開始行: *一人の世界、世界の一人 ―― [[伯白>部員紹介]] [#j3b4d88e] ~ 淡いオレンジのカーテンの隙間から冬の柔らかい朝日が差し... 僕は眠りと目覚めの挟間が好きじゃない。この僅かな時間は... 日常が壊れたのはわずか数日前、命の脆さに気付かされ、世... そして、その日からずっと彼女には会っていない。 結局の所、僕は何も知らなかった。人生を知った振りをして... 僕が失った物は世界、世界が奪っていった物は一つの命。こ... 僕の思考を遮るように目覚ましの機械音が鳴り響く。 今日のまどろみはもう終わり。やっと私は逃げ出せる・・・・・・。 自室から抜け出し、居間に降りる。無音の世界が僕を迎えて... 無音をかき消すために、テレビを点ける。テレビに流れるの... 何かから逃げるようにしてテレビを消す。この動作も何度繰... 無音の支配する世界も嫌、音のある世界も嫌。どうすればい... この世界に僕の居場所は有るのだろうか・・・。 結局、僕は外に出る。車のエンジン音、店先のメロディ、人... 先ほどから聞き覚えのあるメロディが耳を擽っている。それ... ふと、記憶が甦る。繋がった手、恥ずかしげな笑顔、からか... 彼女と過ごした季節に冬は無い。しかし、きっと過ごせると... 気がつけば、いつもの公園に来ていた。 そこは公園とは名ばかりで、遊具もベンチも無いただの空き... 月を見た、金星を見た、彼女を見た。そう、すべては輝いて... 「どうして泣いているの?」 不意に後ろから声をかけられる。 「なぜ、そんなに悲しい涙を流すの?」 別の方向から違う声がかけられる。 声の主を探そうと後ろを向くと、そこには少年と少女が立っ... 気付かないうちに涙を流していただけでなく、人も近付いて... 「どうして泣いているの?」 再び同じ質問が少女から投げかけられる。 素直に答えなくて良いと分かっていながらも、口は本当の事... 自分の無力さ、世界の非情さ、そしてさっきまでの事を。 「それで終わり?」 少女はただ、そう訪ねてきた。 「それが涙の原因?」 少年は不思議そうな表情を浮かべている。 「そんな事で君は涙を流していたの?」 僕は声を出さずにただ頷いた。 「ねぇ、また悲劇のヒーローが出てきたよ」 「そんな事言っちゃだめだよ。彼にも少しは事情はあるようだ... 「確かにそうだけど、どうしようも無いよ」 「そうでもないよ。ただ気付かせて、もう一度歩ませるだけで... 「分かった。取りあえずやるだけはやってみるよ」 僕を無視して二人は話していたが、ひと段落付くとこちらに... 二人は並んでこちらを見ている。 彼らは何度か深呼吸をすると、ゆっくりとその言葉を紡ぎ始... 「君の涙は偽物だよ」 「君に涙は偽善だよ」 二人は歌うように、ハーモニーをもって語り掛けてくる。 僕は、どうしてかただ黙ってその言葉を聞いていた。 「君は本当は泣いてはいない」 「本当の君は酔っている」 「舞台の主役に酔っている」 「それは悲しい悲劇の舞台」 その言葉にはどこか胸が痛むような気がした。 しかし、僕は聞き入る。 ただ、彼らが怒っている気がしたから。 「君は悲劇のヒーロー、ああ可哀想」 「君は喜劇のヒーロー、私にとっては」 「それは悲しい物語、愛しい人が消えてしまった」 「それは可笑しい物語、君はある日ヒーローになった」 「君は泣いた、三日三晩」 「君は喜んだ、三日三晩」 「そして知った、世界の辛さ」 「そして作った、悲劇の脚本」 「君の心は宙ぶらり、ただ彼女を思い涙にくれる」 「君の心は宙ぶらり、ただ自分の立場に酔いしれる」 二人の物語はどこか違う人物の話。 しかし、とても良く似た話に思えた。 「君の涙は誰が為」 「君の思いは何処へ行く」 不意に二人の言葉は止まった。 二人はただ、僕を見つめていた。 「もう、やめようよ。君の涙は本来彼女の為に在るべきだ」 少年は少し疲れた様子だが、しっかりと僕の目を見据えて話... 「君はヒーローじゃない。ただの一人にしか過ぎない」 少女は怒った目でじっと見つめてくる。 「本当はヒーローになりきったらどうしようもないけど、君に... 「だから助けてあげる。もう一度世界に戻ろう」 「彼女の思いが残った世界へ」 二人の言葉は優しくて、僕を否定する言葉だったのに、嬉し... そして、今度ははっきりと泣いた。 「もう、大丈夫そうだね。君はもう一度生きられるよ。世界を」 「お墓、行ってあげてね。きっと彼女は待ってるから」 僕は泣きながら頷いた。 僕は彼女の悲劇を自分にとっての悲劇にしてしまっていた。 そして悲劇のヒーローを気取っていた。 二人と出会わなければ、今も僕は悲劇の台本を進めていただ... 「もう、大丈夫だよ。悲劇の台本は捨てたから」 季節は冬、雪が咲く日、僕は彼女にそう呟いた。 ~ RIGHT:''end but his life continues'' ~ ~ *この作品に感想を送る [#u39b4c46] #rating() 終了行: *一人の世界、世界の一人 ―― [[伯白>部員紹介]] [#j3b4d88e] ~ 淡いオレンジのカーテンの隙間から冬の柔らかい朝日が差し... 僕は眠りと目覚めの挟間が好きじゃない。この僅かな時間は... 日常が壊れたのはわずか数日前、命の脆さに気付かされ、世... そして、その日からずっと彼女には会っていない。 結局の所、僕は何も知らなかった。人生を知った振りをして... 僕が失った物は世界、世界が奪っていった物は一つの命。こ... 僕の思考を遮るように目覚ましの機械音が鳴り響く。 今日のまどろみはもう終わり。やっと私は逃げ出せる・・・・・・。 自室から抜け出し、居間に降りる。無音の世界が僕を迎えて... 無音をかき消すために、テレビを点ける。テレビに流れるの... 何かから逃げるようにしてテレビを消す。この動作も何度繰... 無音の支配する世界も嫌、音のある世界も嫌。どうすればい... この世界に僕の居場所は有るのだろうか・・・。 結局、僕は外に出る。車のエンジン音、店先のメロディ、人... 先ほどから聞き覚えのあるメロディが耳を擽っている。それ... ふと、記憶が甦る。繋がった手、恥ずかしげな笑顔、からか... 彼女と過ごした季節に冬は無い。しかし、きっと過ごせると... 気がつけば、いつもの公園に来ていた。 そこは公園とは名ばかりで、遊具もベンチも無いただの空き... 月を見た、金星を見た、彼女を見た。そう、すべては輝いて... 「どうして泣いているの?」 不意に後ろから声をかけられる。 「なぜ、そんなに悲しい涙を流すの?」 別の方向から違う声がかけられる。 声の主を探そうと後ろを向くと、そこには少年と少女が立っ... 気付かないうちに涙を流していただけでなく、人も近付いて... 「どうして泣いているの?」 再び同じ質問が少女から投げかけられる。 素直に答えなくて良いと分かっていながらも、口は本当の事... 自分の無力さ、世界の非情さ、そしてさっきまでの事を。 「それで終わり?」 少女はただ、そう訪ねてきた。 「それが涙の原因?」 少年は不思議そうな表情を浮かべている。 「そんな事で君は涙を流していたの?」 僕は声を出さずにただ頷いた。 「ねぇ、また悲劇のヒーローが出てきたよ」 「そんな事言っちゃだめだよ。彼にも少しは事情はあるようだ... 「確かにそうだけど、どうしようも無いよ」 「そうでもないよ。ただ気付かせて、もう一度歩ませるだけで... 「分かった。取りあえずやるだけはやってみるよ」 僕を無視して二人は話していたが、ひと段落付くとこちらに... 二人は並んでこちらを見ている。 彼らは何度か深呼吸をすると、ゆっくりとその言葉を紡ぎ始... 「君の涙は偽物だよ」 「君に涙は偽善だよ」 二人は歌うように、ハーモニーをもって語り掛けてくる。 僕は、どうしてかただ黙ってその言葉を聞いていた。 「君は本当は泣いてはいない」 「本当の君は酔っている」 「舞台の主役に酔っている」 「それは悲しい悲劇の舞台」 その言葉にはどこか胸が痛むような気がした。 しかし、僕は聞き入る。 ただ、彼らが怒っている気がしたから。 「君は悲劇のヒーロー、ああ可哀想」 「君は喜劇のヒーロー、私にとっては」 「それは悲しい物語、愛しい人が消えてしまった」 「それは可笑しい物語、君はある日ヒーローになった」 「君は泣いた、三日三晩」 「君は喜んだ、三日三晩」 「そして知った、世界の辛さ」 「そして作った、悲劇の脚本」 「君の心は宙ぶらり、ただ彼女を思い涙にくれる」 「君の心は宙ぶらり、ただ自分の立場に酔いしれる」 二人の物語はどこか違う人物の話。 しかし、とても良く似た話に思えた。 「君の涙は誰が為」 「君の思いは何処へ行く」 不意に二人の言葉は止まった。 二人はただ、僕を見つめていた。 「もう、やめようよ。君の涙は本来彼女の為に在るべきだ」 少年は少し疲れた様子だが、しっかりと僕の目を見据えて話... 「君はヒーローじゃない。ただの一人にしか過ぎない」 少女は怒った目でじっと見つめてくる。 「本当はヒーローになりきったらどうしようもないけど、君に... 「だから助けてあげる。もう一度世界に戻ろう」 「彼女の思いが残った世界へ」 二人の言葉は優しくて、僕を否定する言葉だったのに、嬉し... そして、今度ははっきりと泣いた。 「もう、大丈夫そうだね。君はもう一度生きられるよ。世界を」 「お墓、行ってあげてね。きっと彼女は待ってるから」 僕は泣きながら頷いた。 僕は彼女の悲劇を自分にとっての悲劇にしてしまっていた。 そして悲劇のヒーローを気取っていた。 二人と出会わなければ、今も僕は悲劇の台本を進めていただ... 「もう、大丈夫だよ。悲劇の台本は捨てたから」 季節は冬、雪が咲く日、僕は彼女にそう呟いた。 ~ RIGHT:''end but his life continues'' ~ ~ *この作品に感想を送る [#u39b4c46] #rating() ページ名: