KIT Literature Club Official Website

京都工芸繊維大学 文藝部

Top / 文藝部通信 / 第六回
Last-modified: 2021-07-15 (木) 22:15:25 (986d)
| | | |

文藝部通信

2021年某日、気まぐれで始めることになった文藝部通信。部員の皆が自由に書いていきます。

今回は何が書かれているのでしょうか。それでは、いってらっしゃいませ。

第6回目

鮎川つくる

*ある陶芸作家の話し

 中学生のころ、学校で行なわれた講演会の講師として、陶器作家の男性が来たことがある。彼ははじめに「若い人たちを前にしてとても緊張している」と言った。理由は、若くて感性が敏感だから……と説明していた。そのときはなんだこいつと思ったが、今なら少しだけ分かるような気もする。
 講演では、自分が田んぼ道で頭から落ちて大けがをしたこと、芸術家になったあとに脳をCTスキャンすると形が歪んでいたことなどを話していた。そんななかでも、ぼくの記憶に一番残っていることは、自分の作ったものに優劣は付けられない、という話しだった。
 展覧会をすると、よくこう聞かれるらしい。「どれが一番気に入っているんですか?」彼は「自分の子供でどの子が一番かわいいんですか」と返すらしい。相手もそれで察して、それ以上聞かないそうだ。たまに意味が分からずそのまま質問を続ける人には「これとこれと……」などと適当にいなすらしい。
 ぼくはそれを聞いてなんて自信というか、まさしく自分への信頼があるんだろうと思った。ぼくの場合は、ぼくの作ったものに対しては、愛着というよりも、もう一人の、鏡に映った欠点をありありと実体化して見せられている気分になる。げろを吐きたくなって、内臓をすべて交換したくなる気分になる。
 たぶん、あの作家さんは、それだけものづくりに対して覚悟と執着心を持っているのだろう。見習わないといけないとおもう今日このごろである。

*散髪屋

 散髪を面倒臭いと思う。でも切った後は気持ちが良いし、ひげもすっかり無くなるし、はだはつるりとしているし、なんだかんだまた来ようと思う。しかし数日もするとすっかり億劫になる。へんてこだ。
 散髪屋に行くと、いつも同じ、適当にアバウトな内容をオーダーする。人によって微妙に解釈が違うので、色んなパターンができる。「ほんとうは、美容院は腐るほどあるから、毎回違うところで初めてのお客さんになって、おまかせにして変化を楽しんでみたいなー」なんて夢想したする。
 そんなモチベーションなので、散髪されている間は目を瞑っている。近視なので途中経過がどうであれぼくにはよく分からないからだ。日頃の寝不足と、ラジオの音声でたいてい眠っている。ふたつの時間をつかう用事を同時にできてなんだか得意。
 けれど、ぼくの行くところでは、受付や雑用はハデで、はっきり言っておじさん受けしそうな女性が、実質の業務は男性が、顔そりなどは四五十代ぐらいの熟達した女性が担当する。まっとうな営業努力だとは思うけれど、なんかな、と毎回小骨くらいの痛みと共に店を出る。

*動物にたとえると

 今年の五月くらいに、新入生向けのオリエンテーションに参加する機会があったのだが、そのレクリエーションの質問シートのなかに、「あなたを動物に例えるとなんですか」というのがあった。ぼくはこの手の質問に苦手である。知名度は丁度良く、他人を納得させられ、かつふざけたものではいけない。「ナマケモノ」なんてもってのほかである。そのオリエンテーションでは、三人「ナマケモノ」と答えた人がいた。

次回は園田さんにお願いしようと思う。