよ」 流れてくるのはノイズだけ。通信状態に問題はないはずだ。... 「どうする?」 敵は当然逃がしてくれそうもない。 「自力で脱出だ。確保は諦め、制圧に切り替える」 制圧……。それしか方法はないのか? 四方を囲む敵、数の上... 状況は、僕の決断を待ってはくれない。レインメーカーが対... 「ぐっはっ」 脇腹に銃撃を受けよろめくレインメーカー。能力者は、普通... 「くっ!」 考える時間は与えられない。ブーストして突っ込んでくる突... 「ぐぉ!」 爆風を絞り、爆破の反動で背後へ。不意打ちを受けた足技使... 「よし!」 ――レインメーカーの作った水の壁が待っている。 水のクッションで衝撃を吸収。全身びしょ濡れだが、レイン... そうして水の壁を通り抜けた後に、振り返り、投擲。狙いは... 「行けッ!」 火種をくれてやる。銃の暴発を狙い、僕は能力を解除した。 爆発。しかし敵は一瞬早く攻撃に対応していたようだ。長い... 「もう一発!」 隠れても無駄だ。既にもう片方の手に火球を作り出している... 「左だ!」 投擲の直前。レインメーカーの警告が飛ぶ。これが命を救っ... 「えっ⁉」 銃声。放たれる弾丸。さっきまで敵が立っていた位置。背中... 体中の神経を総動員し、体をよじって弾を躱す。完全には避... 通過。熱によるダメージはないけれど、摩擦によって皮膚が削... 脇の下から流れる血が、かりそめの意匠を赤くを染めた。 「今のは?」 まさか、爆発で着火することを見越して、あらかじめあそこ... 「あれが、奴の戦術だ。導火線が無くなると同時に、引き金が... どうやっているのかは知らないが、銃は狙いを保てるように固... 攻撃してこないとみるや、銃使いは物陰から飛び出し、再び... 「これだ!」 手の平に残っていた火球をロケットにして、挟み撃ちを真上... 「わっ」 目測を見誤り、突進の力をぶつけることはできなかった。だ... 「せいっ!」 シンプルな右ストレート。再び、足技使いの意識は刈り取ら... 「おい! 何加減してやがる! 止めを刺せ!」 余裕なくまくしたてるブリンク。テレポートに対して大きく... 「ブリンク!」 背後からの攻撃をテレポートで躱すブリンク。移動先はやは... 「あっ!」 もはやその瞬間、僕らは見ているだけしかできなかった。ガ... 「ぐああああああ⁉」 空中で自由が効かないブリンクに叩き込まれた。 「……え?」 しばらく、言葉が出なかった。だってそうだろう。あそこに... 死。生命活動の停止。ヒーローを目指していたはずの僕らの... 「う、嘘だ。こんなの……」 こんなのありえない。僕は、僕たちはヒーローになるんだ。... 「おい! 伏せろ!」 ふいに飛んでくる怒号。反応が間に合わず、誰かの手で頭を... 「え、えっと」 「おい! しっかりしろ!」 肩を掴んで持ち上げられる。声の主は、レインメーカーだ。... 「あ、あの」 「まだ戦闘の最中だ! 死にたくなきゃ気を抜くんじゃねえ!」 こんなレインメーカーは初めてだ。いつもの余裕は見られな... 「加減するな……制圧だ。生き残るにはそれしかない」 「制圧……」 制圧。つまりは相手の命を奪うこと。殺すことと同義だ。い... 生き残るために敵の命を奪う。それがヒーロー? 気持ちは依然整理されていなかったが、脳と、そこに刻み込... 意識を失い倒れ伏した足技使いに目を向ける。今なら殺せ... 迷い、攻撃できずにいる僕をよそに、再び、例の大砲が放た... 「くたばれ!」 敵の怒号で、意識がはっと戻ってくる。どうする? もう回... 「あ、ああ……」 このままじゃ、死ぬ。ブリンクの顔が、抉れた死に顔が脳裏... 「うわぁあああ!」 能力解除。キネシスの膜が部分的に開き、圧力から解放され... 「どうなった?」 わざわざ口に出さなくても、結果は分かりきっている。 晴れた視界の先にあったのは、火だるまになって転げる人型... 「まだ、だ」 まだ相手は動いている。息をしている。黒焦げになり、全身... 「僕がやったんだ」 こんな状態では長く生きられるはずがない。よしんば命をつ... 「それの何が悪いんだ?」 そうだ。僕は生きるためにやったんだ。こんなところで死ぬ... そうだ。何をためらう必要がある? 正義のために戦ったブ... なら殺さないとだめだ。銃使いの攻撃。左右と正面三方向から... 「広げることもできる!」 解除箇所を変更。爆風の広がる範囲を拡大し、迫りくる銃弾... 「隙だらけだ」 追撃の二発目。火球を投擲し、ゼロ距離で爆発する。 「ぐぁあああ!」 断末魔の悲鳴。上半身の消え去った突撃槍の姿を見て、僕は... 「ぐああ!」 悩む時間はない。銃使いの追撃が左腕を撃ちぬき、痛みが思考... 完全なる不意打ちだ。筋をやられたのだろうか。もう左手で... 「くそお!」 痛みをこらえて足を動かす。止まっているのはまずい。敵の... 「ここだ!」 ロッカーを蹴倒し、待ち構えているであろう敵に右手を構え... 「そんな……」 どうやら敵は、さらに先を行っているようだ。 「いつから? まさか、さっきの十字砲火の時点で、既に移動... この状況も、奴の計算通りなのか? 銃から伸びる導火線の... 「まずい」 炎を手で握りつぶす。まさかこれも、囮にするための布石か... 「ぐふっ」 しかし弾が当たったのは自分ではなかった。もっと悪い。真... 「レインメーカーさん!」 「悪い。やられちまった」 膝から地面に崩れ落ちるレインメーカー。敵の射線を割出し... 「そんな……しっかりしてください!」 「心配するな。致命傷じゃない。動くのは厳しいけどな」 僕のせいだ。また勝手な推測を立てて、仲間を危険に…… 「おい。また思い詰めてるだろ。そんなふざけたこと考えてた... 床に血を吐き捨て、レインメーカーが息をつなぐ。 「で、でも、どうしたら」 「実はな、俺の能力は防御だけじゃない。攻撃に応用できる。... 攻撃に? 水を補充しながらレインメーカーに尋ねる。 「何故、今までそれを使わなかったんですか?」 「水の壁が無くなるからだ。一回使うともう一度防御のために... 「なるほど……それで、僕は何をすれば?」 「俺はもう動けない。このロッカーの真後ろ。そこに敵をおび... 真後ろ? そこで大丈夫なのだろうか。恐らく攻撃は水の壁... 「わかりました」 疑問は尽きないけれど、いかんせん時間がない。僕は敵を殺... 「うぐっ!」 横っ飛びに吹き飛ばされてきたのは、サイクロンだ。竜巻で... 「くっ!」 バックフリップでレイピアを躱すサイクロン。その際に地面... 「ちっ!」 風の切れ目を狙って、銃弾が撃ち込まれる。既に攻撃を予測... 「そうか!」 あの時導火線を止めた銃。あれが本来、この攻撃に使われる... 使える銃の数が限られてきているのかもしれない。とすると... 「サイクロンさん。狙撃手は任せます」 「おい。良いのか? お前、接近戦は分が悪いだろ?」 「構いません」 サイクロンの能力であれば四方から弾が飛んできても対応で... 「わかった」 狙撃手の位置は割れている。いずれ片が付くだろう。ひとま... 「しまった!」 爆破のタイミングが狂う。レイピアの一振りで火球はその軌... 「うわっ!」 敵の踏込は早い。とっさに状態をそらすと、剣先が鼻をかす... 「いや、ダメだ」 敵のフットワークは相当のものだ。狙いをつけるよりも先に... 僕はレインメーカーが影にいるロッカーに目を向けた。 * ダメだ。遠すぎる。時折倉庫から轟音と爆炎が上がるが、中... 「もっと近づかないと」 戦場に近づくのは賢い選択肢とは言えない。心を読むことが... だが、そのリスク有ってなお、接近と言う選択肢は頭から消... 戦闘は未だ続いていた。一体何がどうなっているのか……。敵... 立ち並ぶ倉庫を抜け、北にある正面入口へと歩いていく。混... 「クソッ! 近寄られる前に、吹き飛ばしてやる」 これは……? 同時に伝わる金属の筒を掴むような感覚。ラン... 「ダメ! 待って!」 叫びたい。伝えたい。敵の意図を汲みとった瞬間、ランチャ... 「吹き飛べ!」 必死に送り込んだ思念波はしかし、ランチャーの分泌したア... テレビの電源を切った時のような感覚とともに、ランチャー... 「ランチャーが死んだ……」 ダメだ。警告では救えない。もっと近づかないと。意識をよ... そして何より、仲間を助けるだけのメッセージを送ることが... ランチャーを殺害した能力者は、休む間もなく反対側で展開... けど、これは警告する必要はない。クロックダイルはそこま... 完全に死角、それも背後からの攻撃だったにも関わらず、敵... 激痛と共に驚愕が脳に伝わる。前触れなく心臓周りの肉を三... よかった。少なくとも、クロックダイルが即座に死の危険に... だけど、その反対側。ちょうどこの真裏で行われている戦闘... 「レインメーカーが隠れているのは、あの裏だ」 レインメーカー? それが能力者の名前なのだろうか。確か... 「いいぞ。うまく敵を誘い込んでいるな。あと少しだ。後少し... 狙われているのはフェンサーだ。対峙するのは若い能力者。... 「いずれにせよ、時間の問題だ」 二人の力量の差ははっきりしている。明らかにフェンサーの... 「待って! あいつには隠れている仲間がいる!」 警告を飛ばす。今度は、間に合った。 「何?」 足を止めるフェンサー。でも、まだ不十分だ。ガントレット... 「火炎放射?」 これだ。これでフェンサーの位置をずらそうとしている。炎... させるものか。見つかるかもしれないという恐怖。さらには... 空いた穴から中を覗きこみ、護身用に渡された拳銃を構える... 「ぐあっ!」 銃声、そして、脳に反響する手の甲へのダメージ。 「くっ」 攻撃を止めることはできなかったけど、狙いを逸らすには十... 「やった……」 ウォーターカッター。思念を読み解く限り、能力効果範囲を... 空を切った一線の水が、反対側にあるデスクに命中。小さな... 「助かったぞヘッドセット。そして、隠れたもう一人の位置も... 攻撃が放たれたロッカーに向かって、レイピアを突き刺す。... 「もう一人いたのか……」 残った一人、ガントレットの思考はしかし、恐ろしいほどに... 「お前も、仲間と一緒にあの世に行きな」 もうその手に火球はない。左手は初めから使えないし、右手... 「なんで?」 わからない。彼はまだ戦うことを諦めていなかった。その思... 「ここまで来たら解除する。ここまで来たら解除する。ここま... 予備動作も、新しい準備もなしに、彼は殺そうとしているフ... 「が、は、……」 銃声。自分の物じゃない。シードの物だ。シードの使う火縄... 「あ、ああ……」 壊れたラジオのように繰り返された思考が止まり、その切れ... 「に、逃げなきゃ」 フェンサーは死んだ。自分を守ってくれる者はもういない。... 「殺す、殺す、殺す」 思考パルスが伝えるのはシンプルな一つの意思。純粋な殺意... 「助けてエリック!」 思念波が届くありったけの範囲で飛ばしたその信号は、自分... * 「助けてエリック!」 頭の中に響く声。海を眺めていると、突然頭に流れ込んでき... 「ヘッドセット⁉ 何があった?」 別の能力者集団が攻めて来たのか? ヒーローだったら最悪... 「おい、場所は?」 「ネイムレスのアジト。お願い早く着て! もう……!」 そこで、テレパスは途切れた。戦闘に集中するためか? あ... 「クソッ! なんであいつが前線に出てるんだ?」 ヘッドセット能力はテレパス。心を読み取り相手の真意を探... 「レジスター……何を考えてる?」 ネイムレスのアジト。ここからならそう時間はかからないは... ヘッドセットは無くてはならない存在のはずだ。テレパスは... 「何か取引があったのか? そして、そこを狙った別の組織が…... 考えても仕方ない。俺は、例の倉庫を目指して一目散に走っ... * 「終わった……」 敵はこれで全部。銃を使っていた能力者は、サイクロンが始... だが、そのサイクロンも…… 「すみません」 「気に、するな」 残った一人、海賊姿の能力者を生け捕りにしようとして、失... 「無茶ですよ」 激しく動きまわる敵を止めるために、サイクロンはわざと刃... 「予想通り、だっただろう」 「はい」 敵は、武器を作り出す際に、どういうわけかその場に自分の…... 「特定の目的に特化したキネシス。ある種自動操縦じみたとこ... 「喋らないでください。傷が開きます」 そう。サイクロンは読んでいた敵が能力を解除することも、... 「ただ刺されただけじゃない。直撃でないとはいえ、僕の爆発... あらかじめ、僕は断ち落とされていた手首に火球を握らせて... もくろみ通り、敵は爆発の直撃を受けて、手首の千切れた死... 「心配するな。ミッションは終わった。すぐに、エースが来て... そう、全て。影に隠れていた七人目の敵は、僕が始末した。... 「ええ、そうですね」 「ああ。ブリンクとガンメタルはダメかもしれないが、レイン... 視界を横切る影。そこで、サイクロンの言葉が途切れた。体... 「そうか……お前を殺すのを忘れていた」 ああ、なんてうかつだったんだ。この殺し合いを終えた今で... 「仕方ない」 だから、さっきと同じように。僕は火球を、ただ床に置いた... 「ぐぁああああ!」 最後の花火は派手に打ち上がった。爆風は敵を飲み込み焼き... 「ミッションは失敗。生け捕りにはできなかった」 生き残ったのは僕とレインメーカーだけ、か。 下を見ると、ロッカーにもたれかかり、血を流しながらも、息... 敵の増援? いや、タイミングとしては遅すぎる。影の主は... 「エースさん……」 ヘリング・エースが、やっと助けに来てくれた。 「呼ばなきゃ。僕はここにいるって」 待ち望んだ助けがやっと来たのに、胸の内の苦い感情は消え... 「エース、さん」 出たのはかすれた声にならない声だけだった。背中から金網... 待っていればいずれ助けてくれるだろう。僕はそこから見下... 「なんだ。敵いないじゃん」 耳を疑った。開口一番に放たれた言葉が、それ? エースの... 「敵いないよ。入ってきても大丈夫」 通信機で連絡を取ると、新たに二名、人影が現れる。二人と... 「バイタルサイン消失が三名……ガンメタル、サイクロン、ブリ... 研究者だろうか。アカデミーズのエンブレムを付けているけ... 「サイクロンとブリンクはどうでもいいけど、ガンメタルをや... まるで談笑でもしているかのように軽い調子で話しながら、... 「胸からばかっと抉られてるね」 「戦闘データを取り出してみましょう」 白衣の男達がガンメタルの頭部に手を当て、メモリを取り出... 「他の奴らも頼むよ」 研究員がメモリをしまったのを確認すると、エースは次に向... 「ブリンクか。相変らず、臭いは残るみたいだね」 顔をしかめてエースが呟く。 「これだけ血と脂が飛び散った中でも香るのか。これはまずい... 「自分と、移動先の空気の位置を揃って入れ替える能力ですか... 「ヒーローなんだから、どうせならもっとフローラルな香りに... 「善処します」 何を言ってるんだ? 超能力は持って生まれたもの。人為的... 何か、おかしい。あれは本当にエースか? みんなのヒーロ... 「さて、データは抜き取ったし……」 エースの目が、今度はレインメーカーに向けられる。やめろ... 「た、すけ、て……」 「生きているんだよね。よくやったと思うよ。君は実に優秀だ」 レインメーカーに語りかけるヘリングエース。その表情は物... 「でも、悪いけど。君はたぶんこれ以上伸びないだろうからさ」 本当に、声音は何一つ変わっていない。今日僕らにミッショ... 「バイバイ」 エースはレインメーカーの頸を折った。 「さて、彼の分も回収だ」 何事もなかったかのように、死体に変わったレインメーカー... 「さて、次に行こうか」 このままじゃ殺される。それを知っても僕にはどうすること... * 「ここだな」 ようやくたどり着いたネイムレスのアジトは、えらい有様だ... 「ダメージを受けて動けないのかもしれない」 いてもたってもいられず、俺は彼女を探そうと空いた穴から... 「ん?」 穴から一歩踏み込んだところで、足に何かが引っかかった。... 「ヘッドセット……!」 自分が見た物が信じられなかった。床に倒れ伏すヘッドセッ... 首が折れてさえいなければ。 「ああ。そんな……」 急いで首筋に手を当てるが、既に無駄だと分かっていた。案... 「間に合わなかった……」 やったのは誰だ? どこのどいつだ? 探し出して殺してや... 調べないと。更に踏み込んで奥に進もうとした時、視界にと... 「ヘリング・エース⁉」 まさか、あいつか? あいつがヘッドセットを? 幸いなこ... 窓のすぐ下には鉄の網でできた通路があった。ここなら、敵... 「あいつはランチャーだ。フェンサー、それにシード・アイズ... ストレイドッグと思しき能力者が六人。ヘッドセットも含め... 「エースじゃないことは確かだ。ヘリング・エースやアカデミ... しかし、アカデミーズでないとしたら、エースがこの場にい... 「まさか、変装か?」 倒れている敵はどれもラフな格好だ。そこいらのチンピラと... 「レジスターは別の犯罪者組織からの襲撃だと思う」 それで縄張りを維持するために急きょ派遣した。ストレイド... しかし、何故ヘッドセットまで? 謎は解けない。 「こうなると、彼女を殺した能力者も、既に死んでいる可能性... 怒りが行き場を無くし、急速にしぼんでいく。このありさま... 生き残りがいれば、助けるはず。その至極まっとうな思考が... 「なっ!」 思わず声が出た。なんてことだ。あの野郎。 「バカな……あれはストレイドッグのメンバーじゃねえ。アカデ... ゴーグルにマスクで顔を覆った能力者。ロッカーにもたれ、... 「いかれてるってのは聞いてたが、ここまでやるのかよ」 常識が通用しない相手。何故だ? 何故自分の子飼いを? ... 「はっ!」 近くで鳴った物音で、現実に引き戻された。まずい、考え込... しかし、エースの姿は依然変わらず下の階にあった。とする... 「あれか?」 通路の先に倒れている人物が一人。背丈は自分より一回り小... 味方にしろ、敵にしろ、このままじゃエースに殺される。今... 「おい、しっかりしろ……」 ひどい傷だ。両手は血だらけ、弾丸で穴を空けられているの... 「まさか、こいつか? こいつがヘッドセットを?」 暗がりで顔がよく見えない。俺はそいつを引っ張って、明か... 「テッド……」 なんだ? 誰の名前だ? 記憶の底から文字の羅列が音にな... 「弟、なのか?」 もはや名前も忘れてしまった、かつての兄弟。共にゴミ箱を... 「そんな馬鹿な」 完全には消えていなかった記憶。それは都合よく歪められた... 「いや、もうこれ以上死人は必要ない」 憐みか? 確かにそうだ。アカデミーズの連中の運命や境遇... その能力者に意識はなかった。ただ何かうなされているよう... 俺は黙ってそいつを担ぎ上げると、天井部に空いた穴から、... #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) ページ名: