開始行: #navi(活動/三題噺) *Sympathy for the Sky ―― [[哉>部員紹介]] [#ffdec72e] ~ 僕がお金を下ろして、公園に戻ってくると、彼女は空になっ... たとえ死しても、地からそなたの声を聞く。 この心が土と化しても、喜びに満ちるであろう。 僕はため息をつく。 「一応聞くけど、そのお酒どうしたの。まさか買ったんじゃな... 彼女の財布は真冬だったはずだ。 「もらったのよ」 「誰にさ」 「下心をひけらかしたホームレス」 投げられた酒瓶が、ゆるいアーチを描いて草むらの陰に落ち... 「もしかして、死んでるの」 「生きてるんじゃない。気持悪いから確かめてないけど」 「どうして、こんなことになったのさ」 街灯の光だけでも、彼女の顔が赤くなっていることがわかる... 「さあね。勝手に酒を勧めてきて、わたしに触ってきたのよ」 「まさか、変なことされたの」 「心配は無用よ。財布は守ったわ」 そうじゃなくて、貞操のほうを聞いてるんですけど、と思っ... 「瞬殺してやったわよ。こんな、いたいけな女の子に強盗を働... 「知らないよ。少なくとも、僕は君の正義を見たことがない」 「あら、正義って目に見えないのよ。悪は、そうね、そこでう... 「同情はしないけど憐れに思うよ。襲う相手を間違えたようだ」 「あら、彼はその点では正しい行いをしたわ。だってこれ以上... やっぱり君の言うとおりだね、と僕はうなずいて、彼女の横... 「まだ、掛けなさいって台詞を言ってないわよ」 「君が、光栄ですわって言うのを抜かしたんじゃないか」 そうだったかしら、と彼女は笑う。 「それで、あなたはわたしをどこに案内してくれるのかしら」 「路上の休日じゃ、コンビニぐらいしか行くところがないよ」 「夢のない話ね」 「うん、そうだね。夢のない話だ」 星の輝きのない空を見上げた。雲ひとつないというのに、月... 「そして、あれも悪を孕んでる」 彼女の綺麗に伸びた右腕が、高層ビルの側面を指す。 「僕には、そう見えないけど」 「だってオリオンを騙っているもの」 どういうこと、と訝しがりながら彼女の指の先に目をやる。 そして。 いくつかの明かりの灯った窓の位置関係に気づく。 「本当だ。オリオン座になってる」 こんな偶然があるんだな。 「知ってたの、オリオン座の形」 「有名だからね、教科書にも載ってるし」 そう、と彼女は体温を整えるように、ゆっくりと息を吐く。... 「代用品のつもりかしら、あんな端な照明で」 「贖罪してるのかも。まあ電気を使ってるわけだから意味無い... 「そうね、本末転倒よね。文句言ってくるわ」 千鳥足の彼女が、立ち上がってビルに向かって歩き出す。僕... 「待ってよ」 鼻息の荒い酔っ払いを、後ろから羽交い絞めにする。 「ちょっと、離しなさいよ。痛いじゃない」 「だめだって。このまま放って置いたら、君はあのビルに殴り... 「失礼ね。悪を斬り捨てに行くだけよ、空の役目を奪ったあい... じたばたと暴れる猛獣のような彼女は、しかし僕には苦しん... 「じゃあまずは涙を拭いてからにしようよ」 声が反響する。 僕の腕の中で、力がしぼんでいくのを感じる。瞳まで赤くし... まるで飼っていたペットの死を理解できない子供のように、... 「泣いてるの、わたし」 「うん、とても綺麗に涙を流してる」 「悲しくもないのに?」 「たぶん、役目を奪われた空の代わりじゃないのかな」 「わたしまで。酷いね」 それにはうなずかずに、僕は彼女をベンチのところまで引き... まだ冷たさの残る風が、沸いた思いを撫でていく。 「泣き上戸なんだからさ、酒は控えようよ」 唇を噛んで涙を堪えている彼女の、なめらかな髪を手で梳かす。 「お金を下ろしてきたから、これでどこでも逃げられるよ。こ... どこか、逃げたいところはあるかい、と僕は彼女に訊ねた。 胸の辺りから、すこし濡れた答えが返ってきた。 「そうね、逃げたいところはないけれど、行ってみたいところ... 「どこなの」 「こないだ雑誌で見たとこ。完食できたらタダになる」 「ああ、あの巨大なパフェを出してくる喫茶店か。あれに挑戦... 「そう。高級料理を食べましょう、死ぬ前に」 「悪くないと思うけど、失敗してもそんなに値段は張らなかっ... 「知らなかったのね。この世に、タダより高いものはないのよ」 あの世は分からないけどね、無理に笑った彼女が、僕を見上... 「そうでした」 彼女の表情につられて、僕の頬もゆるむ。 月の位置から時刻をはかる。たぶん、短針と長針が真上を指... 「終電には乗れそうにないな。夜行バスという手もあるけど、... 「場所は覚えてるの」 「大まかにだけど、ね。本屋に行けば、まだガイドブックが残... 「じゃあ大丈夫ね」 勢いよく立ち上がった彼女が、走り出す。今度はなんだ、と... 古い感じのする黒の自転車だった。かごが錆びており、荷台... 「これ、どうしたのさ」 「戦利品。モンスターを倒した、ね」 彼女の視線が草むらのほうに向けられる。なるほど。でも、 「盗むのは、正義にもとるんじゃないの」 「あら、モンスターの持っているお金は奪ってもいいのよ。王... 「どこの王様だよ」 「あなたの目の前よ。わたしがルールで、ルールは王様とイコ... そうだったかな、と僕は苦笑を浮かべる。普段のペースにな... 堅いサドルに尻を乗せて、背中の彼女に聞く。 「そっちの座り心地はどう」 「サイアク」 「こっちもだ」 僕はブレーキが効くのを確かめてから、ペダルを踏み込んだ。... 僕に彼女がしがみ付いている。だから、彼女の震えが伝わっ... ペダルをこぐ足に力を入れる。景色が滲んでしまうようなス... 魂さえも追いつけないくらいの、スピードまで。 ~ CENTER:''(了)'' ~ ~ *この作品を評価する [#sd984b2b] #rating #navi(活動/三題噺) 終了行: #navi(活動/三題噺) *Sympathy for the Sky ―― [[哉>部員紹介]] [#ffdec72e] ~ 僕がお金を下ろして、公園に戻ってくると、彼女は空になっ... たとえ死しても、地からそなたの声を聞く。 この心が土と化しても、喜びに満ちるであろう。 僕はため息をつく。 「一応聞くけど、そのお酒どうしたの。まさか買ったんじゃな... 彼女の財布は真冬だったはずだ。 「もらったのよ」 「誰にさ」 「下心をひけらかしたホームレス」 投げられた酒瓶が、ゆるいアーチを描いて草むらの陰に落ち... 「もしかして、死んでるの」 「生きてるんじゃない。気持悪いから確かめてないけど」 「どうして、こんなことになったのさ」 街灯の光だけでも、彼女の顔が赤くなっていることがわかる... 「さあね。勝手に酒を勧めてきて、わたしに触ってきたのよ」 「まさか、変なことされたの」 「心配は無用よ。財布は守ったわ」 そうじゃなくて、貞操のほうを聞いてるんですけど、と思っ... 「瞬殺してやったわよ。こんな、いたいけな女の子に強盗を働... 「知らないよ。少なくとも、僕は君の正義を見たことがない」 「あら、正義って目に見えないのよ。悪は、そうね、そこでう... 「同情はしないけど憐れに思うよ。襲う相手を間違えたようだ」 「あら、彼はその点では正しい行いをしたわ。だってこれ以上... やっぱり君の言うとおりだね、と僕はうなずいて、彼女の横... 「まだ、掛けなさいって台詞を言ってないわよ」 「君が、光栄ですわって言うのを抜かしたんじゃないか」 そうだったかしら、と彼女は笑う。 「それで、あなたはわたしをどこに案内してくれるのかしら」 「路上の休日じゃ、コンビニぐらいしか行くところがないよ」 「夢のない話ね」 「うん、そうだね。夢のない話だ」 星の輝きのない空を見上げた。雲ひとつないというのに、月... 「そして、あれも悪を孕んでる」 彼女の綺麗に伸びた右腕が、高層ビルの側面を指す。 「僕には、そう見えないけど」 「だってオリオンを騙っているもの」 どういうこと、と訝しがりながら彼女の指の先に目をやる。 そして。 いくつかの明かりの灯った窓の位置関係に気づく。 「本当だ。オリオン座になってる」 こんな偶然があるんだな。 「知ってたの、オリオン座の形」 「有名だからね、教科書にも載ってるし」 そう、と彼女は体温を整えるように、ゆっくりと息を吐く。... 「代用品のつもりかしら、あんな端な照明で」 「贖罪してるのかも。まあ電気を使ってるわけだから意味無い... 「そうね、本末転倒よね。文句言ってくるわ」 千鳥足の彼女が、立ち上がってビルに向かって歩き出す。僕... 「待ってよ」 鼻息の荒い酔っ払いを、後ろから羽交い絞めにする。 「ちょっと、離しなさいよ。痛いじゃない」 「だめだって。このまま放って置いたら、君はあのビルに殴り... 「失礼ね。悪を斬り捨てに行くだけよ、空の役目を奪ったあい... じたばたと暴れる猛獣のような彼女は、しかし僕には苦しん... 「じゃあまずは涙を拭いてからにしようよ」 声が反響する。 僕の腕の中で、力がしぼんでいくのを感じる。瞳まで赤くし... まるで飼っていたペットの死を理解できない子供のように、... 「泣いてるの、わたし」 「うん、とても綺麗に涙を流してる」 「悲しくもないのに?」 「たぶん、役目を奪われた空の代わりじゃないのかな」 「わたしまで。酷いね」 それにはうなずかずに、僕は彼女をベンチのところまで引き... まだ冷たさの残る風が、沸いた思いを撫でていく。 「泣き上戸なんだからさ、酒は控えようよ」 唇を噛んで涙を堪えている彼女の、なめらかな髪を手で梳かす。 「お金を下ろしてきたから、これでどこでも逃げられるよ。こ... どこか、逃げたいところはあるかい、と僕は彼女に訊ねた。 胸の辺りから、すこし濡れた答えが返ってきた。 「そうね、逃げたいところはないけれど、行ってみたいところ... 「どこなの」 「こないだ雑誌で見たとこ。完食できたらタダになる」 「ああ、あの巨大なパフェを出してくる喫茶店か。あれに挑戦... 「そう。高級料理を食べましょう、死ぬ前に」 「悪くないと思うけど、失敗してもそんなに値段は張らなかっ... 「知らなかったのね。この世に、タダより高いものはないのよ」 あの世は分からないけどね、無理に笑った彼女が、僕を見上... 「そうでした」 彼女の表情につられて、僕の頬もゆるむ。 月の位置から時刻をはかる。たぶん、短針と長針が真上を指... 「終電には乗れそうにないな。夜行バスという手もあるけど、... 「場所は覚えてるの」 「大まかにだけど、ね。本屋に行けば、まだガイドブックが残... 「じゃあ大丈夫ね」 勢いよく立ち上がった彼女が、走り出す。今度はなんだ、と... 古い感じのする黒の自転車だった。かごが錆びており、荷台... 「これ、どうしたのさ」 「戦利品。モンスターを倒した、ね」 彼女の視線が草むらのほうに向けられる。なるほど。でも、 「盗むのは、正義にもとるんじゃないの」 「あら、モンスターの持っているお金は奪ってもいいのよ。王... 「どこの王様だよ」 「あなたの目の前よ。わたしがルールで、ルールは王様とイコ... そうだったかな、と僕は苦笑を浮かべる。普段のペースにな... 堅いサドルに尻を乗せて、背中の彼女に聞く。 「そっちの座り心地はどう」 「サイアク」 「こっちもだ」 僕はブレーキが効くのを確かめてから、ペダルを踏み込んだ。... 僕に彼女がしがみ付いている。だから、彼女の震えが伝わっ... ペダルをこぐ足に力を入れる。景色が滲んでしまうようなス... 魂さえも追いつけないくらいの、スピードまで。 ~ CENTER:''(了)'' ~ ~ *この作品を評価する [#sd984b2b] #rating #navi(活動/三題噺) ページ名: