開始行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第2章 ボーンヘッズとアンチェインド [#fc2b30af] 超兵器IMAGNAS。ある一人の天才の出現により完成したその兵... 核を越える威力を持ちながら、効果範囲を自在に設定するこ... そんな兵器が完成されてしまったため、世界中のあらゆる国... それゆえに、軍需産業は軒並みあおりを受け、さらに軍隊へ... そこで生まれたのが、僕達アカデミーズだ。ヒーローの一人... その中で、僕はようやくコードネームをもらい、一線で活躍... 「今日のミッションは、他の能力者との交戦が予想される」 正式にアカデミーズとしての活動を始めて数週間。その日の... 「能力者の犯罪と言うことですか?」 緊張した面持ちでレインメーカーが問いかける。 「うむ。いつも以上にリスクが大きい戦いになる」 この場に集められたのは三人。レインメーカー、ブリンク、... 「敵の詳細は?」 「人数は不明だ。数は少ないだろうと予想しているが……対峙す... ナスティー・シャーロット。その名を聞いただけで心がしび... 「ナスティー・シャーロット本人と闘うわけではないんですね... 「当然だ。彼女のような能力者が表に出てくるのであれば、そ... 下部組織。そんなものが存在するとは、今の今まで知らなか... 「下部組織の人間も、能力を使うのですか?」 「中にはそういう者もいる。彼らは……」 「黒魔術を使うんですか⁉」 つい口を挟んでしまった。発現を遮られた教官が、渋い顔を... 「浮つくな、フレイムスロアー……。質問の答えはイエスだ。と... 興奮しているのを見抜いたのか、教官は釘を刺してきた。 「黒魔術に見えるような超能力、ということだ。そのイカサマ... ブリーフィングルームのスクリーンに、ビニールのパックに... 「その結果が、これだ。トキシックリーパ。奴らが信者を労働... 画面が切り替わり、巨大な建造物の写真が写った。ドーム状の... 「生成するには技術と施設が必要。奴らが工場としているのが... 画面上に、建造物の見取り図が次々に表示された。脳内に収... 「諸君らのミッションは、この施設の壊滅。および、犯罪者集... 別組織の能力者? 初耳だ。しかしレインメーカーもブリン... 「協力する組織はアンチェインド。手荒な連中だが、戦闘力は... アンチェインド? アカデミーズと同じように、ヒーロー養... 「ブリーフィングは以上だ」 疑問を押し込めたまま、僕は二人とともに、目的地へと向か... 「アンチェインドっていうのは、一体何なんですか?」 郊外の廃プラントへ向かう道を歩いていく中、目的地まであ... 「スーパーヒーロー、ジャンゴの下部組織だよ。うちみたいな... 答えたのはブリンクだ。それにしても、ジャンゴ? 「あの、ジャンゴっていうと、やっぱり……」 「ああ。手段を選ばない過激派ヒーロー。犯罪者の天敵にして... ジャンゴ。恐ろしいヒーローだ。ヒーローでありながら法を... 「見えて来たぞ」 プラントを見渡せる丘の上に、人影が二人立っているのが見... 「おおぉ……待たせてくれんじゃねえかよぉ……」 予想以上だ。振り向いたその二人は、見るからに異様ななり... 片方はレジャージャケットを羽織り、インナーにはところど... もう片方は上半身が裸で、華奢な体に似合わない地面へ引きず... 二人とも、体のあちこちから、鎖がじゃらじゃら垂れていた。 「あの、時間まではまだ、後少しありますけど……」 おずおずと声を上げてみるも、その眼力で言葉は力を失って... 「アカデミーズのレインメーカーだ。こっちはブリンク。そん... レインメーカーがさりげなく肩に手を置いてくれた。ふっと... 「そうか……俺はマグネスマッシュ。そんでこいつが」 「フルスイング」 上半身裸の男が、かすれた声でそう告げた。 「狂信者とか……やりづらいぜ」 今日の作戦についてだろう。レザージャケットのマグネスマ... * 戻ってきた。赤茶色をした古いアパート。ストレイドッグの... 「おかえり、エリック」 声は空気の振動ではなく、頭の中にこだまするイメージとし... 「ただいま、ヘッドセット。どこにいるのかわからないけど」 返答は声に出して行う。相手はテレパス。シンプルなやり取... 「ここ」 言葉によるメッセージの後に、さながら網膜に映っているか... 「あれ?」 ところが、実際に暖炉のそばに近づいても、彼女の姿は見え... 「ばあ♪」 背後からの不意打ち。クローゼットに隠れていたのだろう。... 「やるじゃないか」 思わず、笑みが零れ落ちる。三か月前の彼女であれば、考え... 「すごく驚いたみたいだね。エリック。心拍数が上がってる」 「テレパスってのは、不随意筋の動きまで把握できるのか? ... 「ううん。直接聞いてるの」 これだけ密着していれば、それが一番自然だろう。それにし... 「ずいぶん上達したんだな。言葉」 「たくさん勉強したよ」 証拠と言わんばかりに、ボロボロになった教科書を見せつけ... 「すごいな。勉強ってのは辛いものだとばかり思ってたけど」 「そうでもないよ。考えたり想像したり、前よりもずっとでき... 「へえ」 三か月前。ストレイドッグに来た当初の彼女には、言語とい... 音や光による、直情的で要領を得ないコミュニケーションを... 「言葉って、とっても不思議」 「そう言えば、テレパスで言葉を送るときは、どういうイメー... 「ううん。言葉に明確なイメージはないの。声や文字なんての... 「そ、そうか」 たった三か月でずいぶん饒舌になったものだ。何を言ってい... 「それで、エリック。今までどこにいたの?」 だしぬけに、そう尋ねてきた。 「レジスターの所だ。新しい仕事を任されたよ」 「そう」 伝わってくるのはただ純粋な言葉だけなのに、裏に隠された... 「エリックはあの人のことをどう思ってるの?」 聞くまでもない。テレパスである彼女には、すでに答えが分... 「このチームのリーダー。俺たちのボス」 しかし、そんな彼女に対して、口から出る言葉で返す自分も... 「ただ、それだけだよ」 全て手の内をさらけ出した上での、無意味な嘘。 「あの女。私達のことを便利な道具としか思ってないよ。前は... 「そう思わないとやってられないのさ。彼女だって人間だ」 「ふーん」 顔を覗きこんでくるヘッドセットの瞳を無意識に避けてしま... 「それでも、彼女のことが好きなんだね。一人でギャングの事... 「ああ。もう行かなきゃ」 立ち上がろうとすると、手を掴んで引き留められた。 「ボーンヘッズ……強いの?」 「さあな。彼女の読みが正しければ。さほど苦戦はしないはず... 「信頼しているんだね」 手が離れる。 「エリック。ちゃんと帰って来てね」 「心配するな。大した相手じゃない」 心が読める彼女に、俺はただ残酷な言葉で答える他なかった。 * 「作戦は?」 正面の入り口。プラントは日差しを受けて、長い影を伸ばし... 「正面突破だ……死ぬまで追いかけ、叩き潰す」 レインメーカーの問いに、マグネスマッシュがドスの聞いた... 彼が顎で指すと、隣に立つフルスイングが、巨大なヘッドホ... 「離れてろ」 マグネスマッシュの指示に従い、僕ら三人は距離を取った。... 「わっ……!」 一瞬で、鋼鉄の扉はズタズタに引き裂かれた。破壊に対して... 「なるほど。だからフルスイング」 隣でブリンクがしたり顔で頷く。その言葉を受けて初めて、... 「進むぞ」 マグネスマッシュはこともなげに、僕らに前進を促した。 「暗いな」 インフラが通っていないのか、待ち受けていた通路は思って... 「どこへ行く」 マグネスマッシュがブリンクを呼び止める。彼は通路の右側... 「あの位置は」 レインメーカーの言葉で思い出した。即座にインプットされ... 「おい……どういことだ」 後を追おうとした途端胸倉をつかまれた。マグネスマッシュ... 「か、隠し通路です。製薬会社がかつて使っていたころに、違... 「ほう」 斧を引きずりながら、フルスイングもやってくる。壁を調べ... 「ロックがかかっているみたい……だ⁉」 間一髪のテレポート。ブリンクがいた辺りの空間を通過し、... 引き抜かれた斧に壁はそのままくっついてはがれ、オレンジ... 「おい! せめて一言合図か何かあってもいいだろう!」 ブリンクの抗議を受けても、フルスイングは素知らぬ顔だ。... 「とにかく。先に行こう」 アンチェインドの振る舞いに絶句しながらも、レインメーカ... 「やけにだだっ広い所に出たな」 細い通路の先に通じていたのは何も置いていない部屋だった... 「ドアが二つあるな……どっちに行けばいいんだ? 優等生さん... ドスの効いた声でマグネスマッシュが問いかける。通路の発... 「えっと。シャッターの方は運搬口に通じているから……敵の傾... どっちだろう? おそらくまだ薬の製造を行っているはずだ... 「いや、もういい。わかった」 思考はレインメーカーに遮られた。声にただならぬものを感... 「向こうから出迎えてくれるとはな」 正面の扉。シャッターではない赤いドア。それがいつの間に... 「銃を持っている、武装してるぞ!」 ブリンクの声が引き金になったかのように、室内に銃声が響... 「一体何を?」 あれだけの銃撃を受けてなお、彼の体は微動だにしていない... 異常性に気づいたのか、敵も銃撃を止めた。硝煙立ち上る銃... 「ふん……こんなものか」 かんかんかん……。立て続けに何かが床に零れ落ちる。薬莢?... そのまま、マグネスマッシュは腕を振りかぶった。麻袋で覆... 「おらぁ!」 明らかに加減した威力ではない。一歩の踏込で敵の眼前まで... 「ちょっと! そんなことをしたら死んじゃいますよ!」 制圧よりも、確保優先。繰り返し教えられてきたこの事柄が... 「犯罪者にかける慈悲はない……それに見ろ。こいつらは人間じ... 砕け散った手足の破片が、マグネスマッシュの足元に転がっ... 「マネキン……」 仲間が破壊されたことを気に止める様子もなく、再び敵は攻... 「動力もなにもないただの木の人形が、何で銃を?」 敵がこちらに狙いをつけてきた。引き金が引かれるが、弾は... 「操作している奴がいるんだ。そういう能力」 銃撃は無意味と悟ったか、敵は接近戦に持ち込むことにした... 「クソッ、離れろ!」 マネキンの一撃は想像以上に重たかった。このままでは意識... 何か無いのか? 何か策は……。 「そうだ」 ふと、右肘を支えている左の手の平が見えた。爆破する? ... 「いや、出来る!」 左の手の平に火球を作りだし、能力を部分的に解除。 「コントロールだ」 火球を覆うエネルギーの膜が破れ、そこからまっすぐ炎が飛び... 「できた」 飛び火した部分を手で覆い、熱を閉じ込め消火する。 「裏で隠れてこそこそするのが強いんだ。ボーンヘッズの連中... 傍らにテレポートしてきたブリンクが告げた。テレポートを... 「ダメだ。俺はこいつらと相性が悪い。痛みを感じねえしひる... 「大丈夫です。僕が何とかします」 水平に手をまっすぐ伸ばし、さっきと同じ要領で炎を放つ。... 「大体片付いたか?」 部屋全体に散らばる木片。フルスイングとマグネスマッシュ... 「まだだ」 新手のマネキンが赤い扉の奥に現れる。今度は銃を所持して... 「キリがねえな……」 マグネスマッシュが動いた。赤い扉を潜り、待ち受ける敵へ... 「このままじゃらちが明かない。俺たちも行こう」 横たわるマネキンを蹴倒しながら、暴力の渦中へと飛び込ん... 「下がってください!」 マグネスマッシュは素直に引いてくれた。道が開く。手の平... 「ふん。流石はヘリングエースの子飼いだな。」 爆風で吹き飛んだマネキン達を見て、マグネスマッシュはつ... 「今……何をやった? どういう能力を持っている?」 値踏みするような目を向けて来るが、さほどまでの威圧感は... 「えっと。僕の能力は体表面からキネシスの膜を作ることです... 「長い……簡潔にまとめろ」 「水を爆弾に変えることができます」 「よし」 視界内に動いているマネキンは無し。爆発の後を見計らって... 「補給だ。腕を出せ」 彼の肩に浮かぶ水の塊に、手首ごとガントレットを潜らせる... 「……これからどうする?」 「奴ら、この奥からやってきた。能力の詳細は分からないが、... レインメーカーの説明は、筋が通っているような気がした。 ... 「敵がどんな野郎だろうと……とっ捕まえてぶちのめすだけだ」 * 「準備完了よ。動かしてみて」 マスクに内蔵されたレシーバーで、ボーンヘッズの仲間、ブ... 「了解」 変声期前のソプラノボイスで、ブレインジャッカーが答える... 「どう? いけそう?」 傍らに立つもう一人の仲間、マリオネットへと問いかける。... 「ああ。奇妙な感覚だ。確かに腕が動くのが感じられる」 黄土色と緑の入り混じったローブの下で、右腕だけが力なく... 「糸は?」 「問題ない」 頭上のアームから青白い糸が五本伸びてくる。真下に立つマ... マリオネット。そのコードネームの通り、彼は手から超能力... ロボットアームから伸びる糸が上下し、吊られた四肢が人間... 目元を覆う牛の頭がい骨の下で、ボーンヘッズのリーダー、... 「指先から糸を伸ばす、という能力だったけど……うまくいった... 彼女の能力は、魂を切り離し、別の器に移し替えることだ。... 「モニタールームからロボットアームのカメラ映像が見える。... 「わかった。だけど……」 目じりの下がった目でマリオネットが見つめてくる。 「奴ら、本当にこの部屋を通るのか? もし違うルートに行っ... 「監視カメラの映像を見たでしょう? 彼ら、隠しルートを知... 通信機に着信が入る。文字通り骨伝導のスピーカーから、男... 「ロメオだ……今どこにいる」 ロメオ。今回の雇い主にして、ギャング組織、ブロウクンブ... 「まだプラントです」 「今出るところか?」 「いえ。少々問題が発生しました」 「問題だと?」 さてここからが難しい所だ。深呼吸一つすると、エクトプラ... 「この製薬工場の情報がヒーローにばれました」 「何だと! 相手はどこのどいつだ!」 予想通り、たった一言でロメオは取り乱した。 「落ち着いて下さい。まだ勝機はある」 「どういうことだ?」 「来たのは子飼いです。ヒーロー本人じゃない。まだここはそ... 「どこの連中だ?」 「アカデミーズ。それに、アンチェインド」 「数は?」 「合わせて五人」 「なるほど……」 しばしの沈黙。通話口の向こう側でロメオは考え込んでいる... 「奴らはどれくらいこちらのことを把握しているんだ?」 「確かなことは言えませんが、恐らくそう多くはない、と判断... 「なら荷物をまとめて施設を放棄すればよいだろう。何故まだ... 「それは……」 横目でマリオネットの表情をうかがう。自分はリーダーだ。... 「逃走にリスクがかかるためです。施設内に残ったブロウクン... 「何を馬鹿なことを言ってる? ギャングの連中など切り捨て... 返ってきたのは、あまりにも無情な一言。 「すいません。今なんと?」 「薬だけ持ってこいと言ったんだ。俺の部下は切り捨てても構... 「わかりました……ですが、被害を抑えるために、侵入者の排除... 「おい! 勝手な真似は……」 かまうものか。通信を一方的に切断してやった。 「ロメオはなんと?」 「部下を切り捨てて施設を破棄しろと言ってきたわ」 クソ。イライラする。切り捨てる? 彼らを? 「奴がそう言うのなら、早く準備した方がいいんじゃないのか... 「逃走するにしても、時間稼ぎが必要よ。彼らじゃ長くは持た... 事実彼らの魂を詰めたマネキンは、いともたやすく撃破され... 器が破壊され魂を取り戻した彼らの表情が、敵の強さを如実... 「奴らの中にはテレポーターがいるわ。ハイウェイならいざ知... それに、ギャング組織のメンバーだとしても、彼らは仕事を... 仲間を見捨てるわけにはいかない。 「けど、残って抗戦を続けたら、最悪薬は届けられない。シャ... 「わかってる!」 淡々と告げるマリオネットに、思わず感情が先走った。らし... 「どうすれば……一体どうすれば」 「こうしよう」 肩を掴まれた。 「な、なにを……」 「いつでもトラックを出せるように、お前は車庫に待機。能力... 「そんな。見殺しにしろと?」 「俺が勝てば問題はない。それに、車を出せるのは、自分自身... 普段はぼんやりしているくせに……。この瞬間、マリオネット... 「わかった」 あくまで仮定の話。そう自分に言い聞かせながら、エクトプ... * 「この部屋は」 「かつての生産ラインですね。ここで薬を作ったり、品質管理... 天井からぶら下がるいくつかのロボットアームに、部屋のあ... ベルトコンベアまで残っているが、ボーンヘッズはこの部屋... 「さっきまで誰かいたみたいだ」 床に残された足跡二つ。往復している足跡は、部屋の反対側... 「奴ら、さっきまでここにいたようだ。近いぞ」 「罠を仕掛けていたのかもしれん……奴らのような姑息な能力者... 左右に目を配りながら、足跡の先、奥のドアへと歩く。嫌な... 「不気味だ。何も襲って来ない」 マネキンはどうしたのだろうか。既に品切れ? 一向に姿を... そうして、部屋の中央に差し掛かったその時。 「何だ……これ」 前方で何かが鈍く光る。青白く細い何かが、前を行くマグネ... 「危ない!」 警告は一歩遅かった。こちらを振り向いた時には既に、その... 「なんだこれは……? 動けん!」 あれだけの筋力を持っているはずなのに、マグネスマッシュ... 「ブリンク! 後ろだっ!」 攻撃が始まった。 「こいつら、隠れてやがったのか!」 立ち並ぶ検査装置の間から次々にマネキンが姿を現す。呼吸... 「お前ら……いったん離れろ!」 宙吊りの姿勢でマグネスマッシュが呼びかける。視線の先に... 彼に口を挟むまでもなく、僕らは言われた通りにその場から... 「fuck!」 しかし、斬撃音の代わりに聞こえたのは、フルスイングの罵... 「あっ!」 マグネスマッシュが地面すれすれまで降ろされていた。これ... 振り払うようにマネキン達を殴りつけるフルスイングだが、... 「ぐっ!」 マネキンの攻撃をいくら受けても答えなかったフルスイング... 「野郎……」 糸で吊られたマグネスマッシュだった。 「……クソッ」 歯ぎしりしながら再び拳を振りかぶるマグネスマッシュ。天... 「ぐぷッ!」 二発目の拳はさっきよりも威力が増しているようだ。胃液の... 「何とかしないと」 何か弱点は無いのか? 糸の通じる先を目で追う。糸は天井... 「クソッ! 離れろ!」 ブリンクはテレポートを繰り返し、フルスイングを取り囲む... 「一か八か……」 再び検査装置に飛び乗って、それを足がかりに天井まで跳躍... 「そんな……」 だが、そううまくはいかないらしい敵はこちらに対応してき... 「くっ!」 空中で防御姿勢を取り、振り下ろされる拳を受ける。とんで... 「うわっ!」 斜め下方向に叩き落とされたが、地面に直撃はしなかった。... 「ぷはっ!」 顔を上げると、傍らに立つレインメーカーが見えた。 「ありがとうございます。でも、もう打つ手は……」 「そうでもない。見ろ」 指の先にはフルスイングがいた。周りを囲っていたマネキン... 「あの一瞬の隙で、フルスイングは動くことができた。お前の... だが、敵は既に新手を送り込んでいた。左右のドアが開き、... 「無駄ですよ。キリが無い。こっちは消耗する一方なのに、敵... フルスイングの傷も浅くはない。マグネスマッシュの拳もそ... 「無駄じゃないさ。一つわかったことがある」 「わかったこと?」 「あいつ、即座にお前に対応して攻撃してきた。つまり、あの... 「けど、そんなの不可能です。近づけばさっきみたいに叩き落... 「構わん……」 話が聞こえていたのだろう。マグネスマッシュが言った。 「お前達とは出来が違う……フルスイングの斧ならいざ知れず、... 「そ、それは……」 本気だ。彼は本気で言っている。このまま敵にいいように操... 「わかりました」 右手に火球を作り出す。狙いは一点。釣り下がるロボットア... 「喰らえ!」 爆風の一点集中。さっきの部屋で編み出した新技で、釣り下... 瞬間、糸が素早く巻き上げられ、マグネスマッシュが持ち上... 「あ……やっぱりダメだ……」 レザージャケットが煙を上げる。体は無事なのだろうか。い... 「ご、ごめんなさい。まさか……」 「いいや……これでいい」 灰の混じった息を吐きだし、マグネスマッシュが笑う。糸に... 「これを狙ってたんだ。奴が俺を引き上げる……そう、完全に自... 右手が、麻布に覆われた腕が、ぴったりとアームに張り付い... 「そうか! あの能力……右手を磁石に変える力!」 アームには金属の部品が少なからず使用されている。マグネ... 「敵も能力を解除することはできない。した途端に自由を取り... ブリンクが肩を叩いてまくしたてる。ロボットアームは何と... 「あのダメージ。長くは持たないかもしれない。アームを潰す... 肩を軽く叩くと、ブリンクはテレポートした。アームの近く... 「一人じゃ無理だ。それによくよく考えたら、俺だと決定打に... 「えっと、何をすれば……」 「跳べ、そんであの腐れアームに、炎をぶちかましてやれ!」 レインメーカーの一言で、抜けていた力が戻ってくる。壁を... 「いや、まだだ!」 背後にテレポートしてきたブリンクが背中に手を当てた。そ... 「ちょっと荒っぽいけど勘弁してくれよ!」 方向転換。背中を蹴られて進路が変わる。敵は既に攻撃を繰... 「今度こそ――」 狙いは一点、アームの支柱。膜を開いて炎を解き放つ。ゼロ... 「やった!」 アームを天井から切り離した。 敗北を悟ったか、糸はするするとアームの中へ戻って行く。 「よし。このまま突破するぞ!」 レインメーカーの声で勢いづけられた僕たちは、そのまま部... * 薄汚い雑居ビル。空きフロアが目立つその建物の七階が、ブロ... 「話によると、今あそこの連中は殆ど出払ってるんだよな」 取引に応じなくなり、別の能力者、ナスティー・シャーロッ... 「直接的な恨みはないが、別の組織の力で勢力を伸ばされると... 今いるのはアジトの向かい、ビルのてっぺんから伸びるクレ... 衝突は、あっけないものだった。ガラスを突き破った俺を見... 「な、なんだお前!」 こちらが能力者であることは分かっているのだろう。相手は... 「グレイブディガー! 敵だ! 早く来い!」 拳銃を取り出して身を乗り出しながら男が叫ぶ。放たれた弾... 嫌な予感がする。能力を使い、サーベル内部のカートリッジ... 顔面に跳んできた弾丸を叩き落とし、最後の一歩、距離を詰... 「間に合った」 はじいたのは金属製の棒だ。巨大な鎌を持った能力者が俺と... 「護衛がいるとは聞いていなかったな」 「わざわざ戦力を公言する馬鹿がどこにいる」 確かに。それもそうだ。こちらが納得している間に、鎌使い... 「さて、覚悟はいいか。侵入者」 「ボーンヘッズの連中は殴り合いが苦手だって聞いてたけどな」 「例外もいる……!」 言うが早いがグレイブディガーは巨大な鎌を振り下ろしてき... 「クソッ!」 刃を失い後退する俺を追いかけながら、回転する刃が迫る。... 「今だ!」 残った左手のサーベルで、振り下ろされた刃を受ける。瞬間... 「ほぉ」 鎌は止まった。固体として力を受けるから壊れる。こうして... 「面白い能力だな」 「鹸化だ。蝋を石鹸に変える。液体にな」 そのままサーベルを引き、鎌を手元に引き寄せる。何か仕掛... 「なるほど」 しかし敵は攻撃を弾いて見せた。不意に支えを失って、左手... 「なんだ? お前も武器を作るタイプの能力だったのか?」 「さあな。それはこれからわかる」 攻撃はあくまで、棒を使うようだ。さっきのようにからめ捕... 「場所が悪かったな。狭い室内じゃ長い得物は不利になる」 「言ってくれるな」 挑発に乗ってくるような相手ではないか。なら、実力行使あ... 「なんだ?」 何かまずい。嫌な予感がする。まるで誘い込まれたような。... 「くっ!」 視界の隅で煌めく白刃。とっさのジャンプで直撃は避けたが... 「どういう能力だ?」 危なかった。あそこでためらわず打ち込んでいたら、下半身... 「クソッ」 振り下ろされる棒。当然敵も見逃してくれるわけではない。... 状態を逸らして横なぎの攻撃を躱し、次いで振り下ろされる... よどみない連携だと思ったが、敵はさらに上を行っていた。 「なっ⁉」 棒高跳び。叩きつける勢いで踏み出すと、敵は棒に掴まって... とっさに振り向き剣を構える。だが、この隙は致命的だ。絡... 「ってえ!」 サーベルが砕け散り、勢いを殺されてはいるもののそれなり... 「大方、棒に蝋をまとわりつかせよう、と考えているのだろう... 「なに?」 繰り出したのは刺突。防ぐこともままならず、後退以外に避... 「ぐあっ!」 まただ。今度の傷は浅くない。ふくらはぎをざっくりやられ... 「クソッ」 振り下ろされる棒。躱した先で待ち構える斬撃。敵のコンビ... 「消した刃は、こんなところにあったのか」 斬撃は、鎌についていた刃によるものだ。空間移動能力。そ... 「鎌で切断した『切り傷』へ刃を移動させる能力。それが正体... だから、始めに机をなぎ倒しながら進んでいたのだ。得物を... 「ご名答。気づくのがちょっと遅かったな。血を流し過ぎだ」 ... 一つ一つの傷は浅いが、奴の言うことは正しい。呼吸と共に... 「どうした? 命乞いは聞いてやれんぞ。観念したというのな... 「まさか。策を練ってただけさ!」 能力発動と同時に、左のサーベルを振り上げる。刃を構成し... 「くっ!」 が、当たらない。敵は一瞬早く後ろに跳び下がっていた。抜... 「無駄なあがきだったな。死ね!」 グレイブディガーが棒を振り下ろす。刃は棒と対応している... 「何⁉」 しかし、刃は動かない。当然だ。 「攻撃は、封じさせてもらった」 能力を発動させたのは、左の刃だけではない。右の刃を傷口... 「ちっ! 小細工を!」 刃を別の傷口に移動させ、再び棒を振りかぶる。小細工? ... だが、時間は稼げた。この一連のやり取りの間に、既に重力... どんな方向であっても、棒を振ればグレイブディガーの能力... 「なっ⁉」 予備動作に入ったグレイブディガーの腕が止まる。握ってい... 「まさか、貴様あの時!」 さっき飛ばした石鹸が固まっている! 「そうだ。あれはお前に当てるためじゃない。天井に当てるた... 天井から垂れ下がる液体が、粘性により鍾乳洞のごとく垂れ... 「能力を解除すれば液体の石鹸は固体の蝋に戻る!」 抜け落ちていく力を集め、俺は渾身の拳をグレイブディガー... 「勝った」 動かなくなった敵を見下ろした後、俺は部屋から逃げて行っ... * 「おらぁっ!」 マグネスマッシュの拳が最後の扉を吹き飛ばす。あれだけの... 「ふん……ようやくお出ましか」 たどり着いたのは貨物倉庫。搬入および搬出を目的としたエ... 「ようやく会えたな……ボーンヘッズ」 「悪いが、そう簡単にやられるつもりはない」 小柄な方が手で合図を出すと、マネキンが柱やトラックの影... 「散々手こずらせてくれたが、もう逃げられねえぞ」 言うが早いがブリンクが飛び出す。テレポート。狙いは、マ... 「させるか!」 長身の方が仲間を庇いに走る。繰り出された蹴りは、その男... 「くっ」 だが、けっして無傷ではない。苦悶に顔を歪め、男が体勢を... 「生身の人間が相手なら苦労はないぜ」 腕を足場に跳躍。再び姿を消したブリンクが、今度は背後に... 「喰らえ!」 蹴りを繰り出すブリンク。しかし、一瞬のインターバルの間... 「クソ。完全に隙を突いたはずだったんだが……」 マネキンが集まってきた。体勢を立て直すため、再びテレポ... 「うぉおお!」 雄叫びを上げマネキンの群れへと向かって行くマグネスマッ... 「手前は操り人形の方だな……借りは返させてもらうぜ」 麻布の中で音を鳴らすマグネスマッシュの拳に一歩も引くこ... 「ここを通すわけにはいかないんだよ」 そう言うと、上方向に何かを投げる。細長いポール。駒の幅... 「ふん。何をするつもりか知らんが、隙だらけだ!」 その道具からは、先ほどと同じように細長い糸が伸びている... 「なにぃ?」 マネキンが、マグネスマッシュと互角に組み合っている。そ... さっきと同じだ。操る対象こそ違えど、超常の力を持つマリ... ただの操り人形であれば、その動作は指先で糸が引かれただ... 世界は人間の主観の上に成り立っている。誤った情報を真実だ... これは、何も自分自身の中だけで完結する話ではない。第三者... この場では、あの操り人形がそうだ。操り人形の動きが人間に... 彼らは伊達や酔狂で黒魔術の真似事をしているわけではないの... 「なるほど……難儀な能力だな。マリオネットは糸の張力で操作... さっき操られた経験からか、マグネスマッシュは後ろに下が... 「やるじゃねえか」 加勢に向かうべきだ。だが、マネキンの攻撃が激しい。こち... 「クソッ!」 柱の陰に隠れて炎を避けるマネキン共。つきかけたガントレ... 「しぶとい連中だ!」 ブリンクは小柄なほうの能力者を追うが、マネキンに阻まれ... 「厄介だな。しかし、なんで、敵は攻めてこないんだろう」 裏拳でマネキンを弾き飛ばしながら、レインメーカーが言っ... 「マネキンの数が尽きたんだろうか。明らかにさっきの二部屋... マグネスマッシュは、宙からつられた操り人形と闘っていた... 「それは、ここに奴らの守りたいものがあるからじゃないんで... 「確かにそうだ。でも……」 何か言いかけたレインメーカーを遮って、フルスイングが口... 「おい。お前」 低くしわがれた声、彼が指名したのは僕だった。 「何ですか?」 「奴らを潰す。協力しろ」 会話の為だろう。ヘッドフォンは外してある。 「協力? どうすれば?」 「さっきと同じようにだ。俺が奴らの所に突っ込むから、援護... それだけ言うと、会話は終わりだと言わんばかりに、再びヘ... 「え、えっと」 何が何だかわからないけど、とりあえず従うことにした。 「やあっ!」 フルスイングへと襲い掛かったマネキンに向かい、炎を発射... 「ああ、やっぱりダメ……」 「フン」 フルスイングの腕が消えた。直後襲いくる衝撃音。彼の巨大... 敵が物蔭に隠れるのなら、物蔭ごと引き裂けばいい。あらた... 連携も、圧倒的な暴力の前には無力。フルスイングの力によ... 「クソッ!」 残すところ、自身を取り巻く護衛のみとなったところで、小... 「何だ?」 気になるのはやまやまだが、今はマグネスマッシュに加勢す... マネキンがマグネスマッシュと組み合ったタイミングを見計... 「逃がすか!」 爆風を耐えきったマグネスマッシュが、ダメージをものとも... 「待て」 彼にならって追いかけようとしたところ、レインメーカーに... 「なんです?」 「妙だ」 彼が指し示したのは倉庫の暗がり。指の先にはマネキンがあ... 「これがどうしたんです?」 十数体のマネキンが、動かずにじっと並んでいる。 「おかしいとは思わないか? 何故こいつらは襲ってこないん... 「一度に操作できる数に限りがあるのかもしれません」 「だとすれば、何故あの小さい奴は向こうに行ったんだ? マ... 考え込んでいたレインメーカーは背後からの攻撃に気が付か... 「危ない!」 脇へレインメーカーを突き飛ばし、正面からマネキンを蹴り... 「助かった……一つ貸しだな」 「いえ、これで貸し借り無しです」 「言うようになったじゃないか」 マネキンを警戒して、柱の影を注視する。と、次の瞬間―― 「えっ?」 崩れ落ちるマネキン。さながら糸の切れた操り人形のようだ... 「やはりそういうことか!」 この不可思議な現象に対し、レインメーカーは一つ合点がい... 「ブリンク!」 先を行く仲間にレインメーカーが叫ぶ。だが帰ってきたのは... 「何だこいつ……⁉」 顔を見合わせると、僕らは一目散に駆けた。彼らが向かった... 「これは……?」 予想していなかったのだろう。レインメーカーも言葉を失っ... 「いいか。こうなりたくなかったら、さっさとトキシックリー... 変声期前の高い声で、小柄な能力者は告げた。ナイフによる... 「来るぞ!」 その歪な姿勢からは考えられないほど、男の動きは素早かっ... 「くっ」 組みついてきた男を捕まえ、フルスイングはなんとか引きは... 「心配するな。奴は無事だ。体内に打ち込まれたナノマシンで... 激励……なのだろうか。少年の言葉を受けて、小部屋に押し込... 「トキシックリーパ」 身体機能を無理やり引き上げ、知性を奪う違法薬物。体を乗... 「クソッ! 一体どうなってんだ?」 テレポートで一足早く距離を取るブリンク。そんな彼を追い... 「いいかブリンク。今すぐこの道をまっすぐ進んでくれ」 「道? この貨物搬入路のことか?」 渡されたマップによると、まっすぐ行けば高速道路に通じて... 「一体なんで?」 「足りないんだよ。敵が一人」 「どういうことだ?」 「マネキンを操作していた奴がいない」 「あのちびじゃねえのか⁉」 「違う。俺たちはそう思い込まされていただけだ。事実マネキ... 敵はマネキンから生身の人間に替わっている。知性を伴って... 「そして、マネキンはまるで糸が切れたかのように倒れた。有... 先ほどまでのゲリラ戦法とは打って変わって、極めて直接的な... 「おい待てよ。そいつは仲間を置いて自分だけ逃げてるってこ... 「ああ。そいつは、何かを運んでいる」 何か、今回のミッションを思い出せば、その答えは明白だ。 「トキシックリーパ!」 言うが早いがブリンクは飛び出した。敵は恐らく乗り物を使... 「僕たちは、どうすれば……」 「ここにいる全員を確保する。後のことは、ブリンクに任せる... * 「死なないでね。二人とも」 既にルートの半分は過ぎた。ハイウェイまでの隠し通路はお... まっすぐ車を走らせる。ただそれだけに集中すればよい。だ... 言いようのない不安に駆られ、エクトプラズムはサイドミラ... 「そんな……」 鏡の中に現れる影。人の輪郭を持ったそれが、姿を消しなが... 「まさか、あのテレポーターが?」 距離はまだ遠い。だが、いずれ追いつかれるだろう。幸いに... 地下トンネルのオレンジの照明の中、エクトプラズムはさら... 「待ちやがれ!」 もう、声が聞こえるところまで追いつかれたというのか? ... 懐に手を伸ばす。取り出したのは、どこにでもあるテディベ... 「止まれ!」 とうとう敵がボンネットの上に姿を現した。相対速度は働か... 「この――ぶっ⁉」 拳を振り上げた敵の顔面を小さなシルエットが通過する。す... 「ぬいぐるみ……レインメーカーの言ってた通りだな。マネキン... どうやら、頭の切れる能力者がいたようだ。テディベアの視... 移したのは左目と両足、それに右手だ。大丈夫。ハンドルさ... 「やってやろうじゃねえか」 敵が動いた。踏込と同時に軽いジャブ。それを避けると真横... 拳をジャンプして躱すと、反対側の腕が打ち込んできた。 「くっ!」 パワー不足だ。同時に拳を打ち出したが、ぬいぐるみは力負... 「くそっ!」 このままじゃじり貧だ。パワー不足。リーチも足りない。加... 「ぐっ!」 次の一撃は躱しきれず、魂の無い左腕が犠牲になった。敵の... 「いや……引っかかる……?」 車内からウィンドウに目を走らせる。車道の隣にはインフラ... 「これを使えば――!」 再び上から降ろされる足、横に跳んでそれを躱すと、持ち上... 「ちっ! この!」 振り払おうと放たれる蹴りを足がかかりに、敵の顔面まで跳... 「ちっ」 だが、今度は不意を突けたわけじゃない。ぬいぐるみの柔ら... 「手間取らせやがって」 邪魔者を廃し、再びボンネットからウィンドウを覗きこむ敵... 「くら……え?」 振り上げた拳が止まったかと思うと、テレポーターは猛スピ... 牽引を引き起こしたのは毛糸だ。さっき靴の上に乗った時に... 「きわどい賭けだった。もし自分から飛び降りたりすれば、恐... 「確かに、そうだな」 「えっ?」 恐る恐るコントロールの戻った体で、九十度右に目を向ける... 「完全に不意を突かれたぜ。まさか、あんなやり方で叩き落そ... 「な、何故だ。そもそも車内にテレポートできるなら、とっく... 「今日はいいとこなしだったからな。このままじゃヤバイと思... ふざけるな。敵を落とそうとそうと放った蹴りは、しかしや... 「それじゃ、『確保』だ」 顔面に衝撃。テレポーターの拳を受けて、エクトプラズムの... * 「無駄に手間取らせてくれるじゃねえか」 結局、グレイブディガーの健闘むなしく、組織のボスは遠く... 「終わったな」 近隣住民の通報を受けたのだろう、パトカーのサイレンが近... ヒーローに見つかったら厄介だ。さっさと退散することにし... 体を動かすたびに痛む全身の傷に顔をしかめながら、俺はビ... * 「えっ?」 ハンズアップ。降参の印。あれだけ暴れていた二人の能力者... 「何考えやがる……」 糸を切られて落下するマネキンを眼前にして、マグネスマッ... さながらゾンビ映画のように、噛みついた人間から人間へ支... 「確保できたぞ」 ブリンクからの通信。うまくいったのだ。マネキン達を操っ... 「おい……説明しろ」 マグネスマッシュにまた胸倉をつかまれた。 「えっと。彼らの目的は時間稼ぎだったみたいです。一人が薬... 恐らく初めから自分達は犠牲になるつもりだったのだろう。... 「ちっ……スマートなやり口だな……気に入らねえ」 アドレナリンのやり場に困っているのだろう。マグネスマッ... 「すぐに、迎えが来るそうだ」 ひとしきり本部と通信した後、レインメーカーが言った。 「戦闘データは移動中に回収するとのことだ。念のため洗って... 「データをですか?」 「頭だよ。取り出し口に血がこびりついてる」 傍らでは、マグネスマッシュがフルスイングと共に、互いの... 「それほど頭が回るのに……何故気づかないんだ……?」 最後に彼がぽつりとこぼした言葉は、何か不穏な響きがあっ... * 「戻った、ぜ……」 ダメだ。思ったより出血が激しい。あの鎌野郎。やってくれ... 「エリック!」 頭の中に声がこだまする。正確には文字のイメージが、だが。 「ひどい傷。とっても痛い」 テレパスである彼女には、共有する感覚として俺のダメージ... 「悪い……」 何事かと後を追って顔を出したストレイドッグの仲間が、す... 「無事かい? 色男」 アイアンロッドが傍らで笑う。からかうような口調だが、言... 「敵は?」 彫の深い顔立ちをしたロックが、渋い声で問いかける。 「一人……手練れだった」 ヘッドセットが氷を押し当てる。さっき処方された鎮痛剤が... 「無事に帰ってくるって言ってたのに」 「悪い」 ヘッドセットの声は俺だけにしか聞こえない。その点に限っ... 「これでも、あの女が好きだって言えるの? あなたをこんな... 「包帯を巻いてくれたのは彼女だ」 「流石色男は扱いが違う」 アイアンロッドは面白くもなさそうにつぶやいた。 「正確には、彼女の呼んだ医者だ」 訂正したが、どちらにせよ対して意味は変わらない。怪我を... 「ただ働くだけじゃなくて、彼女に魂まで渡すつもりなの? ... 嫉妬。ヘッドセットの歳を考えれば、かわいいものなのかも... 「そんなつもりはないさ。俺はただ、ここを大事に思っている... 本心でもあり嘘でもある。この複雑な感情を受けて、ヘッド... #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) 終了行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第2章 ボーンヘッズとアンチェインド [#fc2b30af] 超兵器IMAGNAS。ある一人の天才の出現により完成したその兵... 核を越える威力を持ちながら、効果範囲を自在に設定するこ... そんな兵器が完成されてしまったため、世界中のあらゆる国... それゆえに、軍需産業は軒並みあおりを受け、さらに軍隊へ... そこで生まれたのが、僕達アカデミーズだ。ヒーローの一人... その中で、僕はようやくコードネームをもらい、一線で活躍... 「今日のミッションは、他の能力者との交戦が予想される」 正式にアカデミーズとしての活動を始めて数週間。その日の... 「能力者の犯罪と言うことですか?」 緊張した面持ちでレインメーカーが問いかける。 「うむ。いつも以上にリスクが大きい戦いになる」 この場に集められたのは三人。レインメーカー、ブリンク、... 「敵の詳細は?」 「人数は不明だ。数は少ないだろうと予想しているが……対峙す... ナスティー・シャーロット。その名を聞いただけで心がしび... 「ナスティー・シャーロット本人と闘うわけではないんですね... 「当然だ。彼女のような能力者が表に出てくるのであれば、そ... 下部組織。そんなものが存在するとは、今の今まで知らなか... 「下部組織の人間も、能力を使うのですか?」 「中にはそういう者もいる。彼らは……」 「黒魔術を使うんですか⁉」 つい口を挟んでしまった。発現を遮られた教官が、渋い顔を... 「浮つくな、フレイムスロアー……。質問の答えはイエスだ。と... 興奮しているのを見抜いたのか、教官は釘を刺してきた。 「黒魔術に見えるような超能力、ということだ。そのイカサマ... ブリーフィングルームのスクリーンに、ビニールのパックに... 「その結果が、これだ。トキシックリーパ。奴らが信者を労働... 画面が切り替わり、巨大な建造物の写真が写った。ドーム状の... 「生成するには技術と施設が必要。奴らが工場としているのが... 画面上に、建造物の見取り図が次々に表示された。脳内に収... 「諸君らのミッションは、この施設の壊滅。および、犯罪者集... 別組織の能力者? 初耳だ。しかしレインメーカーもブリン... 「協力する組織はアンチェインド。手荒な連中だが、戦闘力は... アンチェインド? アカデミーズと同じように、ヒーロー養... 「ブリーフィングは以上だ」 疑問を押し込めたまま、僕は二人とともに、目的地へと向か... 「アンチェインドっていうのは、一体何なんですか?」 郊外の廃プラントへ向かう道を歩いていく中、目的地まであ... 「スーパーヒーロー、ジャンゴの下部組織だよ。うちみたいな... 答えたのはブリンクだ。それにしても、ジャンゴ? 「あの、ジャンゴっていうと、やっぱり……」 「ああ。手段を選ばない過激派ヒーロー。犯罪者の天敵にして... ジャンゴ。恐ろしいヒーローだ。ヒーローでありながら法を... 「見えて来たぞ」 プラントを見渡せる丘の上に、人影が二人立っているのが見... 「おおぉ……待たせてくれんじゃねえかよぉ……」 予想以上だ。振り向いたその二人は、見るからに異様ななり... 片方はレジャージャケットを羽織り、インナーにはところど... もう片方は上半身が裸で、華奢な体に似合わない地面へ引きず... 二人とも、体のあちこちから、鎖がじゃらじゃら垂れていた。 「あの、時間まではまだ、後少しありますけど……」 おずおずと声を上げてみるも、その眼力で言葉は力を失って... 「アカデミーズのレインメーカーだ。こっちはブリンク。そん... レインメーカーがさりげなく肩に手を置いてくれた。ふっと... 「そうか……俺はマグネスマッシュ。そんでこいつが」 「フルスイング」 上半身裸の男が、かすれた声でそう告げた。 「狂信者とか……やりづらいぜ」 今日の作戦についてだろう。レザージャケットのマグネスマ... * 戻ってきた。赤茶色をした古いアパート。ストレイドッグの... 「おかえり、エリック」 声は空気の振動ではなく、頭の中にこだまするイメージとし... 「ただいま、ヘッドセット。どこにいるのかわからないけど」 返答は声に出して行う。相手はテレパス。シンプルなやり取... 「ここ」 言葉によるメッセージの後に、さながら網膜に映っているか... 「あれ?」 ところが、実際に暖炉のそばに近づいても、彼女の姿は見え... 「ばあ♪」 背後からの不意打ち。クローゼットに隠れていたのだろう。... 「やるじゃないか」 思わず、笑みが零れ落ちる。三か月前の彼女であれば、考え... 「すごく驚いたみたいだね。エリック。心拍数が上がってる」 「テレパスってのは、不随意筋の動きまで把握できるのか? ... 「ううん。直接聞いてるの」 これだけ密着していれば、それが一番自然だろう。それにし... 「ずいぶん上達したんだな。言葉」 「たくさん勉強したよ」 証拠と言わんばかりに、ボロボロになった教科書を見せつけ... 「すごいな。勉強ってのは辛いものだとばかり思ってたけど」 「そうでもないよ。考えたり想像したり、前よりもずっとでき... 「へえ」 三か月前。ストレイドッグに来た当初の彼女には、言語とい... 音や光による、直情的で要領を得ないコミュニケーションを... 「言葉って、とっても不思議」 「そう言えば、テレパスで言葉を送るときは、どういうイメー... 「ううん。言葉に明確なイメージはないの。声や文字なんての... 「そ、そうか」 たった三か月でずいぶん饒舌になったものだ。何を言ってい... 「それで、エリック。今までどこにいたの?」 だしぬけに、そう尋ねてきた。 「レジスターの所だ。新しい仕事を任されたよ」 「そう」 伝わってくるのはただ純粋な言葉だけなのに、裏に隠された... 「エリックはあの人のことをどう思ってるの?」 聞くまでもない。テレパスである彼女には、すでに答えが分... 「このチームのリーダー。俺たちのボス」 しかし、そんな彼女に対して、口から出る言葉で返す自分も... 「ただ、それだけだよ」 全て手の内をさらけ出した上での、無意味な嘘。 「あの女。私達のことを便利な道具としか思ってないよ。前は... 「そう思わないとやってられないのさ。彼女だって人間だ」 「ふーん」 顔を覗きこんでくるヘッドセットの瞳を無意識に避けてしま... 「それでも、彼女のことが好きなんだね。一人でギャングの事... 「ああ。もう行かなきゃ」 立ち上がろうとすると、手を掴んで引き留められた。 「ボーンヘッズ……強いの?」 「さあな。彼女の読みが正しければ。さほど苦戦はしないはず... 「信頼しているんだね」 手が離れる。 「エリック。ちゃんと帰って来てね」 「心配するな。大した相手じゃない」 心が読める彼女に、俺はただ残酷な言葉で答える他なかった。 * 「作戦は?」 正面の入り口。プラントは日差しを受けて、長い影を伸ばし... 「正面突破だ……死ぬまで追いかけ、叩き潰す」 レインメーカーの問いに、マグネスマッシュがドスの聞いた... 彼が顎で指すと、隣に立つフルスイングが、巨大なヘッドホ... 「離れてろ」 マグネスマッシュの指示に従い、僕ら三人は距離を取った。... 「わっ……!」 一瞬で、鋼鉄の扉はズタズタに引き裂かれた。破壊に対して... 「なるほど。だからフルスイング」 隣でブリンクがしたり顔で頷く。その言葉を受けて初めて、... 「進むぞ」 マグネスマッシュはこともなげに、僕らに前進を促した。 「暗いな」 インフラが通っていないのか、待ち受けていた通路は思って... 「どこへ行く」 マグネスマッシュがブリンクを呼び止める。彼は通路の右側... 「あの位置は」 レインメーカーの言葉で思い出した。即座にインプットされ... 「おい……どういことだ」 後を追おうとした途端胸倉をつかまれた。マグネスマッシュ... 「か、隠し通路です。製薬会社がかつて使っていたころに、違... 「ほう」 斧を引きずりながら、フルスイングもやってくる。壁を調べ... 「ロックがかかっているみたい……だ⁉」 間一髪のテレポート。ブリンクがいた辺りの空間を通過し、... 引き抜かれた斧に壁はそのままくっついてはがれ、オレンジ... 「おい! せめて一言合図か何かあってもいいだろう!」 ブリンクの抗議を受けても、フルスイングは素知らぬ顔だ。... 「とにかく。先に行こう」 アンチェインドの振る舞いに絶句しながらも、レインメーカ... 「やけにだだっ広い所に出たな」 細い通路の先に通じていたのは何も置いていない部屋だった... 「ドアが二つあるな……どっちに行けばいいんだ? 優等生さん... ドスの効いた声でマグネスマッシュが問いかける。通路の発... 「えっと。シャッターの方は運搬口に通じているから……敵の傾... どっちだろう? おそらくまだ薬の製造を行っているはずだ... 「いや、もういい。わかった」 思考はレインメーカーに遮られた。声にただならぬものを感... 「向こうから出迎えてくれるとはな」 正面の扉。シャッターではない赤いドア。それがいつの間に... 「銃を持っている、武装してるぞ!」 ブリンクの声が引き金になったかのように、室内に銃声が響... 「一体何を?」 あれだけの銃撃を受けてなお、彼の体は微動だにしていない... 異常性に気づいたのか、敵も銃撃を止めた。硝煙立ち上る銃... 「ふん……こんなものか」 かんかんかん……。立て続けに何かが床に零れ落ちる。薬莢?... そのまま、マグネスマッシュは腕を振りかぶった。麻袋で覆... 「おらぁ!」 明らかに加減した威力ではない。一歩の踏込で敵の眼前まで... 「ちょっと! そんなことをしたら死んじゃいますよ!」 制圧よりも、確保優先。繰り返し教えられてきたこの事柄が... 「犯罪者にかける慈悲はない……それに見ろ。こいつらは人間じ... 砕け散った手足の破片が、マグネスマッシュの足元に転がっ... 「マネキン……」 仲間が破壊されたことを気に止める様子もなく、再び敵は攻... 「動力もなにもないただの木の人形が、何で銃を?」 敵がこちらに狙いをつけてきた。引き金が引かれるが、弾は... 「操作している奴がいるんだ。そういう能力」 銃撃は無意味と悟ったか、敵は接近戦に持ち込むことにした... 「クソッ、離れろ!」 マネキンの一撃は想像以上に重たかった。このままでは意識... 何か無いのか? 何か策は……。 「そうだ」 ふと、右肘を支えている左の手の平が見えた。爆破する? ... 「いや、出来る!」 左の手の平に火球を作りだし、能力を部分的に解除。 「コントロールだ」 火球を覆うエネルギーの膜が破れ、そこからまっすぐ炎が飛び... 「できた」 飛び火した部分を手で覆い、熱を閉じ込め消火する。 「裏で隠れてこそこそするのが強いんだ。ボーンヘッズの連中... 傍らにテレポートしてきたブリンクが告げた。テレポートを... 「ダメだ。俺はこいつらと相性が悪い。痛みを感じねえしひる... 「大丈夫です。僕が何とかします」 水平に手をまっすぐ伸ばし、さっきと同じ要領で炎を放つ。... 「大体片付いたか?」 部屋全体に散らばる木片。フルスイングとマグネスマッシュ... 「まだだ」 新手のマネキンが赤い扉の奥に現れる。今度は銃を所持して... 「キリがねえな……」 マグネスマッシュが動いた。赤い扉を潜り、待ち受ける敵へ... 「このままじゃらちが明かない。俺たちも行こう」 横たわるマネキンを蹴倒しながら、暴力の渦中へと飛び込ん... 「下がってください!」 マグネスマッシュは素直に引いてくれた。道が開く。手の平... 「ふん。流石はヘリングエースの子飼いだな。」 爆風で吹き飛んだマネキン達を見て、マグネスマッシュはつ... 「今……何をやった? どういう能力を持っている?」 値踏みするような目を向けて来るが、さほどまでの威圧感は... 「えっと。僕の能力は体表面からキネシスの膜を作ることです... 「長い……簡潔にまとめろ」 「水を爆弾に変えることができます」 「よし」 視界内に動いているマネキンは無し。爆発の後を見計らって... 「補給だ。腕を出せ」 彼の肩に浮かぶ水の塊に、手首ごとガントレットを潜らせる... 「……これからどうする?」 「奴ら、この奥からやってきた。能力の詳細は分からないが、... レインメーカーの説明は、筋が通っているような気がした。 ... 「敵がどんな野郎だろうと……とっ捕まえてぶちのめすだけだ」 * 「準備完了よ。動かしてみて」 マスクに内蔵されたレシーバーで、ボーンヘッズの仲間、ブ... 「了解」 変声期前のソプラノボイスで、ブレインジャッカーが答える... 「どう? いけそう?」 傍らに立つもう一人の仲間、マリオネットへと問いかける。... 「ああ。奇妙な感覚だ。確かに腕が動くのが感じられる」 黄土色と緑の入り混じったローブの下で、右腕だけが力なく... 「糸は?」 「問題ない」 頭上のアームから青白い糸が五本伸びてくる。真下に立つマ... マリオネット。そのコードネームの通り、彼は手から超能力... ロボットアームから伸びる糸が上下し、吊られた四肢が人間... 目元を覆う牛の頭がい骨の下で、ボーンヘッズのリーダー、... 「指先から糸を伸ばす、という能力だったけど……うまくいった... 彼女の能力は、魂を切り離し、別の器に移し替えることだ。... 「モニタールームからロボットアームのカメラ映像が見える。... 「わかった。だけど……」 目じりの下がった目でマリオネットが見つめてくる。 「奴ら、本当にこの部屋を通るのか? もし違うルートに行っ... 「監視カメラの映像を見たでしょう? 彼ら、隠しルートを知... 通信機に着信が入る。文字通り骨伝導のスピーカーから、男... 「ロメオだ……今どこにいる」 ロメオ。今回の雇い主にして、ギャング組織、ブロウクンブ... 「まだプラントです」 「今出るところか?」 「いえ。少々問題が発生しました」 「問題だと?」 さてここからが難しい所だ。深呼吸一つすると、エクトプラ... 「この製薬工場の情報がヒーローにばれました」 「何だと! 相手はどこのどいつだ!」 予想通り、たった一言でロメオは取り乱した。 「落ち着いて下さい。まだ勝機はある」 「どういうことだ?」 「来たのは子飼いです。ヒーロー本人じゃない。まだここはそ... 「どこの連中だ?」 「アカデミーズ。それに、アンチェインド」 「数は?」 「合わせて五人」 「なるほど……」 しばしの沈黙。通話口の向こう側でロメオは考え込んでいる... 「奴らはどれくらいこちらのことを把握しているんだ?」 「確かなことは言えませんが、恐らくそう多くはない、と判断... 「なら荷物をまとめて施設を放棄すればよいだろう。何故まだ... 「それは……」 横目でマリオネットの表情をうかがう。自分はリーダーだ。... 「逃走にリスクがかかるためです。施設内に残ったブロウクン... 「何を馬鹿なことを言ってる? ギャングの連中など切り捨て... 返ってきたのは、あまりにも無情な一言。 「すいません。今なんと?」 「薬だけ持ってこいと言ったんだ。俺の部下は切り捨てても構... 「わかりました……ですが、被害を抑えるために、侵入者の排除... 「おい! 勝手な真似は……」 かまうものか。通信を一方的に切断してやった。 「ロメオはなんと?」 「部下を切り捨てて施設を破棄しろと言ってきたわ」 クソ。イライラする。切り捨てる? 彼らを? 「奴がそう言うのなら、早く準備した方がいいんじゃないのか... 「逃走するにしても、時間稼ぎが必要よ。彼らじゃ長くは持た... 事実彼らの魂を詰めたマネキンは、いともたやすく撃破され... 器が破壊され魂を取り戻した彼らの表情が、敵の強さを如実... 「奴らの中にはテレポーターがいるわ。ハイウェイならいざ知... それに、ギャング組織のメンバーだとしても、彼らは仕事を... 仲間を見捨てるわけにはいかない。 「けど、残って抗戦を続けたら、最悪薬は届けられない。シャ... 「わかってる!」 淡々と告げるマリオネットに、思わず感情が先走った。らし... 「どうすれば……一体どうすれば」 「こうしよう」 肩を掴まれた。 「な、なにを……」 「いつでもトラックを出せるように、お前は車庫に待機。能力... 「そんな。見殺しにしろと?」 「俺が勝てば問題はない。それに、車を出せるのは、自分自身... 普段はぼんやりしているくせに……。この瞬間、マリオネット... 「わかった」 あくまで仮定の話。そう自分に言い聞かせながら、エクトプ... * 「この部屋は」 「かつての生産ラインですね。ここで薬を作ったり、品質管理... 天井からぶら下がるいくつかのロボットアームに、部屋のあ... ベルトコンベアまで残っているが、ボーンヘッズはこの部屋... 「さっきまで誰かいたみたいだ」 床に残された足跡二つ。往復している足跡は、部屋の反対側... 「奴ら、さっきまでここにいたようだ。近いぞ」 「罠を仕掛けていたのかもしれん……奴らのような姑息な能力者... 左右に目を配りながら、足跡の先、奥のドアへと歩く。嫌な... 「不気味だ。何も襲って来ない」 マネキンはどうしたのだろうか。既に品切れ? 一向に姿を... そうして、部屋の中央に差し掛かったその時。 「何だ……これ」 前方で何かが鈍く光る。青白く細い何かが、前を行くマグネ... 「危ない!」 警告は一歩遅かった。こちらを振り向いた時には既に、その... 「なんだこれは……? 動けん!」 あれだけの筋力を持っているはずなのに、マグネスマッシュ... 「ブリンク! 後ろだっ!」 攻撃が始まった。 「こいつら、隠れてやがったのか!」 立ち並ぶ検査装置の間から次々にマネキンが姿を現す。呼吸... 「お前ら……いったん離れろ!」 宙吊りの姿勢でマグネスマッシュが呼びかける。視線の先に... 彼に口を挟むまでもなく、僕らは言われた通りにその場から... 「fuck!」 しかし、斬撃音の代わりに聞こえたのは、フルスイングの罵... 「あっ!」 マグネスマッシュが地面すれすれまで降ろされていた。これ... 振り払うようにマネキン達を殴りつけるフルスイングだが、... 「ぐっ!」 マネキンの攻撃をいくら受けても答えなかったフルスイング... 「野郎……」 糸で吊られたマグネスマッシュだった。 「……クソッ」 歯ぎしりしながら再び拳を振りかぶるマグネスマッシュ。天... 「ぐぷッ!」 二発目の拳はさっきよりも威力が増しているようだ。胃液の... 「何とかしないと」 何か弱点は無いのか? 糸の通じる先を目で追う。糸は天井... 「クソッ! 離れろ!」 ブリンクはテレポートを繰り返し、フルスイングを取り囲む... 「一か八か……」 再び検査装置に飛び乗って、それを足がかりに天井まで跳躍... 「そんな……」 だが、そううまくはいかないらしい敵はこちらに対応してき... 「くっ!」 空中で防御姿勢を取り、振り下ろされる拳を受ける。とんで... 「うわっ!」 斜め下方向に叩き落とされたが、地面に直撃はしなかった。... 「ぷはっ!」 顔を上げると、傍らに立つレインメーカーが見えた。 「ありがとうございます。でも、もう打つ手は……」 「そうでもない。見ろ」 指の先にはフルスイングがいた。周りを囲っていたマネキン... 「あの一瞬の隙で、フルスイングは動くことができた。お前の... だが、敵は既に新手を送り込んでいた。左右のドアが開き、... 「無駄ですよ。キリが無い。こっちは消耗する一方なのに、敵... フルスイングの傷も浅くはない。マグネスマッシュの拳もそ... 「無駄じゃないさ。一つわかったことがある」 「わかったこと?」 「あいつ、即座にお前に対応して攻撃してきた。つまり、あの... 「けど、そんなの不可能です。近づけばさっきみたいに叩き落... 「構わん……」 話が聞こえていたのだろう。マグネスマッシュが言った。 「お前達とは出来が違う……フルスイングの斧ならいざ知れず、... 「そ、それは……」 本気だ。彼は本気で言っている。このまま敵にいいように操... 「わかりました」 右手に火球を作り出す。狙いは一点。釣り下がるロボットア... 「喰らえ!」 爆風の一点集中。さっきの部屋で編み出した新技で、釣り下... 瞬間、糸が素早く巻き上げられ、マグネスマッシュが持ち上... 「あ……やっぱりダメだ……」 レザージャケットが煙を上げる。体は無事なのだろうか。い... 「ご、ごめんなさい。まさか……」 「いいや……これでいい」 灰の混じった息を吐きだし、マグネスマッシュが笑う。糸に... 「これを狙ってたんだ。奴が俺を引き上げる……そう、完全に自... 右手が、麻布に覆われた腕が、ぴったりとアームに張り付い... 「そうか! あの能力……右手を磁石に変える力!」 アームには金属の部品が少なからず使用されている。マグネ... 「敵も能力を解除することはできない。した途端に自由を取り... ブリンクが肩を叩いてまくしたてる。ロボットアームは何と... 「あのダメージ。長くは持たないかもしれない。アームを潰す... 肩を軽く叩くと、ブリンクはテレポートした。アームの近く... 「一人じゃ無理だ。それによくよく考えたら、俺だと決定打に... 「えっと、何をすれば……」 「跳べ、そんであの腐れアームに、炎をぶちかましてやれ!」 レインメーカーの一言で、抜けていた力が戻ってくる。壁を... 「いや、まだだ!」 背後にテレポートしてきたブリンクが背中に手を当てた。そ... 「ちょっと荒っぽいけど勘弁してくれよ!」 方向転換。背中を蹴られて進路が変わる。敵は既に攻撃を繰... 「今度こそ――」 狙いは一点、アームの支柱。膜を開いて炎を解き放つ。ゼロ... 「やった!」 アームを天井から切り離した。 敗北を悟ったか、糸はするするとアームの中へ戻って行く。 「よし。このまま突破するぞ!」 レインメーカーの声で勢いづけられた僕たちは、そのまま部... * 薄汚い雑居ビル。空きフロアが目立つその建物の七階が、ブロ... 「話によると、今あそこの連中は殆ど出払ってるんだよな」 取引に応じなくなり、別の能力者、ナスティー・シャーロッ... 「直接的な恨みはないが、別の組織の力で勢力を伸ばされると... 今いるのはアジトの向かい、ビルのてっぺんから伸びるクレ... 衝突は、あっけないものだった。ガラスを突き破った俺を見... 「な、なんだお前!」 こちらが能力者であることは分かっているのだろう。相手は... 「グレイブディガー! 敵だ! 早く来い!」 拳銃を取り出して身を乗り出しながら男が叫ぶ。放たれた弾... 嫌な予感がする。能力を使い、サーベル内部のカートリッジ... 顔面に跳んできた弾丸を叩き落とし、最後の一歩、距離を詰... 「間に合った」 はじいたのは金属製の棒だ。巨大な鎌を持った能力者が俺と... 「護衛がいるとは聞いていなかったな」 「わざわざ戦力を公言する馬鹿がどこにいる」 確かに。それもそうだ。こちらが納得している間に、鎌使い... 「さて、覚悟はいいか。侵入者」 「ボーンヘッズの連中は殴り合いが苦手だって聞いてたけどな」 「例外もいる……!」 言うが早いがグレイブディガーは巨大な鎌を振り下ろしてき... 「クソッ!」 刃を失い後退する俺を追いかけながら、回転する刃が迫る。... 「今だ!」 残った左手のサーベルで、振り下ろされた刃を受ける。瞬間... 「ほぉ」 鎌は止まった。固体として力を受けるから壊れる。こうして... 「面白い能力だな」 「鹸化だ。蝋を石鹸に変える。液体にな」 そのままサーベルを引き、鎌を手元に引き寄せる。何か仕掛... 「なるほど」 しかし敵は攻撃を弾いて見せた。不意に支えを失って、左手... 「なんだ? お前も武器を作るタイプの能力だったのか?」 「さあな。それはこれからわかる」 攻撃はあくまで、棒を使うようだ。さっきのようにからめ捕... 「場所が悪かったな。狭い室内じゃ長い得物は不利になる」 「言ってくれるな」 挑発に乗ってくるような相手ではないか。なら、実力行使あ... 「なんだ?」 何かまずい。嫌な予感がする。まるで誘い込まれたような。... 「くっ!」 視界の隅で煌めく白刃。とっさのジャンプで直撃は避けたが... 「どういう能力だ?」 危なかった。あそこでためらわず打ち込んでいたら、下半身... 「クソッ」 振り下ろされる棒。当然敵も見逃してくれるわけではない。... 状態を逸らして横なぎの攻撃を躱し、次いで振り下ろされる... よどみない連携だと思ったが、敵はさらに上を行っていた。 「なっ⁉」 棒高跳び。叩きつける勢いで踏み出すと、敵は棒に掴まって... とっさに振り向き剣を構える。だが、この隙は致命的だ。絡... 「ってえ!」 サーベルが砕け散り、勢いを殺されてはいるもののそれなり... 「大方、棒に蝋をまとわりつかせよう、と考えているのだろう... 「なに?」 繰り出したのは刺突。防ぐこともままならず、後退以外に避... 「ぐあっ!」 まただ。今度の傷は浅くない。ふくらはぎをざっくりやられ... 「クソッ」 振り下ろされる棒。躱した先で待ち構える斬撃。敵のコンビ... 「消した刃は、こんなところにあったのか」 斬撃は、鎌についていた刃によるものだ。空間移動能力。そ... 「鎌で切断した『切り傷』へ刃を移動させる能力。それが正体... だから、始めに机をなぎ倒しながら進んでいたのだ。得物を... 「ご名答。気づくのがちょっと遅かったな。血を流し過ぎだ」 ... 一つ一つの傷は浅いが、奴の言うことは正しい。呼吸と共に... 「どうした? 命乞いは聞いてやれんぞ。観念したというのな... 「まさか。策を練ってただけさ!」 能力発動と同時に、左のサーベルを振り上げる。刃を構成し... 「くっ!」 が、当たらない。敵は一瞬早く後ろに跳び下がっていた。抜... 「無駄なあがきだったな。死ね!」 グレイブディガーが棒を振り下ろす。刃は棒と対応している... 「何⁉」 しかし、刃は動かない。当然だ。 「攻撃は、封じさせてもらった」 能力を発動させたのは、左の刃だけではない。右の刃を傷口... 「ちっ! 小細工を!」 刃を別の傷口に移動させ、再び棒を振りかぶる。小細工? ... だが、時間は稼げた。この一連のやり取りの間に、既に重力... どんな方向であっても、棒を振ればグレイブディガーの能力... 「なっ⁉」 予備動作に入ったグレイブディガーの腕が止まる。握ってい... 「まさか、貴様あの時!」 さっき飛ばした石鹸が固まっている! 「そうだ。あれはお前に当てるためじゃない。天井に当てるた... 天井から垂れ下がる液体が、粘性により鍾乳洞のごとく垂れ... 「能力を解除すれば液体の石鹸は固体の蝋に戻る!」 抜け落ちていく力を集め、俺は渾身の拳をグレイブディガー... 「勝った」 動かなくなった敵を見下ろした後、俺は部屋から逃げて行っ... * 「おらぁっ!」 マグネスマッシュの拳が最後の扉を吹き飛ばす。あれだけの... 「ふん……ようやくお出ましか」 たどり着いたのは貨物倉庫。搬入および搬出を目的としたエ... 「ようやく会えたな……ボーンヘッズ」 「悪いが、そう簡単にやられるつもりはない」 小柄な方が手で合図を出すと、マネキンが柱やトラックの影... 「散々手こずらせてくれたが、もう逃げられねえぞ」 言うが早いがブリンクが飛び出す。テレポート。狙いは、マ... 「させるか!」 長身の方が仲間を庇いに走る。繰り出された蹴りは、その男... 「くっ」 だが、けっして無傷ではない。苦悶に顔を歪め、男が体勢を... 「生身の人間が相手なら苦労はないぜ」 腕を足場に跳躍。再び姿を消したブリンクが、今度は背後に... 「喰らえ!」 蹴りを繰り出すブリンク。しかし、一瞬のインターバルの間... 「クソ。完全に隙を突いたはずだったんだが……」 マネキンが集まってきた。体勢を立て直すため、再びテレポ... 「うぉおお!」 雄叫びを上げマネキンの群れへと向かって行くマグネスマッ... 「手前は操り人形の方だな……借りは返させてもらうぜ」 麻布の中で音を鳴らすマグネスマッシュの拳に一歩も引くこ... 「ここを通すわけにはいかないんだよ」 そう言うと、上方向に何かを投げる。細長いポール。駒の幅... 「ふん。何をするつもりか知らんが、隙だらけだ!」 その道具からは、先ほどと同じように細長い糸が伸びている... 「なにぃ?」 マネキンが、マグネスマッシュと互角に組み合っている。そ... さっきと同じだ。操る対象こそ違えど、超常の力を持つマリ... ただの操り人形であれば、その動作は指先で糸が引かれただ... 世界は人間の主観の上に成り立っている。誤った情報を真実だ... これは、何も自分自身の中だけで完結する話ではない。第三者... この場では、あの操り人形がそうだ。操り人形の動きが人間に... 彼らは伊達や酔狂で黒魔術の真似事をしているわけではないの... 「なるほど……難儀な能力だな。マリオネットは糸の張力で操作... さっき操られた経験からか、マグネスマッシュは後ろに下が... 「やるじゃねえか」 加勢に向かうべきだ。だが、マネキンの攻撃が激しい。こち... 「クソッ!」 柱の陰に隠れて炎を避けるマネキン共。つきかけたガントレ... 「しぶとい連中だ!」 ブリンクは小柄なほうの能力者を追うが、マネキンに阻まれ... 「厄介だな。しかし、なんで、敵は攻めてこないんだろう」 裏拳でマネキンを弾き飛ばしながら、レインメーカーが言っ... 「マネキンの数が尽きたんだろうか。明らかにさっきの二部屋... マグネスマッシュは、宙からつられた操り人形と闘っていた... 「それは、ここに奴らの守りたいものがあるからじゃないんで... 「確かにそうだ。でも……」 何か言いかけたレインメーカーを遮って、フルスイングが口... 「おい。お前」 低くしわがれた声、彼が指名したのは僕だった。 「何ですか?」 「奴らを潰す。協力しろ」 会話の為だろう。ヘッドフォンは外してある。 「協力? どうすれば?」 「さっきと同じようにだ。俺が奴らの所に突っ込むから、援護... それだけ言うと、会話は終わりだと言わんばかりに、再びヘ... 「え、えっと」 何が何だかわからないけど、とりあえず従うことにした。 「やあっ!」 フルスイングへと襲い掛かったマネキンに向かい、炎を発射... 「ああ、やっぱりダメ……」 「フン」 フルスイングの腕が消えた。直後襲いくる衝撃音。彼の巨大... 敵が物蔭に隠れるのなら、物蔭ごと引き裂けばいい。あらた... 連携も、圧倒的な暴力の前には無力。フルスイングの力によ... 「クソッ!」 残すところ、自身を取り巻く護衛のみとなったところで、小... 「何だ?」 気になるのはやまやまだが、今はマグネスマッシュに加勢す... マネキンがマグネスマッシュと組み合ったタイミングを見計... 「逃がすか!」 爆風を耐えきったマグネスマッシュが、ダメージをものとも... 「待て」 彼にならって追いかけようとしたところ、レインメーカーに... 「なんです?」 「妙だ」 彼が指し示したのは倉庫の暗がり。指の先にはマネキンがあ... 「これがどうしたんです?」 十数体のマネキンが、動かずにじっと並んでいる。 「おかしいとは思わないか? 何故こいつらは襲ってこないん... 「一度に操作できる数に限りがあるのかもしれません」 「だとすれば、何故あの小さい奴は向こうに行ったんだ? マ... 考え込んでいたレインメーカーは背後からの攻撃に気が付か... 「危ない!」 脇へレインメーカーを突き飛ばし、正面からマネキンを蹴り... 「助かった……一つ貸しだな」 「いえ、これで貸し借り無しです」 「言うようになったじゃないか」 マネキンを警戒して、柱の影を注視する。と、次の瞬間―― 「えっ?」 崩れ落ちるマネキン。さながら糸の切れた操り人形のようだ... 「やはりそういうことか!」 この不可思議な現象に対し、レインメーカーは一つ合点がい... 「ブリンク!」 先を行く仲間にレインメーカーが叫ぶ。だが帰ってきたのは... 「何だこいつ……⁉」 顔を見合わせると、僕らは一目散に駆けた。彼らが向かった... 「これは……?」 予想していなかったのだろう。レインメーカーも言葉を失っ... 「いいか。こうなりたくなかったら、さっさとトキシックリー... 変声期前の高い声で、小柄な能力者は告げた。ナイフによる... 「来るぞ!」 その歪な姿勢からは考えられないほど、男の動きは素早かっ... 「くっ」 組みついてきた男を捕まえ、フルスイングはなんとか引きは... 「心配するな。奴は無事だ。体内に打ち込まれたナノマシンで... 激励……なのだろうか。少年の言葉を受けて、小部屋に押し込... 「トキシックリーパ」 身体機能を無理やり引き上げ、知性を奪う違法薬物。体を乗... 「クソッ! 一体どうなってんだ?」 テレポートで一足早く距離を取るブリンク。そんな彼を追い... 「いいかブリンク。今すぐこの道をまっすぐ進んでくれ」 「道? この貨物搬入路のことか?」 渡されたマップによると、まっすぐ行けば高速道路に通じて... 「一体なんで?」 「足りないんだよ。敵が一人」 「どういうことだ?」 「マネキンを操作していた奴がいない」 「あのちびじゃねえのか⁉」 「違う。俺たちはそう思い込まされていただけだ。事実マネキ... 敵はマネキンから生身の人間に替わっている。知性を伴って... 「そして、マネキンはまるで糸が切れたかのように倒れた。有... 先ほどまでのゲリラ戦法とは打って変わって、極めて直接的な... 「おい待てよ。そいつは仲間を置いて自分だけ逃げてるってこ... 「ああ。そいつは、何かを運んでいる」 何か、今回のミッションを思い出せば、その答えは明白だ。 「トキシックリーパ!」 言うが早いがブリンクは飛び出した。敵は恐らく乗り物を使... 「僕たちは、どうすれば……」 「ここにいる全員を確保する。後のことは、ブリンクに任せる... * 「死なないでね。二人とも」 既にルートの半分は過ぎた。ハイウェイまでの隠し通路はお... まっすぐ車を走らせる。ただそれだけに集中すればよい。だ... 言いようのない不安に駆られ、エクトプラズムはサイドミラ... 「そんな……」 鏡の中に現れる影。人の輪郭を持ったそれが、姿を消しなが... 「まさか、あのテレポーターが?」 距離はまだ遠い。だが、いずれ追いつかれるだろう。幸いに... 地下トンネルのオレンジの照明の中、エクトプラズムはさら... 「待ちやがれ!」 もう、声が聞こえるところまで追いつかれたというのか? ... 懐に手を伸ばす。取り出したのは、どこにでもあるテディベ... 「止まれ!」 とうとう敵がボンネットの上に姿を現した。相対速度は働か... 「この――ぶっ⁉」 拳を振り上げた敵の顔面を小さなシルエットが通過する。す... 「ぬいぐるみ……レインメーカーの言ってた通りだな。マネキン... どうやら、頭の切れる能力者がいたようだ。テディベアの視... 移したのは左目と両足、それに右手だ。大丈夫。ハンドルさ... 「やってやろうじゃねえか」 敵が動いた。踏込と同時に軽いジャブ。それを避けると真横... 拳をジャンプして躱すと、反対側の腕が打ち込んできた。 「くっ!」 パワー不足だ。同時に拳を打ち出したが、ぬいぐるみは力負... 「くそっ!」 このままじゃじり貧だ。パワー不足。リーチも足りない。加... 「ぐっ!」 次の一撃は躱しきれず、魂の無い左腕が犠牲になった。敵の... 「いや……引っかかる……?」 車内からウィンドウに目を走らせる。車道の隣にはインフラ... 「これを使えば――!」 再び上から降ろされる足、横に跳んでそれを躱すと、持ち上... 「ちっ! この!」 振り払おうと放たれる蹴りを足がかかりに、敵の顔面まで跳... 「ちっ」 だが、今度は不意を突けたわけじゃない。ぬいぐるみの柔ら... 「手間取らせやがって」 邪魔者を廃し、再びボンネットからウィンドウを覗きこむ敵... 「くら……え?」 振り上げた拳が止まったかと思うと、テレポーターは猛スピ... 牽引を引き起こしたのは毛糸だ。さっき靴の上に乗った時に... 「きわどい賭けだった。もし自分から飛び降りたりすれば、恐... 「確かに、そうだな」 「えっ?」 恐る恐るコントロールの戻った体で、九十度右に目を向ける... 「完全に不意を突かれたぜ。まさか、あんなやり方で叩き落そ... 「な、何故だ。そもそも車内にテレポートできるなら、とっく... 「今日はいいとこなしだったからな。このままじゃヤバイと思... ふざけるな。敵を落とそうとそうと放った蹴りは、しかしや... 「それじゃ、『確保』だ」 顔面に衝撃。テレポーターの拳を受けて、エクトプラズムの... * 「無駄に手間取らせてくれるじゃねえか」 結局、グレイブディガーの健闘むなしく、組織のボスは遠く... 「終わったな」 近隣住民の通報を受けたのだろう、パトカーのサイレンが近... ヒーローに見つかったら厄介だ。さっさと退散することにし... 体を動かすたびに痛む全身の傷に顔をしかめながら、俺はビ... * 「えっ?」 ハンズアップ。降参の印。あれだけ暴れていた二人の能力者... 「何考えやがる……」 糸を切られて落下するマネキンを眼前にして、マグネスマッ... さながらゾンビ映画のように、噛みついた人間から人間へ支... 「確保できたぞ」 ブリンクからの通信。うまくいったのだ。マネキン達を操っ... 「おい……説明しろ」 マグネスマッシュにまた胸倉をつかまれた。 「えっと。彼らの目的は時間稼ぎだったみたいです。一人が薬... 恐らく初めから自分達は犠牲になるつもりだったのだろう。... 「ちっ……スマートなやり口だな……気に入らねえ」 アドレナリンのやり場に困っているのだろう。マグネスマッ... 「すぐに、迎えが来るそうだ」 ひとしきり本部と通信した後、レインメーカーが言った。 「戦闘データは移動中に回収するとのことだ。念のため洗って... 「データをですか?」 「頭だよ。取り出し口に血がこびりついてる」 傍らでは、マグネスマッシュがフルスイングと共に、互いの... 「それほど頭が回るのに……何故気づかないんだ……?」 最後に彼がぽつりとこぼした言葉は、何か不穏な響きがあっ... * 「戻った、ぜ……」 ダメだ。思ったより出血が激しい。あの鎌野郎。やってくれ... 「エリック!」 頭の中に声がこだまする。正確には文字のイメージが、だが。 「ひどい傷。とっても痛い」 テレパスである彼女には、共有する感覚として俺のダメージ... 「悪い……」 何事かと後を追って顔を出したストレイドッグの仲間が、す... 「無事かい? 色男」 アイアンロッドが傍らで笑う。からかうような口調だが、言... 「敵は?」 彫の深い顔立ちをしたロックが、渋い声で問いかける。 「一人……手練れだった」 ヘッドセットが氷を押し当てる。さっき処方された鎮痛剤が... 「無事に帰ってくるって言ってたのに」 「悪い」 ヘッドセットの声は俺だけにしか聞こえない。その点に限っ... 「これでも、あの女が好きだって言えるの? あなたをこんな... 「包帯を巻いてくれたのは彼女だ」 「流石色男は扱いが違う」 アイアンロッドは面白くもなさそうにつぶやいた。 「正確には、彼女の呼んだ医者だ」 訂正したが、どちらにせよ対して意味は変わらない。怪我を... 「ただ働くだけじゃなくて、彼女に魂まで渡すつもりなの? ... 嫉妬。ヘッドセットの歳を考えれば、かわいいものなのかも... 「そんなつもりはないさ。俺はただ、ここを大事に思っている... 本心でもあり嘘でもある。この複雑な感情を受けて、ヘッド... #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) ページ名: