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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 活動 / 三題噺 / 新型ゴミ収集車
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 &size(20){'''新型ゴミ収集車'''};
 CENTER:''[[梓月 琳音>部員紹介]]''
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  学生の朝は大抵は遅い。敷地近くに下宿している者はなおさら。けれど現在時刻は7時30分。目覚ましに鳴り響いたくるみ割り人形を止めて時刻を確認した俺は、ロフトベッドから降りる。何でこんな時間に目覚ましセットしたんだっけ。とりあえず顔でも洗おうとバスルームに向かう。ふと、玄関先に置いてある袋が3つ目に入った。ああ、そうだった。今日は水曜日、燃えるごみの日だ。
  最近この地区では条例が変わって、ゴミはより細かく分類されるようになった。おかげで家には色の違うゴミ袋が何種類もあるし、ゴミを出す日も増えた。それは即ち、俺にとっては早く起きなければならない日が増えたことに他ならない。おまけに烏対策とかで8時には出しておかなければならないし、うちの地区は収集所に一番近いらしくその時刻きっかりには掻っ攫っていかれる。そんなことだから外へ出て鍵をかけると、ゴミ袋3つをつかんで回収場所までダッシュした。
  回収場所にはもう袋が山と積んである。昨日の夜から置いてるやつが絶対いるし。今度張り込んで見つけたら通報してやろうか。寝起きが不機嫌なのは人類共通だと思う。とにかく今日は二度寝もありだからちゃっちゃと済ませるか。
  ふいにどこかでゴーっとおとがした気がした。まさか回収車か? もう来やがったのかよ。っと思ったらいきなり周囲が暗くなった。円形の影が出来ている。うっそーって上を見たらなんかでっかくて丸いのがずっしりとあった。で、今度は光った。これってまさかアレ? そんで、風が吹いた。上から吸引されているのだ。ゴミ袋が次々に飲み込まれていって。もちろん俺も抵抗はしたけど。ときすでに遅し、ついには自分も吸い込まれてしまったわけだ。
 
 「で? で? それで??」
  机に膝までかけて身を乗り出しながら、ノブが続きを訊ねる。
 「それがさぁ。不思議と覚えてないんだよね。気が付いたら1キロ先の川縁で突っ立ってたの」
 「まさか、宇宙人に記憶消されちゃったとかか? おいフロおまえすげ-よ」
  マジで目がキラキラしてるよ。
 「おいフロ。その辺にしとけよ。信じ込んだらテコでもうごかねーぞ、こいつ。てかノブ。おまえ袖にハヤシライスついてるって」
  向かいのノブの隣に座って牛丼をつっついていたガクがなだめてくる。
 「ほら、洗ってこいよ。このハンカチ使っていいから」
  ノブはそのままピョンピョンとびながらシャツの袖を洗いにいった。
 「しかし、まぁ。なんでああも簡単に信じるんだ? あいつは」
 「俺の巧みな話術の方を褒めてくれよ。現実から非現実への転換の部分が結構難しいんだぜっ」
 「ばればれだっつーの。ノブしかだまされたやついねーだろ。こないだなんか大変だったんだからな。あいつおまえの嘘信じ込みやがって」
  そういいながらガクは牛丼の最後のご飯を掻きこんだ。
 「こないだって、あれか。バレンタインデーは聖バレンタインが恋のために死した日ってやつか。あいつまじ信じちゃってんの」
  ガクはお茶をすすると。
 「やっぱりおまえだったのか。あの日はフランスの菓子職人たちがチョコレートで競い合ったこ とに由来する祭日で、本来男女の愛だとかはぜんぜん関係ないし」
 「あー、かまかけやがったな」
  とまぁこんな感じで日常は過ぎて行く………
 
  ………とかだったらいいのにな。
  目を覚ますとドーム型の暗い部屋にいて、床一面がゴミ袋。
  そして目の前ではどう見ても○○なのが粘液だらだらでゴミをあさってやがる。
  この状況やばいんじゃね?
 「はぁ、詮無い」
 
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 CENTER:''(了)''
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 CENTER:三題噺 14第回
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