開始行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第1章 アカデミーズ [#haa901f1] 月明かりの差し込む窓辺に置かれた水差し。それを傾け数滴... 刹那的発光。再び月光が室内を支配する。更に水差しから数... 「眠れないのか、チャーリー」 声は隣のベッドから聞こえた。ベッド脇の小さな棚には、彼... 「いや、もうフレイムスロアーだったな」 フレイムスロアー。今日与えられた自分のコードネームだ。... 「能力の練習をしようと」 「そういえば。お前は明日が初陣だったな」 手の平の中で熱が広がっていく。再びの発光。光はさっきに... 「調整は悪いことではないが、お前のそれは少々騒がしいから... 「すいません。起こしてしまいましたか?」 レインメーカー――、隣のベッドに横たわる先輩は、寝返りを... 「気にするな。俺も、実を言うと眠れていない」 「あなたも?」 「ああ」 そう言ってレインメーカーは体を起こした。 「不安なんだろ? 恥じることはない。俺だってそうだ」 「でも、どうすればいいかわからなくて」 「装備の点検は済ませたんだろう? なら、もうできることは... そう語るレインメーカーの肩のあたりに、小さな水の球が浮... 「不安は、無くならない。だが、慣れることはできる」 「けど、やれることをやっておかないと。考えるだけ考えない... 「あのな、考えたって、なるようにしかならないぜ。これはあ... ヘリング・エース。その名前を聞くと、少しだけ勇気が湧い... 手に落とした水滴は全て消えていた。レインメーカーがその... 彼の手の平の動きに合わせて、水分の集合体は、空間を滑り... 「どうしても眠れないというのなら、せめて横になっておいた... 「はい」 そうだ。何事も体が資本。疲労を残して翌朝の戦闘に挑むほ... そうしておとなしくベッドに横たわると、レインメイカーが... 「明日の作戦には俺もいる。飽和水蒸気量を操作して水を一か... 無言で頷くと、それっきりその夜は口を開かなかった。 「いいか、昨日話した通り、今回のミッションは武装勢力の確... 白を基調に黒いラインの入ったアカデミーズの制服。自分達... 「制圧ではない。確保だ。たとえ犯罪者であっても、一個の命... 五十代後半になろうとしているのに、教官の覇気はここに集... その圧倒されるかのようなエネルギーに、初陣を前にして沈... 「武装についての情報は掴めていない。恐らくは単純な銃火器... 電子音声がカウントを始める。思わず手首にはめたガントレ... 三……二……一…… 「ゼロ」 ハッチが開き、走行を続ける車内から、次々と隣に座るアカ... 「チェック」 着地はスムーズに行われた。時速八十キロ。能力者の身体能... 鉄道システムの大幅な減少に伴って廃棄された、赤茶けたレ... 狙うは一点。正面突破のみ。かつて列車がおさまっていた屋... 「サーモグラフィーによると、敵の人数はちょうど十人だ。予... ゴーグルの下で目を細めながら、先行するレインメーカーが... 「よーし、行くぞ!」 硬質化能力を持つリーダー、ガンメタルが号令をかける。見... トリガーが引かれる瞬間、僕らは放射状に散開した。ただ一... レンガ造りの壁を足がかりに射角を稼ぐ ... 「……えいっ!」 斜め下方向ちょうど車庫の開けた入り口目がけて掌の火球を... 「うわぁああ!」 白熱光とともに悲鳴が上がる。妙に甲高いあの音ともに、火... 「でかした!」 斜め前方を走るレインメーカーがサムズアップしてみせた。... 「三人確保だ。あと七人」 防弾チョッキや耐熱スーツのおかげか、彼らに目立った外傷... 「他の連中は奥にいるみたいだ」 入り口付近では、ガンメタルがその耐久性を活かして接近し... 明かりの落ちた倉庫内にマズルフラッシュを煌めかせながら... 「行くぞ」 レインメーカーにせかされて、彼らと同じく敵を追う。先を... 彼が二人目を打倒した段階で、先を行く敵は三方向に分かれ... 「いた……!」 訓練を積んでいるのだろうけど、所詮はただの人間だ。能力... 二人同時に放つ銃撃。手近にあった金属製のゴミバケツでそ... 「クソッ!」 こちらの狙いに気づいたのだろう。片方は銃撃を止めて、即... 爆発。憐れその男は、飛来するゴミバケツの破片が顔に直撃... 熱のエネルギーは抑え込めるが、体積の膨張による爆風は僕... そのまま屋根に到達し、残った一人を追いかける。今の爆発... 「まずいぞ」 油断した。あまりにも圧倒的な力を振るえるあまり、つい見... この時僕は焦っていた。それと同時に未だ油断していた。た... 「そこだ!」 銃口の先端が飛び出している。どうやら、庇の影に隠れてこ... ちょうど死角だ。敵はこちらの能力を把握している。このま... 屋根から飛び降り地面へ着地。このまま接近戦で片を付ける... 「えっ!」 そこに、敵はいなかった。残されていたのは銃の先端だけ。... 「そんな!」 こちらの位置から索敵可能範囲を割出し、わざと誤認させるよ... 「あっ!」 回避は間に合わない。なったのは三発だけ。おそらく拳銃だ... 「おい、しっかりしろ」 しかし、弾丸は命中しなかった。背後に浮かぶ水のバリケー... 「レインメーカー!」 振り返ると、彼が最後に残った敵を打倒し、その手で拘束す... 「一体どうして?」 「二人追いかけってたお前が気がかりでな。敵を倒すとすぐに... こともなげにそういってのけるレインメーカーは、とてもま... 「ありがとうございます」 「気にすんなって。誰でも最初はそんなもんさ、それより」 彼は手を出してきた。ハイタッチ。 「初のミッション成功だ。おめでとう」 「諸君、見事だった」 全員を捕縛すると、まるで見計らったかのように、アカデミ... 「全員無事のようだな。外傷を受けた者は無し、だな?」 「はい。少し目がゴリゴリしますが」 サイクロンの言葉で初めて自分も目が乾燥していることに気... 「その点に関しては必要となれば対策を講じよう……ブリンク。... 「ありません。普段通りの戦闘をこなすことができました」 「上々だ。レインメーカーと相性の良し悪しは無しか。サイク... そう言いつつ、教官は何かをかきこんでいく。 「ミッションの内容をフィードバックする必要がある。戦闘デ... 指示に従い、アカデミーズが全員側頭部に手を当てる。こめ... 「パスワードを入力してください」 ポップアップした仮想ウィンドウに指を走らせ、コードを入... 「バイタルサイン好調。神経系にも異常なし、うむ理想的なデ... ひとしきり頷くと、メモリーカードを全員に手渡す。 「重ねて言うが、君たちはよくやった。特にフレイムスロアー... 車両が停止した。帰ってきたのだ。アカデミーズの本拠地、... 「食堂で他の仲間が待っているだろう。さあ、行くといい」 シートベルトを外し、僕たちは開いた後部座席から学び舎へ... 「やったな! チャーリー!」 「敵は武装してたんだろ? すげえよ」 食堂に待機していた仲間たちに肩を叩かれながら、奥へ用意... 壁に花、天井には垂れ幕。ここだけちょっとしたパーティ模... 「懐かしいな。俺も初めはこうして祝われる側だった」 隣に座ったレインメーカーが感慨深げにつぶやく。そうして... 「おいおい。俺のサポートがあったことも忘れるなよ」 「サポートォ?」 仲間の中から冗談めかした声が上がる。 「俺がとっさに水の壁で防御したから、最後の止めが刺せたわ... 「新入りに乗っかるなんて見苦しいぞー!」 「そうだそうだー!」 彼の主張は即座にヤジでかき消される。そうした喧騒の中で... 「やれやれ、まともに取り合っちゃくれねえや」 「でも、ありがとうございます」 ここでもかれは小さく笑った。 「昨日言っただろう? 俺たちは相性がいい、ってな」 「助けてもらうばっかりで僕は全然……」 「いいって、いいって。大活躍だったんだし。それはこれから... 仲間たちはそれぞれに手にした飲み物を掲げた。軽く容器を... 「とりあえず、ヒーローへの第一歩、おめでとう!」 レインメーカーの一言で、歓声が上がる。みんな、笑ってい... 「エースさんだ!」 ふいに上がったその声に、全員そろって振り返る。静寂した... 「やあ、ずいぶんにぎやかだね」 すっと通った鼻筋に、大きく輝いて見えるブルーの瞳。細面... 「エースさん!」 「来てくださってありがとうございます」 歓声を上げる仲間たちをかき分けながら、ヘリング・エース... 「ふうん。君が、チャーリーか」 「あ、あの。会えてうれしいです」 スーパーヒーロー、ヘリング・エース。連日活躍が報道され... 「えっと。僕、が、がんばります」 ああ。気の利いた一言すら出てこない。しどろもどろになる... 「うん。いずれ君は僕の役に立ってくれるよ。それも、そう遠... 見た目に違わぬ明朗な声。彼の発言を受けて、再び仲間たち... 「あ、ちょうどやってるね」 食堂に備え付けられたディスプレイが、今日のニュースを流... 「ああ。あの時は参りましたよ。何せあいつ、このままでは手... 拙いジョークだ。画面の向こうにいる自分に投げかけるよう... 「どうも、僕の出現を計算に入れていなかったみたいだ。『天... 画面が切り替わり、事件のワンカット。先ほどの言葉通り、... 「容疑者は繰り返し世間を騒がせてきた、通称プレディクトと... 画面の向こうで悪人を打倒すヒーロー。いつか、自分もそこ... 「それじゃあ、これからもがんばってね」 手を振りながら食堂を後にするヘリング・エース。そのまぶ... いつかきっと、彼のようなヒーローになるんだ。 * 「やっぱり罠だったよ。あなたが言った通りだ」 節電を心がけているらしいオフィスは、いつみても気がめい... 「おかえりなさいエリック」 その暗いオフィスの一番奥、唯一明かりの灯ったスペースから... 「あれはエサだった。そうなのよね」 レジスター。書類を並べて吟味する自分のボスは、いまだ十... 「仕掛けたのはどこの連中?」 「アカデミーズです」 その返答に、彼女は身を震わせた。 「アカデミーズ? ヘリング・エースの? 奴ら、まさか私達... 「もしそうなら、とっくに消されている。あなたは先日そう言... 「え、ええ。そうよね。分かっているわ。ただ、相手が相手だ... 「動揺した?」 「見透かしたような言い方はやめて」 かぶりを振りながらため息を一つ。気を張り詰めすぎて、疲... 「私達をあぶりだしたのではないとしたら、目的は恐らくテス... 「ええ。彼が直接現場に出向いたわけではない。仕事をこなし... 「実戦テストと戦闘プログラムの向上のために、エサとなる犯... 彼女の顔に落ち着きが戻ってきた。少女から、頼れるリーダ... 「始末しましょうか?」 「それはダメ。仮にここであの情報屋を殺したりしたら、『私... 最後の発言は、己自身に向けて発せられたようだ。 「遠目でよく把握できませんでしたが、戦闘に参加した能力者... 「そう、わかった。……他に報告は?」 「いえ、特には」 そう言って立ち去ろうとすると、二の腕を掴んで引き留めら... 「ねえ、エリック。こんなことを頼むのはおかしいとは思うけ... 幼い顔を紅潮させて、レジスターがつぶやく。 「なんでしょうか」 「あなたは年下だし、それになにより、ただの下部構成員、ス... 要領を得ない言葉の羅列。が、その意味することは一つしか... 「いいんです。何も言わなくても」 二の腕を掴む手を握り、体から引き離す。 「ちょっと」 これは、打算だろうか。ヒーローに潰された犯罪組織の子飼... 「気が済むまで、一緒にいてあげますよ」 だが結局は、そんな理由などただの後付けに過ぎない。自分... 「エリック……お願いしてもいいのね?」 「ええ。先日のようにべったりというわけにはいきませんが」 きっかけは、過労で倒れた看病だったか……いや、感情自体は... 「本当に、ありがとう」 この時間だけ、彼女は経営者として、組織のボスとしての仮... そう思うと、この女性が愛しく思えてたまらなかった。 #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) 終了行: #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) **第1章 アカデミーズ [#haa901f1] 月明かりの差し込む窓辺に置かれた水差し。それを傾け数滴... 刹那的発光。再び月光が室内を支配する。更に水差しから数... 「眠れないのか、チャーリー」 声は隣のベッドから聞こえた。ベッド脇の小さな棚には、彼... 「いや、もうフレイムスロアーだったな」 フレイムスロアー。今日与えられた自分のコードネームだ。... 「能力の練習をしようと」 「そういえば。お前は明日が初陣だったな」 手の平の中で熱が広がっていく。再びの発光。光はさっきに... 「調整は悪いことではないが、お前のそれは少々騒がしいから... 「すいません。起こしてしまいましたか?」 レインメーカー――、隣のベッドに横たわる先輩は、寝返りを... 「気にするな。俺も、実を言うと眠れていない」 「あなたも?」 「ああ」 そう言ってレインメーカーは体を起こした。 「不安なんだろ? 恥じることはない。俺だってそうだ」 「でも、どうすればいいかわからなくて」 「装備の点検は済ませたんだろう? なら、もうできることは... そう語るレインメーカーの肩のあたりに、小さな水の球が浮... 「不安は、無くならない。だが、慣れることはできる」 「けど、やれることをやっておかないと。考えるだけ考えない... 「あのな、考えたって、なるようにしかならないぜ。これはあ... ヘリング・エース。その名前を聞くと、少しだけ勇気が湧い... 手に落とした水滴は全て消えていた。レインメーカーがその... 彼の手の平の動きに合わせて、水分の集合体は、空間を滑り... 「どうしても眠れないというのなら、せめて横になっておいた... 「はい」 そうだ。何事も体が資本。疲労を残して翌朝の戦闘に挑むほ... そうしておとなしくベッドに横たわると、レインメイカーが... 「明日の作戦には俺もいる。飽和水蒸気量を操作して水を一か... 無言で頷くと、それっきりその夜は口を開かなかった。 「いいか、昨日話した通り、今回のミッションは武装勢力の確... 白を基調に黒いラインの入ったアカデミーズの制服。自分達... 「制圧ではない。確保だ。たとえ犯罪者であっても、一個の命... 五十代後半になろうとしているのに、教官の覇気はここに集... その圧倒されるかのようなエネルギーに、初陣を前にして沈... 「武装についての情報は掴めていない。恐らくは単純な銃火器... 電子音声がカウントを始める。思わず手首にはめたガントレ... 三……二……一…… 「ゼロ」 ハッチが開き、走行を続ける車内から、次々と隣に座るアカ... 「チェック」 着地はスムーズに行われた。時速八十キロ。能力者の身体能... 鉄道システムの大幅な減少に伴って廃棄された、赤茶けたレ... 狙うは一点。正面突破のみ。かつて列車がおさまっていた屋... 「サーモグラフィーによると、敵の人数はちょうど十人だ。予... ゴーグルの下で目を細めながら、先行するレインメーカーが... 「よーし、行くぞ!」 硬質化能力を持つリーダー、ガンメタルが号令をかける。見... トリガーが引かれる瞬間、僕らは放射状に散開した。ただ一... レンガ造りの壁を足がかりに射角を稼ぐ ... 「……えいっ!」 斜め下方向ちょうど車庫の開けた入り口目がけて掌の火球を... 「うわぁああ!」 白熱光とともに悲鳴が上がる。妙に甲高いあの音ともに、火... 「でかした!」 斜め前方を走るレインメーカーがサムズアップしてみせた。... 「三人確保だ。あと七人」 防弾チョッキや耐熱スーツのおかげか、彼らに目立った外傷... 「他の連中は奥にいるみたいだ」 入り口付近では、ガンメタルがその耐久性を活かして接近し... 明かりの落ちた倉庫内にマズルフラッシュを煌めかせながら... 「行くぞ」 レインメーカーにせかされて、彼らと同じく敵を追う。先を... 彼が二人目を打倒した段階で、先を行く敵は三方向に分かれ... 「いた……!」 訓練を積んでいるのだろうけど、所詮はただの人間だ。能力... 二人同時に放つ銃撃。手近にあった金属製のゴミバケツでそ... 「クソッ!」 こちらの狙いに気づいたのだろう。片方は銃撃を止めて、即... 爆発。憐れその男は、飛来するゴミバケツの破片が顔に直撃... 熱のエネルギーは抑え込めるが、体積の膨張による爆風は僕... そのまま屋根に到達し、残った一人を追いかける。今の爆発... 「まずいぞ」 油断した。あまりにも圧倒的な力を振るえるあまり、つい見... この時僕は焦っていた。それと同時に未だ油断していた。た... 「そこだ!」 銃口の先端が飛び出している。どうやら、庇の影に隠れてこ... ちょうど死角だ。敵はこちらの能力を把握している。このま... 屋根から飛び降り地面へ着地。このまま接近戦で片を付ける... 「えっ!」 そこに、敵はいなかった。残されていたのは銃の先端だけ。... 「そんな!」 こちらの位置から索敵可能範囲を割出し、わざと誤認させるよ... 「あっ!」 回避は間に合わない。なったのは三発だけ。おそらく拳銃だ... 「おい、しっかりしろ」 しかし、弾丸は命中しなかった。背後に浮かぶ水のバリケー... 「レインメーカー!」 振り返ると、彼が最後に残った敵を打倒し、その手で拘束す... 「一体どうして?」 「二人追いかけってたお前が気がかりでな。敵を倒すとすぐに... こともなげにそういってのけるレインメーカーは、とてもま... 「ありがとうございます」 「気にすんなって。誰でも最初はそんなもんさ、それより」 彼は手を出してきた。ハイタッチ。 「初のミッション成功だ。おめでとう」 「諸君、見事だった」 全員を捕縛すると、まるで見計らったかのように、アカデミ... 「全員無事のようだな。外傷を受けた者は無し、だな?」 「はい。少し目がゴリゴリしますが」 サイクロンの言葉で初めて自分も目が乾燥していることに気... 「その点に関しては必要となれば対策を講じよう……ブリンク。... 「ありません。普段通りの戦闘をこなすことができました」 「上々だ。レインメーカーと相性の良し悪しは無しか。サイク... そう言いつつ、教官は何かをかきこんでいく。 「ミッションの内容をフィードバックする必要がある。戦闘デ... 指示に従い、アカデミーズが全員側頭部に手を当てる。こめ... 「パスワードを入力してください」 ポップアップした仮想ウィンドウに指を走らせ、コードを入... 「バイタルサイン好調。神経系にも異常なし、うむ理想的なデ... ひとしきり頷くと、メモリーカードを全員に手渡す。 「重ねて言うが、君たちはよくやった。特にフレイムスロアー... 車両が停止した。帰ってきたのだ。アカデミーズの本拠地、... 「食堂で他の仲間が待っているだろう。さあ、行くといい」 シートベルトを外し、僕たちは開いた後部座席から学び舎へ... 「やったな! チャーリー!」 「敵は武装してたんだろ? すげえよ」 食堂に待機していた仲間たちに肩を叩かれながら、奥へ用意... 壁に花、天井には垂れ幕。ここだけちょっとしたパーティ模... 「懐かしいな。俺も初めはこうして祝われる側だった」 隣に座ったレインメーカーが感慨深げにつぶやく。そうして... 「おいおい。俺のサポートがあったことも忘れるなよ」 「サポートォ?」 仲間の中から冗談めかした声が上がる。 「俺がとっさに水の壁で防御したから、最後の止めが刺せたわ... 「新入りに乗っかるなんて見苦しいぞー!」 「そうだそうだー!」 彼の主張は即座にヤジでかき消される。そうした喧騒の中で... 「やれやれ、まともに取り合っちゃくれねえや」 「でも、ありがとうございます」 ここでもかれは小さく笑った。 「昨日言っただろう? 俺たちは相性がいい、ってな」 「助けてもらうばっかりで僕は全然……」 「いいって、いいって。大活躍だったんだし。それはこれから... 仲間たちはそれぞれに手にした飲み物を掲げた。軽く容器を... 「とりあえず、ヒーローへの第一歩、おめでとう!」 レインメーカーの一言で、歓声が上がる。みんな、笑ってい... 「エースさんだ!」 ふいに上がったその声に、全員そろって振り返る。静寂した... 「やあ、ずいぶんにぎやかだね」 すっと通った鼻筋に、大きく輝いて見えるブルーの瞳。細面... 「エースさん!」 「来てくださってありがとうございます」 歓声を上げる仲間たちをかき分けながら、ヘリング・エース... 「ふうん。君が、チャーリーか」 「あ、あの。会えてうれしいです」 スーパーヒーロー、ヘリング・エース。連日活躍が報道され... 「えっと。僕、が、がんばります」 ああ。気の利いた一言すら出てこない。しどろもどろになる... 「うん。いずれ君は僕の役に立ってくれるよ。それも、そう遠... 見た目に違わぬ明朗な声。彼の発言を受けて、再び仲間たち... 「あ、ちょうどやってるね」 食堂に備え付けられたディスプレイが、今日のニュースを流... 「ああ。あの時は参りましたよ。何せあいつ、このままでは手... 拙いジョークだ。画面の向こうにいる自分に投げかけるよう... 「どうも、僕の出現を計算に入れていなかったみたいだ。『天... 画面が切り替わり、事件のワンカット。先ほどの言葉通り、... 「容疑者は繰り返し世間を騒がせてきた、通称プレディクトと... 画面の向こうで悪人を打倒すヒーロー。いつか、自分もそこ... 「それじゃあ、これからもがんばってね」 手を振りながら食堂を後にするヘリング・エース。そのまぶ... いつかきっと、彼のようなヒーローになるんだ。 * 「やっぱり罠だったよ。あなたが言った通りだ」 節電を心がけているらしいオフィスは、いつみても気がめい... 「おかえりなさいエリック」 その暗いオフィスの一番奥、唯一明かりの灯ったスペースから... 「あれはエサだった。そうなのよね」 レジスター。書類を並べて吟味する自分のボスは、いまだ十... 「仕掛けたのはどこの連中?」 「アカデミーズです」 その返答に、彼女は身を震わせた。 「アカデミーズ? ヘリング・エースの? 奴ら、まさか私達... 「もしそうなら、とっくに消されている。あなたは先日そう言... 「え、ええ。そうよね。分かっているわ。ただ、相手が相手だ... 「動揺した?」 「見透かしたような言い方はやめて」 かぶりを振りながらため息を一つ。気を張り詰めすぎて、疲... 「私達をあぶりだしたのではないとしたら、目的は恐らくテス... 「ええ。彼が直接現場に出向いたわけではない。仕事をこなし... 「実戦テストと戦闘プログラムの向上のために、エサとなる犯... 彼女の顔に落ち着きが戻ってきた。少女から、頼れるリーダ... 「始末しましょうか?」 「それはダメ。仮にここであの情報屋を殺したりしたら、『私... 最後の発言は、己自身に向けて発せられたようだ。 「遠目でよく把握できませんでしたが、戦闘に参加した能力者... 「そう、わかった。……他に報告は?」 「いえ、特には」 そう言って立ち去ろうとすると、二の腕を掴んで引き留めら... 「ねえ、エリック。こんなことを頼むのはおかしいとは思うけ... 幼い顔を紅潮させて、レジスターがつぶやく。 「なんでしょうか」 「あなたは年下だし、それになにより、ただの下部構成員、ス... 要領を得ない言葉の羅列。が、その意味することは一つしか... 「いいんです。何も言わなくても」 二の腕を掴む手を握り、体から引き離す。 「ちょっと」 これは、打算だろうか。ヒーローに潰された犯罪組織の子飼... 「気が済むまで、一緒にいてあげますよ」 だが結局は、そんな理由などただの後付けに過ぎない。自分... 「エリック……お願いしてもいいのね?」 「ええ。先日のようにべったりというわけにはいきませんが」 きっかけは、過労で倒れた看病だったか……いや、感情自体は... 「本当に、ありがとう」 この時間だけ、彼女は経営者として、組織のボスとしての仮... そう思うと、この女性が愛しく思えてたまらなかった。 #navi(活動/霧雨/vol.35/I wanna be the) ページ名: