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京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 乾燥の恐怖
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 [[活動/霧雨]]
 
 **乾燥の恐怖 [#fe23701d]
 
 鮎川つくる
 
  乾燥は嫌いで、湿潤を求めています。昔からそうでした。なので冬の季節は一段と苦しい。だのに引っ越そうと思ったことや旅行に行こうと思ったことはありません。住んでいる土地に縛られているといえば聞こえは良いですが、ただ面倒くさいだけなのです。でも乾燥は嫌いで、湿潤を求めています。
  人間の体の中は湿潤です。古代から、私たちの祖先はなんとかして海を持って陸地に行きたかった。私はなんとかして陸を持って大海に行きたかった。一度浴槽の中で頭まで沈めたことがあります、ですがあまりの息苦しさになすすべはありませんでした。風呂から上がると、冷たい空気と反応して身体から湯気がたくさん出ていました。乾燥しているように思います。
  こうして考えると、人間のというのは実に乾燥と湿潤の中で完結しているのだなと思います。人間の誕生は、湿潤の中で二種類の液体を混ぜ合わせることで起こります。発生は水の中で行われます。どうしても私たちはこの最初で最高の到着点である子供の宮殿に戻りたいと願っているのです。感情が高まると体液を漏らすのは、体内の海がおおしけになり、一部が飛び出すからでしょう。
  室内の靴下も嫌いです。せっかく足裏が汗で湿潤になっても、靴下が全て吸収してしまいます。手と足は、何故だか発汗は繋がっていて、足がさっぱり乾くと両手もさっぱり乾くのです。なぜ私が嫌っている靴下を履いたかというと、外に出るからです……
  ……空は青色をしていて、水を思わせます。水の中と考えるなら、私たちはかにでしょう。だから私は海底という言葉とかにという言葉を「好き」と言うことが可能です。なので私は「こういう意味で」かにを好いています。
  ですがもちろん空気は水のように粘性を持っていませんし、たまに湿ることありますが、たまに乾くこともあります。そこで精神は川や湖を求めます。川の周りは植物が生え、生活音を上回る水の音がしています。私も丁度、高野川と名の付いた川の岸を歩いています。冬なので茶色く、木々もごつごつとしていて、乾燥しています。しかし川は変わらず流れています。
  やがて、喉に張り付く感覚が生まれていることに気が付きました。持っていた水を一口飲みます。喉の割れ目に浸透していく水。喉も体外なのだなと、そう思いました。乾燥は嫌いで、湿潤を求めています。